反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
今回は、前々から設置していたアンケートより、『亮くんと蘭ちゃんの二人の馴れ初め』です。まぁ、二人は出ませんが。
ちなみに、今回初めて亮くん以外が語り手です。
「私だってさぁ! もっとこう蘭のしてやることを認めてあげたいの! でもさぁ……女の子が何考えてるなんて分からない!」
「おー、いーぞー。そのままどんどん飲め飲めー」
蘭ちゃんが我が家に泊まり始めた初日。俺、葉加瀬 亮の親父は美竹家を日本酒片手に直撃。落ち込みまくってる美竹さんをからかい……もとい、弄り……もとい、励ましに来た。
朝美竹家に出掛けた亮が、帰ってきた時には蘭ちゃんを連れて帰ってきた時は、遂に駆け落ちかとワクワクしたものだが、事の顛末を聞いて爆笑したのは内緒だ。
で、娘に明らかに引かれた美竹さんは、見ての通り酒が入りまくっていた。普段の取っ付き難い印象は、もうどこにも無い。
お互いに年頃の娘息子を持つ、面倒臭い親父共だ。
「うぅ……こんなこと話せるの葉加瀬さん位ですよ……そう言えば、二人で飲むのも、随分久しぶりですな」
「そう言えば……前は二人の入学祝いの時でしたかな」
お互いに亮達二人が付き合い始めてから、何となく飲もう、会おう、話そうという雰囲気にならなかった。
思う所も当然あったし、気を使うところも多少あった。
酒の力は偉大だ。腹を割って話せる。深夜のホテルで語り尽くそうじゃあないか。僕は一生美容師します。
「そんなに前に……いやぁ、時の流れは早いですなぁ」
「そりゃあ……美竹さんがうちの店に蘭ちゃんを初めて連れて来たのも、もう十年くらい前ですよ」
「そんなに……長い付き合いになりましたねぇ」
十年。
言葉にしたら二文字のそれも、実際に味わってみると、二文字には収まりきらない密度だった。
あの時、人見知りで恥ずかしがり屋だった息子が、今では恋人を侍らせているんだぞと言ったら、あの時の俺はどう思うだろうか。
辛口の日本酒を口に運びながら、俺は十年前……店に蘭ちゃんが初めて来た日に思いを馳せた。
──十年前──
「おぉ、美竹さんいらっしゃい。その子が……」
「えぇ、娘の蘭です。ほら蘭。葉加瀬さんに挨拶しなさい」
「えっと……あうぅ……」
恥ずかしがり屋なんだな、と言うのがいちばん最初の感想だった。
しゃがみこんで目線を合わせようとするが、蘭ちゃんは少し不安そうにしながら美竹さんの後ろに隠れてしまう。ぎゅうっと美竹さんの袴を握りしめる。
その様子に、二人揃って苦笑してしまう。
「すいません、ちょっと人見知りする節がありまして……蘭。今日はこの人に髪切って貰うんだぞ?」
「……み、みたけらんです。よ、よろしくおねがいします……」
「うん、よろしくね蘭ちゃん」
おずおずと言った様子で、たどたどしくもしっかりと挨拶来てくれたので、いつも以上の笑顔で応えて見せた。
……が、また美竹さんの後ろにかくれんぼ。あいさつしてくれただけでも良しとしておこう。
「さてと、どっちから切ろうかねぇ……」
少し頭を悩ませる。美竹さん曰く、自分が切るついでに蘭ちゃんの髪も切ってもらいたいという話だったのだが、今日は家に妻は居ない。
普段子連れのお客が来た時は、妻に子供の面倒を見てもらうのだが、どうしたものか……と考えていた。
がちゃり、と裏口のドアが開く。
「おとうさん……ハサミわすれてるよ……あ、みたけさん。いらっしゃいませ」
「おぉ、亮くん。お邪魔させてもらってるよ」
「……いいのが居た」
家に唯一俺以外にいる存在。忘れていた。こーゆー風に親が目を離した隙に子供が悪さする、と言うのがテンプレだが、今のところ俺の息子にそんな事故は起こっていない。ありがたい話だ。次から店に一緒に居てもらおうか。
亮は俺の枕元に置きっぱなしだったであろうハサミを握りしめていた。昨日、珍しく部屋の中でマネキン相手に練習した時に置きっぱなしだったのだろう。ありがたい。
「ありがとな、亮。で、そんないい子なお前にお仕事の手伝いをして欲しいんだけど」
「……お手伝い?」
「そうそう。美竹さんの娘さんと家で遊んでいてくれないか? 三十分位だからさ」
しゃがみこんで亮と話していると、亮が俺の背中越しに美竹さんたちを見る。
ぱちり、と亮と蘭ちゃんの目が合う。
「……あぅ」
「……うぅ」
二人して気まずそうに目を逸らす。蘭ちゃんも人見知りだという話だが、うちの亮もそれに負けず劣らずの人見知り。この前羽沢さんとこの店に遊びに連れていったら、マスター見た瞬間ギャン泣きしてた。今のところ、商店街オヤジーズ全敗中だ。
下手したら、今回も泣くんじゃねぇかな、と思っていたが、そこまでではなかった模様。
ぽんぽん、と亮の頭を撫でてやる。頼んだぞ、と想いを込めてみる。
「……」
こくり、小さく頷いたかと思うと、亮は俺の影から出て、てくてくと蘭ちゃんに歩み寄る。
足取りは、やけにしっかりしていた。
「こ、こんにちはっ……はかせ りょうです」
「ひっ……み、みたけ らん……です……」
おぉ、と親父二人の口から感嘆の声が漏れる。
あまり幼稚園でも話し相手が居ないと心配がられていた息子が、女の子と喋っている。
とんでもない進歩だ。人類が月に降り立つくらいの進歩。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング船長に敬礼。完成度高ぇなオイ。
亮は、ん、と蘭ちゃんに向けて手を伸ばす。小さいながらもしっかりと開かれた手は、少しだけ震えていた。
──頑張れ。
これまで幾度となく息子に投げかけてきた言葉は、今回ばかりは口に出さなかった。
「……らんちゃん。ちょっとだけいっしょにあそぼ?」
……小さくても、世界を知らなくても。コイツはちゃんと男という生き物なんだ。
その時、勇気をふり絞って手を差し伸べた息子に、俺はなぜだか誇らしさを感じた。
蘭ちゃんは、目を見開いて亮の顔を見つめていた。
──八秒、経った。
「……うん」
ゆっくり、だが明確な意思を持って伸ばされた手と手は、確かに取り合った。
これが、俺の息子、葉加瀬 亮と美竹 蘭の、馴れ初めだった。
帰る頃には、お別れが嫌だと二人でぐずるほど、仲良くなっていた。
────────
「あの時は驚きましたよ。人見知りの激しい蘭が、あんなにすぐに仲良くなるなんて」
「……思えば、あの時から、こうなることは決まっていたのかもしれませんねぇ」
触れにくかった話題に切り込む。
子供ながらに、お互いに感じるものはあったのではないだろうか。そうでなければ、やはりあの二人が見ず知らずの子供と一瞬で仲良くなるなんて考えにくい。
オカルトだ、と笑い飛ばされるかもしれないが、この世には確かにある。そんな人智を超えた何かが。
「……私も、蘭に彼氏ができたと聞いたときは、狼狽もしましたよ」
美竹さんは、赤みが差した顔のまま姿勢をただす。ピンと伸びた背筋に、思わずこちらも身構える。
情けない姿も何度も見てきたが、やはりこの人は由緒正しき人だ。風格がまるで違う。
彼は、いつもいつでも、娘のことを本気で考えている立派な『父親』だ。
「でも、相手が亮くんだって聞いたら、もう納得するしかありませんでしたよ……普通なら、娘の父親は最後まで反発するのが様式美なんでしょうがね……流石は葉加瀬さんの息子さんだ。自分の大切なものをしっかり愛せる男に成っている」
だからこそ、美竹さんのその言葉に、不覚にも歳を取って緩んだ涙腺が刺激される。息子を持つ父親として、これ以上の褒め言葉はない。
頭のおかしい父親を、十六年。
まだまだアイツが俺たちの手から離れる日は遠いが、それでも思わずにはいられなかった。
「……今後とも、どうか末永く」
「勿論。さぁ! もっと飲みましょうや!」
あふれ出そうなものを誤魔化しつつ、俺は新たに酒を注ぐ。
美竹さんは、してやったりといった笑顔だった。
──三時間後──
「がっはっはっは! 葉加瀬さん似合ってますよ! まだまだお若いですなぁ!」
「そーゆー美竹さんも! そうだ! 折角だから亮たちにも見せてやりましょうや!」
「おぉ、そりゃあ名案だ! ちょっと待っててください! この前買った自撮り棒がありますから!」
「いよっ! 女子高生の父親っ! 日本一!!」
──かくして、後に亮が『生物兵器』と揶揄し、二度と表社会に出してはならないと言わしめたほどの威力を持った写真、『酔っ払い親父共のネコミミカチューシャペアルック』が誕生したのだった。
二人して、息子娘に二週間無視された。こんなに悲しいことは無い。美竹さんは、奥さんから一か月Amaz〇n使用禁止令が出たとか何とか。
ただ、俺と美竹さんの飲み会の頻度は上がった。
ご閲覧ありがとうございます。いい親父さんだと思うんですよね、頑固だったりするだけで。どうしてこうもネタキャラになってしまったのか()。
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それでは、また次回。