反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
後編です。
「……あれ、亮」
「よっす」
結局、ひまり達に煽られてから更に一週間。進展も何も無いまま、残酷にも日時は過ぎ去って行った。
流石に、流石にこれ以上進展がないのは不味い。下手したら、蘭に呆れられてそのまま……なんて、最悪の妄想が頭を何度も過った。
取り敢えず、何か動こう。
そう考えた俺は、蘭達が通う羽丘女子学園の前までやって来ていた。男子が女子校の前で佇むの、中々目立って辛かったぜ。もうちょっとで警備員さんのオデマシだったろう。黄色のリングからポポポポーンって。
「あれれー? りょーくん、珍しいねー」
「なんだ? あたし達に用事か?」
モカと巴はそんな俺を見て、少しだけ笑顔になっていた。そう言えば、モカや巴は会うのが少し久しぶりだった気がする。またコイツらとも遊びたいな。
「……んっ!」
「……ふふっ!」
しかし、ひまりとつぐは、そんな俺の顔を見て、黙って親指を立てて笑って見せていた。
分かってくれてるようだ。この二人。エール、なのだろう。
俺は二人に軽く微笑んでみせると、つかつかと蘭に近寄り、その右手を取る。
「……へ、ちょ」
「悪い、お前らのギタボ、借りてくぞ」
「「「「どーぞどーぞ」」」」
呆気に取られたままの彼女の手を引く。四人はまるで示し合わせたかのように俺たちを見送ってくれた。
また今度遊ぼうな。
「んじゃ、行くぞ」
「…………ん」
最近、蘭と会う度の話なのだが、俺が話しかけるとやけに大人しくなる。
なにか失礼でもしたのだろうかと、ヒヤヒヤしてしまう。普段から比較的口数が多い方ではないが、ここまで無口になると、少し怖い。
「…………」
「…………」
背中に皆からの生暖かい視線を受けつつ、歩いていく。夕陽によって作り出された影が、俺たちより先の道を歩いていた。二人の影は、平行線。
蘭からの目線が痛い。睨み付けられている訳では無いのだけど。
「……何処に行くの?」
痺れを切らした蘭が、小さく呟く。車の音で掻き消えてしまうのではないかという程の、小さな声。
……ここでなんにも考えてないなんて言ったら、流石に不味いよなぁ。
その程度の思考は、寝不足の頭でもできた。
「あの公園」
「……何しに?」
「蘭とキスしに」
間。
間。
かなり間。
立ち止まった蘭。振り返る俺。キョトンとしてる蘭。顔が熱くなる俺。
「はぁ!? なっ、何言ってるの亮!!」
「いやぁ、そうなるよねうん」
おおよそ予想通りの反応に、腕を組んでうんうんと頷く。
この『反骨の赤メッシュ』、二つ名の割にかなりの恥ずかしがり屋であるという事は十年弱の付き合いの中でよく知っていた。最初は(俺も)あの幼馴染四人相手にすら人見知りして話せなかったほどだ。
年取って、俺は比較的マシになり、蘭も表向きはマシになった。が、蘭の本質はやはり変わってない。
顔を真っ赤にして喚く蘭。もうちょいボリューム落とそう。
「いやほらね? 俺たち付き合ってもう二ヶ月ですよ? おててにぎにぎもぎゅーも十年で凄い数やってきた俺たちが付き合って、早二ヶ月だ。なのにまだちゅーできてない。これは深刻な問題だ」
「……そ、そうなの……?」
何処ぞの司令が机の上で手を組んでる感じのテンションで語る。あの人、司令としては有能かもしれんが、父親としては失格も良いとこだよな。完結おめでとう。まだ見てないからネタバレしないでね。
蘭はそんな俺に困惑しているのか、完全に戸惑ってしまっていた。
「で、でも……ち、ちゅーって、あたしと亮の顔が、すぐ近くってことでしょ?」
「そりゃちゅーだからな」
「唇と唇くっつけるってことでしょ?」
「そりゃちゅーだからな」
「恋愛漫画でやる感じのやつでしょ?」
「そりゃちゅーだからな」
「……恥ずかしくて、死んじゃいそう」
確認するように指折り質問する蘭、同じ回答をする俺。
一通り終えると、蘭はふにゃふにゃとその場に埋まる。背中に背負ったギターケースが、蘭を覆い隠していた。
……何だこの可愛い生き物。
何度も何度も蘭のことを可愛いと思ってきたが、これは確実に上位に入る。今のところの一位は、告白した時の蘭だ。
「……まさか、そのために羽丘の前で待ってたの?」
「おう」
「……亮って、そこまで行動力高かったっけ?」
「そりゃ、蘭が絡んだらなぁ」
蘭は知らない。俺が最近蘭と如何にちゅーするかで悩んで、少し寝不足気味だということを。
蘭は知らない。今の俺が、割と暴走気味だということを。
そして、それを止めるヤツも突っ込むヤツも居ないということを。
ツッコミ役は、いつの時代も本当に大事だ。
「……ちゅー、したいの?」
「蘭がしたくないなら、しない」
顔を伏せたまま呟いた蘭に、即答する。大切な人の嫌がる事はしない。小さな時にした親父との約束だ。
「そうじゃなくて……亮は、したいの?」
「…………したい」
顔を上げ、真っ赤な顔のままこちらを見つめてくる蘭。はっきりと、見透かしてくるかのように聞いてくる。
やはり、蘭に隠し事はできない。俺は素直に答える。
これ以上無い程シンプルに、これ以上無い程分かりやすく。
「……なんで?」
「……蘭と、全てにおいてもっと近づきたい」
蘭と俺の距離は、普通の男女と比べて圧倒的に近い。幼い時から隙さえあればずっとくっついてた程。
しかし、それでもやはり『仲のいい男女』レベル。
俺と蘭は『恋人』。そのような距離感に、なりたい。
わがままだ。俺の単なる。
「……分かった」
それだけ聞いた蘭は、意を決したかのように立ち上がった。
思わず、彼女の顔を見る。相変わらず顔は赤い。
「……いいのか?」
「亮のしたいことは、あたしのしたいことだから」
そう言って笑う蘭は、不覚にもかっこよかった。
──公園──
夕焼けに染められた遊具が立ち並ぶ公園。先程まで子供達が遊んでいたのか、人が居た気配がある。
しかし、今は俺と蘭の二人だけ。
人々の喧騒が、遠い。
「……ここ、なんだね」
「まぁ、ここからだからな」
俺と蘭の関係が進んだ場所。
半ば、願掛けのようなものだ。ここなら、きっと上手くいくのではという、少しばかりの期待。
神はいる。そう思ってる。
「……やり方、分かる?」
「……大丈夫。蘭は目を閉じてくれてれば、いい」
わがまま言ってる自覚はあったので、蘭の負担は可能な限り無くそう。
そう考えて蘭に告げると、蘭はどこかホッとしたように肩を落としていた。
「……それじゃ、蘭。いいか?」
「……うん」
蘭はそう言うと、目を閉じて、口を軽くすぼめる。
所謂、キス待ち顔。
……うっわ、すっげ、やっべ。
語彙が完全に飛んでしまった。それくらい、今の蘭は破壊力が高すぎる。写真撮りたい。待ち受けにしたい。
しかし、スマホを取り出したい衝動をぐっと堪え、意を決して彼女の肩に優しく手を置く。
彼女の唇に、目がいく。形の整った、淡いピンクの綺麗な唇。
どくん、どくんと鼓動が高鳴る。
ごくりと息を飲み蘭に顔を近付ける。お互いの息が、かかる。熱が、届く。
影が、重なる。
「……ぷはっ」
「…………」
息を止めて居たのか、蘭は大きく息を吐く。
肩で息をする蘭。目はとろんと蕩け、頬は完全に上気していた。
「……ど、どう、だった?」
「……わ、分かんないって……! ち、ちゅーなんて、は、初めてだし……っ、」
ぼーっとしていた蘭に問いかけてみると、蘭の回答は要領を得ない。
そりゃそうだ。初めてなのだ。良いとかどうとか、分かる訳が無い。
「で、でも……なんだろ、凄い、しあわせ、かな」
──そう言って、唇を軽く抑える蘭。
抑えていた何かが、少し壊れた。
「……蘭、もっかい」
「なに、りょ……っ!?」
蘭の唇に噛み付くようにキスをする。先程より、強く。
二人の距離が、これまでに無いほど近付く。彼女がこれまで何人たりとも許したことが無い領域へ、初めて入り込む。
俺が、俺だけが、俺のみが。
「……はぁ……はぁ……り、りょう……も、もっと……」
「……蘭」
もう一度。
もう一度。
もう一度。
──こんなに幸せな事がこの世にあっていいのか。
そんな事が脳裏に過ぎりながら、くっついた影が闇に溶けるまで、二人きりで過ごした。
この後、お互いに一週間ほど、恥ずかしくってまともに顔を合わせられなくなるのは、また別の話。
ご閲覧ありがとうございます。今回の話を書くにあたり、様々な作品のキスシーンを読み漁るという行為をしておりました。親の前でやる行動ではないですねほんと。
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それでは、また次回。