反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
とりあえず、ただいま。
考えてもみてほしい。俺が蘭のことを心の底から愛しているというのは誰の目から見ても間違いないし、蘭も俺に対しては『え? お前マジで誰?』って言わしめるくらいには俺にでろっでろである。
根本から溶けちゃってるもの。俺と一対一で話すときなんて、すすすって近づいたかと思うと腕にぎゅーっと抱きついてくるのはまだマシで。思い切り抱きついてきたり、俺が座っていたら膝枕。ちゅーも頻繁に要求してくるし、頭なんて何回撫でたか分からない。もしこの世界がゲームだったら、多分今頃称号獲得してる。『頭なでなでマイスター』とか、『ぎゅーの探究者』とか。
もう言うまでもない。蘭は俺に大してわちゃもちゃぺったんに甘えてくる。反骨の赤メッシュなんかどこにもいない。散々に煮詰められていい出汁出ちゃった後の出汁ガラ状態。柔らかくなってんね。
以前の誕生日だったかの後。寝ぼけて幼馴染たちが居るにも関わらず俺にちゅーを迫ってきた事から、『ポンコツの赤メッシュ』なんてひどいあだ名を付けられている彼女(名付け親はひまり)。それはそれは汚名返上を成し遂げたいらしい……というのが、今この場がなかなかなカオスになっている前提条件。
「ほら亮。甘えて」
「人間がなんで喋るか知ってるか? コミュニケーション取るためなんだぜ?」
「リョウさん! 据え膳食わぬは──」
「それはもういいから」
「……帰っていいか?」
「むしろなんで居るんすか」
最早何度目の登場か分からない、準レギュラー美竹家客室。イカれたキャストは、床の上に正座し、ぽんぽんと膝を叩く蘭、その目の前にいる俺、何故か和服姿で鎮座する若宮さんと、マジで俺とは殆ど接点が無い市ヶ谷 有咲さん。
……イヤホント、なんで居るんですか。星形の髪型のギタボはどこ行った。今頃探し回っている頃じゃないか?
「亮。恋人っていうのは、甘えたり甘えられたりする間柄なの」
「……そうなの?」
「ハイ! アヤさんがそう言ってました!」
「……いや、知らねぇ」
開幕早々暴走気味の蘭。飛ばしてる。滅茶苦茶飛ばしてる。数ヶ月ぶりの出演だからか知らないけど、滅茶苦茶飛ばしてる。
語尾は決して強くない。圧が強い。めちゃんこ強い。今なら蘭は親父さん相手にも一歩も引かずに渡り合えそうだ。
はいそこ。『最近は蘭の圧勝じゃね?』とか言わない。あれは親父さんが隙を晒してるだけだから。
「しっかし、甘えるって言ってもなぁ……」
もういい加減高校生にもなった男だ。親にも甘えることが恥ずかしくなってきたお年頃、ましてや同年代の女の子がいる眼の前。
見えてる核地雷だよ。絶対今回のオチもバンド仲間に恥ずかしい写真が出回る奴だって。
「リョウさん! ここは一つ、アリサさんにお手本を見せてもらうと言うのはどうでしょうか?」
「はぁ!? 何言ってんだよ!」
我関せずといった様子でどこか遠くを見つめていた市ヶ谷さん。災難すぎる。何も悪い事してないはずなのに。
当然、市ヶ谷さんも激しく反発する。しかし、若宮さんの目はどこからどう見ても本気のそれだった。
……いやまぁ、若宮さんが冗談の類を言う人間では無いことは最近良く分かった。彼女はいつでも全身全霊だった。
「だって、アリサさんはいつもカスミさんを甘やかしています! きっと甘やかしのプロです!」
「……そうなのか? 蘭」
「…………」
「否定してくれよぉ!」
市ヶ谷さんの悲痛な叫びが和室に響く。今日は親父さんもお袋さんも居ないから、誰かが来るなんてことは無いはずだ。
勘弁してくれといった様子の市ヶ谷さん。真剣な眼差しの若宮さん。俺に熱視線の蘭、それを見て見ぬ振りする俺。
中々収拾が付かなくなってきそうだった。
「分かりました……」
しかし、根負けした若宮さんがすっと佇まいを直す。分かってくれたのか、また何か突拍子も無いことを言い出すつもりなのか。
一人警戒していると、若宮さんはすすすっと市ヶ谷さんの隣にまで移動する。何をするつもりだ、と若宮さんを見ていると……突然市ヶ谷さんの身体を自分の方に勢いよく倒し、正座した太腿の上に市ヶ谷さんの頭を乗せる。
でぃすいず、じゃぱにーず、HI ZA MA KU RA。
「ちょまま!? 何してるんだよ!」
「アリサさんが出来ないのなら仕方ありません……私がお手本を見せマス!」
はい、ちょまま、頂きました。全国一億三千万人の市ヶ谷有咲ファンの皆さん、おまたせいたしました。こちらの映像は只今から私、葉加瀬 亮が責任を持って録画いたします。
さっとスマホを構えた俺と蘭。息ピッタシだ。さすが十年来の幼馴染にして恋人である。
顔を真っ赤にした市ヶ谷さんは、しかし起き上がることが出来ない。
先日高校のダチが議論していた、『付き合ってみたら意外と彼氏を甘やかしそうなパスパレメンバー選手権』で(俺の完璧なプレゼンで)一位になった若宮さん。その考えは間違いではなかったらしく、走る西◯屋かと勘違いしてしまいそうな慈愛に満ちた笑みを浮かべる若宮さん。
すごいよなあのゲーム。競馬知ってる人でないと知らない小ネタがいっぱいだよ。
「い、イヴ……?」
「アリサさんは凄いです。苦手だった学校にも行くようになって……バンドも生徒会も頑張ってます」
若宮さんは膝の上の市ヶ谷さんの頭を優しく撫でる。くすぐったそうに身を捩らせる市ヶ谷さんだが、その手を振り払うことはしなかった。
膝の上の市ヶ谷さんは、その若宮さんの言葉に虚を突かれたのか、大きく目を見開いていた。だめだ市ヶ谷有咲。耳を傾けては駄目だ。
「い、イヴ……」
「アリサさんの頑張りは、私はよく知っています。だから……今くらいは、ゆっくりしても、いいんじゃないでショウカ?」
高校生が出せるとは思えない母性を全身から滲み出している彼女。今だけは若宮さんが子を持つ親だと言われても納得してしまいそうなほど。
流石は現役アイドルにして人気モデル。ファンになれてよかった。
ところで、彼女持ちがアイドルのファンになるというのは、浮気になるのだろうか。最近、そこがかなり心配なお年頃です。
「……イヴ……じゃ、じゃあ……もう少しだけ、このままでいいか……?」
「勿論デス!」
ツンデレ少女、ここに敗れる。
市ヶ谷さんの心を動かしたのは何かは知らない。あの素直になれず周りに少しきつく当たってしまうことを気にしている女の子が、なぜこうも甘えているのか、そうさせる何かが若宮さんにはあるのか。
恐るべしブシドー。便利だなブシドー。正体は未だ不明だが。
「さ、ランさん! こうやってするんですよ!」
「……どうやって」
「……そうか」
「え? 亮はどういうことか分かったの?」
困惑する蘭。納得する俺。厳密に言えば、俺だって若宮さんの甘えさせ技術は理解できていない。というか、理解したくない。理解しちゃ駄目だろ多分。
じゃあ、俺は何に納得したのか。
「蘭」
「なに…………わっ!?」
俺は蘭の隣にすすすと移動し、彼女の身体を倒す。頭を正座した膝の上にパイルダーオン。
膝枕蘭の完成。なんだかんだで久しぶりな気がする。
蘭オン俺の膝。分かりやすく顔を真っ赤にしていた。俺の恋人が可愛すぎる。もうむちゃくちゃにしたい。でろっでろに甘やかしたい。てかする。
それが、今俺が閃いた、今の状況の解決策なのだから。
「蘭……今週も頑張ったな……前みたいに毎日会えなくなってから、寂しい思いさせてるよな……」
「りょ、亮……?」
俺は若宮さんと同じように……いや、若宮さんが込めた以上の感情を持って彼女の頭を撫でる。
今俺が口に出したことは、紛れもない本心。普段から何度か口にも出している。
畳みかけろ。具体的には、蘭の頭が蕩けきるくらいまで。
「一週間学校にバンドに華道……普通そんなに頑張る高校生なんていない。お前は本当に凄い。自慢の恋人だよ。嫁に貰いたいくらいだ」
「……リョウさん? ランさんとは婚約しているのではないのデスカ?」
「まだまだガキなのにそんな無責任なこと言えねぇよ」
きちんと就職して、家族ができても養えるくらいまでになったらプロポーズする。
それは蘭との約束だった。下手に学生結婚なんてしたら、お互いに不幸になってしまうかも知れないから。
でも、彼女に対する気持ちは間違いなく本物だ。
「それはいつか絶対叶えるとして……蘭、普段は色んな所で気を張ってるだろ? 折角の休みなんだからさ……今日くらいは甘えて……」
「そ、それは駄目!」
しかし、俺の思惑は蘭の大声によってかき消される。
膝の上の蘭は、勢いよく身体を起こして俺に迫る。相変わらず綺麗な女の子だ。
いつにも増して、必死な表情がった。
「あたしが大変なら、亮だって大変で……でも、あたしはいつも色々してもらってるのに、亮には何も返せてない……亮はあたしのこと大切かも知れないけど、あたしだって……亮のことが、たっ、大切なんだよ……!」
必死だった。普段どちらかというと口下手で、自分の気持ちを出すのが苦手な蘭。なのに、必死に訴えてくる。
どれほど思い詰めていたのだろう。だから、俺を甘やかさそうとか言い出したのだろう。
うん、無理。
俺は蘭の膝の後ろと背中に手を回し、よっこいせと立ち上がる。所謂お姫様抱っこ。女の子は皆シンデレラだから問題ない。
「若宮さん、市ヶ谷さん。俺今から蘭とイチャイチャしてくるから。適当にくつろぐなりしてくれ。あ、親父さんが夕方の飯前には帰ってくるからそんじゃ」
「おぉ! 遂に据え膳に手を出すのですね! 頑張ってください!」
「……いや、帰ったほうがいいだろ……」
「アリサさんは私が甘やかすんです!」
俺は若宮さんと市ヶ谷さんに一言告げ、蘭の部屋へと直行する。蘭も俺の様子に気づいたのか、段々と顔を赤くしていた。
しかし、もう遅い。こんなに可愛い彼女、可愛がりたいに決まっている。
「りょ、亮……?」
「……お互いにお互いへ甘えれば、それで万事解決だろ?」
「へ…………~っ!?」
俺の言わんとする事に気づいた蘭は、恥ずかしさに悶て押し黙ってしまった。
しかし、俺を振り払うことはしなかった。
その後、バンド仲間たちに市ヶ谷さんの膝枕写真と蘭のお姫様抱っこ写真が出回った。
蘭、市ヶ谷さん、強く生きろ。
ご閲覧ありがとうございます。久しぶりに書きすぎてこの作品の書き方を完全に忘れていました。中々に難産だったぜ……これからも程々に書いていくので、よろしければぜひ。
感想、評価、お気に入り登録等していただけると、まだまだ面白く出来ます。
それでは、また次回。