反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
猫カフェに行くお話、前編です。
さて、人助けと言うのは実に尊い行為であるという大前提を頭の片隅に置いた状態で、大人になれない僕らのワガママを一つ聞いてくれ。
人助け。いろいろな作品で主題になるような行為で、赤い二本角の帽子を被った男子高校生が主人公の学園モノや、野球のポジションみたいな名前の職業が出てくる名作RPGとか、濁点忘れると大変なことになっちゃう万事屋の皆さんとか。
俺もどちらかというと困っている人が居たら手を差し伸べたい側の人間。人助けをするのは苦ではない。
さて、その上で一つ言わせてくれ。
「猫カフェに行ってこいだぁ!? 何言ってるんですか湊さん!」
この宿敵のお願いを聞くのも、人助けに入るのだろうか。
「私は本気よ。初めていく猫カフェの調査を、貴方にお願いしたいの」
いつもどおり、必要以上に馴れ合うつもりは無いと思われてしまうような雰囲気を醸し出している湊さんは、想像するだけで口の中が甘さに覆われてしまうようなほどのゲロ甘コーヒーを啜っていた。
机の上に置かれたチラシ。ポップな雰囲気がひしひしと伝わってくるそれには、ここから二駅先にある新しく出来た猫カフェの内容が記されていた。
忘れている人も何人かいるかも知れないので説明すると、湊さんは猫派、俺は犬派ということで度々激闘を繰り広げていたのだ。いつものようにカフェテリアで蘭の事を待っていたら、俺になんの許可もなしに目の前に湊さんが座ってきたのが数分前。
そんな敵からの、ある意味ダイレクトアタック。完全に俺を陥れるための罠にしか見えなかった。
「なんでまた俺に……自分で行けばいいじゃないですか」
「調査を頼みたいと行ったでしょう? ここにその猫カフェの割引券があるのだけど……使用期限までに私が行けないのよね」
「……それはまぁ、勿体ないですけど……それでも、他にも候補は居るでしょう? バンド仲間とか」
「何でもこの猫カフェ、カップル割なるものがあるらしいのよ」
理由をつけて断ってしまおう。
そう考えていた俺を、その一言が引き止めた。
カップル割。カップルで行くと割引でサービスが受けられるシステム。色んな作品で使われている、なんか便利なあれ。
カップル割を本当のカップルで使っている人間の方が希少なんじゃ無いかと思うんだよね、俺。
明らかに俺の動揺を目の当たりにした湊さんは、含み笑いを浮かべながら何やらチケットのようなものを手渡してくる。先程口にしていた割引券だろう。三割引き、という中々太っ腹な割引を用意しているらしい。
「……それで、俺ですか……身近にカップルなんて俺と蘭位しか居ないから」
「えぇ。それに……もういい加減、この戦いに終止符を打とうと思っているのよ」
「……!」
机の上のチラシに伸ばしていた手を引っ込め、目の前に狂い咲く青薔薇を睨みつける。にゃーんちゃんに狂って咲いていた。あんまり怖くない。
「私たちは知り合ってから、もうずっと争ってきた。もうそんな不毛な争いはお終い……貴方のにゃーんちゃん堕ちによって」
にゃーんちゃん堕ち。
聞く人が聞いたら鼻で笑った後に罵倒の一つや二つ出てきそうなほど酷いネーミングのそれは、俺からしたらこの世で二番目に恐れている現象だ(一番目は蘭との破局)。
断固たるわんこ派である俺が、その誓いを裏切りにゃーんちゃん派へと変身を遂げる事を意味する。
それだけは、それだけは何としても阻止せねばならない。全国一億三千万のわんこ派の皆様の為にも、俺が負けるわけにはいかない。
「ふっ……この俺が、にゃーんちゃん堕ちすると? ありえないですね……そんな馬鹿な男に割引券使うくらいなら、もっと他の人にあげたらどうですか? 俺、その日蘭と水族館に行く予定なんですよね」
嘘である。水族館へはもう一週間前に行ったばかりだ。色んな魚やかなり人懐っこい子ペンギンのペンちゃんに癒される蘭の姿に癒されたものだ。あの子だけやけに人に慣れてたな。
兎に角、俺は猫カフェなんて行かない。カップル割に惹かれたけど。にゃーんちゃんと戯れる蘭に興味はあるけど。
「あら……まさか、怖いの? 自分がにゃーんちゃん堕ちするのが」
「…………まさか、そんな訳あるワケ無いじゃないですか。俺は今も、昔も、これからも。僕は一生わんこ派します」
「ふふっ……饒舌になってきたわね」
俺の心の奥底を目の当たりにしたかのような彼女の声。カリスマの塊のような彼女がそんな雰囲気を出すと、思わず身体に悪寒が走る。
無論、俺は怖がっているわけでは無い。行く意味が無いからこそ、断ろうとしているだけ。蘭と堂島の龍に誓って、俺はビビってない。死にてぇ奴だけかかってこい! かっこいいよね、憧れちゃうよね。
「まさか、そんなワケ無いじゃないですか……」
「二回目よ、その言葉。動揺しているのかしら?」
「…………」
「沈黙は肯定と捉えてもいいのかしら? わんこ派というのも情けないのね。こんな相手が私達にゃーんちゃん派の最大の敵だなんて……失望したわ」
こちらを完全に煽る目的の彼女の捲し立てよう。あんたコミュニケーション苦手じゃなかったのかよ。アフグロとの衝突もそれで起きたんじゃなかったのかよ。何計算高く煽ってんだよ。
何故だ、何故俺が追い詰められているんだ。彼女にレスバで負けるなんて、あっていいはずがない。
「これはもう、にゃーんちゃん派の勝ちでいいわね……ふふっ、今日は祝杯ね」
「…………て…………こ………う」
ステイ・クールだ。ここは一旦落ち着かなければならない。何事もどんな状況でも冷静沈着に。
俺は深呼吸することすらせず、腹の底からの咆哮を上げる。
「やってやろうじゃねぇかこの野郎!!」
無理でした。
基本的に女の子に対しては真摯に生きていきたいと考えている俺だが、ここまで煽られては男が廃る。
周りのお客さんが何だ何だと俺達に目を向け、あぁ何時もの事かと目を反らす。慣れられてるってのも悲しいぜ。
俺は机の上に置かれていたチケット二枚とチラシを手に取り、持っていたカバンの中にしまう。完全に勢いだけで動いちゃってるけど、もう仕方ない。このまま行けるとこまで行っちゃおう。
「この俺がにゃーんちゃん堕ち? する訳ないじゃあ無いですか! 今に見ててください! 猫カフェのレビューも込みで完璧に行って見せようじゃありませんか!」
「……やはり、貴方は乗ってくると思ったわ。それでこそ私の見込んだ宿敵よ」
これ、猫カフェ行く行かないの話なんだぜ?
何故か俺達の頭身が二頭身位になっている気がする。成程? 今日から二、三話くらいそんな予定な気がするよ?
冷静な頭が疑問を呈していたが、あえてフル無視。今日はそんな感じのテンションで大丈夫。
「お、お待たせ……二人とも、何大声出してるの……」
こんな俺達に話しかけてくるのは、およそ二十人くらいしか居ない。この声を聞き間違えるなどありえない。
俺は勢いよく立ち上がり、テーブルの近くにやって来ていたギターケースを背負った我が恋人、美竹の蘭さんの手を掴む。
「蘭っ! 俺と一緒に猫カフェに行ってくれ!」
「……友希那さん? 一体何吹き込んだんですか?」
「私は悪くないわよ」
次回。
美竹 蘭、堕ちる。
ご閲覧ありがとうございます。今回のためだけに猫カフェについて滅茶苦茶調べました。行ってみたいけど、このご時世だと行けないのが悲しい。
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それでは、また次回。