反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど   作:コロリエル

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どうも、Googleドキュメントで書いたら、パソコンでもスマホでも書けることに改めて気付きました。かがくのちからってすげー!


暴走機関車赤メッシュ

 

 

 

 さて、俺たちは絶賛高校生活を謳歌し始めている。俺は高校生になると同時にバイトを初めて、バイクの免許を取ってバイクを購入したし、幼馴染たちはバンドの活動を本格化させた。

 

 彼女らの学校生活が如何様なものなのかは、学校の違う俺には話で聞くことでしか知ることはできない。本当は蘭と同じ高校に通って、毎朝一緒に登校したり一緒に下校したり、蘭を彼女の家まで送り届けて、玄関先でバイバイのちゅーとかしたかった。

 どこぞのオトメナンタラのように、女装して通って、蘭と校内でムフフなことをヤりたいが、現実はそんなに甘くない。明日へ続く坂道の途中で言われてしまった。大人達ではなく、常識にだが。

 

 泣く泣く羽丘の近くにある共学校に進学したのだが、そこそこに友人もでき、それなりの高校生活を送れていると思う。

 

 さて、学生が学生である以上、避けては通れない定期イベントが一つ。

 

 全世界の学生という名の戦士たちが赴く戦場。一夜漬けの技術や武器を用いて、迫りくる難問たちとの死闘が繰り広げられる魔の一週間。

 

 

 

 ──テスト週間である。

 

 

 

「で? 赤メッシュとピンク頭の二人がやばいと……ひまり、よかったな蘭もいて。お前だけだったら断ってた」

「酷くない!? あと、蘭に甘くない!?」

 

 

 

 いついかなる時も騒がしい『不発の大号令』こと、上原ひまり。Afterglowのリーダー(は?)であり、ベーシスト。特徴は同年代と比べて圧倒的に発達した脂肪の塊と、ひたすら明るく前向きなその姿勢。実際彼女に元気づけられたというバンドメンバーは少なくない。

 しかし、頼られるリーダーかと言ったらそうでもないし、カリスマがあるかと言われればそれもノー。

 むしろ、バンドメンバーの誰よりもからかわれる、なんとも残念なポジションに甘んじていた。それでもバンドは纏まっているのだから、まあ大丈夫なのだろう。

 

 現在、俺たちは普段から愛用しているファミレスに集まり、机の上に各自のドリンクと勉強道具を広げていた。理由は簡単。ひまりに勉強を教えてほしいとせがまれたからだ。

 ひまり単体に教えるのはめんどくさいし、自分の勉強もしたいので流していただろうが、そこに蘭も勉強していないという話を聞いた。

 

 ならば、やるしかあるまい。恋人が健やかな学生生活を送るようサポートするのも、彼氏としての責務だろう。

 

 

 

 

「……テストなんてなくなればいいのに……」

「それは同意できるなー」

 

 

 

 正直、数学や物理はいい。きちんと答えが存在するし、それの正しさが証明できるから。現代文だけは本当に許せない。なんで登場人物の感情に対する明確な答えがあると思っているのか。なぜそれに疑問を抱かないのか。『先生がそう言ってるし』じゃねーよ。

 などと、現代教育への不満をぶつけてみる。因みに、新入生テストのときの現代文は45点だった。文句だけは一丁前だ。

 

 

 

「でも蘭! テストの点が悪かったら放課後補習だよ?」

「……補習」

 

 

 

 どこかやる気のなさそうな蘭に、隣に座っているひまりが指をぴしっと指す。人のことを指差してはいけないと習わなかったのだろうか。

 しかし、蘭はそれに不快感を示すことなく、むしろ神妙な面持ちになって話を聞き始める。

 

 

 

「補習になったら、放課後や休みの日に学校に行かなきゃいけないんだよ? そうなったら……」

「亮と会う時間が減る……!?」

 

 

 

 顔をさあっと青くした蘭。心なしか体が小刻みに震えているような気もしなくはない。ホラー映画を見た時なら『む、むひゃふりゅいでゃし!』と言っているところだが、今回はそんな余裕もないらしい。

 ホラーより俺と過ごす時間が無くなる方が嫌なのかよ。どんだけ俺のこと好きなんだよ。俺も大好きだぜこんちくしょう。

 

 

 

「それでいいの蘭! ただでさえ亮君と一緒にいる時間が少なくなって学校でもうわの空でいることが多いのに、これ以上会えなかったら……」

「会えなかったら……?」

 

 

 

 ごくり、と生唾を飲み込む蘭。ごくり、とグラスの中のコーラを飲む俺。この炭酸が堪らない。頭の中にじゃんけんがめっぽう強いサッカー選手が出てきたが、生憎俺はコ〇コーラ派だ。ほな、頂きます。

 

 まあ、そんな妄想をするくらい、俺はこの勉強会はそこまで気乗りしていなかった。せっかく蘭とイチャイチャできる休日が勉強などというしょうもないものにつぶされてしまった、と、気持ちが飲んでいるコーラくらい冷え切っていた。

 

 

 

「亮君が愛想尽かして、他の女の子のところに行っちゃうよ!」

「絶対ない。亮あたしのこと大好きだもん」

 

 

 

 コーラ吹きそうになった。

 

 流れが綺麗すぎて、笑うなって方が無理だ。蘭、急に真顔になるんじゃねぇ。

 何とか抑えたコーラは脳内で盛大に噴射され、サッカー選手に盛大にぶっかかった。ミラノの時間を指している腕時計の安否が心配される。絶対高いよあれ。

 

 

 

「もー! それじゃあ話が進まないじゃん! 亮君! 愛想尽かすよね!?」

「んなわけねーじゃん」

 

 

 

 何年一緒にいると思ってんだ。何年想ってたと思ってんだ。

 

 そうそう簡単に蘭から気持ちが離れる訳がない。もし離れたら……あっやべ泣きそう。想像だけで泣きそう。

 有り得ないと言い切れないのが人間関係というもののつらいところ。それでも『永遠』を、『絶対』を誓うというのだから、人間は面白い。

 びくびくして泣きそうになるのが現状だが。

 

 

「もー! じゃあどうすればやってくれるのー! このままじゃいけないってことは分かってるんだよね!?」

「うーん……やる気があれば」

 

 

 

 ぶっきらぼうに言う蘭は、やはりやる気のかけらもない。勉強に関しては常にサボローが打席に入っている蘭だ。やる気にさせるには代打を送るしかない。何秒も続くコールを幕張に響かせるしかないだろう。

 愛する蘭のため、戦う姿を見せてやろう。輝く姿は見せれそうにないが。

 

 

 

「そうか……じゃあ蘭。俺と勝負しよう」

 

 

 

 指を一本立て、にやりと笑って見せる。蘭はこの俺の表情をかなり警戒するのだが、最終的には俺の思うつぼ。お互いのことを理解しているからこそできるやり方だ。

 蘭にとって、勉強することにメリットがあれば喜んで勉強する。だから、そのメリットを提示してやればいい。

 

 

 

「もし、お前が俺のテストの点をどれか一教科でも超えれたら、休みの日丸一日二十四時間、俺のことを自由にしていい」

「っ!?」

「へっ!?」

 

 

 

 とんでもない俺の提案に、蘭と、ついでにひまりはぼんっと顔を赤くする。

 ……好きにしていいと言っているだけなのにそこまで顔を赤くできるその妄想力が羨ましい。俺も同じ穴の狢だが。蘭に同じこと言われたら、そりゃあもう。スタンダッププリーズよ。

 

 

 

「もし俺が勝ったら、蘭には親父さんに『いつもありがとう』って言ってもらうからな」

「差が凄い!?」

 

 

 

 流石に、蘭に同じ条件を出させるのは酷ってもんなわけで。しかし、彼女にダメージのある内容でなければなるまい。

 最近、親父さんから『最近蘭との距離がやけに遠いんだ……どうすればいいだろうか?』と、すっげぇさみしそうな顔で質問された。絶賛反抗期&思春期なので見守ってやってください。

 これなら、蘭に大ダメージ&親父さんも嬉しい。

 

 一石二鳥。完璧だ。

 

 

 

「……を……に……り……じ……」

 

 

 

 しかし、蘭なら絶対に顔を顰めるであろうと踏んでいたのだが、蘭は何やら顔を俯かせ、ぶつぶつと呟いていた。

 はてなを空中に一つずつ描く俺とひまり。こてんと首を傾げ、蘭の顔を覗き込むのも……震えあがるのも同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……亮を自由に……!」

 

 

 

 

 

 

 

 こっっっっっっっっっわ。

 

 久しぶりに蘭のことを怖いと思った。怒られて怖いと感じたことはあったが、今回のは明らかに『恐怖』を感じるタイプ。

 

 目ぇギラつかせてるし。

 

 呼吸荒いし。

 

 よだれ出てるし。

 

 もはや、ここにいるのは『反骨の赤メッシュ』などではない。なんかアレなあれだった。形容できないし、したくない。

 

 

 

「……あたし、頑張る。勉強するのはいいことだしね」

「怖いよ蘭!? 目が怖いよ蘭!?」

「やべぇ……本気でやらねぇと終わる……!」

 

 

 

 昼下がりのファミレスの一角は、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─二週間後─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、そだ……」

 

 

 運命の日。俺と蘭とひまりは二週間前と同じ席に座っていた。

 

 目の前に広げられたテストの解答用紙。それぞれの点数を比較し、勝敗を確認していた。

 命の危機を感じた俺は、過去に類を見ないほど勉強をし、全教科九十点後半程の点数を取っていた。学年でもトップクラスの得点だった。間違いなく勝ったと、そう思っていた。

 

 

 

「なんで……なんで英語満点なんだよ!」

 

 

 

 

 この娘、全教科赤点ギリギリにもかかわらず、英語だけ満点を取るという離れ業をやってのけていた。教師が書いたであろう『congratulations』の文字が、俺には死刑宣告のように見えた。これなら、勝敗数で決着をつければ良かった。

 しかし、時すでに遅し。吐いた唾は飲み込めない。

 

 

 

「蘭、ずっと英語しかしてなかったんだよね……大丈夫! 骨は拾うから!」 

 

 

 弁護人、ひまり。匙を投げる。死刑執行の立会人へと早変わり。俺は立派に戦ったと後世に伝えてくれ。

 

 そして、執行人、蘭。その口をいびつに、それでいて美しく歪ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来週、楽しみだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一言だけ。

 

 二桁は死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ご閲覧ありがとうございます。この作品は小ネタの山です。読んでる途中でクスリと笑ってくれたら、ボクの勝ちです。勝ち負けないですけどね。

感想、評価、お気に入り登録等して頂けると指立て伏せします。

それでは、また次回。


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