反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
今までとはちょっとテイストの違う回です。
追記
今見たら、謎に「前編」って付いてました。前編でないです。ごめんなさい。
さて、Afterglowと言えば知る人ぞ知るガールズバンド。幼馴染五人組のコンビネーションは非常にレベルが高く、最近は個々の技術もついてきたこともあり、着実に人気が付いてきた。
当然、CiRCLEでのライブには毎回沢山のお客さんが入る。グッズもかなりの個数販売されており、お客さんはそのグッズを身に着けライブに参戦する。
そんな中、俺はというとライブ会場の最後方……入り口のドアの側で、腕組みして立っている。後方腕組み彼氏面、ってやつだ。
今のところ、彼女らのライブは全通を記録している。チケットに関しては、蘭を始め幼馴染の皆が融通しようとしてくれたが、きちんと自分の金で払うと断ってきた。グッズもしっかり買っており、親父の店にポスターまで張る始末。
つまるところ、俺はAfterglowの大ファンと言っても差支えないだろう。好きな曲はON YOUR MARK。
「なるほど。今度のライブのために最近練習が増えたAfterglowの皆さんと会えていないと!」
「俺が一人で羽沢珈琲店に来ている理由を大声で言わなくていい」
一人寂しく休日にコーヒーを嗜んでいると、その様子だけ見たバイト中の若宮さんが的確に当ててきた。いい洞察力してんね。いやぁ、眼福眼福。
若宮さんの言う通り、今日Afterglowの面々は音合わせ。厳密には部外者である俺が彼女らの練習に居合わせてもいいことなんてない。後三時間くらいしたら差し入れでも持っていこうかな、という感じで羽沢珈琲店で勉強しながら暇つぶししていた。机の上には最近苦戦中の英語の参考書が開かれていた。あいわなびー。
フィンランドの公用語ってスウェーデン語だっけ? 英語得意だったりしないかな若宮さん。もしそうならアイドルの手も借りたい。
「しかし、ちょっと意外デス。リョウさん、ランさんの事大好きですから、てっきりAfterglowの付き人をやっているものと!」
「あぁ……よく言われる。ただまぁ……Afterglowはあいつらの五人の看板だしな。あまり活動の根本に関わるようなことはしないって決めてるんだ」
あいつら五人なら、大抵のことは乗り越えられるであろう、という信頼から来るこの行動。差し入れくらいはするが、彼女らの守りたい『いつも通り』は彼女ら自身で守るべきだろう。
あの場所は、蘭たちが必死に守り抜こうと必死になって作り上げたものだ。俺がそう易々と関わっていいものではない。
「なるほど……ブシドーですね!」
「ごめん、若宮さん。俺あなたのファンやってそこそこ経つけど、未だにブシドーの意味分かんないんだ」
「ブシドーは、ブシドーです!」
「……あ、はい」
諦めます、理解するの。
これはどれだけ聞いても無駄だな、と理解したところで、からんころん、とドアベルが鳴る。
ちらりと入口の方を見てみると、ガテン系のあんちゃんが二人。方や見てわかるほど落ち込んでいる茶髪の天パ、方やそんなあんちゃんを心配そうな目で見つめている金髪さん。
なにやら、ただ事ではないらしい。
……というか、この人たちどっかで見たことがあるような。
「いらっしゃいませー! 御二方ですか?」
「あぁ……うん、そだよ……」
茶髪のあんちゃん、イカつい見た目からは想像も出来ないような小さな声。これは失恋か、はたまたクビが。なんにせよ、人生における重大な出来事が起きた時のような面立ちだ。
若宮さんはそんな彼らに対して、少し表情を暗くしながらも席に案内する。ちょうど俺の後ろの二人がけの席だ。
これだけ近いと、当然二人の会話も聞こえてくる。
「……なぁ、ホントに良かったのか?」
「……いいんだ」
哀愁漂う店内。人がほぼ居ないため、彼らのただならぬ雰囲気が、店中に広がる。
お昼前のカフェで漂っていい雰囲気ではない。夜のバーとかの方が似合うやつだ多分。行ったことないけど。
彼らに悟られぬよう、勉強しているふりをしながら彼らの話に耳を傾ける。
「俺達は、もう何回もAfterglowのライブを見てきた。まだ人があまり入ってない時から、最近の満員御礼まで全部知ってる。だけど……あの子にとっては初めてのライブだ。俺達大人が、夢壊すなんて出来ねぇよ」
思い出したわ。
この人たち、ほぼ毎回と言っていいほどAfterglowのライブに来る古参ファンの二人だ。
俺のような男子高校生はともかく、彼らのような成人済みの男性の客というのは中々おらず、その見た目もあってAfterglowファンの中では割と有名人。Afterglow内で不和が起きていた時も、遠くで行われたライブにも必ず来て、必ずグッズを買っていた。
どうやら、茶髪のあんちゃんが次回のライブチケットを誰かに譲った模様。カッコつけたが、きっちりとダメージは受けていたらしい。
そんな茶髪のあんちゃんを見ていた金髪のあんちゃんは、一つため息。
「……俺も、今回のチケットは誰かに譲るわ」
「三上……お前……」
「お前ばっかり良いカッコさせんのは癪だからな。それより、Afterglowの良さを広める方が良いっしょ」
「……すまない」
「謝るこたないさ。今回の俺たちは、きっとそーゆー役回りだったんだよ」
口では笑って見せているものの、確か伝わる未練。それを必死に押し殺し、友情を大切にした金髪のあんちゃん。
毎回心の底から楽しみにしていたライブチケットを、初めてライブに参加するという人に譲って見せた茶髪のあんちゃん。
あまりにも人間ができている。自分さえよければそれでいい、という人間が数多くいる中、他人の事を考えて自己犠牲出来る彼らは、どれほど人間として上等か。
それこそ、俺なんかより、もっと、ずっと。
なのに、このままでは彼らが報われないというのは、あまりにも可哀想じゃないか。
居てもたってもいられなくなった俺は、気がついたら椅子から立ち上がり、彼らのテーブルの前に立っていた。
「君は……もしかして、Afterglowのライブには必ず参加し、毎回最後方で壁に持たれながら腕組みしている『後方腕組み彼氏』くん!?」
「分かりやすい説明口調ありがとうございます。まぁ、そうですよ」
「そうか……坊主が俺達になんのようだ? 参加できなくなった俺達を笑いに来たのか?」
「……これあげます。お金はいりません。若宮さん、お会計お願い」
俺は机の上に財布に入れてあった次回のAfterglowのライブのチケットを置き、そのまま若宮さんに声をかける。
俺の有無を言わせぬ雰囲気に若宮さんは面食らいながらも、俺の意図を察してくれたのかそのまま伝票を受け取ってくれた。
いつも通りコーヒーとケーキのセット商品、いつも通りの金額をトレーの上に置いて立ち去ろうとしたところ、慌てて席から立った二人が俺の前に立ちはだかる。
「坊主、待てって! 受け取れねぇよこんなもん! 坊主だって次のライブ楽しみにしてたんだろ?」
「それは御二方もでしょう? ……アイツらのすげぇ所、色んな人に見て欲しいんですよ」
Afterglowが凄いってことは、俺はよく知っている。なんてったって十年以上の付き合いだからだ。
彼女らが凄いってことを、必死に頑張ってるってことを沢山の人に知って欲しい。それが俺の願いだ。
そんな俺の願いを、正しく叶えてくれたのが応援してくれるファンの人達。そんな彼らに対して、俺ができるのはこの程度。
あいつらみたいに、
「じゃ、ライブは来週の日曜ですから。楽しんで下さいね」
俺はそう言い残して、立ちはだかった二人の間を抜けて店内から逃げるように立ち去る。
いいことした、という自己満足による気持ちよさは欠片もなく、ただただ自己嫌悪に苛まれている俺は、そこから脇目も振らずに自宅へと帰るのだった。
ご閲覧ありがとうございます。自分の周りに凄いやつがいっぱい居ると、自己嫌悪にも陥りますよね。
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それでは、また次回。