反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
無いっすね。ごめん。
あと、親父さんファンの皆様。本当にごめんなさい。
「……」
「……」
「……」
「……」
…………。
「「……………………………………」」
この始まり方ということは、ここは美竹家客間。相も変わらず目の前には正座した蘭の親父さん。二回連続出演である。
ここ最近、蘭への絡みが積極的になってきている。蘭もそこはひしひしと感じているのか、『前とは別の意味で話しにくい』と愚痴をこぼしていた。親父さん、やっぱり思春期の女の子相手は厳しいですって。
どーせ今回もろくでもないこと考えてんだろうなぁ……なんてことを考えながら、先ほどから俯いている親父さんの頭のつむじを見つめる。うちの親父と比べて、まだまだ毛量しっかりだ。
「……時に、亮君。明日は何日だ?」
「え? 明日は……十月三十一日ですね」
「……なんの日だい?」
「……なんかのソシャゲのガチャ更新日で、スマ〇ラ大規模オフ大会のDAY2、ですね」
みんなも一回でいいからeスポーツの試合を観戦して見てほしい。なにかに真剣に打ち込む人はめちゃくちゃかっこいいよ。今日の試合もめちゃくちゃ面白かった。
無論、そんな話を親父さんが聞いている訳では無い事は理解している。親父さんは溜まって首を横に振る。
「いや……明日は、ハロウィンとかいうものらしいじゃないか」
「あぁ……帰りますね」
立ち上がろうとする俺。そんな俺の肩をガッと掴み、逃がさない親父さん。
意外と力強い親父さんに掴まれては、俺はどうしようもない。大人しく正座し直す。
もうね、やな予感しかしないのよ。絶対勘違いしてんだよこの人。先に言っとくけど、ハロウィンはコスプレイベントじゃねぇからな?
「で、だ。ハロウィンと言うのは、何やら奇抜な格好をして街に繰り出し善良な市民から金銭を巻き上げる行事だと聞いたのだが」
「ンなもんが流行ってたまりますか」
想像以上に酷い勘違いしてた。ただの蛮族じゃねぇかそれ。確かに中には蛮族と変わらない行動している輩も居るけども。
俺はため息を吐きたくなる気持ちをぐっと堪え、親父さんにきちんとハロウィンの説明をする。あれって本来は豊穣を祝い先祖の霊を迎えて悪霊を追い払う、日本で言う盆みたいなもんなんだぜ?
「なるほど……それは重要な行事だ」
「まぁ、盆ですからね」
「では、本来はコスプレイベントではないと?」
「違いますね。日本ではコスプレイベントになっちゃってますけど」
いやまぁ良いんだけどね? 蘭のコスプレ姿見れるのであれば、俺は全てを賭けられる。多分してくれないけどさ。この前のネコミミイヌミミカチューシャが例外だっただけで。
親父さんは納得した様子で頷いていたが、どこか残念そうというか、失望した様子でため息を吐く。
「そうか……せっかくコスプレセット用意したのだがな……」
「親父さん……ネコミミカチューシャペアルック事件、忘れたわけじゃないですよね?」
「もちろん。今回は反省して、きちんと私に似合うコスプレグッズを買ってきた」
「そういうことじゃないんですってば!」
コスプレをやめろと言っているのだコスプレを。なんだ、最近のマイブーム? 彼女の父親のマイブームコスプレ? ホントにヤなんだけど。
ちょっと待ってなさい、言い残したかと思うと、親父さんは立ち上がって何処かへと立ち去ってしまった。
一人残された、俺。今日蘭はバンド練習、お袋さんは買い物。この家に、俺が助けを求められる人間は誰も居ない。
「……帰って良いかなぁ」
愚痴をこぼしてみるものの、拾ってくれる人はどこにも居ない。これで親父さんが帰ってきて誰も居なかったら、あの人しょげちゃうんだろうな。
ただでさえ娘の蘭に冷たくされてるんだ。将来の義息子の俺くらいは優しくしてあげよう……って事にしておこう。
「コスプレ、ねぇ……今度はなんだ? 親父さん割とガタイいいし、吸血鬼とか似合いそうだな……フランケンシュタインは、流石にサイズが足りないか」
待ってる間暇なので、俺は親父さんのコスプレ予想を始めた。脳内親父さんに、様々なコスプレ衣装を着せていく。
……これ、中年男性相手で想像するもんじゃないな。なんで蘭でやってねぇんだ俺。
『亮くん、待たせたね』
馬鹿な妄想をして顔を顰めていると、閉められた襖の向こうから親父さんのくぐもった声が聞こえてきた。襖越しだから、という訳ではなく、どうやら何かしらの被り物をしているようだ。
…………ハロウィンコスプレで、被り物?
物凄く嫌な予感がする。しかし、相手は最近漸くインターネットに触れ始めた華道家。
そんな訳ないだろう、と願う俺をよそに、彼は襖を勢いよく開けて入ってきた。
『亮くん、どうかな? 最近若い子達の間で流行していると聞いたのだが』
「…………」
絶句する俺と、得意げな親父さん。顔見えないけど。
自信満々に仁王立ちするのは、ハロウィン定番と言っても過言でもない顔の形に穴が空いたカボチャのお面を付け、真っ黒の全身タイツに身を包んだ不審者。
若者に人気なんちゃう。オタクに人気なだけや。
「親父さん……まさかと思いますけど、それでダンスとか踊りませんよね?」
『え? 一応練習したが?』
「今すぐ全部忘れて下さい!」
本当に、本当になんなんだこの親父。間違いなくインターネットの間違った使い方をしている。
想像してみ? コスプレした父親が連邦に反省を促すダンス踊ってるとこ。少なくとも俺なら縁を切る。
ってか、全身タイツにカボチャの面だけでも絶交ものだよ。どっからどう見てもただの変質者だよ。
「とにかく! それはハロウィンのコスプレとしてはあまりにも相応しくないので今すぐ着替えてください! 初心者の親父さんにはカボチャのお面だけでも十分ですから、せめて全身タイツは脱げ!」
『そ、そうか……簡単そうだから、良いかと思ったのだがな……』
俺の形相に気圧された親父さんは、少ししょんぼりとしながら着替えに戻ろうとした。
しかし、そのタイミングで開かれる入口の扉。
「亮? 父さん? 今度は何変なこと、し、て……」
「親父さん、おじゃまし、ま、す……」
デジャブ、とはこの事だろう。開かれた廊下側の襖から客間を覗き込む、蘭と巴。
さて、状況を確認しよう。現在部屋の中には、正座した俺と、全身タイツにカボチャの面の親父さん。
誰がどう見たって、事件だよね。
「っ、亮!」
「おい強盗! 亮から離れろっ!!」
どこからか剣山を取り出し、俺を庇うように近寄る蘭。
バチを両手にそれぞれ一本ずつ構え、俺と強盗(親父さん)の間に立ふさがる巴。
俺嬉しいよ。幼馴染達が逞しく成長してくれて。
俺悲しいよ。親父さんに初孫見せることが出来なくて。
『ま、待て二人とも! 私だ! 蘭の父だ!』
「父さんはそんな奇抜な格好しない!」
「蘭の親父さんはもっと真面目で、そんなふざけた格好しない!」
『落ち着け! 証拠を見せ……あれ、脱げない!? くっ、これどうやって取るんだ!?』
必死にかぼちゃのお面を外そうとするが、なかなか外れず焦る親父さん。呪われた装備かな、あのお面。
目の前で慌ただしく変化していく状況を、俺はのんびりと見守る。
『りょ、亮くん! 蘭たちに説明してくれ!』
「…………さーて、俺ちょっとトイレ。かれこれ一時間くらい我慢してたんだよね」
『亮くん!?』
「行ってきていいぞ! ここはあたし達が何とかするから!」
「アタシ達にかかれば、強盗の一人や二人なんてことないさ!」
もうなんか全部面倒くさくなった俺は、勢いよく立ち上がりその部屋を後にする。蘭と巴の声を背に受け、俺は軽い足取りでトイレへと向かう。
きっと親父さん、お面の下ですっごい絶望した顔してるんだろうなぁ。
『りょ、りょうくうううううううううううううううううううううう…………』
親父さんの断末魔が、美竹家に響いた。
次の日、俺は蘭達とハロウィンを心の底から楽しんだ。しかし、そこに親父さんの姿は無かった。
後に、親父さんにはありとあらゆるSNSと動画投稿サイトの使用が禁止され、俺主催のインターネット講座が開催されることとなった。なんでまた俺巻き込まれてるんだ?
ご閲覧ありがとうございます。一度見たら忘れられないものランキング第一位、連邦に反省を促すダンス。忘れられないままこの話書いてました。そろそろ親父さんファンに殺される気がする。
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それでは、また次回。