反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど   作:コロリエル

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どうも、ついにこの『反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど』が一周年を迎えました。投稿を開始したときには想像していなかったほどの沢山の方から見てもらいました。二年目の目標は、この作品を『美竹蘭』タグで一番総合評価の高い作品にすることです。これからもどうかよろしくお願いします。

それでは、二年目もどうぞよろしくお願いします。



一周年記念日と赤メッシュ

 諸君、私は美竹蘭が好きだ。

 諸君、私は美竹蘭が好きだ。

 諸君、私は美竹蘭が大好きだ。

 

 仕草が好きだ。

 性格だ好きだ。

 顔が好きだ。

 センスが好きだ。

 歌声が好きだ。

 笑顔が好きだ。

 怒り顔が好きだ。

 泣き顔が好きだ。

 キス顔が好きだ。

 

 街中で、自室で、蘭の部屋で、CiRCLEで、羽沢珈琲店で、やまぶきベーカリーで、カフェテリアで、ショッピングモールで、江戸川楽器店で、流星堂で。

 

 この地上で見ることが出来るありとあらゆる美竹蘭が大好きだ。

 

 

 ……とまぁ、どこぞの少佐の演説みたいにもっと長々と語っても誰にも文句は言わせないが、話が進まないのでこの辺りで。いつかフルで言ってみたいが。

 

 もう誰にとっても当たり前すぎてスルーされがちなのだが、俺は美竹蘭のことが世界中の誰よりも大好きであり、将来的には同じ墓に入ることまで考えている仲だ。結婚なんて序の口、この人生全てをあいつの隣で生きていくつもりだ。

 

 そんな俺と蘭が恋人としての付き合いを始めたのが、今からちょうど一年前。日付の前後も時間の前後もなんにもない、正しくちょうど一年前。

 

 

 そう。今日は蘭との一周年記念日である。

 

 

 そんな一周年記念。何故か知っていた(いやホントなんでだよ)俺たちの両親が、今日は祝いだ! とか何とか言い出して、あれよあれよという間に俺と蘭のお泊まり会が決行された。

 

 唯一難色を示していた蘭の親父さんだったが、うちの親父の「なんかあったらうちの息子を生け花にしていいですから」という一言で、渋々頷いていた。いや、人間を生け花にしようとするんじゃないよ。美竹家ではそんなことも学ぶんすか。

 

 さて、そんなこんなのお泊まり会 in 葉加瀬家。

 

 うん、ごめん。めちゃくちゃ期待してたし、滅茶苦茶舞い上がってた。いや、俺、男の子。男子高校生。股間と脳みそが直列接続してるなんて巷で噂の男子高校生だ。そりゃあ色々と揃えるもん揃えたし、爪も三日前ほどから切って馴染ませておいたし、部屋の掃除もこれ以上ないほど完璧に仕上げ、前々からひまりが推していた恋愛映画も準備しておいた。

 

 

 そんな、一周年。

 

 

 

「……すぅ……すぅ……」

「……寝てますねぇ」

 

 

 

 一周年記念日。お泊まり会。恋人同士。何も起きないってことある??

 

 そうです。反骨の赤メッシュ、彼氏のベッドの上でおやすみグッナイである。スヤスヤで草、てこんな時に使えばいいのだろうか。いや笑えないけどね? なるほど、これが生殺しとかいうやつですか。確かにこれは非常に、辛い。風呂に入っている間脳内におっさんオールスターを召喚してステテコダンス踊って貰ったのに意味がない。

 

 そういえば、次のライブも近いとか言ってたっけ。最近勉強も頑張ってるって言ってたし、疲れが溜まってたんだろうな。

 

 俺は持っていた飲み物が入ったペットボトルを学習机に置き、そっとベッドに腰かけて愛しの彼女の寝顔を覗き込む。

 

 無防備、という他ないだろう。まるで自分の部屋で寝ているかのように安心しきった表情を浮かべている彼女。うつ伏せになって俺の枕に顔を埋めており、ほっぺがぷにっと潰れていた。明らかに新品のそれであるネグリジェは、少しだけ胸元がはだけているようにも見えた。

 

 

 

「……いやいやいやいや。無いから」

 

 

 

 一瞬湧いた劣情を頭を振って追い払う。流石にそれは男として、人として駄目だろう。例え蘭が許しても、俺が俺を許さない自信がある。

 こんなにも無邪気な寝顔を浮かべている恋人を襲うなんて、俺にはムリだよできないよ。

 

 ちらりと壁にかけてある時計に目を向ける。九時半、寝るには少し早い気がするが、つぐあたりはこの時間には寝てるイメージがある。あの子夜更かし苦手だし。

 

 

 

「……なぁ、蘭。俺のベッドはそんなに寝心地がいいのか?」

 

 

 

 返事が返ってくることは無いと理解しながら、俺は蘭の頭を撫でる。風呂上がりの彼女の髪は少しだけ湿気が残っていた。どうやら、眠たさに負けてドライヤーが雑になってしまっていたらしい。

 まるで小さい子みたいだ、なんて微笑みながら、独り言を続ける。

 

 

 

「その様子だと、寝心地いいらしいな……ホント安心しちゃってさ。知ってるか? 男って皆狼なんだぜ? そんな無防備だったら、襲われちゃうかも知れないぞ? ……しないけどさ」

 

 

 

 大切な蘭を傷つけるのは、例え俺でも許さん、なんて言ってみる。いつもなら何言ってんのみたいなツッコミが入るが、聞こえてくるのは規則的な寝息のみ。

 

 なのに、寂しさを感じないのはなんでなんだろうか。

 

 

 

「……俺さ、蘭の支えになりたいんだよ」

 

 

 

 目の前で愛しの恋人が寝ている。今なら誰も聞いていない。

 

 そんな状況が、俺をほんの少しだけおかしくした。元々蘭が絡むとすぐおかしくなってる、とは言わないでくれ。

 

 

 

「蘭はさ、色んな壁にぶつかって、跳ね返されて、悩んでさ。心が折れそうになったこともきっとあったと思うし、実際そんなとこも見てきた。逃げたこともあったと思う。親父さんの事とかな。不器用だよな、ホント」

 

 

 

 モカみたいに、のらりくらりと躱す事が苦手。

 

 ひまりみたいに素直に感情を出すことが苦手。

 

 巴みたいに、強気に前に出ることが苦手。

 

 つぐみたいに、柔らかくコミュニケーションを取る事が苦手。

 

 苦手だらけ、不得意だらけ。器用に生きるなんてことが根本からできる人間なんかではない。

 

 それが、美竹蘭という人間。

 

 

 

「でもさ……お前はそれでも前に進むんだ。不器用なりに頭使って、不器用なりに答え出そうとして、不器用なりに必死に努力してさ……出来ないぜ? それ」

 

 

 

 逃げっぱなしにすることが、どれほど楽か。嫌な物から目を逸らしていることが、どれほど楽なか。思考停止でいることが、どれほど楽なことか。

 

 でも、蘭は楽になろうとしなかった。

 

 俺にそれができるか? 無理だ。楽できるならどこまでも楽するし、見なくていいなら目を逸らす。

 

 凄いよ。俺の彼女は。

 

 

 

「俺は、蘭が疲れてたら癒したい、泣いてたら慰めたい、悩んでたら一緒に考えたい……そんな風に、蘭を支えていきたいんだ……頑張るよ、俺」

 

 

 

 きっとこれは、世界で俺だけができること。親父さんにもお袋さんにも、幼馴染たちにもできないこと。

 

 そして、俺が一番やりたいことだ。なら、やらない理由なんてどこにも無い。

 

 俺は眠っている蘭の額に、祈りを込めながらそっと口づけをする。

 

 

 

「……おやすみ、蘭。これからもよろしくな」

 

 

 

 二年目への決意を新たに、俺は電気を消そうとベッドから腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……口には、してくれないの?」

 

 

 

 急に腕を掴まれ、俺はベッドに再び腰を下ろす。

 

 ちらり、と目を向けてみると、うっすらと目を開けている蘭の姿。まだ眠たいのか、表情は完全に緩み切っており、いつもの引き締まった様子はどこにも無かった。

 

 

 

「……おはよう、蘭。ごめん、起こしちゃったか?」

「ん……大丈夫……ふふっ、キスで目が覚めるなんて、お姫さまみたい」

 

 

 

 どうやら、先ほどの独り言は聞かれていないようだ。ぽやぽやと、まるで夢見る少女のような事を口にしながら、座った俺にもぞもぞと近付いてくる。腰に抱きつき、すりすりと頬擦りする彼女。はっきり言って心臓に悪すぎる。

 相変わらず、寝起きだと精神年齢が七つか八つ下になる娘だ。きっと、これが蘭の素なんだろうな。

 

 

 

「はぁ……もう眠たいだろ? 俺も寝るから、ちょっと寄ってくれ」

 

 

 

 ……今の蘭は俺を離してくれそうにないな、これ。

 

 観念した俺は、お袋が用意してくれた布団には入らず、蘭が既に入っている自分のベッドに身を潜らせる。既に蘭が長いこと入っていたのか、布団は心地よい暖かさになっていた。

 

 そのまま蘭のことを胸に抱き、ポンポンと背中を撫でる。予想通り、彼女は湯たんぽのようにぽかぽかだった。

 

 

 

「……ん……亮、暖かい」

「それは蘭もだよ。人間湯たんぽだ」

「ふふっ、なにそれ……ねぇ、おやすみのちゅーして?」

「……はいよ、お姫様」

 

 

 

 俺は目を瞑った蘭の唇に、そっと口づけする。啄むような、優しいキス。荒れ狂う熱愛ではなく、慈しむ情愛のキス。

 俺の気持ちが伝わったのか、ゆっくりと離れた蘭は、本当に幸せそうに頬を緩めていた。

 

 

 

「……おやすみ、蘭。また明日も一緒に居ような」

「うん。おやすみ亮。大好きだよ」

 

 

 

 心地よい感覚に包まれながら、俺と蘭はそろって目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、朝一番に親父が「息子よ。本当なら『昨夜はお楽しみでしたね』とお前をからかうつもりだったが、どうやらその必要は無さそうだな」と、お袋が「お赤飯、気が早かったかしら」と言ってきた。更には蘭の親父さんからは、「やはり君に蘭を任せて正解だった。これからも蘭のことをよろしく頼む」とメッセージが送られてきた。

 

 なんなんだ。俺たちの両親たちは。

 

 

 




ご閲覧ありがとうございます。どこかで少佐演説はフルで上げたいですね。需要があればですが。

感想、評価、お気に入り登録等していただけると、二年目も突っ走れます。

それでは、また次回。

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