反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
『超光速のプリンセスは、緋色の女王に夢を見る』
https://syosetu.org/novel/275954/
メロンパン早食い対決します。
※早食いは非常に危険です。彼らは特殊な訓練を積んでいます。常人がやった場合、最悪死に至る可能性があります。良い子悪い子普通の子、紳士淑女の方々、全員絶対にマネしないでください。作者との約束だよ。
「モカ、お前パン食べんの早いよな」
「ん-? そうかなぁ」
「早いよ。少なくともあたしはメロンパン一つを一分で食べきれない」
毎度毎度大量のパンを食べているモカ。今回は事前に沙綾に頼んでいたというらしく、机の上にはこれでもかというほどのメロンパンが山積みになっていた。話によると、数日分のバイト代が丸々吹き飛んだらしい。
いや、多すぎね? 蘭の部屋のローテーブル全部メロンパンナんだけど。今日俺蘭とイチャイチャできるって思ってうっきうきでここまで来たのに、扉を開けてみればなんかモカ居るし、メロンパン山積みだし。
そのメロンパンを、モカはとんでもないスピードで食べていく。ここまで美味しそうに食べられて、メロンパン君も嬉しいだろう。メロンパン、もう一回喋んないかなぁ。
「言っとくけど、もうメロンパンはやらないからね」
「ちぇー」
「すごい会話してるねぇ」
俺の心を完璧に呼んだ蘭が、若干げんなりした様子で俺を見る。あれは仕方ないじゃん。あんなもん反応しない彼氏いないって。
僕を食べてだよ? そりゃあ仕方ないよ、うん(『メロンパンな赤メッシュ』参照)。
まぁ、それはさておき。
「なぁモカ。一個頂戴?」
「百三十えーん」
「あいあい」
言われるがまま、俺は財布の中から百円玉一枚と十円玉三枚をモカに手渡す。それをモカが受け取ったことを確認し、メロンパンの山から一番食べてほしそうにこちらを見ていたメロンパンを手に取る。フワフワ、ぼく、悪いメロンパンじゃないよ。
俺は一回大きく深呼吸を一つ吸って、吐いて、勢いよくメロンパンにかぶりつく。
本来であれば、もう少し味わってじっくり食べる俺。しかし、あれほどのポテンシャルの高い食いっぷりを見せつけられると、俺としてもちょっと奮い立つものがある。
ひとくち、ふたくち、みくち。食べた端から咀嚼もそこそこに、無理やり飲み込んでいく。一定のペースで減っていくメロンパン、段々と引いていく蘭の目付き、ほほうと段々と上がっていくモカの口角。
むぎゅむぎゅ、ごっくん。
「あい……どうだ、モカ」
「……四十二秒……中々やるねー」
「急に何始めてるの……? 下手したら詰まらせて死んじゃうよ……?」
メロンパンの早食いとしては、中々のスピードだろう。しかし、モカは俺の渾身のパフォーマンスを見ても驚く様子はなく、むしろ「りょーくんならそれくらいやるよねー」という確信から来る態度。
なるほど、確かに本気を出したモカにはまだまだ遠く及ばないスピードだろう。しかし、言わばこれはアップ。俺の本来の力はこんなものでは無い。
困惑しきった蘭のことをスルーしつつ、俺はモカに向けてクイクイっと手招きをする。
かかってこい──俺の挑発に、モカは嬉しそうだった。
「……らんー。ストップウォッチおねがーい」
「……え、このしょうもない対決の審判しなきゃいけないの?」
「やってくれたら、後で無限なでなで編な」
「準備はできてる? あたしはできてるよ」
ホントにさ、可愛いんだけどさ、ちょっと心配になるんだけど。いやね? 俺の前だけだって知ってるよ? 知ってるけどさ、ホント心配なんだよ。なに? 俺が守ってやったらいいって? はっはっは、言うじゃないかコノヤロウ。
俺が自分の恋人のチョロさに心配になっていると、モカは着ていた厚手のパーカーを脱いで臨戦態勢を取る。
「準備はいい? レディー……ゴっ!」
蘭の掛け声が部屋に響き渡ると同時に、モカはメロンパンを口の中に一気に半分ほど詰め込む。
甘いもの早食いのファイトスタイルには、大まかに分けて二種類のタイプが存在する。俺のように限界一杯まで頬張らず、一定のペースで食べ進めるタイプと、モカのようにいっぺんに頬張れるだけ頬張るタイプ。
優劣は付けにくいが、食べ応えがあり飲み込むのが辛いものは前者、口の中で溶けやすく、飲み込みやすいものは後者、といった感じの先方が一般的である。
そういう意味では、メロンパンという種目において、一気に食べるというスタイルはあまりにも向いていない。口の中の水分は枯れ、無理に飲み込もうとすると最悪死に至る。
しかし、目の前にいる少女は、この世の全てを愛する少女、青葉モカ。メロンパンを飼いならすことなど造作でもない。
「ごぎゅん、むぐむぐ……あむっ、んふっ……ぐぎゅん、はい」
異常なペースで飲み込んでいくモカ。食堂のパンの塊を無理矢理胃袋に落とし込むように、上半身を伸ばしたり縮めたり。見た目は完全に中国に居る鉄の球を飲むおじさんである。
はい、その合図とともに蘭はストップウオッチを停止する。その表示されたタイムに、俺たちは目を見開いた。
三十二秒三。
競走馬の上がり三ハロンか、ってくらいの超高速タイムである。常人ではない。
「……モカ、お前一回Yo〇Tubeに動画上げろよ。美少女ギタリスト、渾身のメロンパン早食いってタイトルでさ」
「ふっふっふ……ま、あたしに掛かればこんなもんですよー……で、りょーくーん。次は、一緒に、本気でやろうよ」
す、と俺にメロンパンを手渡してくるモカ。未だ全力ではない──その事実に、俺はただただ打ちのめされるしかなかった。
今のハイペースは、確実に俺が限界を出したところで到達できるかどうか分からない速さ。それよりも更なる上がある……こんな勝敗が見えている負け戦、普通に考えたら『降り』一択だ。
しかし──そんなこと、恋人の前でできるだろうか。
「……やってやるよ」
「亮っ!? ダメだよ、絶対勝てないよ!」
「……蘭」
メロンパンに手を伸ばそうとした所で、蘭が俺に抱きついて止めてくる。その表情は俺が風邪を引いて寝込んでしまった時みたいな、不安に押しつぶされてしまいそうな顔。あぁ、そうだよな、心配だよな、そりゃあな。
でも、男には絶対に引けない戦いってのがあるんだよ。
俺は蘭に向かって向き直ると、蘭を正面から胸に抱く。心配ない、と優しく頭を撫でる。
「大丈夫だ。俺は絶対に勝つ。俺が蘭に嘘ついたことなんてないだろ?」
「……でもっ! 相手はモカだよ!? モカに勝とうとしたら……し、死んじゃうかも……んむっ!?」
弱気になり、眼に涙を溜めて俺を引き留めようとしていた蘭の顎を持ち上げ、その唇を唇で塞ぐ。
強く、たっぷり十秒ほど掛けて蘭とキスを交わし、そっと離れる。蘭は腰が抜けたのかペタンとその場に座り込み、もう動けそうもなかった。
俺はそんな蘭からそっと離れる。
「……生きて帰ったら、イチャイチャしような」
「ふっふっふ……蘭とのお別れの挨拶は済んだー?」
「お別れの挨拶なんかじゃないさ……お前に勝ち、必ず帰るという約束だ!」
再びメロンパンの山を挟んで向こう側にいるモカに向き直る。モカは先程の俺と蘭のやり取りを見たからか、頬を若干赤くしていたが、魔王ムーブは継続していた。可愛いなこの幼馴染。
俺はそれに茶々を入れることなく、目の前のメロンパンを一つ、無作為にとる。モカも同じように手に取ったことを確認し、財布の中から百円玉を一枚取り出す。
「こいつを投げて、地面に落ちた瞬間にスタートだ……準備はいいか?」
「モチのロンだよー」
「それじゃあ……蘭! 愛してるぜ!」
一瞬だけ振り向き、俺は蘭へ向けてありったけの愛を叫ぶ。
百円玉が、キィン……という甲高い音とともに宙を舞う。
「いや……だめええええええええええええええええええええええええええっ!」
蘭の悲鳴は虚しく、百円玉はゆっくりと回転しながら落下していき……地面に、ポトリと落ちた。
「ねぇ? 二人して喉に詰まらせかけて引き分けとか、バカなの? あの寸劇何なの? バカなんだよね? 二人ともバカなんでしょ?」
「はい。バカです。俺たちはバカです。紛れもないバカです」
「もう二度としませーん……」
その後、二人揃って喉に詰まらせてしまい、危うく死にかけそうになったところを蘭が手渡してくれたお茶により一命を取り留めた。
二人してしょうもない戦いを繰り返したことに激怒した蘭による説教が、丸一日続いた。蘭だってノリノリだったじゃねぇか。