反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
いつもと趣向を変えて、一人称が違います。それではどうぞ。
「なあつぐ。蘭が本当に可愛すぎて困るんだよ」
「……あぁ……もうそんな時期かぁ……」
こんにちは、羽沢つぐみです。羽沢珈琲店の一人娘で、時々お店の手伝いをしている高校一年生です。
私には五人の幼馴染が居ます。その中の美竹蘭ちゃんと葉加瀬亮くんは、中学三年生のころから恋人同士です。
普段はクールな蘭ちゃんも、亮くんと一緒だと別人のように甘えています。本人は隠しているらしいけど、皆にバレています。亮くんは蘭ちゃんの事を好きだ大好きだ愛していると口にもするし行動でも示しています。傍から見たら本当にラブラブな二人。
そして、亮くんは蘭ちゃんへの大好きという気持ちが溢れかえる頃になると、こうして一人で羽沢珈琲店にやってきて、それはそれはとんでもない惚気をしてくるのです。大体、二か月に一回くらい。
ついこの前まではそれこそ語りだしたら止まらない。凄い時は朝の十時からお昼の三時まで。たっぷり五時間、お昼ご飯も一緒に食べながら、もう黙々と。
「いやぁ。ホントもう……なんなんだろうね、美竹蘭って存在は。俺のことを幸せにするためにこの世に居るんじゃないかって錯覚しちゃいそうになるよね。実際は蘭自身が幸せになるために生まれたのが俺なんだけどさ。世界は蘭を中心に回ってるし」
「あ、はは……それはちょっと分かんないかなぁ」
「昨日の話なんだけどさ……珍しく二人で出かけてたんだけどさ」
あぁ、これ長くなる……そう感じた私は、ちらりとカウンターの中でこちらの様子を伺っていたお父さんにアイコンタクト。呆れたように笑いながらも、こくりと小さく頷いてくれた。
私は大人しく亮くんの席の前に座る。この時間帯はお客さんがあまり居ないし、ちょっとなら問題もない……筈だ。
「一休みするかって話になった時に、自販機で缶コーヒー買ったんだよ。その自販機が当たり付きでな? あんなもん当たるわけねぇって思ってたんだけど、蘭が買ったら当たってさ。缶コーヒーがもう一本出てきたんだよ。ラッキーだったなって言ったら蘭が『ハイこれ。幸運のおすそ分け』って言いながら渡してくれたんだよ。なんだよ幸運のおすそ分けって可愛すぎね? おすそ分けって、おすそ分けって! 言い方可愛いかよぉ……これ以上俺を惚れさせるつもりかよぉ……」
ごめん。本当にごめん。本当にどう反応すればいいの?
ひまりちゃんの愚痴に付き合うことは何度もあったし、紗夜さんの相談に乗ったことも何度かある。相談しやすい人だよね、なんて言われたこともある。
だけど、惚気に対してどうすればいいのかは、いつまでたっても分からない。何か言ってあげた方がいいのか、黙って聞いてあげればいいのか。
ただただ笑顔を浮かべてみるしかない。引き攣っている自覚はあるけど、それでも何とか笑って見せる。
「それにさぁ……蘭ってば案外おっちょこちょいでさぁ……昨日午後から雨が降って来ただろ? いつもなら蘭もカバンの中に折りたたみ傘持ち歩いてるのに、昨日に限って忘れちゃっててさ。仕方がないから狭い折り畳み傘で相合傘よ。久しぶりにやったよね、相合傘。確か中二の時以来だったかな?」
それ、犯人私たちです。折り畳み傘を持っていかなかったら亮くんと合法的に相合傘できるよって言ったの、私たちです。まさか本当に実践するとは思いませんでした。確かに、蘭ちゃん可愛い。本当にちゃんと、恋する乙女してる。
それは勿論うれしい。嬉しい、けど……なんだろう、この徒労感。
「そんでさ、二人で並んで歩いてたらさ……濡れないようにって、蘭が凄いくっついてくるんだよな。蘭ってあんまり外じゃくっついてこないからさ……ちょっと、いやかなり嬉しかったんだよな。そしたら蘭がさ? 『ホントは……これがしたかったから、わざと忘れてきた……』って言うんだよ? はぁー……もう……抱き締めるのを我慢した俺を褒めてほしいよね」
あ、蘭ちゃん、言っちゃったんだ。確かに、蘭ちゃんって隠し事とか嘘とか嫌いだもんね。それが亮くん相手だったら余計に。
そんなところが蘭ちゃんのすごくいいところだとは思う。基本的に彼女は、不器用だけど真っ直ぐなんだ。
そんなところが、私たちは大好きなんだ。
「ただまぁ、外だし抱き締める訳にも行かなかったから、可愛い……て言うくらいにしといたんだよ。そしたらありがと、ってマフラーで顔隠しながら言うんだけどさもう耳まで真っ赤なんだよね……蘭って顔赤くするとき耳まで赤くなっちゃうんだよね。全く隠せてないの可愛いよなぁ……もうほんと、俺に見せてるくらいの素直さの十分の一でいいから周りに見せるだけでもうちょっと生きやすくなると思うんだけど……まぁ、それも蘭の個性だからな。俺たちはそれをちゃんと知ってる」
そして、私たちが亮くんの事を大好きな理由は、これなんだ。ぶっきらぼうに見えて、物凄く優しいんだ。
相手が一番してもらって嬉しいことは何かってずっと頭の中で考えてくれる。なんだかんだ言いながらもひまりちゃんとの勉強会もずっと続けてるし、部屋の中に勝手に上がってくるモカちゃんもスルーしてくれる。巴ちゃんとは商店街の手伝いで一緒に頑張ってるし、私の相談にも乗ってくれる。
この優しさに、私たちはずっと支えられてきた。
このいつも通りは、きっとずっと変わらないんだろうな、なんて考えてみる。
「でもさ……マジでこれ最近の悩みなんだけど、蘭の親父さんをどうにかしたいんだよなぁ……何とか蘭との距離感を詰めようと必死なんだけど、その行動の一つ一つがぜつみょーに噛み合わねぇんだよ……この前なんか、クレーンゲームに熱中しすぎて二千円溶かした挙句、取って来たのが蘭が何の興味も示してない男性アイドルグループの缶バッチ……手渡されたときの蘭の顔、マジで冷えてたよ。それでも一応捨てたり譲ったりしないあたりは蘭もまぁ優しいよな」
「あはは……そういえば、この前蘭ちゃんのお父さん、うちに来てたよ? 若い高校生が飲むようなのを頼むって言われちゃって、どうしようか本当に困っちゃったんだよね……とりあえずカフェラテにしてみたけど……」
「蘭が飲むのはブラックコーヒー……なんだよなぁ……」
二人とも、分かりやすいのにまどろっこしい。その二人に振り回されている亮くん。これは、今後の亮くんの惚気には、愚痴も含まれるんだろうなぁ……なんて考えて、ちょっとだけ笑ってしまう。
そんな光景も、きっと私たちの新しい『いつも通り』になっていくんだろうなぁ……そうなったら、きっともうちょっとだけ、いつもの生活は楽しくなるんだろうか。
「ハァ……つぐ、おかわりお願いしてもいいか?」
「ふふっ、かしこまりましたっ」
少しだけ未来が楽しみになった私は、亮くんから手渡されたカップを手に取る。ホットコーヒーが入っていたそれは、未だに少しだけ暖かかった。
ご閲覧ありがとうございます。結論から言うと、幼馴染たちの絆は生半可な物ではないです。一生仲良くしててほしい。
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それでは、また次回。