反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
尾行作戦と赤メッシュ─その1─
「…………」
「皆、準備はいい?」
「できてる……」
「……失敗はー、許されないよー?」
「気合い入れていかないとな……」
この作品が始まって以来、最も参加メンバーが多い話になるな……と、何故かよく分からない考えが頭に浮かぶ。もっと言えば、初のシリーズ物になるだろうな、とも。
休日。普段なら蘭と過ごしたり幼馴染と遊んだりして過ごしている。今日も、いつも通り幼馴染と遊ぶ……のでは無い。
俺、蘭、モカ、ひまり、巴。
つぐを除く全員が、羽沢珈琲店の入口が見える路地に隠れていた。全員例外なく、とある富豪が雇っている黒服さん達のサングラスを掛けており、気合いの入りようが伺える。
「……さて、貴様がつぐに見合う人物なのか、しっかり見届けさせてもらうからな……! 『サッドネスメトロノーム』……!」
忌々しそうに、目線を向けた先。
そこには、余所行きの服を着たつぐと談笑している、氷川 紗夜の姿があった──。
─尾行作戦と赤メッシュ─
事の発端は一週間前。
いつものようにつぐを見て癒されるためにやってきた羽沢珈琲店。蘭と共にコーヒーを飲みつつ、談笑を楽しんでいた。
……のだが、段々とつぐの様子がおかしい事に気付く。
大きなミス等がある訳では無いのだが、どこか上の空と言った様子で、ぼーっとしてしまってお袋さんに突っつかれる、といった事が何度かあった。
「……何があったんだろうな」
「……何かあったんだろうね」
言ったセリフはほぼ同じ、なのにニュアンスは質問と回答。
十年来の付き合いを感じる機会が多くて申し訳ないが、その程度を感じ取ることは容易だった。
暫く談笑をしつつ、つぐを見守る。やってることは普段と変わらないけれども。
「あの、二人ともちょっといいかな? 今日はもう終わりだから……相談に乗ってもらってもいいかな?」
なんやかんやで、いつの間にやらつぐのお手伝い終了時間。つぐが後ろに引っ込んだかと思えば、エプロンを脱いだ状態で俺と蘭の元へやってきた。
どこか申し訳なさそうなことが気がかりだったが、別になんとも思っていないので了承。
「それで、相談って?」
ひと口つぐがカフェラテを飲んだ事を確認し、労いのセリフも程々に本題に入る。
つぐはぴくっ、と肩を震わせたかと思うと……頬を赤く染め、もじもじと身体を揺らす。
この瞬間、俺と蘭は非常に嫌な予感がした。そう、以前もこんな様子のつぐを見たことがあったからだ。
具体的には、『あの女』と会う直前。
「その……蘭ちゃんは分かると思うんだけど……氷川 紗夜さんって、亮くん分かる?」
「……Roseliaのギタリストの?」
「うん」
身構える。机の下で握っている拳が震える。ちらり、と蘭の様子を見ても、その表情が少し強ばっている様子が伺えた。
気分は娘が恋人を連れてきた時のそれ。蘭の親父の気苦労がよく分かった気がする……本当に分かる日が来るのは、恐らく二十年後位だろう。
つぐは先程よりも恥ずかしがっている様子で、おずおずと言った様子で口を開く。
「その……今度その紗夜さんと、二人でお出かけするんだけど……どんな服装で行ったらいいかな?」
ガシャン。
カウンターの中で、拭いていた皿を落としてしまうつぐの親父さん。明らかな動揺が空気を伝う。
俺と蘭もかなり動揺していた。それはもう、蘭が角砂糖を五個コーヒーに突っ込むくらい。
「そっ……それって、でっ、でででで、デートってやつなのかぁい?」
声裏返った。なんか頭おかしいピエロみたいな声になった気がする。
つぐの様子は、明らかに恋する乙女。知り合いの中でもトップクラスに少女漫画のヒロインみたいな展開が似合うと勝手に思っている。
純粋すぎてたまに不安になる。それこそ、とんでもない悪人に騙されてしまわないかどうか。
「でっ、でででで、デート!? そ、そんな訳ないよ! ただ一緒にお出かけするだけだよ!」
「それをデートって言うんだよ……別に『恋人』同士でなくとも、ね?」
あぅ……と口をつむぐつぐ。つむぐつぐ。ツムグツグ。ポケモンに居そうだなツムグツグ。寡黙ポケモン、ってとこかな?
つぐは両手で大事そうに持っているカフェラテのカップに視線を落とす。
どこか彼女が不安そうなのは、気の所為なのでは無いのだろう。
「……それで? 相談って、何よ? デートプランなら聞いても無駄だぜ? 俺と蘭はあんまりデートしないからな!」
「……その、えっと……変じゃ、無いかな?」
「「何が?」」
言わんとすることは分からないでもない。
同性。
その壁がデカすぎることは重々承知している。その価値観が、残念ながら俺の中には無いということも、世間的には少数派なことも。
それだけだ。つぐが好きになったのだから、外野がとやかく言うものでは無い。『好き』を止めることも、咎めることも、誰にもできない。
それはそれとして、お兄さんは許しませんよ! つぐちゃんに色恋沙汰はまだ早いわよ! 紗夜ちゃんはあなたを幸せにしてあげられるの!?
……なんて言わないのは、つぐには優しい世界で生きて欲しいから。
「……ありがとう、亮くん、蘭ちゃん」
その声が震えていたのは、気のせいだったのだろう。
──────
「それはそれとして、お兄さんは許しませんよ! つぐちゃんに色恋沙汰はまだ早いわよ! 紗夜ちゃんはあなたを幸せにしてあげられるの!?」
「あ、やっと言った」
つぐと紗夜さん。二人で並んで歩く二十メートル後ろを、五人でコソコソと尾行する。
つぐが紗夜さんに恋してしまったのは、仕方ない。応援する。その恋が実りますように。
それはそれとして、紗夜さんがつぐに相応しい人物かどうか、それを見極める必要が、俺達にはある。
もしつぐに悲しみの涙を流させようものなら……どうしよう。こういう時のマニュアルは用意していなかった。
とりあえず……あの後つぐからの恋愛相談に乗って、しっかりと『紗夜さんが好き』という事を聞いた。その瞬間つぐの親父さんがコーヒー豆の入った袋を床に落としそうになったのは、流石に笑いそうになった。笑えないが。
で、今度の土曜……つまり今日。紗夜さんと二人で出かける話になったとのこと。行き先は楽器店だったり、雑貨屋だったり。
それらにちぐはぐながらもアドバイスを送り、一週間の間に何度か相談に乗り、念には念を、服装も確認し、今日に至った。
うん、ごめんつぐ。不安すぎて幼馴染一同着いてきちゃった。バレないし邪魔しないから安心して?
「しっかし、つぐについに好きな人がかぁ……なんか嬉しいなぁ」
「巴……同い年だよ?」
やけに遠い場所を見つめている巴に、蘭は思わず呆れ顔。俺がつぐに好きな人が出来たと伝えた瞬間、泣き崩れたのは流石に笑ってしまった。相変わらず情に熱い。
お互いの幸せをきちんと願えるあたり、本当にいい奴らだな……と実感する。いい幼馴染をもって、俺は幸せ者だ。
……同級生から見たら、五対一ハーレムに見えるらしい。そいつのことは殺してバラして並べて揃えて晒してやった。
「よーし! それじゃあつぐと紗夜さんのデートの尾行、頑張ろー! えい、えい、おーっ!」
「「「「……」」」」
「こんな時ぐらいやってくれてもいいじゃん!!」
半ば強引に入れこまれた『不発の大号令』をしっかりとシカトできるあたりも、本当に仲がいいなと感じる、今日この頃。
幼馴染五人による、デート尾行作戦が、決行されるのであった。
あ、今回はオチはないです。
ご閲覧ありがとうございます。実は前書き後書き書く内容って毎度毎度悩んでるんですよね。今までも色んなか前書き後書き書いてますけど、それについて言及し始めたら、『あ、今日はネタ浮かばなかったんだな』とでも思っといて下さい。
感想、評価、お気に入り等して頂けると、ぐっすり寝られます。
それでは、また次回。