反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
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「……」
「……」
「……」
「……」
…………。
「「……………………………………」」
喋って?
美竹家の客間。和の雰囲気漂う部屋の真ん中で、俺は正座をして、目の前の男性が話し始めるのを待っていた。
和服に身を包んだ彼は、蘭の親父さん。著名な華道家であり、威厳のある顔立ちから、取っ付きにくそうな印象を受ける。
事実、小さい時の俺は彼の顔を初めて見たとき、ギャン泣きした。今思えば失礼すぎる話だ。
しかし、親父さんが俺を呼び出したのは、その時の思い出話をするためなどではないのだろう。というか、親父さんが俺を呼び出す理由は、一つしかない。
「……亮君、蘭とは最近どうだい?」
――来た。
意味もなく緊張感が漂う。
彼は蘭の親父さん。つまり、彼からすれば、俺は娘と交際している男。俺が蘭と幼馴染でなかったら、とっくに殺されていても仕方ない立場の人間。
……いや、今だって、俺の行動一つによっては、山の中に埋められてしまっても不思議ではない。
これは試練。この先も蘭と末永く共に暮らすための試練。モンスターハウスに足を踏み入れた時のようなヒリつく感覚。悪くないね。
「……仲良くさせていただいています」
「そうか……なら、孫の顔が見れるのも近いかな?」
「ん!?」
とんでもねぇこと言い出したぞこのおっさん。
思わず親父さんの顔を凝視してしまう。どこかいたずらっぽく笑うその姿は、やはり親子だからか、どこか蘭に似ていた。
一つ深呼吸。ここで何かボロを出してしまってはいけない。俺は蘭と離れ離れになりたくない。
俺が死んだら、蘭が泣く。それだけは避けたい。
「親父さん……冗談はやめてくださいよ……」
「……私は本気だが?」
「んん!?」
好感度の下がる音がする。導火線が短くなる。
いや、待って。俺は割と無難な返事をしたはずだ。大体こういう話は冗談半分でするものだろう? 若い俺たちをからかうために大人たちがする冗談だろう?
じゃあ何ですか。娘さんとはしっぽりヤってまっせと言えと? 無理に決まってるだろう?
どうしたものかと頭を抱えていると、親父さんは軽く微笑む。
「すまない、少々冗談が過ぎたようだね……私は、君が蘭とどこまで行っているかは……寂しくはあるが、とやかく言うつもりはない。言っただろう? 娘を頼むと」
「……親父さん……」
ただ、学生の間だけは勘弁してくれ、と親父さんは付け加える。
……信頼が怖いと、初めて感じた。
これほどまでの無償の信頼。「俺なら大丈夫」という、確信にも似た盲信。
怖い。無意識にも裏切ってしまうのではないかという不安が。
怖い。その時の失望が。
……怖い。蘭を悲しませるのが。
「……覚悟は、出来てます」
「……ありがとう。君みたいな男と逢えて、蘭も幸せ者だな」
だからどうしたと、腹の奥で笑う。その程度がどうした。
応えて見せろ、その期待に。応えて見せろ、その信頼に。
たかがその程度の気持ちで、俺は蘭と交際しているわけではない。
若造が何かほざいていると、笑ってくれても構わない。十年後、どうなっているかその目に焼き付けてもらおう。
「まぁ、それはいい……それはいい……今日君を呼んだのは、ちょっと相談があって呼んだのだ」
「相談……ですか?」
先ほどまでとは打って変わって、親父さんの雰囲気が、哀愁が漂うというか、とにかく、負の感情になった。
親父さんが見てわかるほどテンションを低くしているのは珍しい。もっとも、俺の前ではこれで二度目だが。
「その……あまりこんなことを君に相談するのは気が引けるのだが……蘭が最近すごい避けてくるんだ。どうすればいい?」
「反抗期&思春期です。諦めて下さい」
むしろ分かってなかったのかこのおっさん。子育て初心者かよ。初心者だな、蘭一人っ子だし。
散々人の心を引っ掻き回したり惑わしたり覚悟決めさせた結果の本題が、なんともしょうもなかったことに呆れてしまう。いや、本人にとっては重大な問題なのかもしれないけど、前半の話と比べるとどうしても、肩透かし感が半端ない。サッカー選手位半端ない。実際あのプレーは半端ない。
「待ってくれ! 蘭の恋人である君なら! 君なら私と蘭の仲を修復できるはずだ!」
「その謎の信頼が怖いんですってば! 俺は万能じゃありません!」
お互いに正座を崩し、中腰になりながら大声で叫ぶ。
年上の、恋人の父親にする態度では無いのかもしれないが、この際置いておこう。
このおっさん、基本的に娘の事が大好きで仕方ないのだ。以前も華道についてのいざこざが起きた時も、泣きそうになりながら……と言うか泣きながら俺に「本当は蘭のやりたいことさせてあげたい……」と言っていた。情けなかった。
その件に関しては両立するという蘭の言葉を信じて認めていたが、その時の溝が未だに埋まり切っていないのだろう。
「蘭だって、親父さんとの距離感が分からなくなってるだけですってば。心配しなくても三年すれば治りますって。多分」
「三年も掛かるのか!?」
「いや知りませんって! 俺思春期の娘いた事ないですから!」
「居てくれたら困る!」
「そうだよ困るんだよ!」
だんだん敬語を使うことすら億劫になってくる。
普段の威厳のある華道家の親父さんはどこにも居らず、ただ娘に嫌われる事が嫌で嫌で仕方ない娘大好きお父さんだった。
スイッチひとつで操れねぇかな。小さい子供が空き箱に書いたスイッチなら、自由自在に操れるはずなのに、今作っても笑われるだけだろうな。
「んん……この前蘭に『父さん、臭うよ』って言われてしまったんだよな……」
「親父さん……」
思春期の娘がやるテンプレを、自分の恋人がしているとは思えなかった。
見た目若々しい親父さんも、ついに加齢臭に悩まされる歳になってしまっている時間の恐ろしさ。
そう言えば、最近皺が目立ってきた。全然関係ない話だが、俺の親父は段々生え際が後退してきていた。将来俺もああなるのか。
……死にてぇ。
「蘭が言うには、亮君は凄くいい匂いがするそうじゃないか。なにか使ってるのかい?」
「蘭っ!!」
親父さんの前で惚気んな。それを聞かされた親父さんの気持ちが想像できない。
恋人の匂いと比べられた親父さん、不憫過ぎないか?
何がやばいって、それを鵜呑みにしてしまっている親父さんがやばい。どこまで娘さんに嫌われたくないんだよ。
「いや……あれですよ。遺伝子レベルで相性のいい相手っていい匂いがするらしいですよ」
「私と蘭も、遺伝子レベルで相性良いはずなんだがな」
「そりゃ親子だからなぁ!!」
腹が立ってきたので惚気けて見せたら、それ以上のカウンターが返ってきた。
少なくとも、半分は親父さんの遺伝子を蘭が継いでいるはずだ。相性がいいと言うか、半分同じと言うか。
「……まて、この場合私と相性がいいのは、亮君じゃないか?」
「おいコラおっさん」
「嗅がせてくれないか?」
「躊躇え! 一回! 躊躇え!!」
スススと近付いてきた親父さんの頭を手で抑える。仮にその仮定が正しかったとしてだ、その絵面を認めてしまう訳には行かない。
娘の恋人の匂いを嗅ごうとする親父さん。
これってN〇Rになるのかな? 専門家お願いします。ちなみに俺は、N〇R見た瞬間、燃やし尽くすから。
「ちょっとだけ! 先っちょだけ!」
「それは奥まで入れるやつだ! 落ち着け! 一回落ち着け!」
「……騒がしいと思って来てみたら……何してるの?」
二人して固まる。ここに居たら最大級に不味い人物の声が、入口からした。確か今は、モカと出掛けていたはずののに。
錆びたロボットのように、ギギギとそちらに顔を動かしてみる。
恋人(娘)が、ドン引きした様子で立っていた。
完全に動けなくなっている、くんずほぐれつな男二人を見ていた蘭は、一言だけ言い残して、その場を去っていった。
「……二人って……そういう関係だったの?」
その後、俺の必死の説明により二時間で誤解は解けた。
しかし、親父さんは二週間、蘭と口すら利いて貰えなかったらしい。だから落ち着けって言ったのに。
ご閲覧ありがとうございます。親父さん、ごめん。後悔はしてない。もし皆様の中に親父さんファンが居たら、ごめんなさい。
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それでは、また次回。