反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
余談ですが、今回の話は実話を元にしたお話です。どこら辺が実話か、想像してみてください。答えはあとがきで!
あと、総合日刊四位、二次創作日刊二位、本当にありがとうございます。
「お、蘭ちゃん。いらっしゃい! 亮は帰れ!」
「こんにちは、おじさん。今日はお願いします」
「ここ実家だけど」
ある休みの日。蘭が俺の家にやって来ていた。
無論、お家デートのためと言うのはあるのだが、その前にやっておくべきことがあるので、俺の親父に声を掛けていた。
「さぁて……いつもと同じ感じでいいんだよね?」
「はい。毛染めも同じで」
「りょーかいっ! 腕が鳴るねぇ」
「商売道具振り回すなよ。魂込めてんじゃねぇのかよ」
両手に持った鋏を高速で回転させるウチの親父。最高に危ない。あの鋏、本当によく切れるから。触れただけで指先が切れてしまう。
鋏を投げ飛ばしてしまうなどというヘマを親父がするとは思えないが。
さて、俺の親父は商店街の一角で美容室を営んでいる。全然オシャレな雰囲気のない、どちらかと言うと床屋と言った方がしっくりくる見た目の店を構えている。
幼馴染の皆は髪を切ったりする時は親父に頼んで切って貰っている。その縁で、俺は幼馴染達と仲良くなったというのもある。
今日は、蘭の髪が全体的に長くなってきたというのと、赤メッシュの根元が黒くなりつつあったので、それのカットと染め直しにウチの店に来ていた。
「んじゃ、ちゃっちゃと終わらせますかねぇ。あんまり長いことやってると亮が拗ねるからなぁ」
「適当言ってんじゃねぇよ。その程度で拗ねねぇよ」
「……拗ねないの?」
「拗ねる拗ねる! もうすっげぇ拗ねるよ俺! じぅぇらっしぅぃー感じまくるから! 後で滅茶苦茶抱き締めるから!」
「やっぱりお前は俺の息子だなー。嫁さん恋人に死ぬほど弱い」
蘭に少し落ち込んだ様子で訊ねられては、もう拗ねない訳には行かない。
拗ねて欲しいんだろう、蘭は。俺に。
いやぁ、女心は難しい。特に蘭に関しては難しい。俺や蘭の親父さんですら分からないのだから、他の男達に理解出来るわけも無い。収録一発OK位分かんないよ。ブラッディはかっこいいと思うけれども。俺、男の子だもん。
「ふんふふふーん。ま、取り敢えずお前は部屋で待っとけ。お前が蘭ちゃんの親父さんと話してるように、俺もサシで蘭ちゃんと話すことがあるしな」
「へぃへぃ……んじゃ、終わったら呼んでくれや」
何故俺と蘭の親父さんが話している事を知っているのか気になったが、気にしてしまってはダメだ。
俺の親父に隠し事は出来ない。例えテスト用紙を隠したとしても、いつの間にやら奴の手の中。プライバシーもあったもんじゃない。
「んじゃ、蘭。可愛くして貰え。親父、可愛い蘭見せてくれ」
「……ん」
「了解っ!!」
俺はすっと立ち上がり、店の裏口から俺たちの居住スペースへと向かった。
余談だが、幼馴染みが髪を切るところに俺が居合わせたことは、ただの一度もない。
─一時間後─
数学死ね。
……失礼、少々口が悪かった。こんなの絶対正負の符号間違えるに決まっている。一個間違えるだけであとの符号全部逆になるから、何度も何度も見直しをしなければならない。
そんな訳で、俺は暇な時間を利用して学校の課題を進めていた。以前の定期テストでいい点取りすぎたせいで、先生及び両親の期待値が高くなってしまった(詳細は『暴走機関車赤メッシュ』参照)。
あの時は身の危険があったからこそあれだけの点が取れただけであって、普段は特段優等生と言う訳では無い。次のテストは程々にしておこう。
「……ん、メッセ来てる」
時間を確認しようとスマホを確認してみると、親父からの『終わったぴょん』と言うメッセージがやって来ていた。
中年のおっさんの『ぴょん』はキツい。ただ、親父は見ての通り変人で商店街でも通っているので、最早今更である。多分死ぬまで変人で押し通す気だ。
『ぴょんはやめろ』
一言だけメッセージを送信し、俺は店へと向かう。
歩いて二十秒弱。これがコンビニだったらどれだけ便利かと何度か考えた。一階がコンビニのマンションとか、駄目人間製造機な気がする。
「あいあーい。来たぜー」
「あいよ。今日はいつも通りに切った後、ちょっと遊んでみたぜー」
裏口の扉を開けて入ると、親父がドヤ顔でこちらに中指立てていた。コイツ本気でどうしてくれよう。
俺はそんな親父に首を振りつつ、椅子に座っている蘭を鏡越しに見る。
──鏡越しに、目が合う。
「……ど、どう?」
「……すっご」
単純に言うと、短い髪をポニーテールにしているだけ。
なのだが、もみあげ部分の残し方であったり、少し低い位置でまとめてあったりといった一つ一つが、言葉で表しにくい『丁度よさ』に収まっていた。
「いやぁ……親父って本当にプロの美容師なんだな」
「そりゃあな! 若い頃は切れたスキバサミって言われてたんだぜ!」
「……スキバサミが切れてる?」
「蘭、気にするな」
ビシッとポーズを決める親父を可哀想な目で見つめる。こんな親父の血が半分流れているのかと心配になってしまう。
俺がこんなのだったら、蘭はどう思うのだろうか。百年の恋も冷めるのでは。薄紅色の可愛い君の儚い夢ですら、三ヶ月で冷めてしまいそうだ。
俺はもう少し蘭のことを褒めようと近寄ろうとして、足元に切られた蘭の髪の毛が残っていることに気づく。
「あれ、掃除まだだったのか?」
「ああ、俺もついでに髪の毛切っちまおうかなって。ほれ」
そう言って自分の前髪を持ち上げる親父は、確かにだいぶ長くなっていた。掃除の手間を省く手段として、たまに親父がやっている方法だ。もっとも、よく知ってる仲のいい相手の後でしかやらないなどの気遣いはしているらしいが。なんで狂人なのに気遣いできるんだよ。
蘭をちらりと見ると、気にしてないよと言わんばかりに微笑みながら頷いていた。ちくしょう、髪型違うからか、いつもより余計にときめいちまった。ときめいているのは毎日だが。
「確かに長いなぁ。うっとおしいだろ?」
「いやー、髪切るの面倒くさくて」
「……美容師なのに?」
美容師が髪切るの面倒くさがるなよ。
「んじゃ、切るかぁ」
そう言いながら、蘭が座っている椅子の隣の椅子に腰掛け、カットケープを身に付ける。そのままキャスター付きの台に手を伸ばす。
手に取ったのは鋏……ではなく、バリカン。
……バリカン?
「よっと」
俺と蘭が固まっていると、ウィィンとバリカンを起動。そのまま右のもみあげから頂点へ向けてバリカンを進めていく。
根元から切られ、パラパラと床に落ちて行く親父の髪の毛。
「待て待て待て待て待て待て待て待てっ!?」
「お義父さん!? 何してるんですか!?」
目の前の異常な現象を脳がようやく理解できた俺と蘭は、思わず親父を取り押さえてバリカンを停止させる。
蘭の『お義父さん』については、突っ込まないでおこう。その内本当になる訳だし、今はそれどころでは無い。
「え? だって髪切るの面倒臭いしー、洗うの面倒臭いしー」
「だからっ! 美容師がそれを面倒くさがるなっての!」
「少なくとも、あたし達の前でいきなりしないで下さい!」
本当になんなんだこの父親は。
最早不快感を通り越して、恐怖すら感じてしまう。親父の狂気に慣れている俺ですらこの戦慄。
蘭、お前の親父さんはまだマシだよ。むしろお前のことよく考えてくれるいい親父さんだよ。
俺の親父やばいよ。こんなお義父さん嫌だろ? 俺が嫌だもん。
「んー、取り敢えずもうここまで切っちゃったしー、もう手遅れかな!」
「待てっ! まだツーブロックとか手はある!」
「──知ってるだろ、亮。俺の生え際が後退してること」
取り上げようとしていた手が止まる。
以前、部屋の整理をしている時に昔の写真を収めていたアルバムを発見し、それを眺めていた。
確かに、そこに写っていた親父は、今より明らかに髪の量が多かった。あの写真が十年前のものだったので、十年でここまで減ってしまったのだ。
まさか、この奇行は、それを隠すための開き直り──?
「はいドーン!!」
「「あああああああああああああああああああああああっ!!」」
二人して硬直してしまった。その瞬間を親父は見逃さず、まだ手の中に残っていたバリカンを起動。
そのまま頂点まで一気に刈り取ってしまった。
──もう、取り返しがつかない。
まさか、親父の先程のアンニュイな表情は、強行するための嘘……?
そんな事を考えたが、もうそんなことは些細なこと。
親父の坊主が確定した事実は、もう変わらない。
「「あああああああああああっ……」」
「よぉーし、丸めるぞー!」
絶望するカップルと、何故か坊主姿に前向きな美容師の姿が、そこにはあった。
その後親父が坊主にしたというニュースは商店街中に広まった。
ある人は一目見に、ある人は髪を切るついでに。
店を訪れる人が増えた結果、今月の店の売り上げがいつもの倍に増えたとのこと。嘘だろおい。
ご閲覧ありがとうございます。どこが実話か、分かったでしょうか? 答えは、『美容師の親父が自分の頭を坊主にした』でした。はいこれ、昨日起きました。いきなり写真送られてきて、腰抜かしました。面白すぎたので、急遽この話を書き上げました。本当は亮の親父はただの会社員の予定だったのに、ちくしょう。
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それでは、また次回。
追記
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