#後輩舞花 ~屋上で君と再会する~   作:赤瀬紅夜

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ここは東京、神瑞町にある都立高校……その名を神瑞学園高校。
男女共学の学舎であり、偏差値はそこそこの至って普通の場所とも言えた。
そんな高校の屋上に一人の男子生徒が居た。
夏も終わり秋に差し掛かろうとしていたが、そんなことは気にもとめず、青空を見上げていた。
そこにドアを勢いよく開けて一人の人物が入ってくる。
黒い髪を後ろで束ね、着崩した制服を軽く着こなすその生徒は、寝転んでいる男子生徒に向けてこう言った。
「先輩、起きてください!もう授業が始まるっすよ!」

彼女の名前は鷹取舞花。
神瑞高二年、普通の女の子だ。

舞花と『先輩』との物語はここから始まる。


オクジョウ・インタラクト -1-

「先輩、起きてください!もう授業が始まるっすよ!」

 

その声に目を覚ます。

朝から寝ていたがこうして始業前に起こしに来てくれる辺り、良い後輩だ。

 

「おはよう……鷹取」

 

瞼を開けると目の前には少し怒り気味の表情。

この子は一つ年下の後輩、鷹取舞花。

ひょんな事からこうして屋上で昼寝をしているところを目撃されてしまい、それからこうして起こしに来るようになった。

 

今日はどう言い逃れしようかと、思考を巡らしている……すると、秋風が頬を撫でて眠気を誘う。

 

「鷹取もさ、たまにはオレと一緒に寝ない?気持ち良いよ」

「ダメっす!自分は単位がやばいんでこのままだと進級も怪しいんすよ!」

「それならこうして起こしに来なくても良いよね?」

「それとコレとは別っす!起きて!授業が、授業がはじまる前に〜!」

「はいはい」

 

適当に返事をして立ち上がる。

さっきのやりとりから解るように、鷹取は語尾に『っす』と付けたり意外と素直なところがあったりと面白い奴だ。

 

「先輩!今日は一緒に帰りましょうね」

「そうだな」

 

快活な笑顔が眩しい。

太陽みたいな明るい笑顔……その眩しさに目が眩む。

コイツなんだかんだ言って可愛いんだよな。

口に出しては言わないが、そう思う。

 

「ふぁ〜あ、そんじゃ行くか」

「はいっす!」

 

二人で階段を降りてく。

こうして鷹取を教室まで送り届けるのが習慣になっていた。

送り届け先は三階フロアだ。

四階から二階にかけて一年、二年、三年となっている為自然とオレが鷹取を教室まで送ることになる。

 

階段を降りきり、教室まであと少しのところで背後から勢いよく走ってきた誰かとすれ違った。

「すいません!」

そう言い残して茶色の長い髪を揺らして去っていった。

このフロアにいつと言うことは鷹取と同じ二年だろう。

 

「なあ鷹取、さっきのって誰かわかるか?」

「多分ほのかっすね……あ、先輩は知らないんでしたっけ」

「ああ、どんなやつだ?」

「うーん、たまに話すっすけど運動が好きらしいっすね。部活も陸上部入ってるって聞きました」

「だからあんなに速かったのか」

 

そんなやりとりをしていると、いつの間にか鷹取のクラスにまで着いてしまった。

オレはそのまま、鷹取に軽く挨拶をして自分の教室に向かうことにした。

 

少しだけ寂しげな鷹取の顔が気になった。

 

***

 

教師の神経質な声と黒板を滑るチョークの音が響く。

 

授業を受けながらぼんやりと考える。

後輩の鷹取のことを。

オレがアイツに出来ることは無いのか……?

毎朝のように起こされ、曲がりなりにもああして絡んでくれるのは迷惑かも知れないが、オレ自身ありがたいと思っている。

それでも、鷹取に何も返しているとは思えない。

そんな考えが頭の中をぐるぐると回る。

 

「それならこの問題を……シン、わかるか?」

 

ふと顔を上げると黒板には複雑な数式……授業を聞いていなかったが、すでに頭の中では答えが導き出されていた。

 

「47……です」

「正解だ、全くボーッとしている割には即答だな」

そう言って教師は黒板に説明を書き連ねていく。

 

周囲ではオレのことがヒソヒソと噂される。

「またシンは即答か」「アイツ最近は授業によく出るよな」「学年主席は格が違う」「私、今度勉強教えてもらおうかな」

 

「はあ……」

思わずため息をつくほどに聞き飽きた言葉ばかりだ。

因みにシンというのはオレのあだ名で……何故か教師陣からもそう呼ばれてしまっている。

 

昨夜の疲れが祟ったのか、再び眠気に襲われて視界が霞む。

窓際の席は居眠りをしていてもとやかく言われにくいのが利点だ。

オレはこの眠りにへと誘う欲望に素直に従うことにした。

 

そうして三年の教室の一角で、一人の少年が眠りについたのだった。

 

***

 

いつも通りに屋上で昨晩の残り物を詰めただけの弁当を平らげ、適当に授業をやり過ごしていると放課後になった。

オレは帰宅のための支度を手早く済ますと、そのまま教室をでる。

二階から三階へと昇り、鷹取のいるクラスまで歩いて行く。

途中すれ違う生徒たちは誰も彼もが二年生だ……当たり前だが。

 

鷹取のクラスの教室から中を窺ってみると、鷹取はスクールバックを手に持ちながら仲の良い生徒の何人かと談笑してるようだった。
クラスメイトの内の一人が自分の事に気がついたのか鷹取に仕切りに話しかけている。

何を話しているのかは分からないが、頬を赤く染めて否定している様だ。

 

最後にほんっとうに違うから!と言いながら鷹取がこっちまで駆けてくる。

 

「せ、先輩、お待たせっす」

「友達とはよかったの?」

「良いんすよぉ……ほら、気にせず早く帰りましょう!」

そう言って鷹取は一足先に教室を出て行ってしまう。

鷹取を追いかけたが、教室内から感じる視線がチクチクと背中を刺激した気がした。

二人で下駄箱のある一階まで降り、しばらく歩いたところで鷹取がくるりとこちらに顔を向けながら後ろ向きに歩き出す。

 

「そんな歩き方していると危ないぞ」

「大丈夫っすよ〜、そんな小学生じゃないんすから」

 

鷹取なら転びそうという偏見から心配したのだが、この分なら大丈夫そうだ。

そう思っていると、廊下の反対側から小柄な女子生徒らしき人影が走ってくる。

遠目で見る限り、髪は短く利発的な雰囲気を感じ取れる……そして勢いは止まらぬまま、距離はどんどんと近づいて来ていた。

 

「鷹取……後ろに」

「あー!そうっすよ先輩!お昼どこにいたんすか!?」

 

あー!じゃないよ鷹取!後ろに来てるから!

そう声に出そうとした時にはすでに遅く、走ってきた少女と鷹取がぶつかり、案の定ぶつかられた方はこちらに倒れ込んでくる。

 

「危ない……っと」

抱き抱える様にしてだが、なんとか鷹取が転ぶことを防ぐ。

だが、その際に思いきり抱きつかれてしまい図らずとも柔肌を意識してしまう。

 

「あ…その……ありがとうっす」

恥ずかしさで顔を真っ赤にした鷹取は、小さな声でそう言った。

 

「気にするな……」

そう言ったものの、いまだに抱きしめた時に感じた胸の感触が忘れられないでいた。

……そう、ハッキリと頭の中に残るほどに。

 

そんなオレの思想とは裏腹に、鷹取はぶつかってきた生徒を睨みつけた。

 

「ちょっと人にぶつかってくるなんて常識なってないんじゃないっすか?」

「ごめん舞花!急いでたんだ……」

手を顔の前で合わせて謝罪している……口ぶりからするに、鷹取の知り合いみたいだな。

それを受けた鷹取は大きくため息をついたあと、次から気を付けてよね…と言って許した様だった。

 

「了解……ちょーっとばかし急ぎの用事があるから!また明日」

そう言って慌てて靴を履き替えて走り出してしまった。

やたら元気な子だったけど、これからがそれなりに心配になった。

 

「さっきのは一年の天童悠希って子……なんすけど、多分あの様子だと好きなアニメとかの為に走ってたんじゃないっすかね」

「それはかなりアクの強い子だ……」

「ま、さっきはあんな感じでしたけど、普段はいいやつなんすよ」

そんな感じで流され、オレと鷹取はそれぞれ靴を履き替えて校舎から出る。

 

「んー!十月になったからか涼しいっすね」

「屋上で寝るには最適な気候だな」

「先輩はそう言ってどんな季節にも屋上にいるんじゃないっすか?」

「そんな事ない、梅雨は例外」

 

それほとんど一年中っすよね…そうあきれるように言いながら、鷹取はカバンを肩にかけ直した。

澄み渡った青空を見上げて、わずかに微笑んで鷹取は言葉を紡ぐ。

 

「先輩、明日のお昼は一緒に食べましょう」

 

その表情がいつも見ているものよりも何だか儚げに、少しだけ大人びて見えてしまい、オレは誤魔化すそうに鷹取の頭を撫でた。

 

「分かった、なら屋上で集合……な」

「お昼に行くっすからね」

「それなら朝から屋上で待機してる」

「それって授業サボってるじゃないっすか!」

 

それに頭撫でるのやめてください!そんなツッコミを入れられつつ、鷹取の家に着くまで何気ないやりとりを繰り返した。

 

授業中に鷹取に向けて自分が何を出来るだろうか考えたものだが、それはもう気にならなくなっていた。

 

オレに出来ることをやろう……そんなに大それた事じゃなくていい、今みたいに鷹取と話していることがオレのしてあげる事だからだ。

 

「なあ、鷹取」

「……なんすか?」

「オレといて楽しいか?」

「そりゃもちろんすよ!先輩!」

 

可愛い後輩がいつまでも元気でありますように。そんな……自分らしくないことを願いながら、なら良かったと返した。

 




まほろ「そんなわけで次回は……」

千紗「ちょっと待って、なにこれ?舞花って三年だったわよね?」

まほろ「それは別の世界線だからいいの」

千紗「世界線!?というか舞花、普通に家に帰ってたみたいだし、声優でもないってこと?」

まほろ「そういう事、前日譚ってわけでもないから」

千紗「へ、へぇ……ところで、なんで私たちがここにいるの?世界線が違うなら出番は無いじゃない」

まほろ「あーそれはタイトルが【オクジョウ・インタラクト】でしょ?だから、まほろたちのリンクボーナス繋がりでってわけ」

千紗「リンクボーナスの屋上の住人……って、ただのこじつけじゃない!」

まほろ「まあ、今回含めて12回しかないんだし、しようよ。仕事」

千紗「まだそんなにあるの!?」

まほろ「次回、オクジョウ・インタラクト -2- みんなもお楽しみに」

千紗「誰に話しかけてるのよ……はぁ、先が思いやられる」
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