……マジだよ
オレの朝は早い。
両親がいた頃。夜になるとテレビドラマが付いていて、そこには、家計が苦しく、早朝から新聞配達をしていた高校生がいた。
その時はこんな生活があるなんて夢にも思わなかった。でも……今の現状はそれに近い。
「これで最後……っと」
朝刊を配り終え、バイト先に向かう。休憩室に入ると、オレは鷹取に渡すはずだった紙袋を手に持った。いつもならここで登校する時間になるまでは寝ているか勉強しているか……だけど、最近は違っている。
「おっ、今日もお疲れ様。ここ1週間くらい浮かれない顔だねえ……ん?その袋はちょっと早めのサンタさんのつもりかい?」
口がよく回るオッサンが薄くなった頭皮を光らせながら話しかけてくる。……まあ、働いている新聞社の所長だから言い方は酷いと思うが。
かなり偉いはずなのだが、頻繁にオレの面倒を見てる……が、妙に人懐っこくて嫌いになれない。
「まだ11月ですよ。それとこれは……ただのプレゼントです」
オッサンには恋人へのプレゼントしか見えないがなぁ〜。そう言い残して部屋から出ていった。
「……話しかけにくるなら雑用くらい頼めば良いのに」
六石陽菜の家庭教師をしていて、その場で鷹取と鉢合わせてしまってから1週間。お互いに距離感がバグっていて……そう、オレ達は言葉を交わすことは無くなっていた。
「やっぱり謝らなきゃな……」
新聞社から家に帰ると制服と鞄、それに大事に持ち歩いていたシュシュの入った紙袋を持つ。良い加減にコミュニケーションをしないと……先輩としても立つ瀬が無くなる。
「鷹取は絶対怒ってるだろうな……」
今日もそんなことを考えながら歩き出し、学校が見えてきたタイミングで……彼女は立っていた。
黒髪を寒風に靡かせながら、腕につけた黄色いリボンを執拗に弄っている。その瞳は意志の強さを表すように澄んだ青色で、どこか翳りのある表情がその美しさを引き立たせていた。
「……えなにこの美少女」
間違いなくウチの制服を着ている。神瑞学園高校は特徴的な制服だし、下手なコスプレじゃ無いはずだ。清楚系で黒髪ロング……そう、オレの好みを弾丸に詰め込んでぶち抜かれた気分だった。もちろん、その場から一歩も動けなくなる。
「……あ」
こちらに気が付いた美少女はニッコリと笑うとオレに声をかけてきた。
先ほどでの雰囲気を壊しながらドタバタと乱雑とも言えるステップで走ってきて叫んだ。
そこには美少女の姿はなく、ここ最近の悩みの種でいるアイツが……。
「先輩じゃないっすか〜!最近は屋上にも居ないから、心配して……あれ?」
なんで泣いてるんすか。そう言われて初めて自分の両眼から涙が流れていたことに気がつく。
「泣いてなんかない……うぅ……お前可愛すぎるんだよ!」
「はっ? いや、ちょっと……えぇ!?」
それから10分ほど、神瑞学園高校の前で泣き崩れる高校生(オレ)とそれを介抱する謎の美少女高校生(鷹取舞花)という謎な絵面が完成していた。
「もうこの時期の屋上は寒い……っすね」
「鷹取、お前今語尾を付け忘れてただろ」
「は?そんなことないしー!号泣してた先輩よりマシです〜」
屋上に移動した後、オレたちは1週間前の雰囲気に戻って話せていた。髪を下ろした姿は可愛かったけれど、鷹取だと分かれば正常心を保てる……はず。
「……鷹取、ごめん」
「あの子。六石陽菜ちゃんっていうんすね」
どうやら事情を直接問い詰めたらしい。
陽菜自身はかなり戸惑っていたらしいが、親御さんの説明もあり……なんとか鷹取が納得した。というのが流れだそうだ。
「あの時、渡せなかったプレゼント……これ」
紙袋に入ったシュシュを渡す。上手いことも言えずに手渡したことで鷹取は袋を開け出す。
「開けてもいいっすか⁉︎」
「いいよ」
「わーい!なーにっかな〜……ん?シュシュ」
鷹取が元々付けていた黄色のリボン……のイメージで同じ色のシュシュにしたのだが。もしかしてゲームソフトの方が良かったか……?
「き、気に入らなかったか?」
「可愛い〜!いやー、朝に付けていたリボンが解けちゃって困ってたんすよ」
「お、おう」
目を輝かせた後に、鷹取はゆっくりと束ね始める。長く艶やかな左手でまとめ上げてから、シュシュを通す。
いつものポニーテール姿に戻る……いや、見慣れた鷹取に落ち着いてくれる。
「……先輩、ドキッとしました?」
「そんなわけ……んー、ちょっとだけ」
「へ?」
「ちょっとだけだからな」
「あー、あはは……」
顔を赤くして一歩前に進む……が、よろけて倒れかける。それを見て慌てて手を差し伸べる。
バランスは完全に崩れ、彼女を受け止める為に身を乗り出す……これがダメだった。
伸ばした手が……鷹取の胸をガッチリホールドした。体を受け止めた事で柔らかすぎる感触を前に呟いてしまった。
「……意外と大きいな」
「なんなんすか!受け止めてくれたのは嬉しかったっすけど……む、胸を揉んでおきながら意外と大きいって!そりゃありますよ!自分のことをなんて目で見てたんすか!もう!もう!うわああ!!」
そこから大変だった。
……授業が始まってもしばらくは鷹取が暴れ、オレが謝り続けることになった。
完全にオレが悪いが、そこまで暴れることはないだろうに……流石に手を噛まれると痛い。
「……今度、マック奢りっすからね」
「へいへい」
なんだかんだで、オレ達は元の先輩と後輩の関係に戻れたのだった。
……なんか失ったものも多かった気がするけど。
まほろ「胸を触るなんてサイテー」
千紗「しかもこれガッツリだし……はぁ」
まほろ「まほろ、ここでこうして話すのも久しぶりな気がする」
千紗「そうかしら?」
まほろ「……ってちょっと!予告予告!」
千紗「次回、ウタタネ・ステップ -2-」
まほろ「ちょっと楽しくなってない?」
千紗「気のせいよ……」