分かりましたって……ところで、AiRBLUEってなんて読むと思います?
昨日は鷹取に迷惑をかけたので、そのお礼に休日に会うことになった。そもそも、オレが校門の前で後輩女子に慰めて貰っていた構図がおかしいという野暮なツッコミはナシだ。
「思った以上に時間かかったな……。えーっと、鷹取は……」
待ち合わせ場所は神瑞駅近くのマクドナルドのはずだが、先に店内に入っているのかもしれない。そう思いウインドウ越しに店内を探すと……見つけた。鷹取は景色の見えるカウンター席の更に隅に座っていた。
話しかけようとしても、どこか大人びた雰囲気の後輩に思わずたじろいでしまった。
「……あ、いたいた」
髪を下ろし、物憂げな顔でポテトを咥えている。青色を基調とした私服は想像よりも似合っていて、目立つようなオレンジのヘッドホンをかけているのもあるだろう。目を離すことが出来ず、数十秒の時間が流れる。俺は鷹取舞花に見惚れてしまった。
「だいぶ、退屈そう……。待たせすぎたかな」
なんとか言葉を捻り出して、オレは歩き出す。鷹取がオレに対して『好意を抱いている訳がないという思い込み』をしておく。
「よっ、後輩」
「先輩〜!遅いじゃないっすか」
「……すまん。いやそもそも、マクドを奢るって約束したか?」
「言った!言いました〜!昨日約束しましたもん」
声のトーンが自然と大きくなったのを察したのか、鷹取は慌ててボリュームを抑える。そんな気遣いできたのか……と感心していたが、すぐに調子に乗り始めた。
「で、先輩は……この!鷹取舞花様に何を買ってくれるんすか」
「物も買わないから。それに様付けもしねーよ」
「マックも自分で買っちゃったしなぁ……それなら買い物に付き合って欲しいっす」
鷹取は席から立つと、テキパキとゴミを分別して捨て始めた。こういうところは素直に尊敬できるけど……ま、買い物くらいならいいか。付き合うって意味もわかってなさそうだしな。
「いくらでも付き合う。鷹取がどんな時でもそばに居るからな」
「へっ……あ、ななな何を言ってるんすか⁉︎」
たちまち鷹取は身を固くする。さっきまでは抑えられていた声よりもボリュームが大きくなっていた。
「……マクドから出ようぜ」
「先輩はいつもそうやってからかうんすね」
それに、マクドじゃなくて……マックっすよ。そんな小言にオレは思わず眉を顰めた。オレと鷹取は二人仲良く店を出ることにした。
「え?お前、鷹取……マクドナルドの略称はマクドだろ」
「何言ってるんすか、マックの方がカッコいい!」
「関西と関東で言い方が違うとらしいが、まさかマック派だったとはな」
「どっちがマイナーか決めるっすか?いまここで!」
オレたちの陳腐な言い争いが始まっていた……しかも歩きながら、だ。東京の人混みを避けるようにして移動する姿は滑稽かもしれない。言い争いが落ち着いたのは、お互いに疲弊が溜まったからだった。
「はぁはぁ……オーケー休戦だ。オレが折れる」
「じゃあここはマクドナルド統一ってことで……文句ないっすよね?」
「はい……」
……ん?そういや、見慣れない物を身に着けてるな。
「鷹取、気になってたんだが音楽は何聴いてるんだ?」
ヘッドホンから微かに流れてくる曲調に聞き覚えがあった気がする。
「実は最近、エアブルー?ってチームの楽曲が熱くって……」
接続されていたスマホの画面を見ると『AiRBLUE』という声優アイドルユニット(ってなんだ?)らしい。うーん……これ、読み方は空気と青色ってよりは……応援とか声援の意味な気がするな。
「鷹取、これ
「マジっすか……」
「多分な。オレはこの手のアーティストは詳しくはないが、声優なら
「へえ!先輩は博識っすね!それなら……このCD今から買いにいきましょうよ!」
そう言うや否や、オレの硬い左手を鷹取の柔らかい右手が掴み取った。止まることなく……そのままの勢いで二人で走り出した。賑やかな街並みとは対照的に、鷹取の右手に括られた黄色のシュシュは質素に感じる。それでも、この愛おしい後輩は喜んでくれたし、このままの現状維持で良いかもしれない。
「先輩の奢りっすからね!エールブルーさんの新作が出てるみたいっすから」
「この時代にCDかよ……ま、オレも聴きたいから半分なら出してやるよ」
「えー!先輩のケチ〜」
二人でCDを買って聞いてみたら、鷹取と同姓同名で声も似ている人物がいた。でも声優になった鷹取の姿は想像が付かなくて、オレの中で気のせいという理由を付けた。
まほろ「世界線が違うって……別人ってことかな」
千紗「手を繋いで二人きりで買い物……あ、マネージャーに連絡しないとかしら」
まほろ「……まほろが悪かったけど、予告する気あるの?千紗は」
千紗「もしもし?って繋がらないのね」
まほろ「はぁ。次回、アオゾラ・フェスティバル」
千紗「先輩と後輩、二人の関係性が変化する文化祭……」
まほろ「はい!ネタバレ厳禁ね」