アークナイツ.Sidestorys Day After Day 作:Thousand.Rex
『リスカムさんって、ストレイドさんと恋人なの?』
ロドスの職員の方にそう言われたことがある
もちろん否定で返した、己はあのろくでなしの番いなどではない
『じゃあどんな関係なんですか?』
だがそうしたら、そんな返しをされてしまった
どんな関係、正直言うだけなら案外簡単なのだ
昔の先輩で散々な目にあわされた、これにつきる
しかし
『それにしては…… 随分と仲がいいな』
どうやら勘繰られているらしい
だが掘ったところで掘り出せるモノは何もない、埋蔵金探し張りに発掘物が存在しないのが彼と私の関係だ
『でもでも、ストレイドさんの傍にいる人ってリスカムさんしか見たことないんですよ!』
彼女の言いたいことはわかる、確かに彼は基本一人で居る
応接室を占拠してぐうたらして来客でもなければ彼はずっとソファに寝っぱなし
時折リンクスやフランカが訪れるだけで他の人物との付き合いはほとんどない、せいぜいドクターやアーミヤと応接室の取り扱いに関して口論しているぐらいだろう
『……ど~して~、あの変態の普段の生活の様子を~、そこまで細かく知ってるの~?』
……それは、まあ
『『『それは?』』』
その、なんというか
『『『なんというか?』』』
……なんというか
…………………………
「おい、紙落ちたぞ」
「あ、すいません」
こういうわけで
場所はいつもの応接室、本来なら使用予定のないある日の事
私はなんとなく、いくつかの書類仕事を集めて彼のもとに訪れていた
「ほう、金ヴルちゃんの身体測定か。さてさて~お胸はどれだけ大きくなったかなーと……」
「個人情報です、返しなさい」
「へいへい、お堅いねぇ」
別にどうという事はない、いつもの事だ
「お、身長は変わらんがチョイと体重が増えてるな……、別に腹が出てるわけでもない。筋肉が増えた証拠だな」
「本人、太ったって気にしていたので触れないように」
「いいじゃないか、成長期の証拠だぞ。増やせる数字は増やせる時に、前に教えたろ」
「確かに教わりましたが……」
「まあお前の場合身長は伸びなかったが」
「黙りなさい」
うん、これはいつも通りの会話だ
昔と何も変わらぬ、減らず口の叩き合い
この風景に色恋沙汰を感じる者は極少数だろう、フランカ達もそういうことは言わないし自身も彼に恋慕を抱いているとは思わない
やはり若者が集まっている都合上、ロドス職員はその手の話は気になるのだろう
あれだ、お年頃と言う奴だ
「なんだ、気にしてたか」
「あなたにはわかりませんよ、陰でチビチビ言われる者の辛さは」
「ああ、そういや俺も最初はチビだと思ったな。身長は第一印象の一つになる、お前らみたいな役職なら更に重要だ。主に頼れるかどうかの指標にな」
「むぅ……」
「だが安心しろ、出るとこは出たじゃないか」
「……どこの事を言ってるんです」
「揉みごたえのなさそうだった部位の事を言っている」
「この変態紳士」
「おっと、その名は返上したぜ」
尚、目の前にいる男は返せと言った書類をひらひら弄びながら眺め続けている。バニラの身体数値は彼に筒抜けになってしまった
「ほら、いい加減にこちらに渡してください。社内機密の漏洩で罰せられかねません」
「そうかい、相変わらずなスタンスで結構結構。だからこんな紙切れにいつまでも頼ってるのか」
「紙切れではありません、これは事務書類です」
「ハッ、事務なんかパソコンなりなんなりの機械でもできるだろうに」
「何かの拍子にバチっていったらどうするんです」
「そんな事起こるわけないだろ、基本的にケーブルへの耐電処理をされてる前提が今日のパソコン……おい、お前まさか……」
「バ、バチっていったら、どうするんです」
「……やったか」
「…………バチって、言って、ウンともスンとも、言わなくなって……」
「まあ、機械本体への強化は難しいからな。そもそも耐電処理なんて気休めだ、事故は起こるさ、うん」
そんな風に無駄口を叩きながら作業を進めていく
そして、数刻経過した頃合だろうか
「……む」
時折適当に話しながら横になっていた彼が上体だけ起こして応接室の扉に目を向けた
「どうしたんです?」
何かを探るように見つめる視線が気になり聞いてみる、すると彼は口元に人差し指を立ててみせてくる
これは、静かにしろという事だろう
意図はわからないが言われた通りに黙ってみる、すると
『……何も、聞こえませんね』
『おかしいわね、今日は確実に何かしらのアクションが起きてると思ったんだけど』
『私もそう思っていましたけど……先輩、いないんですかね?』
『いない筈はないわ、ストレイドが来てる日は絶対にここにいる』
「……フランカ?」
「と、クッキーモンスターだ」
聞き覚えのある声が聞こえてきた、フランカとジェシカの声だ
先程の会話から察するにこちらの様子を探りに来たらしい、ドア越しに聞き耳を立てているのだろう
「何を企んでいるんでしょうか」
「さあ、言い当てるには情報が足りんなぁ」
あちらに聞こえぬように小さめの声で相談してみる
フランカ達はこちらが気づいていることに気づかずに小声で話している
『フランカ先輩、そもそもどうして私達は隠れてるんですか?』
『決まってるでしょ? 面白イベントを見逃さない為よ』
「「面白イベント?」」
フランカの一言に二人そろって首をかしげる、はて何かあっただろうか
彼の方を向いてみる、肩をすくめ心当たりはないと伝えてくる
私にもこれといって思い当たる節はない
「なんだなんだ、お前なにかやったのか」
「していませんよ。そういうあなたこそ何かしたのでは」
「ん~…… 最近だと、あのモデルの嬢ちゃんと一本交わしたぐらいかね」
「一本?」
「おうさ、あれだけの使い手は中々いないぞ。ついでに眼福だった」
「…………」
「おいおい、まぐわいに至ったわけじゃないぞ。ゴミを見るような視線を向けるな」
モデル、といえば恐らくはエフイーターの事だろう
確か彼女は彼と同じ類の拳法を使ったはず、であれば手合わせしたという事か。そういえば騒々しい日がこの前あった
トトカルチョで大儲けできたとクロージャが喜んでいた、どちらが勝ったのだろうか? 少し気になる、聞いたところで有耶無耶にされそうだが
『あっ、声がしました』
『じゃあやっぱりいるのね。嫌に静かだったのは勘付かれたってところかしら。どうせストレイドね、勘のイイ男は大嫌いよ』
「鈍い方がお好きらしいな」
「苛めやすいからでしょうね」
するとフランカ達がこちらの存在に気づく、流石にここまで喋っていれば聞こえるだろう。さてどう動いてくるか
『仕方ない、こうなったら
『プ、プランT? 初耳ですけど……』
『心配ないわ、いたって簡単よ』
バァン!!
「突撃ィィィッ!!!」
「ええぇぇ!?」
「突撃のTだったかー」
「安直ですね」
「やかましい!」
ドアを蹴破り入ってきたテンション高めのフランカ、その後に続いて入ってくるジェシカ
チラチラとこちらの顔を見ているのは気のせいじゃないだろう、私に何か用…… と言うよりは私が関係しているのか
とりあえず出方をうかがってみる、意気込んで入ってきたのだ、何もアクションを起こさないでいるとは考えられない
予想通りにフランカが何事かを言い出した
「おはよう二人共! さて今日は一体何の日だったかしら?」
「「……今日?」」
今日、5月18日、何か大事な日だったろうか
「わかったぜ、子日と見せかけて仏滅ってパターンだ」
「大安です」
「マジか」
いつかしたような気がするやりとりをする、あの時は艦内放送で言っていた。今思えばあれが私達が親しいと思われた要因の一つだ
碌に知らない男の声が流れた時はさぞ驚いたことだろう、それに対して馴れた調子で返す知り合いの声にも
いや、今はそんな事はどうでもいい。まずはフランカが言わんとしていることについて考えよう
だがこれといって心当たりは浮かばない、今日の日付で何があっただろうか。少なくともフランカとジェシカがいそいそとやってくるような日だ。
「ほら、思い出して! ていうかリスカム、あなたはわかるでしょ?」
「え、私ですか?」
「はい、リスカム先輩に関係してるんですよ?」
「お、やっぱり何かしでかしたか」
何も思い当っていないこちらを信じられない物を見るような目で見るフランカ
おどおどしながら様子を見てくるジェシカ
楽しそうにニヤつきながら見てくる男
ふむ、まったく遺憾である。なんだか一方的に責められている気がする
というかもしや彼は気づいているのではなかろうか、フランカ達が訪問してきた理由に
表情を見てみる、憎たらしい顔でこちらの顔を眺めてきている
これは知っているのだ、それで困惑する様を見て楽しんでいる。嫌らしい男だ、本当に嫌らしい
しかし不満ばかりを募らせていては話は進まない
とりあえずフランカの方を見て答えを促してみる
それを察してくれたのか、軽くため息を吐きながら教えてくれる
「……あなた、真面目なのはいいけれどもう少し自分の事も気にしなさいよ」
「?、体調管理なら気を付けていますが」
「そうじゃない、そうじゃないのよ。いい、リスカム。今日は、あ・な・た・の、誕生日なの」
「……それが、何か?」
「お祝い、するでしょう? 誕生日なら」
「そうですね、最近だとジェシカとバニラの誕生日を祝った記憶があります」
「そうね、なら流れ的にどうなるか予想もついたでしょう?」
むっつり顔を近づけて指を突きつけてくるフランカ
別に忘れていたわけではないのだ、今日は私の誕生日
だが正直、それがひと際特別な事かと言えばそうではない。大切な日ではあるのだがわざわざ人を集めて言いふらしたり祝ってくれと強制するようなことではないと思う
それにこういう日は友人がささやかに祝ってくれればいい、私としてはそれが良い
言っていいならこうして自分の生誕日を忘れずにいてくれる友人がいる、それだけで結構十分なのだが
そんな自信の持論を心の中で呟いておく、口頭で伝えたら茶化されそうだ
「まあ気持ちだけで今は十分です」
「ハァ~…… これだから真面目ちゃんは」
「先輩らしいといえばらしいですね」
こちらの反応に大袈裟に息を吐かれる、別にいい、別にいいのだ
どうせ彼女たちの事、プレゼントなりケーキなり、後で自室にぶち込んでくるに違いない
そのまま適当に話を終えようとしてとあることに気づく
「そういえば、面白イベントとか言っていましたね」
フランカは何かを見るためにここに来た風な口ぶりだった。まるで何か彼女を満足させるような何かが起こるような事を
「ええ、言ったわね」
答えるフランカの表情は随分ニコニコしている、一体何を楽しみに来たのか
ソファで寝っ転がっている男を見てみる、俺は関係ないというようにのんびり寛いでいる
「フッフッフッ、私の目はごまかせないのよストレイド」
そこで彼女が動き出す、ウキウキを隠さない笑みを今度は彼に向ける
「誤魔化すって何をだ」
「決まっているでしょう? 私は知っているわよ、あなたがリスカム用にプレゼントを用意していることを!」
高らかにそう宣言する、その姿は自信に満ちている。どうやら確信しているらしい
だが……
「……プレゼント、ですか」
「そう! どうせ用意してるんでしょ~? あなたは昔から年下には甘いからね~。あるんでしょ、渡すつもりだったんでしょ?」
「面倒なテンションだなー……」
プレゼント。ふむ、プレゼント
この男から、プレゼント
「フランカ、大丈夫ですか?」
「へ、何が?」
「いえ、頭でも打ったのかと。この男が私に贈り物を用意するだなんて妄想に駆られるとは…… 余程打ち所が悪かったのでしょうね、可哀想に」
「あなた、どれだけ彼を信用してないの……」
「大丈夫です、今すぐにケルシーさんを呼んできます。あの人は名医です、きっと何とかしてくれます」
割と本気で心配する、この男が私に物を贈るなどありえない。なのにそんな幻想を見てしまうとは…… きっと不幸な目にあったのだろう
だが幸いにもここは製薬会社ロドス・アイランド、彼女の身から病魔を取り除いてくれるに違いない
まあ冗談はここらあたりにしておこう、とりあえずはその馬鹿げた期待に終止符を打ってあげなければいけない
「フランカ、いいですか? よく聞いてください」
諭すように問いかける、フランカは若干不機嫌な顔で静かに聞いてくれる
「まずこの男が私へ贈り物を用意しているという考えに至った理由は聞きません」
「いや、至るも何も用意してると思うのが自然でしょう」
「ふむ、そうですね、まずはそこからいきましょうか。何故、用意されていることが当然だと思ったのですか」
そう聞くとフランカは少し唸り答えてくる
「ほら、この前にリンクス用にプレゼントを用意してたでしょう?」
「そうですね、あの碧い短剣。正直彼女には不要かと思いますが贈っていました」
「で、ジェシカが続けてプレゼント貰ったでしょ?」
「え、貰ったんですか?」
「あ、はい、頂きました」
初耳だった、まさかジェシカにまでプレゼントしているとは
あの男、随分気前のいいことをする。あれか、猫耳の女の子が好きなのか、変態め
「な、なんだ、寒気がした」
「気のせいです」
こちらの悪態に地味に反応する男、変態紳士という名前は存外心に響いているらしい
さて思考を戻そう、どうやらジェシカとリンクスが続けて貰っていたらしい。確かにこの二人は誕生日がそこそこ近い、ついでに用意したという可能性で考えれば用意してもおかしくはない
ただ気になるのは、私の記憶の限りは彼女は何も貰っていないはず
「ちなみにバニラは」
「なーんも渡してない」
そう、バニラは
「そういえばそうね、どうして渡さなかったの?」
バニラも他の二人と日にちは近い、なのに貰っていない
「いやな、何を渡したらいいか思いつかなかった」
「あらそう、意外ね。いつも不気味なほど人の心を読むくせして」
「読んじゃいねえよ、予想してるだけだ」
「それを読心と言うのよ」
それはつまり日にちが近いから、ついでだからで用意したわけではないという事
「そういやジェシカ、アレは使ってみたのか?」
「……撃てませんでした。私のアーツ適正じゃあの細かいギミックは作動できません」
「ま、連射式だからな。おとなしく火薬に変えるこった」
「ちなみに渡された銃ってなんなの?」
「カメレオンです!」
「カメ…… え、銃よね?」
「銃だぞ、ヴェクターモデルの光学迷彩搭載の珍銃だ。ちなみに銃身がカラフルに変色するだけの機能で実用性はない」
「ですが、浪漫はあります」
「よく言ったジェシカ」
「銃馬鹿共、その熱意は別の事に回せないの?」
この男は基本正当な理由がなければ行事に参加したがらない、昔、まだBSWにいた頃、頑なに定例会議に出なかった記憶がある
後進の育成状況や部隊の訓練日程、派遣期間の調整などの書類整理だなんだかが面倒だと言って逃げていた
面倒だからで逃げるとは上司の風上にも置けない、その割には重要書類の提出期間は守っていたが
「丁度いいから聞くんだが…… 金ヴルちゃんの趣味嗜好を教えてくれないか」
「どすぐろちゃん」
「ん?」
「ツヨシ」
「は?」
「マルコくんです」
「…………」
「トゲオ」
「……お前達は一体何を言っているんだ」
要するに何が言いたいかと言うと、この男は必要がない以上、絶対に、確実に、確定的に
私に、プレゼントを用意しないという事
尚、件の馬鹿は二人から端末の画面を見せられて困惑している
「……フランカ、別に説教をするつもりはありません」
「へ? あ、ああ、ごめんなさい、話の途中だって忘れてたわ。だけどいきなりどうして説教?」
「あのですね、この男が優しくする相手はこいつの好みの女性だけです」
「随分と手が広いわね、ストレイド。あなた、ロドス中の女の子を食うつもり?」
「悪いな、俺はジゴロじゃない。俺が食うのは食われることを良しとする優しい子だけさ」
「そんな甘い子、ここにはいないわよ」
「悲しいねぇ」
「話を逸らさない」
正直、この二人が揃ってしまうと私一人では抑えられない、どうして私の相棒は私個人と相性が悪い人しかいないのか
もういい、このまま間違いを正そうとしたところで彼女相手では意味はないだろう
期待させるだけさせておく、裏切られたところで私の良心が痛むわけではないのだ
溜息を吐き話は終わりだと意思表示する、それを見たフランカは部屋に入ってきた時のようにニコニコ顔に戻り尻尾をパタパタ振り始める、どれだけ楽しみにしてるのか
そして、当の本人であるクソ野郎は
「……さて、と」
ゆっくりと、ソファから立ち上がった
「お、お?」
なんだか、嫌な予感がする
「こら、別にこいつに渡すようなモノはねえよ」
「え~~~~~~~? な~んでよ~~……」
立ち上がった彼は特別何かを取り出すわけでもなく歩き出す
「あれ、お出かけですか?」
何故か、扉の方に
「ああ、そんなところだ」
「珍しい、いつもこの部屋から外にいかないのに」
「そうですよね、普段はここにいて、ずっと横になってるのに」
珍しい、その言葉が脳内で無駄に強調される
何か、こう…… 酷く悪い予感がする
その予感を払拭したいがために聞いてみる
「……どこに、行く気で?」
聞かれた彼は、不敵な笑みを浮かべて言った
「何、探検さ」
…………うん
「フランカ、すいませんが私は急用が出来ました」
「うん? あらそう」
「申し訳ございませんがこの書類を代わりにお願いします」
「へ、いや流石にこれはちょっと……」
「ありがとうございます、では失礼」
「待って、引き受けるとは一言も――」
「あ、終わったら私の部屋に置いといて……ッ! 待ちなさい!」
「フハハハッ! さらばだー!」
半ば強引にフランカに仕事を押し付ける、一瞬彼女の顔が絶望に染まった気がするが気にしない
「リスカム先輩、どうしたんですか?」
未だに事態を飲み込めていないジェシカが聞いてくる
まあまだ付き合いの短い彼女にはわからないのだろう、あの男のあの笑みにどんな意味があるのか
「あの、余程緊急の案件なんですか?」
「そうですね、極めて重要です」
奴がああして笑う時、必ずと言っていいほど悪いことが起こる
「どういった事なのでしょうか? お手伝いできるならぜひ――」
「大丈夫、私一人で事足ります」
「……ちなみに、何をするの?」
なれば答えは一つ
「決まっているでしょう、奴の監視です」
そのまま先に出て行ってしまった男を追いかける、放っておいたら奴がロドスに訪れた初日のようなことになりかねない
そうしない為にも誰かが監視していなければ……!
「……ええ」
「行っちゃいましたね……」
「コレ、私一人でやるのぉ……?」
「て、手伝います……」
「一山私の顔の三つ分ぐらいはあるのよ?」
「……はい」
「それが、それがよ?」
「…………はい」
「五山はあるの……」
「……が、頑張りましょう!」
「い~~や~~だ~~~!!」
……………………………………
「さーて、今日はどこに行こうかなー」
「待ちなさい、ロドスの方々に迷惑をかけることは許しませんよ」
ということで始まってしまった第二回ロドスお散歩珍道中、意気揚々と歩く男の隣についていく
どうか誰にも出くわさないことを祈りたい、いや無理なのだろうが、何故なら
「……で、どこに行く予定で」
「あっちじゃー」
この男、恐らく行先はもう決めている
何故わかったか、大した理由じゃない。単純にこの男が外に出てから一度も立ち止まっていない、それだけだ。別に適当に歩いているだけかもしれないとは考えた、だが私は知っている、彼は基本無意味なことはしないと、良くも悪くもだが
前回の珍道中の事を考える、前は前でとある理由で歩きまわっていた。彼の個人的な目的の為だったが多分あの時も最初からどこに行くかは決めていたはずだ
あの時は時間の流れ方が異様だった、時間を操っているとかそういう訳ではなく、丁度歩き終わった後に好きな景色が見れるようにという感じ
思えば連日で夕方ごろに甲板に出てたのは彼が誘導していたからかもしれない
「なんだ、しかめっ面で見てくるな」
「理由などわかっているでしょうに」
どうせ気づいているくせに知らないフリをしてくる、憎らしい、殴ってみようか
「……ん、また寒気が……」
「気のせいです」
いや、やめておこう。まだ悪さをしたわけじゃない、流石にこの時点で殴ってはただ暴力を働いただけだ。諫めるための拳というにそれを抑圧に使ってはいけない
それに、もしかしたら単純に歩き回りたい気分なのかもしれない、様子を見よう
そのまま二人で一緒に歩いていく、ロドスの廊下を渡っていく
すると内装が少しづつ変わっていく、清潔さを感じさせる白を基調とした壁から、どこか機械的な内壁へと見た目が変わっていく
私の記憶が正しければここは
「……研究開発区間、ですか」
確かロドスのオペレーターのアーツユニットやロボット、ドローンなどの整備をしている区間だったはず
こんな所に何の用なのか
彼を見てみる、まるで誰かを捜すように辺りを見回している
「誰をお捜しで?」
もしかしたら知っている人かもしれない、一緒に捜そうと思い聞いてみる
「エッチなスカートの子を捜してる」
止めるのが正解かもしれない
「おっと、怒るな怒るな。わざとじゃないんだ」
「怒ります、あなたはここに何をしに来たんです」
「人捜しだ」
また何かやらかすつもりかと思い注意をする、だが何か違う
言動こそあれだったが彼はこちらに返答しながらも割と真面目に周囲を見ている、どうやら純粋に捜しているだけのようだ
そうなると先ほど言ったスカートは対象の恰好の事だろうか? しかし彼のお眼鏡にかなうスカートの持ち主がこの場所にいるとは到底思えな――
「あれ、リスカム? 珍しいわね、ここに来るなんて」
いた、ウン、いた
作業員が各々機械と向き合っている中、こちらに気づいて近づいてくる一人の人物
ロドスの科学者や技師の方が良く着ているタイプの制服に身を包むエーギルの少女
「どうも、ウィーディさん」
「こんにちは、何か御用かしら」
ロドスのオペレーターであり最先端のバイオテクノロジーの専門家であるウィーディだ
「よう、調子はどうだいお嬢ちゃん」
「そうね、あなたがいなければ気分は爽快だったわ」
彼女を見るなり挨拶をする彼、それに少しきつい口調で返すウィーディ、彼の捜し人は彼女だろう
なんとなく彼女の服を注視する
「それで、お二人は何しに来たの」
まあ、その、中々特徴的なスカートではある、これに近い物を着ているのはケルシー医師ぐらいだろうか
「なんだ、忘れたか? 前に言ったろ、今日寄っていくって」
「ああ、そう言えば今日だったわね」
しかしこのスカート、中身が見えたりしないのだろうか。透明な素材の生地でギリギリのラインまで透過させてるせいで健康的な太ももが半分以上見えている。あともう少しずれたら布地が見えてしまう
「忙しいなら後にするが」
「大丈夫よ、逆に時間に余裕があるかはこっちが聞くわ。私の講義は長いわよ?」
「いいさ、聞くのは俺じゃない」
「そ、でも同席はするんでしょ?」
しかもこれ、ロドス公認のデザインだったはず、どうしてこれをオーケーしたのか
周りの視線は気にならないのだろうか、階段とか。彼女は潔癖症だったはず、舐め回されるような視線も嫌うタイプだろうに。だけどそんな彼女が着ていることを考えるともしかしたら割と優秀な機能がついてるのかもしれない。抗菌機能付きとかそんな感じの
「で、もう始めるの?」
「おうさ、おい、リスカム」
「ん、あ、はい、なんでしょうか」
しまった、物思いにふけっていたせいで何も聞いてなかった
とりあえず生返事で返す、内容は今から聞けばいいか
声をかけられ彼の顔を見る、すると彼は軽く笑いながらウィーディを指さす
「?、ウィーディさんがどうかしましたか」
はて、何かあるだろうか。今度は彼女の方を向いてみる。そこには両手を腰につけ仁王立ちをしているウィーディがいた
「さーてリスカム、話は聞かせてもらったわ」
「えっと、何の話ですか?」
「あ、説明はしないって言ってたわね、唐突に初めていいって」
「ああ、こいつに理解させる間もなくやってくれ」
「何をです」
「オッケー、それじゃリスカム、改めて始めるわよ」
「だから何を――」
一体何が始まるのかと言おうとする、だがそれを遮るように彼女が宣言した
「チキチキ! ウィーディさんのアーツ工学教室ー!!」
「イエーイ」
「……い、いえーい?」
そう宣言した
「てことでこっちに来てー、あっちに空きスペースがあるから」
「あの、話が見えないんですが」
「まあまあ、いいだろ、お前勉強とか好きだろ」
「嫌いではないですが好きという訳でも」
「四の五の言ってないで早く来て、グダればグダるだけ時間の損よ」
何も理解できないまま何かが始まってしまった
……………………………
「リスカム先輩はいるかー!!」
「かー!!」
「……イナイワヨ」
「あ、いないんですか? せっかくプレゼント持ってきたのに」
「いないね、ストレイドさんとどっか行っちゃったの」
「ストレイドとー?」
「うん、なんだか散歩って言って行っちゃったの」
「むー…… 美味しいお菓子持ってきたのに」
「先輩、いつもいつもストレイドさんにくっ付いてますね。いったい何が楽しいんでしょうか」
「バニラ―、ストレイドは楽しいよー?」
「リンクスちゃん、それだとストレイドさんが楽しいってことになっちゃうよ?」
「え、違うの?」
「……り、リンクスちゃんの中で間違ってないなら、いいかな」
「ジェシカ先輩、何故諦めたんです……」
「いや、本人にとって正しいならって思って……」
「イインジャナイカシラ」
「ですけど、流石に誕生日の日までずっと一緒ってのは違うと思いますがねー。あ、そうだ。ストレイドさん、リスカム先輩に何か渡してました?」
「ううん、何も渡してないよ」
「あ、じゃあこれから渡すのかな?」
「んー? ストレイドはリスカムに渡す物はないって言ってたよ?」
「じゃあ、バニラちゃんの時みたいに何もなしって感じなのかな……?」
「ソウナンジャナイ」
「え~? 薄情な人だなー……」
「あ、だけどね、サプライズは用意してたはず」
「「サプライズ?」」
………………………………
「……ふむ、アーツユニットの小型化と、それを利用した武器への内臓。さらにはカートリッジ式による長期戦への対応と汎用性の拡張……」
「また、銃器の銃弾に対しての試験的な導入。まあ大半がアーツで撃ってるんだ、ねじ込もうと思えばねじ込めるさ」
あれから数時間後
私はメモを片手に研究区画を後にしていた
「カートリッジに関してはすでに実用化の範囲に入っている。お前の盾みたいに充電式の物とかな、割と戦場で見るぞ」
「それ、どういう種類のものがありましたか」
あの後一体何があったか、説明事態は結構簡単な事が起きた
チキチキ、ウィーディさんのアーツ工学教室、これである
うん、ホントに工学教室が開かれてしまった
「そうだな、例えば剣とかだが、剣の刃自体を取り換え式にしたものとかがあった。事前に個々のアーツ特性を記憶させた機器を内蔵した刃を用意して柄だけ使い回しのヤツ」
「例えるならばどんな感じでしたか」
「銃のマガジンに近い、使い切ったら別のに切り替える。中々面倒だったぞ、対策されたなら別のアーツで攻めるって感じで向かってきた」
「ちなみに、どうやって下したので?」
「武器を撃ち落として脳天にズガン」
「あ、はい」
内容は近年の工学の進化、それとアーツの関係性
あとはそれがどれだけ民間技術に転用されているか、軍事技術から流れた物はどういった技術か、そんな感じ
中には医療に関する物もあった、主に薬物学だったがそれらが病人や怪我人にどう使われているのかなど
私が特に興味が出たのは銃弾を一つの力場と仮定して、遠隔でアーツを起動するという技術
実現すれば着弾地点から放電する、なんてことが出来るらしい
「これは中々勉強になりました」
「そうだろうな、後でフランカ達にも教えてやれよ」
「そうですね、後は本部に性能試験の打診を持ちかけてみるのはどうかの報告もできます」
「いいな、BSWは軍事介入で有名なんだ。それにかこつけて自分たちの技術力が優れていると表明するチャンスだ。乗っかる企業もいるだろう」
ウィーディの講義の感想を二人で話し合う、こうしていると昔の訓練生時代を思い出す
あの時は戦術の話ばかり聞かされた、私のようなチビにはゴリ押しは無理だと言われて攻撃を防ぐ方法ばかりやらされた
攻撃技術よりも防御技術、自分は馬鹿みたいに弾を乱射するくせして人には慎重に撃てと言う。なら己も慎重に戦ってくれればいいものを
「て、そうじゃなくてっ!」
ここでいったん会話の流れを変える、感想よりも、得た知識の活用法よりも先にまず聞かなければいけない事がある
そう、先ほどの突然始まった抗議の事だ
「さっきのは一体何ですか? 説明も何もなしに始まりましたけど……」
講義が始まる前に二人が何か話していたのは聞こえてはいた、内容こそ聞いていなかったが
だが、あれは恐らく講義に関する話だったのだろう。あの講義に唯一驚いていたのは私だけだったのだ
この男はまるで始まること知っていたかのように何食わぬ顔で話を聞いていた
ならば原因も知っているはず、説明を求めてみる
「さあな、俺は何も知らん」
しかし何も言ってくれない、でも一枚かんでいたのは確かだ。抗議の終わった後にウィーディに礼を言っていた気がする。「今日は時間を取らせて悪かった」的な事を言っていた
ついでにその後お茶に誘っていた、見事に玉砕していたが
この調子では彼は教えてはくれないだろう、仕方なく会話を終わらせる
「それで、探検はこれで終わりですか」
軽い溜息を吐きながら周囲を見渡す、講義の内容の反復をしながら歩いていたせいでここがどこかは詳しく見てなかった。隣を歩く彼に付いて行っていたせいでどこに来ているのかはわからない
そしてとんでもないことに気づく
「……あの、ここって」
「おう、金持ち共の客室だ」
他の階層に比べて来客を意識した豪華な造り、丁重さを意識した品のある壁づくりのあまり来た覚えのない所
間違いない、ここはセレブ御用達のVIP区画だ
「ちょ、なんてとこに来てるんですか!?」
「いや、ちょっと道に迷ってな。適当に歩いてたらこんなとこに来ちまったぜ♪」
ここは駄目だ、大変よろしくない
いや別にこの区画に問題があるわけではないのだ、だが違う問題が発生している
「ま、いいだろ。散策しようぜ」
「駄目です! あなたは駄目です!」
この男がここにいるという大問題が
この階層にはロドスの運営に関係している人物が大勢いる、主に業務提携における人材派遣の手配をしてくれている仲介会社
中には生命線ともいえる物資の配送をしてくれている企業などのトップの方が宿泊している
そんな所に誰に対しても無礼を働くこの男を置いておくわけにはいかない、すぐに移動しなくては
「おっと、あっちから面白そうな気配がするなぁ」
「あ、待って! ホントに待って!」
しかし彼はそんなこちらの焦りを知ってか知らずか、勝手に奥へと歩いてしまう
よくない、これは非常によくない。アレが誰かの機嫌を損ねてしまえばロドスの運営に悪影響がでてしまう
というか普段ここは許可のない者は立ち入り禁止なのにどうやって入れたのだ、何故私は道中に気づかなかった……!
とにかく誰かに出くわす前にこいつを追い出さなければ――
「ほう、こんな所で会うとは奇遇だな、鴉の」
出くわしちゃった
「何、ただの探検さ、銀灰」
「そうか、探検か。このロドス・アイランドは広大だ、お前を楽しませる物は多いだろう、彼らが許すなら存分に見て回るといい」
「もうしてるさ、許可なんざ取った覚えはないがな」
「え、あ、ど、どうも、シルバーアッシュさん」
曲がり角でばったり出会ってしまったのは、ロドスとの関係性が深いカランド貿易の代表であるシルバーアッシュ
詳しくは知らないがロドスがカランド貿易に何かしらの手助けをしたらしく、それを恩義と言ってロドスの盟友として共に歩むと契約しているらしい
「ほう、リスカム嬢も連れてきているのか。刻限通りだ」
「まあな、言い出しっぺは俺だしな」
そんな大物と彼が出会ってしまった、これ、詰みなのでは?
「となると初めても構わないという事か」
「ああ、せっかちなどとは思うなよ? 時間指定したのはお前だ。それとも何か、一企業のリーダーが契約通りに準備をしていないとでもいうつもりか」
「まさか、我々カランド貿易は誠実さと確かな業績が売りだ。それに鴉の、お前が思うほど私のスケジュールは詰め込まれたものではない」
いやまて、諦めるにはまだ早い。シルバーアッシュは堅物な印象こそ最初は受けるが気さくな人だ。娯楽も冗談も人並みには受け入れる寛大な人物だ
きっと彼の皮肉にも笑って答えてくれるはず
「へえ、その割にはしょっちゅうお付きのあんちゃんに叱られてるじゃないか」
「それを言うならお前もだ。常からリスカム嬢の事を怒らせているではないか」
ほら、いまもこうして軽い調子で返してくれている。すぐに立ち去れば事は起きずに済むはず……
「さて、時にリスカム嬢、時間に余裕はあるだろうか」
……ん? 私?
「ほら、返事はどうした」
「え、はい、なんでしょうか」
何故かいきなりこちらに矛先が向いてきた、何か粗相でもしただろうか? した覚えはないが
出方をうかがう、話しかけてきたという事は話す内容があるのだろう
「ああ、そんなに固くなるな。別に畏まるような話ではない」
シルバーアッシュはそんな私を見て緊張していると思ったのかそう言ってくる
だが正直緊張するなと言うのが無理な話だ、相手が相手、何か失礼な事をすれば責任問題が出てくる
そうなれば私一人の問題ではない、BSWの信用もかかってしまう。どうか慎重に立ち回らねば
「なるほど、お前がここまで目をかける訳だ。彼女は随分と実直な性格のようだな」
「おっと、何のことかわからんな」
なんだ、この二人は何を言っているのだ
二人共こちらを見て楽しそうに微笑んでいる、というか随分親しげだなこの二人、以前にどこかで交流でもあったのか
「ほら、いい加減に本題に入れ、真面目ちゃんの神経が切れる前にな」
「そうだな、女性を待たせるのは紳士のマナーとしては最悪だ。話を戻そう、リスカム嬢」
「あの、話、とは?」
なにやら不可思議な会話をしていたシルバーアッシュが用件をついに言ってくる
「特段大した話ではない、小話程度に聞いてくれればいい」
「小話?」
「ああ、ここで立ち話をするのも疲れるだろう。私の客室に来てくれ」
「……はい?」
……はい?
「クーリエにも話してある、資料のセッティングはしてくれている。茶菓子もマッターホルンが用意してくれている、自室だと思って寛いでくれればいい」
「あの、話の流れが良くわからないのですが……」
「それは部屋で話そう、さあ行こうか」
「お、エンヤちゃんはフリーなんだな? じゃあ俺はあの子と親睦を深めに――」
ヒュンッ! バシュッ!
「そうはさせないよ!」
「ぐぬおぉッ! お前は市中引きずり回し隊の一角! クリフハート!」
「よし、見事だエンシア。そのままこの男も部屋に連れてきてくれ」
「ハーイ」
「……いったい、何が起こっているんです?」
何が何だかわからないままシルバーアッシュの客室へと向かうことになってしまった
…………………………………
「サプライズって、あの人がリスカム先輩に?」
「うん、下手に物を渡すよりも身になるだろうって」
「……それは、何かをあげるって事じゃない、そういう事?」
「そうだよ、リスカムが気づかないようにやるって言ってた」
「何を?」
「わたしも知らなーい」
「リンクスちゃんに何も言ってないって事はストレイドさんとしても秘密裏にやりたいって事なのかな……」
「ううん、わたしじゃ何もできないからーって言われたー」
「何も出来ない? どういう事です?」
「さあ…… 見当もつかない」
「ねーねーフランカー、さっきから紙と睨めっこしてるけどどうしたのー?」
「ベツニ、ドウモ」
「り、リンクスちゃん、今は触れないで上げて、ね?」
「珍しいですね、それっていつもリスカム先輩が処理してるヤツじゃないですか」
「…………」
「バニラちゃん、いまフランカ先輩は孤独な戦いをしているの、邪魔したら駄目だよ?」
「孤独と言う割にはジェシカ先輩の膝にも書類がありますが」
「ほら、お手伝いは必要だから……」
「ダレカ、ストレイド、ツレテキテ」
「何故?」
「……あの男ならこれぐらいはサクッと片づけるわ」
「え、書類仕事するんですかあの人」
「昔はしてたのよ、これぐらいの山が一時間で無くなるぐらいには効率よくやるわ」
「でも、多分お散歩ツアーの最中ですよ?」
「……ハァ、普段リスカムに押し付けてるから罰が当たったのかしら」
………………………………
数時間後
「?????????」
私は何冊かのノートと疑問を抱えてVIP区間を後にしていた
「クソ、結局お目通りは叶わなかったな……。銀灰にもカードで負けるし、派閥イェラグってなんだよ、ガッチガチの軍事国家をイメージしたっていってもガチガチすぎるわ」
尚、この男はよくわからないカードゲームでシルバーアッシュと対戦してた。クーリエが時折怖い笑顔でシルバーアッシュを見ていたことを考えるとあまりよろしくない代物だったのだろうか
両手で抱えているノートに目を落とす、この中には先ほど客室で聞かされた知識が書き込まれている
どんなものかと言うと、ざっくり言えば経営学だ
細かく分ければ帝王学や流通知識、会社の経営に必要不可欠な知識だった
興味深い物ばかりでついノートをとってしまった、事前に用意してくれていたクーリエに感謝しなければ
シルバーアッシュの授業もかなりわかり易かった、流石は大きな会社を率いる若頭とういべきか。要点がまとめられていてかつ雑学を挟むことによって飽きさせない工夫がされていた
豪華な客室に不似合いなホワイトボードが置いてあった時は思わず笑ってしまったが
だが感謝と同時にいくつかの謎が出てきてしまった、どうしてこんな授業を彼は開いたのだろうか
一応聞いてはみたのだ、シルバーアッシュはこう言った
『風の噂で君が将来起業を考えていると聞いた』
『先立ちの役目は後進の旅路を輝かしい未来にすること、であればシルバーアッシュ家の当主たる私も恥じぬ行いをすべきだ。そうだろう?』
「…………」
起業を考えている、そう言われた時は驚いた
それは私の周囲のごく少数の人しか知らない話だ
フランカやジェシカのような親しい人にしか話していない、私がそっと抱いたまだ遠い将来の夢
いつか自分で警備会社を立ち上げたい、そんな理想
「……やはりカジミエーシュは駄目だな、古風な騎士道がそのままデッキに表れてるせいで手が読まれる。やはり運営委員会にウチの派閥を作ってくれと申請するか? だがなー…… 国規模じゃないしなー。でもロドス・アイランドとレム・ビリトンはあるんだよなー……」
BSW以外の面子で知っているとすれば、ドクターやアーミヤ、他は……
「そういえばカランドもないな、どういう基準で認証してるんだ? ……マギーに探らせるか、いや怒りそうだな、くだらない事を頼むなって」
隣にいる、”元”BSWだろうか
「リスカム、お前はどう思う? 最初は知名度で派閥を作ってると思ったんだが…… どうやらそういう訳でもないらしい」
「……急に何の話ですか」
彼は先ほどのカードゲームについて熟考している、娯楽に関しての尽きぬ探求はクロージャと並ぶだろうか
シルバーアッシュがあの件を知っていたのはこの男が関連してそうだ、それにウィーディも言っていた、”話は聞かせてもらった”と
ただ狙いがわからない、どうして伝える必要があったのか
「待てよ、もしかしてただの気まぐれか? まさか、割と規模の大きいカードゲームの勢力をそんな理由で決めるわけが…… ありえるな、天才とはいつも制御がきかんしな、全ては気分次第か」
恐らくこの一連の事象には関係しているのだろう、だが彼が言いふらした理由がわからない
それに、そもそも彼は無意味に動かない。これは揺らぐことのない彼の中のルールのはずだ
では意味があったか? そう、答えへの道中がこじれてる一番の原因がそれなのだ
光が見えないわけじゃない、手掛かりはいつかのように点在しているはずなのだ
あの少女の時のようにきっかけも存在しているはず、だがそれがわからない
「……むう、戦場以外でこうも悩む日が来るとはな。これだから世界は侮れん」
「…………」
彼は人の気も知らずに違う事で迷想している
なんだかこちらも悩んでいるのが馬鹿みたいに思えてきた、別にあの日のように必要に駆られている訳ではない
何を考えているにせよ、彼に協力したであろう人物たちを見るに悪事ではないだろう
そこまで考えて周りを見る、考え事に夢中になっていたせいでどこに来ているか確認していなかった。今日はこれで二度目だ
「で、今度はここに何の用で?」
「ん? ああ、ここには……てあれ?」
場所はロドスの医療エリア、源石病の患者や運び込まれた怪我人の治療をしている階層だ
こんな所に何の用か、まだ何かあるのかと思い聞いてみると何か反応が怪しい
「あー…… ここは医療関係だったな?」
「そうですね、それで誰に会いに行くんですか」
もう一度確認してみる、だが彼は立ち止まり辺りを見渡した
立ち止まって、見渡した。通路の最中でだ、目的地まで止まらない男が
それが何を意味するか、なんとなくわかった
「ヤッベ、適当に歩いちまった……」
どうやら何も考えていなかったらしい、正確には別の事で頭がいっぱいでどこにいるか認識していなかったというべきか
……こんな所をフランカに見られたら笑われそうだ、仮にも教官と教え子が同じ理由で道を間違えたというのだから
「すまん、道を戻ろう。目的地はここじゃない」
「そうですか」
間違えたものは仕方ない、おとなしく別の階層に移動しようと来た通路を戻る
その時だった
「――――ッ!」
一瞬、彼の姿がブレた
何事かと思い視線を向ける、だが隣に彼はおらず代わりに何かの扉が閉じられる音がする
音の方を向く、そこには掃除用具を入れている縦長のロッカーがあった
近づいてみる、ロッカーは微塵も動かない
……ふむ
「あ、あんな所に綺麗なお姉さんが」
ガタンッ!
目の前のロッカーが一度大きく揺れた、がそれだけで動きは止まってしまった
このロッカー、中を敷き詰めれば大人が一人は入れるだろうか、となるとこの中に彼がいる
ということは、これは隠れているのか? だがいったい何から……
「イーヤーッ!!!」
だがその考察は突如響いた大声で中断されてしまった
いったい何事か、こちらは相棒の不審な動きに困惑しているというに
声の方を向く、そちらから少女と女性が走ってきていた
「注射は嫌いだーッ!」
ケオベと
「待ちなさい! 痛くしませんから!」
フォリニックだ、状況を見るにこれは、追いかけっこだろうか
「はい、どうどうですよ。ケオベさん」
「わふぅ!」
とりあえず一度ノートを床に置き、すれ違おうとしたケオベを捕まえる。ここは医療フロア、安静が必要な人もいるのだ、騒々しくしてはいけない
捕まえたケオベは私の腕の中で拘束から逃れようともがいている、よほど必死らしい
その後からフォリニックがやってくる
「ありがとうございます、リスカムさん」
「いえ、それでこれは何事ですか」
予想はついているが
「見ての通り、ケオベさんが抑制剤の注射を嫌がって逃げ出したんです」
言われて彼女が注射器をもっていることを確認する、やはりそういう事だったか
「離してー! オイラ、注射は嫌いだー!」
「大体の人が嫌いだと思いますよ」
以前として暴れるケオベを押さえつけながら現状確認する
まあこれぐらいの子供なら皆注射を怖がるだろう、大人だって嫌いな人はずっと苦手意識を持ったままだ。フランカも定期検診の時はげんなりしている
だがだからといって逃げていいかというとそうでもない、子供にはまだ納得は出来ないだろう
「さあケオベさん、おとなしく注射を受けてもらいましょうか」
「イーヤーッ!」
ロドス全体に響かんばかりの悲鳴をあげるケオベ、そんな彼女の腕をとるフォリニック
そのまま腕をまくって打つのだろう、そう思っていた
だが彼女は予想外の動きをしてきた
「フンッ!」
「グエェェッ!」
いきなり腕を引っ張ったと思ったらケオベの体を回転させながら自身に引き寄せる、そのまま背後からヘッドロックを決める
「ハァッ!」
「イタイッ!」
そしてその体制のまま、首に注射器を打ち込んだ
……あれ、私の知ってる薬剤投与とは違う光景が流れた気がする
「あの、一応聞きますけど、どうしてそんなやり方を?」
まるで暴れる獣に予防注射を打ち込むかの如く動いていた
まさかとは思うが、フォリニックは全ての患者にこの投与法をしているのではなかろうか
だとしたらフランカが嫌がっているのもなんとなくわかる
「まさか、ケオベさんを含んだ逃げ回る極少数だけですよ。暴れられると手元が狂いますからね、ならどれだけ動き回っても位置がぶれない首に打つのが正解です」
そうかなぁ……?
「うぅ…… フォリニックが苛めるー……」
「さ、戻りますよ。注射以外にも処置が残っています、アルコール消毒もしなきゃいけませんからね」
凄惨な注射現場を残した二人を見送る、だが途中で何かを思い出したようにフォリニックはこちらに振り返った
「そうだ、リスカムさん。今日は彼は来てますか?」
「……彼ですか」
なんだろう、隠れてる理由がわかってしまった
「ええ、ストレイドさんです。彼はいつもいつも逃げ回る、しかもタチが悪いことに現時点で一度も投与に成功していないという現状、これでは医者の名折れです。もしもいるなら場所を教えてくれると助かるのですが」
場所、場所かぁ……
視線を横のロッカーに向ける、この中にいるはずだが
「今回こそは必ず捕まえます、彼には普段からしてやられていますからね、リサにも手伝ってもらって今度こそ……!」
激情している、どれだけ逃げ回っているのだ彼は
そういえばスズランとフォリニックとハイビスカスの三人で彼を追いかけている現場を見た
あの時はスズランがアーツを使って動きを止めている隙に打ちこもうとしていたか
まあその後、減速がかかるならそれを打ち消す勢いで加速すればいいとかいう馬鹿げた理論で逃げ切っていたが
さてどうしたものか、一度協力したなら最後まで協力するのが筋だろう
なら横のロッカーを開けて突きだせばいい、逃げようとしたなら殴り飛ばして動きを止めよう
逃げ出すときの動きの癖はある程度わかる、初撃が入ればフォリニックが捕らえる時間もできる
「…………」
「どうしました?」
首を縦に振ろうとする、だが止まってしまった
何故か今日の出来事が脳裏をよぎったのだ
「……いえ、なんでもありません。残念ながら今日は彼は来ていませんよ」
「そうですか…… まあリベンジは次の機会ですね。では私はこれで」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
こちらの返答を聞くとフォリニックはケオベの首根っこを掴んで引きずりながら帰っていった
少女の悲痛な叫びが耳から離れない、同情はするがだからと言って逃がすわけにもいかなった。尊重したくとも患者の心を尊重できない、医療の難しい所である
「……ほら、もう行きましたよ」
降ろしたノートを持ち上げながら彼女が行ったことを教える、そうすると案の定ロッカーの扉が開く
「はー…… とんだイレギュラーだったぜ。ケー坊め、逃げるならもう少し方向を考えてだな」
「子供に何を望んでいるんですか、緊張下で周りを常に注視しろなんて大人でも難しいですよ?」
「チビは出来たぞ?」
「リンクスは…… 普通の子に比べて慣れが以上ですから、他と比べない」
「まあ、だよな」
彼は肩をぐるぐる回しながら元々行こうとしていた道へと歩いていく、その隣に並んで私もついていく
次はどこへ行くのか、というかまだあるのか。これ以上ノートが増えたら持ちきれない気がする
「しかしあなた、何度彼女から逃げているんですか? 彼女があそこまで怒るのはドクターぐらいしかいないんですが」
「そうだなー、これで28回目。恐れるな、怒号が飛び交う時間がまた来るだけさ」
「他に患者がいるんです、騒ぎを起こすのはやめてください」
「騒ぎを起こすなっつってもマングースが一番うるさいぞ? あいつ、この前なんか自分のアーツユニットで直接打ち込もうとしてきやがった」
「……どれだけ怒らせてるんですか」
話ながら歩いていく、その時だ
彼はおもむろに上着の内ポケットへと手を入れる、そして自然な動きで煙草を一本取り出した
「…………」
それを口に咥え固定する、そして鳥のレリーフが刻まれたライターを取り出し火を点けようとする
「ストップ、ここは艦内です。全面禁煙です」
そこで声をかけて止める
「あっと…… 危ない危ない、流石にここで吸うのはマズイな」
「変わりませんね、その癖」
彼はバツが悪そうな顔でライターを仕舞う
例の癖は相変わらずのようだ、何か考え事をするときに煙草を吸う。確か考えすぎないように時間制限を掛けるためだったはず
それを行おうとした、ということが考え事があるという事だが……
「どうか、したんですか?」
煙草を口に咥えたままの彼に聞く、そうする原因があっただろうか、記憶にない
「いやな、ちょっと気になって」
「何がですか?」
「さっきの事」
「さっきの事?」
というと、フォリニックとの一件か? だが彼を悩ませる要素はあったか?
「わかってないな、その顔は」
「わかりませんね、無事に逃げおおせたのなら悩む理由がありますか?」
「それだ」
「は?」
「だからそれだよ、どうして俺は逃げられた?」
どうして、それは私が正直に言わなかっただけで、この男が近くにいると教えなかったからだが
「まだわからんか、丁度いい、聞こうじゃないか」
「何をです」
「お前、どうして俺を逃がした?」
……どうして逃がした、か
私が聞きたい、どうして私は逃がした?
「……わからないです」
「……お前、わからないで逃がしたのか」
「はい、そうなります」
はて、何故だろう。心当たりがあるとするなら一瞬よぎった今日の出来事ぐらいだが
「ふむ、考えれば考えるほど答えが出ません。何故でしょう」
「……まったく、なんでだろうな」
「…………? 何故笑うのです」
「いいや、お前って意外と感情的だよなーって思ってな。戦場じゃもう少し冷静に動けよ?」
失礼な、私は十分冷静だ
たださっきは、何か違和感に近いモノに襲われて、それで
そうだ、違和感の正体を見定めようと思ったのだ
これがきっと、今日の彼の不審な行動の答えに必要な足がかりをくれると、そう直感したのだ
「……そうですね、気を付けます」
なんてことだ、これでは確かに感情的に動いたことになる。彼に言われた通りではないか、同じことを言われないように気を付けなければ
ただまあ、これはある意味良かったのかもしれない。自身の行動の謎を解けば彼が何を企んでいるのかわかる
いいだろう、たまには見返してやろう。フォリニックではないがリベンジだ。今日ぐらいは彼の目的が完遂される前に暴いてみせようじゃないか
「なんだ、珍しく悪い顔して」
「いいえ、気のせいです」
隣で歩く男を見る、煙草を上下に振っている。あれが口でなく背中で、更に臀部の付近にあったなら尻尾を連想しそうな動きだ。いや、そんな所に煙草があるなどとは思えないが
馬鹿な事は考えてないで思考を戻す、まず何よりも重要なのは件の二人の行動だ
ウィーディとシルバーアッシュ、この二人がなぜ、どうして私の為に時間を割いたか、そしてどうして私が将来起業したいと知って動いたのか
最初にひも解くべきはここだ、どうして知っていたかは彼が吹き込んだと仮定しておこう
先に簡単な方からいこう、シルバーアッシュの方だ
彼に関しては答えを聞いたから理由はわかる、後進の為だと言っていた
誰かの為に時間を割ける、実に立派な人物だと思う。カランド貿易への揺るがぬ信頼は彼の人物像からきていると言っても過言ではないだろう
彼に関してわかっていないのはどうして動いたかだ、好意的にとらえるならば先ほどと同じ考えでいいのだろう
だがこれがもし、誰かに頼まれた、と考えるなら若干話は変わる
別に彼が優しい人だという事に変わりはない、逆にそうして人の頼みに答えてくれるという点で株はさらに上がる
ただ、この場合”誰に”というのが肝になる、早い話がシルバーアッシュはその誰かの代理人という事になる
”誰か”が私に彼経由で経済学を教えるように頼んだ、何とも奇妙な図式だ
少し気になるのはこの”誰か”がシルバーアッシュに物を頼み込める人物だという事だが……
……なんだか前にも似たような話を聞いた気がする、なんだっただろうか
確かドクターから聞いた話だ、例のテロ事件の時にモスティマ経由で伝えられた事実があったと
「……ん?」
「ん? どした、竜が雷食らったような顔してるぞ」
遠回しな連絡方法で、実際に対面するまで正体を明かさなかった男がいた。今横にいるこの男だ
……まさか、いやそう考えるには早い、判断材料はもう一人いるのだ
一度シルバーアッシュは置いておいてウィーディについて考えよう
ウィーディの場合は両方の点が不明のままだ、何故協力したか、誰に頼まれたかが
ここは個人の人物像である程度絞り込める協力した理由からいこう
さてそうなるとウィーディがどんな人物かだが…… 正直、潔癖症であること以外は大して知らない
後はあの一風変わったユニットにシードラゴンと名付けていること、そのシードラゴンと一人で喋っているとかいう噂
他には……いざ着るとなると抵抗がありそうな制服を着てることだろうか、というかこれが一番脳内を支配している
そもそも普段から接点はあまりないのだ、強いて言うなら戦闘中によくペアで動くことが多いだけ
ドクターがリスカム電池とか名付けていた戦法だ
それ以外に接触することはない、何度かショートさせた機械の弁償に関して謝罪しに言ったぐらい
だが、今日彼女の講義を受けてわかった事がある、彼女はまわりに汚れている物がなければ快活な女性だという事だ
お喋りも結構好きなようで割と自分の事も話してくれた、逆に聞かれることもあったが
ああ、そういえば彼との関係性も尋ねられた、古い友人だといったら残念そうな顔をしていたが
やはり彼女も若者なのだ、親しく見える男女の関係は気になるらしい
だがそうは問屋が卸さないというのが世の常、色恋沙汰でキャーキャー言いたくとも言えないのが現状だ
後は……そうだ、いつも厳しい言動が多いと言われているがそんな事はなかった
よくわからなかった講義の内容も聞き返したら優しく根気よく教えてくれた
家学を継いだと聞いたがその知識量はかなりのものだった、あれで専門はアーツ工学でなくバイオテクノロジーだというのだから驚きだ
となると、今日彼女が講義を引き受けたのは単純に優しさからだろうか、それとも知識は共有すべきという学者独自の意見だろうか
何はともあれこれで動機を二つに絞れた、ここで一度切ってもう一つの方にいってもいいだろう
こちらがわかれば二つの内のどちらかはわかる、それで次は”誰が”頼んだかだ
この誰か、恐らくはシルバーアッシュと同一人物のはず
であれば謎も解ける……
「…………」
解ける……
「…………」
……いや、解けるのか? 仮に同一人物として、今現在候補に挙がっているのは彼だけだ
まあ彼女と彼の会話を聞くに割と親しげだった、少なくとも今日初めて会ったという関係ではないだろう
となると別件で会ったことになる、更には講義が終わった後の別れ際のあの会話
今日は時間をとって悪かった、そう言っていた
抗議があることも知っていた風だった
「……んん?」
「お? どした、燃え殻をさらに燃やしたら効果てきめんだったような顔をしてるぞ」
なんてことだ、あらゆる状況証拠が彼が犯人だと言っている
困った、いや悪いことをしている訳ではないが困った
別に彼があの二人に頼んだことが悪いのではない
問題は、どうしてこんなことをしているのかだ
正直、意味がわからない。今の状況は彼が別の人物を経由して専門的な知識を私に教え込んでいる状況になる
当人が隣にいるのにだ、ここまで訳のわからない状況、この男でなければ作り出せないだろう
「…………」
「あ? どした、四人の王様に会いに行ったら大体八人位だったような顔してるぞ」
仮に、この行動に意味があるとする
「……いいえ、何も」
「そうかい」
だとすれば、彼は一体私に何を伝えようとしているのだろうか
………………
しばらく艦内を歩いた後、足を止めて三度周囲を見渡す
「ここは、普通の職員の方の階層ではないですね」
階段をいくつか移動してフロアを移った、今度もあまりこない階層だ
特徴としては通路の壁に龍の紋が刻まれている、となるとここは
「正解、例の事件以降ロドスとお近づきになった国のお偉いさんがいるフロアだ」
どうやら今度はここに会わせる人物がいるらしい、となるとかなり絞られる
それに、すぐ目の前の部屋には見覚えもある
「あなた、どうやって約束を取り付けたんですか」
「約束ぅ? 何の事だかなぁ」
しらばっくれる男、そのまま何食わぬ顔でノックもせずに扉を開ける
「よう、邪魔するぜ、龍の嬢ちゃん」
「…………」
「失礼します」
「ええ、ようこそ、龍門臨時オフィスへ。歓迎いたします」
中には暖かく迎えてくれるホシグマと、それとは対照的に睨み殺さんとばかりの視線を彼に送るチェンがいた
「あの、前より仲が悪くなってませんか?」
おかしい、最初から険悪な関係だったとはいえそれでも挨拶はしていた
だがいまは友好的な返事は何も返さない、代わりに今すぐ出て行けという気配を漂わせている
私の知らないところで何かあったのか。ホシグマに聞いてみる
「その、少し前に色々ありまして…… 誰が悪いという訳ではないのですが、そうですね…… これはもう、人間的な相性の話です」
なるほど、粗相は既にしていたか
「さて、それじゃ俺は外で待ってるぞ」
「え? 同席はしないのですか?」
「しない、してほしくもないだろう」
「そうですね、居座ろうとしたなら追い出せと言う命令も受けています。申し訳ありませんがあなたは外でお待ちいただくことになります」
彼は言うだけ言ってすぐに外に行ってしまった、ホシグマが追いかけるように部屋を出ていく
「あ、あの、これは……」
私とチェン、二人だけになってしまった
なんてことだ、これは予想外だ
先の二回と同じ様に彼がいると思っていた、あまり話さない人物ばかりで彼の饒舌さを割と頼みにしていたのだが
うん、ここは一度挨拶をしよう。挨拶は世界共通言語、会話の始まりであり終わりを占める重要な単語である
「ど、どうも、お疲れ様です、チェンさん」
「………………」
何も、返ってこない…… 静寂だけが襲ってくる
気まずい、非常に気まずい。私はどうすればいい
彼女は黙って腕を組んだままじっと扉の方を見ている、そんなに彼にご立腹か、奴は一体何をしたのだ
そのまま重苦しい空気が流れ始める、何か、何か手はないか……!
「……フンッ」
内心かなり慌てながら状況を打破しようとしていたらチェンが一度不機嫌そうに鼻を鳴らした
扉に向けていた視線をこちらに移す、だが残念ながら苛立ちは抜けきっていないらしい。蛇…… いや、龍に睨まれた蛙とはこういう状態だろうか
いや、負けるなリスカム、紛い物と言えども私も竜、迫力はなくとも精神力で負けはしない!
とりあえず平静を装い勝機をうかがうのだ
チェンの出方を静かに待つ、一応ここに入れられたという事は例の謎の講義ツアーの続きなのだろう
ということは前例通り、龍門警察のトップからありがたい教鞭が振るわれる、ということだ
……ちょっと怖いな、一言間違えたら拳が飛んできそう
「……リスカム」
「は、はい!」
長い沈黙の経てようやくチェンが声を出した、だがその声どこか疲れたような印象を受ける
彼女は私に座れと手振りで示してくる
私はそれに静かに首を振って答える、理由はわからない、ただ座るのはどこか失礼だと思っただけだ
「……なるほど、真面目ちゃんと言っていた理由がわかった」
あの男、私に関して何を話しているのだ? 着席を拒否しただけでどうしたらこんな評価を出される
気を取り直してチェンの顔を見る、彼女は腕を組み同じようにこちらの顔を見てきている
ただ、それはまるで探るような視線だった。己にわからぬ答えを求めているような感じ、一体何を見ているのだ
しばらく見ていると彼女がようやく話し出した
「リスカム、君は警察と警備隊の相違点を知っているか」
「……相違点、ですか? 警察と…… 警備隊の」
「ああ、この似て非なる存在の決定的に違う点だ。わかるだろうか」
ふむ、相違点
まあこれは意外とわかる、警察官と警備員、この二者の立場の事を言っているのだろう
「法の番人、国の守護者。そういう事でしょうか」
「概ねアタリだ、細かく追求するならばまた違った形になるが…… それはいい、奴には君にかつて教えたことをもう一度思い出せるような言われただけだからな」
「……教えた事?」
いったい何の事だ? 教えた事は彼に教えられた内容の事だろうか。そうなると結構多くて心当たりがでてこないのだが
それに、それが二者の立場にどう関係しているかもわからない、もっと話を聞くべきだろう
「では次だ、傭兵と軍人の違いは」
「金銭における契約のもとに動く兵士と、国旗と戒律と愛国心を胸に戦う戦士、でしょうか」
「次、医者と処刑人」
「死の淵に追いやられた人をもう一度立ち上がれるように支える者と、後戻りのできなくなった罪人の苦しみを解き放つ者」
「教科書通りの答えだ、座学の点数はさぞ高かったことだろう」
「いえ、そんな事はありません」
「謙遜するな、君は実際堅実な戦い方をする」
問いの意味がわからない、これは比較しているのか。だが何のために
「この質問の意義は、まあわからないだろうな」
「はい、確信を得るには材料が足りません」
「わかっている、では次の質問だ」
一呼吸おいて彼女が質問してくる
「戦場において生かすことと殺すこと、どちらが正しい」
「……それは」
その質問は、知っている
あの男に、彼に言われたことだ
「答えられないか」
「……いえ、答えます。生かすことです」
「ほう、何故だ」
「それが正しいからです」
あの日、あの男は私に護るという行為について説いてきた
それはとても難しいことだと、それでも成し遂げなければいけない事だと
「正しい、ああ正しいだろう。例え殺戮の場であったとしても命とは尊重されるものだ。だがもし、そうして生かした者がいつか君を殺す日が来るかもしれないとすれば、君はどうする」
「それでも、私は生かします」
「仮に親しい者が殺されてもか」
「はい」
「その人物がいつか、世界を破壊するような者だとしてもか」
「はい」
彼は、酷く遠い目をしながら話していた。彼にとって護るとは二度と叶わぬ事だとも
それはいつかの出来事が原因だろう、彼が抱いた優しい理想を砕いた事件、一生彼が忘れることのない殺戮の事
「……正しく在れる自信が、君にはあるか」
「はい、あります」
正義とは、人が都合のいいように決めた如何様にも形を変える鎖だ。彼からはそう教わった
だからせめて多くの人が縛られ過ぎないようにと、無闇に殺さぬようにと、己自身が万人にあてがわれる鎖になれと、そう言われた
「正しいから、ただそれだけで生きていける世界ではない。それが今のテラだ、よく理解はしているな」
「ええ、BSWで、このロドスで多くの戦場を見てきました。痛感しております」
……今考えても難しい、厳しい願いを課せられたものだ
「……そうか、ならばいい。時間を取らせて悪かったな、私からはこれで終わりだ」
「え? これで、ですか?」
幾つかの質問の後、いきなり終了宣言を言い渡された
これでいいのか? 他の二人は何時間とやっていた
「いいんだ、最初に言っただろう。私はただ、君に奴の教えを思い出させるだけでいいと」
「しかし、なんというか……」
「肩透かしだったかな、君には物足りなかったか」
「いえ、そういう訳では」
苦笑しながら申し訳なさそうに言ってくる、いつの間にか眉間の皺が消えている
私と話してるうちに怒りは治まってくれたらしい
「まあ仕方ないさ、私はあくまで警察のトップと言うだけだ。何かの専門家という訳ではないし大企業の代表取締役という訳でもない。さらに言えば教官でもない、人に物を教えられるような立場ではないんだ」
軽くため息を吐いて言うチェン、馴れないことをして疲れたのだろうか
どうやら事の成り行きは全て知っているらしい、当然か、彼に直接頼まれているのだから
そうなると、もしかしたら聞けるかもしれない。どうして彼がこんなことを企んだのか
聞いてみようと口を開く、が
「リスカム、二つほど聞いていいだろうか」
先にあちらに質問されてしまった
仕方ない、こちらの質問は彼女のに答えてからにしよう、承諾する旨を首肯で伝える
彼女はそれを見ると、また眉間にしわを寄せてしまった。難しいことなのだろうか
「……まずは一つ目だ、君には奴が何に見える」
「奴、ですか」
「そうだ、傭兵の事だ」
傭兵、とは彼の事だ。チェンはいつも彼の事を傭兵と呼ぶ
間違えてはいないからいいのだが、どうしてこの二人は基本互いに名前を呼ばないのだろうか
まあそれは今はいい、話の続きだ
「何に見えるとはどういうことですか?」
「そうだな、君にはあれが、人に見えるか」
……ああ、これはそういう事か
どうやら、結構な事態に遭遇したらしい。もしかしてどこかで一戦交えたのだろうか
多分、彼の異常な人間性を垣間見てしまったのだろう、元々常人とは比べ物にならない精神の持ち主なのだ
それで、何者かわからなくなったのだ。前にロドスにしたように一種の警告を食らったのだろう
「何か、言われましたか」
「……ああ、言われたよ。身の毛のよだつことをな」
あのチェンにこう言わせるか、彼女の根幹にかかわる何かでも知ってからかったのか
あまりいい趣味ではない、この後注意しておこう
いまは質問に答えるのが先だ
「チェンさん、先ほどの事ですが、よろしいですか」
「構わない、言ってくれ」
「ありがとうございます、では失礼して…… ええ、そうですね。チェンさんには悪いですが、私には彼は人に見えます」
「……何故だ」
「決まっています、人だからです。在り方こそ大きく外れていますが彼はまだ、人の心を捨てきれていません」
「根拠は」
「ありません」
一気にしかめっ面になった、言葉をもう少し選ぶべきだった
だがこれは本当の事だ。彼は別に化け物になったわけではない、心はまだある、捨てたと本人は言ったが捨てているなら彼は……
「……恐ろしいな、あれでまだ、先があるのか」
「…………」
……もし捨てたなら、彼はきっと……
いや、そんな事にはならないはずだ。普段から人に甘い彼がそんなぽいっと捨てれるわけがない
この事について考えるのはよしておこう
「それで、二つ目は?」
「む、そうだな、長引かせる必要はないか。ではもう一つ、似たような質問だ、気さくに答えてくれ」
「はい」
………………………
「うがーーーーーー!!」
「ああっ! フランカ先輩が弾けた!」
「だ、大丈夫ですか?」
「すー……すー……」
「もう限界! やってられないわこんなの!」
「あ、どこいくんですか先輩!」
「リスカムとストレイドを見つけてくる! リスカムを見つければアイツもいるわ! それでもって奴にやらせるのよ!」
「……行っちゃった」
「すやー……にゃ~ん……」
「サボりましたね、フランカ先輩」
「でもほら、半分は終わったから」
「……半分」
「……うん、半分」
「ふへへへへぇ……」
「……休憩しましょう」
「そうだね……」
「はあ~、しかしまあ、なんだかんだでフランカ先輩もストレイドさんの所にしょっちゅう行きますよね」
「だね、一応先輩だからね、多分甘えたいんだよ」
「……あの人にですかー、私はヤだなー」
「でもリスカム先輩もそうだけど普段から甘えられる側の人達だから、頼れる人がいるのが嬉しいんだよ」
「……その言い方だと、ジェシカ先輩もそうでは?」
「いや、私は…… あんまり頼られたことなくて……」
「ジェシカ先輩! 泣かないで!」
「……バニラちゃん、私達も二人を捜そうか」
「え、何故です」
「ほら、今日はリスカム先輩の誕生日だから。一緒にお祝いしたいでしょ?」
「そうですけど…… どうやって見つけるんです?」
「簡単だよ、フランカ先輩を捜すの」
「どうしてですか?」
「フランカ先輩の傍にはリスカム先輩がいるから、だね」
「……なんか、納得できました」
「うん、じゃ、行こっか」
「はーい」
「……うにゅぅ…………」
………………………
「あ、ここにいましたか」
「お、よくわかったな」
龍門警察のオフィスを後にして数分後、私は甲板にやってきていた
「ああ、今日は随分綺麗ですね」
「そうだろう、違いがわかるようになったか」
「ええ、誰のせいでしょうか」
「さあな」
一足先に来ていたのだろう、いつかのようにガードフェンスに体を預ける彼がいる
その隣に同じようにフェンスに体を預けて上を見る
前に教えられた金色が広がっていた
「ノートどうした?」
「ホシグマさんが預かってくれています」
「あ、さてはハンドスピナーから俺の場所を聞いたな?」
「その呼びかた、本人の前でしたら怒られますよ」
「もう追っかけられたさ」
「懲りないですね……」
横の男はどこか満足げに煙草を咥えている、口元から折れている所を見るに医療エリアの時からずっと咥えたままだったのか
「それで、隊長様からのありがたい話はどうだった」
「ええ、大変参考になりましたよ」
「そりゃよかった、流石は最年少の隊長様だ」
こうして振ってくるあたり隠す気はあまりないようだ、ならもう聞いてもいいだろう。いやチェンから話は聞けたのだが
「それで、どうしてこんなことを?」
「なんだ、気づいてないのか?」
「いえ、知っています。ですが理由がなかったもので」
「あるさ、下らない理由がな」
「そうですか、なら、下らないというなら聞く必要はないですね?」
「ないな、それとも無駄に疲れたいか?」
「まさか、今日はもう頭を使いたくありません」
「お前がそう言うか、どうやらうまくいったみたいだな」
まったく、わざわざこんな日にそんな事を企てなくてもよかったのに
「それで、どうしてこんなプレゼントを考えたんですか?」
「決まってる、面白そうだったからだ」
今日の出来事の発端、チェンから全部言聞かせてもらった
そう、誕生日プレゼントだそうだ
誕生日、プレゼント
「……まあ、いいですか」
なんとまあ、こんな事をよく思いついたものだ
この男の事だ、ホントに面白そうだからでこれを選んだのだろう
今日彼から贈られた物、それは知識と知恵だ
といっても大それたものではない、私の抱いた夢に役立てられるようなささやかな知識
いつか起業するときに慌ててしまうようなことがないようにと勉強をさせられた、という事
別にそんな事、やってくれなくてもよかったのに
「どうやって協力してもらったんです?」
「おっと、違うな。協力させたのさ」
「はいはい、それで何かやったんですか?」
「別に、ちょいと各々のお仕事に手助けしただけさ」
恐らく最初は適当に自分で調べて齧らせる程度で済ませるつもりだったんだろう
だが準備しているうちに楽しくなったのかもしれない、それでいっそのこと専門的な分野まで叩き込んでしまおうと考えたのか
それからは専門家がいないか捜して頼んで、また捜してとそういう事だろう。変なところで努力を惜しまない、それを少しは礼節に向ければいいのに
「気持ちはありがたいですが、今日だけであんなには覚えられませんよ。せめて日にちを分けるぐらいはしてほしかったですね」
「おいおい、そんな事したら驚かせられないだろう?」
「驚かせる意味がわかりません」
「フン、お前にはわからんさ」
どうしてこう一手間加えようとするのだ
まあ、いい機会だったのだろう。いつかは学ばなければいけない事だった
それが今になっただけの事、逆に場所と時間を用意してくれたことを感謝すべきなのかもしれない
ただ一つ、この男は大事な事を忘れている
「さて、それであなたは何もしないのですか?」
「あ? 俺?」
「ええ、まさか規格の発案者が何もせずに終わるだなんてこと、ありませんよね」
そう、今日のは確かに彼が用意した機会、だが教えたのあの三人
これでは彼からは何も贈られていないのと同じだ、そんな細かいことで追及するつもりはないがちょっとした仕返しだ、これぐらいは許される
「ね、何もないんですか?」
「……あ~、いや、なんだ」
「まさか、まさかあなたが、大抵のことは先読みして対策してるあなたが、私がこうして反論して来ることを予想せずにのんべんだらりとしていた―、なんてこと、ありえませんよね?」
「お、おう、俺がそんな初歩的なミスをするわけないだろう。ハッハッハッ!」
「ほう」
「……すまん、何も考えてない」
「でしょうね、チェンさんの所に行った時点で隠す気なかったみたいですから」
バツが悪い顔をして必死にポケットをまさぐっている、何か渡せる物でも探してるんだろう
でもまあ、珍しい顔が見れたからいいから
「いいですよ、別に。最初から期待はしていませんでしたから」
「む、そう言われるのは癪だな。待ってろ、今すぐいい感じの物を探り当てる」
そうしてしばらくの間ガサゴソと上着の中を捜索する
そして一度、動きが止まる
「あ、何かありましたか?」
聞いてみるが答えてくれない、代わりに不敵な笑みを浮かべてきた
「いいや、特になかった」
「そうですか、ならもう大丈夫ですよ」
「ああ、だから別の物をくれてやる」
「別の物?」
そう言うと彼は腕をポケットから出して近づいてきた
一瞬身構える、でもこのタイミングで何を仕掛けるつもりなのか
彼がすっと近づいてくる、そして何も言わずに出を伸ばしてきた
「……へ?」
私の頭の上に
「よーしよし、リスカムちゃんはいい子だなー」
「??????」
わしゃわしゃと犬を撫でるように撫でられる、顔がすごく熱くなる
まるでお湯でも沸かしたかのように湯気が出る、これはまさか
撫でられているのか? 私が? この男に?
「ち、ちょ!? なんですか急に!」
「お、割と反応が遅れてたな」
急いで離れる、慌てて自分の頭に手を伸ばす
前に似たようなことをやられた、あの時は下らない玩具を付けられてしまった
ならば今回も同じことをされたか
だが何もない
「安心しろ、奇妙なものは付けてないさ」
「……ホントでしょうね」
「ホントホント」
あいも変わらず不敵な笑みを浮かべる男、信用ならない
だがまあ、流石にもう何もないだろう
少し警戒しながら隣に戻る
「……それで、これで終わりですか?」
「ああ、終わりさ」
どうやら今ので終わりらしい
まあ変に続けられてもかえって困惑するだけ、ここで終わった方がいい身のためだ
安堵の溜息をつく、今日だけで何回嘆息しているのか
「お、リスカム」
すると、彼がそっと艦内に続く扉を指さした
「フランカがそろそろ来るぞ」
「へ?」
そう言われて思わず扉を見る
丁度扉が開いてフランカが顔をのぞかせてきた
「……む、リスカム、ようやく見つけたわよ~……!」
「ああ、どうも、捜してたんですか?」
「そりゃそうよ! あんな面倒な書類の山を押し付けて…… 酷い目にあったわ」
「あれぐらい、普通でしょうに」
別れ際に渡したあの書類、ずっと代わりにやってくれていたらしい
変なところで真面目な相棒だ、なら普段から手伝ってくれればいいのに
「で、ストレイドどこ?」
だけど限界に達して彼に手伝ってもらおうと思ったんだろう、わかりやすい
だけどまあ、別にいいか。丁度隣にいることだし
「彼ならここに――てあれ?」
横にいる彼に声をかける、が
「どこよ、ここには居ないわよ?」
「あれ、今さっきまでここにいたのに……」
彼は突然、跡形もなく消えてしまっていた
「あ、あ~…… 逃げたわね」
そのようだ、今の一瞬でいったいどこに行ったのか
フランカはどこか遠くの空の方を見ている、そっちの方にいるのだろうか?
同じ方を見ようとする、だがその前にフランカの視線が不自然に変わる
そして同時に不思議そうな顔もする
「あら、リスカム、角になんかついてるわね」
「え、な、何が付いてますか?」
しまった、どうやらまた何か仕掛けられたらしい。とっさに両方の角に手を伸ばす
左側の角の先っぽに何かの感触がした
「何それ、輪投げの輪にしては小さいわね」
取ってみる、それは指輪だった
特に装飾が細工されたものではない、銀製の簡素な物
「…………」
「なに? 誰かに貰ったの?」
これは、まあそういう事か
「ちょっと、笑ってないで教えてよ。気になるでしょ」
多分、何かのメッセージか、回りくどい
さて、左側に付いていた、という事はこれはこっち側のものだろうか
取った指輪を左手の指にあてがってみる
「そうですね、貰いました」
「へぇ、しかも左手って事は何? そういう事?」
「いいえ、違いますよ」
人差し指、入らない
「でも左手でしょ? なら薬指に~とかそんな感じじゃないの?」
「はい、違います」
中指、入らない
「じゃあどこよ」
薬指、やはり入らない
「ここですよ」
小指にゆっくり差し込んでみる
綺麗にはまった
「小指? 変な位置ね」
「ええ、そうですね。珍しい位置です」
「どういう意味なの?」
「さあ、今度調べてみましょうか」
どうやら、結構真面目に応援してくれているらしい
素直じゃない、素直だったらそれはそれで気持ち悪いが
「さて、戻りましょうか」
「あ、ちょっと、知ってるなら教えてよ」
「自分で調べなさい」
「ブーブー、ケチンボ―」
隣でぶつくさ言ってるフランカと一緒に艦内へと戻っていく
一瞬、後ろを振り返る
「……ま、いいでしょう。大目に見てあげますよ」
見えたのは相も変わらず美しく光る金色の空と
その中を自由に飛ぶ黒い軌跡
渡り鳥が楽しそうに羽ばたいていた
『リスカム、君にとって奴は何者だ
『何者とは』
『友人か、先輩か、それとももっと別の何かなのか?』
『……そうですね、言葉で表すのは簡単です。昔の先輩で、散々な目にあわされた、これですね』
『それにしては随分入れこむな、君も、奴も。互いに互いを見ている、恋人や友人としてではなく、もっと別の感覚だ』
『どうしてそんな事を聞くんですか?』
『……特に理由はない、ただ私の中の疑問を払拭したいんだ』
『そう、ですか…… わかりました、ある程度正直に言いましょう』
『ありがとう』
『と言っても結局答えは変わりませんよ』
『私にとって彼は、古い友人です』
『昔から続く切りたくても切れない腐れ縁』
『相棒、それだけです。フランカに対して抱いている気持と何も変わらない、信頼できる戦友です』
『ええ、そうです。それが答えです』
『それが、彼と私の関係性ですから』
今回、割と色んなゲームの小ネタが入ってます
後書きで解説しようと思いましたがそんな時間はなかったので解説無しです
どうしても気になったネタがあったならコメントで聞いてください
答えられる範囲で答えます