アークナイツ.Sidestorys Day After Day 作:Thousand.Rex
Lost Angels
「……まーたお前か」
「ああ、また私だ」
暗い荒野、月明かりだけが頼みの世界
「なんだ、見かける度に声をかける意義があるのか」
「あるよ、少なくとも私には」
「あれか、特典か。あいつらにでも頼まれたか」
「いいや、そういうわけじゃない」
その中で、赤く、揺らめく光があった
簡易的なキャンプキット、いつか誰かが誰かに譲った品
焚火を焚いているのはストレイド
その火に気づいてきたのはモスティマ
「いいじゃないか、交友があるのはいいことだよ」
「よくもまあ変われたものだ。鉄仮面め、きっと何人もの女を食ってるに違いない」
「そうだね、一部の派閥はアーミヤと争ってるよ」
「卑しい女どもだ、どうせなら仲良く分ければいいのに」
「ドクターがもたないね。後、流石に最高位の立場の人が何股もするのはどうかと思うよ」
「据え膳ぐらいは食わせてやれよ」
この二人がこうして会うのはよくあることだ
リンクスが彼のもとを離れてからも、モスティマは彼と会っている
偶然、全て偶然会っているだけ、二人とも狙ってるわけではない
「お前も争奪戦に参加したらどうだ」
「残念、そこまで入れこんではいないよ」
「そうかい」
これが、縁、そう呼ばれるものだろうか
ストレイドは否定するだろうが、モスティマは、妖しく笑うだけだろうが
それでもこれは、この二人には必要なものだ
「で、立ちっぱでいるつもりなら構わんが」
「まさか、椅子、借りるよ」
「もとはお前のだろう」
いつかのように彼の荷台から椅子を取り出す
火にあたっているストレイドの隣に座る
「一人旅は楽しいかい」
「こっちから同じ言葉を吐いていいんだぞ」
お互い、どこか達観してしまった同士
気が合ったのは、そのせいだろう
これはリスカムにもリンクスにも出来ない、あのドクターでさえ溶かすことの出来ない氷
同じ純度の氷だからできたこと
「たまには彼らと一緒に動けばいいのに」
「断る、離れてて丁度いいんだよ。ネストも、あいつらも」
「困ったリーダーさんだ」
適当に、適当な事を話し合う
モスティマは何だかんだで人と話すことに意義は感じている
ストレイドは意義こそないが意味はあると理解している
似た者同士だ
「君はもう少し人気者だって自覚したらどうだい」
「する理由がない。野郎にモテてどうしろってんだ」
「いいじゃないか、男同士も悪くはない」
「悪い、衛生に悪い、精神衛生に酷く良くない」
「だろうね」
ストレイドが煙草を口に咥える、火は点けず、弄び始める
それを横から見ていたモスティマがそっと手を動かす
「えい」
「あん?」
頬をつつく、一度、二度
もう何度か、彼が不審に思い顔を引きつらせるまで続ける
「どうした、不思議なことを初めて」
「何、前みたいな子供っぽい顔を見てみたいのさ」
「……なんでだよ」
「可愛いから」
「……二度と言われないよう、努めるとしよう」
「こら、拗ねないで、冗談だから」
「嘘こけ、冗談ならそんな楽しそうには……いや、なんでもない」
「おや、抵抗しないのかい?」
「……ま、今日ぐらいは許してやる」
されるがままにされる
ぷにぷにぷにぷに、いじられ続ける
「ホントにどうしたんだい、普段はやめろっていうのに」
「別に、たまにはいいかと思っただけさ」
なすがままにされる彼に何か感じたのか悪戯をやめる
その代わり、椅子を彼に近づける
「どうした、随分近いが」
「何、君の顔をしっかり見たことないと思ってね」
「そうか?」
「そうだよ、いつも何かやりながらだからさ、顔を向けてくれたことほとんどないだろう?」
「……そうかぁ?」
いつものように笑いながら言う
そして気づく
「おや、それなんだい」
「ああ、これか」
ストレイドの足元、椅子の足の横
小さな箱がある、持ち手の付いた紙製の箱
「少し前、知り合いがな、休暇で遊びに行った先で買ったそうだ」
「へえ、なんだい」
「そこそこいい物」
そう言って開封し中身を見せる
「ああ、知ってるよ、ヴィクトリアの方の有名なお菓子じゃないか」
「そ、ドーナツだ。並んだって言ってたな」
「いいね、甘い物は好きだよ」
「女はどいつもこいつもそう言うな」
「君は嫌いかい?」
「……まあ、嫌いじゃない」
箱をモスティマに寄せる、というか渡す
「いいのかい」
「いい、なんなら全部食え、丁度いい」
「丁度いい?」
その言葉がどういう意味を持つか、少し考える
そうして笑う、さっきまでとは違う、ある感情を乗せた笑み
「なるほど、ドクターから聞いたのかい?」
「いや、チビがな、勝手に教えてきた」
「そうか、彼女らしい」
一つ、箱から菓子を取り出す
輪っかの形状の菓子、中心に穴が開いた、独特な甘味
一口齧る、二口、三口、続けて齧る
「……上機嫌だな」
「ん? そうかな」
口元に欠片を付けたまま、どこか無邪気に頬張り続ける
「そんなに美味いか」
「ああ、美味しいね。グルメ誌にも載ってた店の物だから」
「ほう、長く並んでたわけだ」
「長く?」
彼の溢した言葉は、ある意味彼の大きなミスだ
そんな感想、実際に見てなければ出てこない
「へー」
「……なんだ」
「別に、そうだ、君も一つどうだい?」
「いい、いらん」
「まあまあ」
そう言って無理やり一つ取り出して渡す
押し付けるように渡す
「……いいって」
「まあまあ、ほら、ぐぐいっと」
「もがっ!」
受け取らないことに業を煮やしたのか、今度は口に突っ込む
ジャストミート、綺麗に彼の口に入る
「……むぐ、甘ったるい」
「それはそうさ、これは甘い物だからね」
「よくも食えるな、まったく……」
そのまま一口齧り、手で持つ
続きを頬張らずに輪っかに指を通して回し始める
「全部食べたらどうだい」
「俺の口に何があるか、よく見ろよ」
ドーナツの欠片が付いた折れた煙草が咥えられている
無理矢理突っ込めばこうもなる、不純物に塗れた煙草はどこか泣いてるように見える
「アクティブなのは結構だが、遠慮を覚えろ」
「君に言われるのか、少しは考えようかな」
「ああ、そうしてくれ」
潰れた煙草を取り、火に投げ入れる
炎に晒された紙筒はそのまま燃え朽ちる、灰になって消えてゆく
そのままモスティマはドーナツを頬張り続ける
ストレイドはそれを眺めながら菓子で遊び続ける
そうして箱の中身が空になる、平らげたらしい
「ごちそうさま、いやはや噂に違わない銘菓だった」
「そうか」
彼は変わらず回し続けている
「食べないのかい」
「今食う気がない、そのうち食べる」
ストレイドには甘すぎたのだ、彼の味覚には合わなかった
これは元々誰かに全て食わせるつもりだった、自分が食うことなど考えていなかった
「ふーん」
それを見ていた彼女は、何か企んだ風に笑いながら
「じゃあ、私がもらおう」
「あ?」
立ち上がる
「おい」
彼の前に立ち、彼の手から強奪していく
「よいしょっと」
「……なに?」
そうして、座る
「うん、いいね」
「何がだ」
ストレイドの膝に
「これも、噂に違わない心地よさだ」
「どこの噂だ」
「決まってる、ここを占拠してるのどこのお嬢様かな?」
「……チビめ、厄介な情報を」
彼の膝に座る、意外とスッポリはまっている
「いいじゃないか、君としては役得じゃないか?」
「違う、こういうのはな、もっとこう柔らかい女の子をな」
「ゲスだね、相変わらず」
小さな悪態をつきながらドーナツを頬張り始める
体重をストレイドに預け、リラックスしている
「……これは、チャンスか」
「違うよ、同意はしない。無理矢理はしないんだろ」
「クソ、言わなきゃよかった」
「後悔後先立たず、こういうことだね」
彼女のリングに軽く突かれながら、落ちないように調整する
羽に当たらぬよう、腕を前に回す
「どうしたんだい?」
「いや、ずり落ちそうだと思ってな、固定すべきかと」
「……卑しい考えじゃないのが驚きだ」
特別振り払うことはせず腰に落ち着ける
残ったドーナツを平らげ、彼の手に手を重ねる
「なんだ、どうした」
「何、子供が落ち着く理由がわかった気がしてね」
「そうか」
そのまま目を閉じる
何かを感じるように、体を沈める
「温もりか、理解できるかな」
「そうさな、気になるなら鉄仮面辺りに聞くといい。奴はこの手のスペシャリストだろう」
「そうだね、今頃誰かと語り合ってるかもしれない」
「ピロートークであることを祈ってやるか」
「血の海が出来そうだ」
奇妙な友人たちの夜が更けていく
不思議な交友は、この先も続いていく
イチャイチャ、カケナイ
トテモ、ムズカシ
ミンナ、ドウヤテルノ
サイバーパンク、タノシ