田中くんはけだるげをやめない   作:早見瞬

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しんどくて家に帰ったら次の日の夜まで寝ていた。あのときの虚無感を表現できる語彙力がほしいです。


うっかり描写を忘れていたのですが、クラスの担任は女性です。オリキャラになります。
原作通りのおじいちゃん先生と読んでいた方はごめんなさい。


田中くんの爆睡

「田中ー。ちゃんと帰れよ~」

「太田タクシー呼んどいたからな~」

 意識の遠くでなんか呼ばれた気がする。

 ゆっくり目を開けると、窓からオレンジ色の光が教室を包み込んでいた。

「夕方……?」

 周囲を見ても他の生徒の姿はなく、どう考えても今は放課後だった。

 まじか、朝から今までずっと寝てたのか……。寝ることは大好きだけど、普段はしないほど長時間熟睡してしまった時はなぜだか罪悪感がある。

 

 

「起きてたのか、志村と加藤から起きないと聞いて心配になったぞ」

 教室の入り口から太田が入ってくる。やっぱり一日寝ていたのか……。

「昨日寝付けなかったから、たぶんそれだとおもう」

 ぐっと伸びをすると背中がボキボキなる。これかなり気持ちいい。

「それに白石も来なかったみたいだし、だれもお前を起こせなかったんだろう」

「そうだね、俺は思い知ったよ。俺はどうしたって他の人の世話にならないと生きていけないんだから、感謝の気持ちを忘れちゃいけなかったんだよ。そりゃ白石さんも怒っちゃうよ」

「……間違ってはいないが、それが原因じゃないと思うぞ」

だよね。

 

 

 

「なんだ。太田に田中、まだ残っていたのか」

「すいません、もう帰ります」

 だるそうに教室に入ってきたのは担任の教師だった。女性にしては背が高く、長い髪をバレッタでまとめている美人さんで見かけは大きな会社の秘書とかでも通じそうなのに、男らしい口調で二年の間ではちょっとした有名人だけど、有名なのは口調だけじゃない。

 HRで生徒に修学旅行決めを仕切らせて自分は寝るという豪胆っぷり。『わがまま姉さん』というのが裏のあだ名である。

 そして注意だけして帰るのかと思いきや、そのまま俺たちの方へと寄ってくる。

「なにか用ですか?」

「ああ、実は先生このあと昔の友だちと一緒に居酒屋に出張に行かなくちゃならなくてな。だれか代わりに白石の家にプリント持って行ってくれないかなぁって思って」

「いくらなんでもおかしいと思います、先生」

「俺でもそれはなめてるって分かる」

 気持ちはすごい分かるけど。

 白石さんに学校行事やらせるしプリント持っていくのめんどくさがるし、もしかして白石さんが体調崩したのってこの人のせいじゃないだろうか。それだと世話してもらってる俺も入ってるか。

 

 

「まあそう言うなって。先生だってこれでも苦労しているんだぞ?」

 どうして苦労の話になった。

「例えばだれかさんが丸一日寝ていたせいで、教頭に怒られたりな?」

「田中。今だけは目を背けるな。お前のけだるげが周りにどういう迷惑をかけるのか知る良い機会だ」

 耳を塞ごうとした手が後ろに回される。

「さらに各担当教科の先生達からも、起きないから注意のしようがないって私に注意するんだよ。六限あったから六人だぞ? よってたかって罪のない女性をリンチだぞ? あっはっはっは……これ、おかしいよなぁ?」

 ガシッ! と目を逸らす前に頭がわしづかみにされる。めっちゃ痛い。

「おおた……たすけ、て」

 ギリギリと頭が軋む音がする。このままだと輪ゴムいっぱい付けたスイカみたいなことになりそう。

「うーん。ここは普段の行いを正してやるべきかどうか」

「いいから助けて」

 太田は意外と優柔不断だった。

 

 




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