初めて僕の書く田中くんが感情らしい感情を出してくれました。未だに使いこなせていませんが、少しは本物に近づけてあげれたのかなと思いたいです。
会話が途切れると、少し居心地の悪い空気になる。
もう会話を引き延ばすのには限界だ。ていうか普通に話せているし、今日は機嫌がいいのかもしれない。よし、ここできめるっ!
「白石さん……」
「な、なに?」
「ごめんなさい」
言って、綺麗に土下座をする。いま太田に頼ることはできないし、かといって後回しにすればどんどん拗れる気がする。
「ど、どどどどうしたの急に!?」
「理由はごめん、まだわかってないんだけど。俺、白石さんになにか失礼をしちゃったんだよね? だからどうか殺生だけは勘弁して頂けないでしょうか」
なんか変なしゃべり方になってしまった。
「……」
白石さんからの返事がない。もしや謝り方が良くなかったのだろうか。
「あの、白石さん?」
いい加減、反応がないので顔を上げると『ピロン♪』と場違いな音が鳴った。
「あっ! これはそのなんていうか! め、珍しくて!」
慌てて否定する彼女の手にはスマホが握られていた。……なして?
「田中くんがそういうことするの貴重だなってつい、あ、あはは」
「それは、許してくれるってことでいいのかな?」
おそるおそる聞いてみる。
地雷がある場所は探しても見つからなかった。だったらもう突っ走ってしまおう。
「えっとね、田中くん」
「はい」
たたずまいを直す彼女につられて、俺も曲がった背筋を伸ばす。なにこれ痛い。
「そもそもなんの話をしてるの?」
「……ん?」
「私、なにも怒ってないんだけど……」
首をかしげる彼女は本当になにも知らないといった様子。大人がよくやる形だけ許しているのともちがうようだ。あれができる人ってすごいよね。
「じゃあ昨日のメールはなんだったの?」
「昨日……メール……ああ!」
「もしかして本当に乗っ取られたりしていたの?」
一応、確認を取ってみるけど恐らくちがう。
「じつはその、あのときはむしゃくしゃしてて……」
「うん」
「適当に打った文章を間違って田中くんに送りました」
「それで?」
「そのあと弁明のメール打つのも忘れて、会いづらくて一日仮病してました」
「……」
なんだそれ。
「……帰る」
「えっ」
なんだろうこの感情。彼女に無礼を働いた自分を悔やんでいたけど、相手の方がよっぽど無礼だったなんて。
「じゃあおじゃました」
かんだ。
「ぶはっ」
「~っ!」
怒りと羞恥が混ざって余計に腹立たしくなる。
「ご、ごめん! でも今のは不可抗力だよ!?」
「わかるけど」
腕をつかまれやむなく会話に応える。
「その、本当にごめんなさい……。田中くんがそこまで気にするなんて思いもしなくて」
「俺そこまで無神経だと思われてたの?」
そんなことないと訴えるように俺の腕を握る両手がきつく締まる。
まるで迷子のように握る手は、振りほどく事もできそうにない。思い切りやればできるかもしれないけど、それをするともうこの子と話すことさえなくなってしまう気がする。
それは、今の怒りより大事なんだと思う。
「ごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい」
「はぁ。もういいよ」
声を湿らせてポツポツつぶやく彼女を見て、ようやく冷静さを取り戻す。
「よくない」
「いいって」
「よくない」
本人がいいって言っているのに、頑なに受け入れてもらえない。
「だって田中くん、まだ怒ってる」
「は? だから怒って」
スマホを向けられるとシャリンと音がなる。
「怒ってる」
画面をずいっと見せられて、驚く。
「うわ」
ていうか引いた。俺の目はまるでこれから人を殺しそうなほどにすさんでいた。
「まって、これちがう。目が、固まってるだけだから、ホント」
実際もう怒っていない。そのことを証明するようになるべく身振り手振りで柔らかい印象をアピールする。俺が悪い風なのは若干引っかかるけど。
「じゃあ、いいけど」
拗ねた子どものように唇を尖らせて俯く。こんな白石さん、そうそうみれるもんじゃない。
パシャッと今度は別の音が鳴る。それはもちろん俺のスマホからだった。
「これで許してあげる」
「と、撮ったの!? だめー! 消してー!」
「だれにも見せないから」
「うー!」
体力は底辺の俺だけど、女の子に比べれば身長は高い方だ。だから高く上げた腕に白石さんが届くはずもない。
「ばか!」
プリプリと怒るけれど全く怖くないどころかむしろかわいい。
「白石さんがそんなに感情的になるなんて珍しいね」
「田中くんに言われたくないよお! だれのせいだと思ってるの!」
「だれだと思う?」
「……ごめんなさい」
いけない、また怖くなってしまった。怒りにはご退去願おう。
「ほんとにもういいよ。なんかどうでもよくなった」
「なんか、あまり釈然としないんだけど」
「怒ったままの方がいい?」
「調子にのりましたごめんなさい」
……片足くらいはいてもらおう。
「でも俺が女子に怖がられる日がくるなんてね」
「私も、こんなに怒鳴る日がくるんなて」
「かわいかったけどね」
「やめて」
ペシッと頭がチョップされる。
「ふふふ」
さっきのぴりついた空気がほどけていく。俺もなんだか笑いたくなってきた。
「あの、もういいか?」
「「!?」」
僅かに開いたドアの隙間から太田の顔が覗く。
「いや! あまりに二人が遅いもんだから、お袋さんに見てくるように言われたんだ! け、決して会話を盗み聞きするつもりはなくてだな!」
「ちなみにどこから聞いてたの?」
「……言っても怒らないか?」
「怒るからいい」
もう五年くらいは怒りたくない。目がすっごく疲れる。
「そうか、すまん。白石もごめんな」
「いいよ、ぜんぜん気にしてないから」
「白石さん?」
「太田くんはケーキの飲食と持ち帰り禁止ね」
「っ──」
実質の死刑判決を下された太田は、綺麗な土下座をくりだした。効果はイマイチだ。
「おじゃましました」
「また明日」
「うんっ。二人とも来てくれてありがとう」
俺はプリントをしっかりと渡し、太田はケーキの飲食と持ち帰りに成功したのでおいとますることにした。
「白石さん、仮病もほどほどにね。クセになるといけないから」
「それも田中くんには言われたくないよ」
白石さんの頬がぷくっと頬を膨らむ。この表情は何度見てもかわいい。
今日だけで、かなり白石さんの新しい部分を発見した。俺の知らない面の方が多いのだろうけど、なんだか、嬉しかった。
「白石ってあんな顔するんだな」
「ぷくってやつ?」
帰路の途中、太田がポツリとつぶやいた。
「ああ、アレはいろんな男子が落ちてしまいそうだ」
「え、太田?」
「勘違いするなよ。俺のはただの考察だから、俺のはな」
「なにそれ」
「なんだろうな」
そんなとりとめない会話を挟んで、俺たちの帰路もすぐに別れを告げる。
「じゃあ明日も学校にくるんだぞ」
「明日もってどういうこと?」
ここしばらく俺は休んでいないはず。太田の言いたいことが分からない……夫婦なのに。
「筋肉痛とかで休みそうだからな、お前」
「さすがに白石さんに言っちゃったし、ちゃんと行くよ」
「そうか」
それ以上はなにも言わずに太田は俺に背を向けてあるきだした。
俺も帰ろう。もう夜も近いからお腹も空いてきた。
「──っ!?」
一歩踏み出した途端、ふくらはぎに切り裂くような強烈な痛みが走る。
後ろを見てみるとまだ太田の背中は見える。──よし。
スマホを手早く操作して電話をかける。
『……どうした?』
振り返り、うずくまる俺を見て怪訝な顔をされる。今しがた別れたばかりなのだからしょうがない。
「あ」
『あ?』
「足攣った」
『……』
このときの、太田のなんとも言えない顔は生涯忘れることはないだろう。
閲覧ありがとうございました。
確約はできませんが、なるべくペースを上げていこうかと思います。他にもやりたい作品があるので。
手は抜きませんっ。