思い切り決意! という展開にしたかったんですが、田中くんに拒否られました。
「太田……ちょっと助けて……」
「どうした? また足でも攣ったのか?」
校舎を歩く中、俺は立ち止まり大田に声をかけた。
「そうじゃないけど、歩けない意味では同じかな」
俺の膝はぷるぷると震えていた。
「つい十分ほど前からお前と一緒にいるが、なにがあったらそうなる」
「いや、今までの疲労がね……」
「疲労?」
白石さんと一悶着あったあと、俺なりに考えたことがあった。
俺のけだるげはもしかして迷惑をかけるどころではないほど酷いものかもしれないということ。
まあだるいのは生まれつきだけど、人との付き合いくらいはちゃんとしようと、真人間みたいな答えに至った。
「田中が……真人間になるだと!?」
「まあ驚くよね。俺も自分でかなりびっくりしてる」
かと言って急に真人間になれるなら苦労はしない。だからせめて、人に対しては誠実であるべきなんだと思う。
「うっ……ぐすっ」
「ちょ、大田? 何泣いてんの?」
「あの田中が、自分からけだるげをやめるなんて。これが泣かずにいられるか!」
「そういう扱いなのは知ってたけどさ」
なんかそう言われて泣かれるとすごい罪悪感があるんだけど。
「だから、今まで人にやってもらってたことを自分でやってみたんだ」
「えらいぞ、えらいぞ田中ぁ……!」
「でも慣れない筋肉たくさん使ったからさ、俺の足はもう小鹿なんだよね」
いつ前のめりに倒れてもおかしくないレベルで。
「まあお前が頑張った結果だからな。今くらいは手を貸してやろう」
「さすが太田」
「今日は田中のけだるげ卒業記念だな。ちょっと担ぐくらいなんともないぞ」
「まって。卒業するなんて言ってない」
「そうなのか?」
シュンと音を立てて落ち込む太田。目元が暗くなって怖い人にしか見えない。
「頑張ってみるってだけだよ。正直期待しないでほしい」
「そうか、すこし残念ではあるが、お前の第一歩には変わりないもんな」
「そういえば、白石には言ったのか? けだるげやめるの」
「言おうと思ったんだけどね。なんか言ったらやらなきゃって義務感湧いて、逆にやりたくなくなりそうだったからやめた」
それにこういうのは態度で示すべきだと思うし。なんならこれでできなかった時の事を考えるとかなり辛い。
「白石さんも厄介事が減って喜ぶんじゃないかな」
「否定し辛いぞ、田中」
それに修学旅行だってある。ちょっと歩いた程度で筋肉痛になってたら白石さんどころか班全体にも迷惑をかける。
彼女が楽しみにしてる北海道も、そんなことで台無しにしたくない。
「あ、ししょー! 太田くん! いま帰りですか!?」
正面の少し離れたところから元気百パーセントな声が聞こえてくる。この子はきっと誰かと人格が入れ替わってもすぐに分かるだろうな。
「みゃーの走るなって、危ないだろ……ってなんだ田中がいたのか。お前、みゃーのがこけたらどうすんだ!」
「ええ、なにその理不尽……」
なんかスケバンぽい。
「そーだ! 今からえっちゃんと修学旅行の買い物行くんですけど、お二人もどうですか?」
「買い物かぁ。俺はもう揃えているから今から買う必要はないな。田中はどうだ? お前の事だからギリギリまで放置するんじゃないか?」
「太田、それは流石に失礼だと思う」
担がれた状態で言って説得力があるのかは気にしない。
「す、すまん。さすがに修学旅行だもんな。田中もそれ相応の準備を」
「莉乃がしおり見て全部揃えてくれるから」
「……さっきの謝罪を返せか、けだるげやめる宣言はどうしたのどっちでツッコむか困るな」
できればどっちも勘弁してほしい。
「まあ、あんまり白石に迷惑かけるんじゃねえぞ。じゃああたし達は行くから」
「あ、えっちゃん待ってよー! ししょー太田くんさよーならですー!」
放課後の時間を邪魔されたくなかったんだろう越前さんは、宮野さんの手を引いて去って行った。越前さん、ぐっじょぶ。
「じゃあ俺たちも帰るか。あとあまり妹に準備をさせるんじゃないぞ」
「させてるんじゃなくて、させてくれないんだよ。お兄ちゃんは政治家の次に信用できないんだってさ」
「お前、本当は嫌われてるんじゃないのか……?」
むしろ逆だと思うけど、やっぱり自信亡くなってきた。
「ちょっと今日はご機嫌取りしてみるよ」
頷くと、保護者スイッチの入った太田タクシーはスピード違反を恐れないで飛ばした。結果、お巡りさんから注意を受けた。人を抱えるのは危ないと言われたけど、俺を歩かせるほうの危険性は聞いてもらえなかった。
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