「お兄ちゃん。明日の準備しておいたよ」
「ありがとう莉乃」
明日に迫った修学旅行の準備が終了する。ていうか終了のお知らせがくる。
「我ながらいい妹を持ったよ。ほんとありがと」
「べつに、お兄ちゃんにやらせたらいつまでも終わらないだろうし。忘れものとかひどいだろうし」
そうは言いながらも頬を緩ませる。世話をしておいてもらってなんだけど、将来ロクでなしに引っかからないか心配になる。
「明日、ちゃんと皆に付いて行ってね。お昼ごはんはあまり食べすぎちゃダメだよ。温泉が気持ちよくても寝ちゃだめだからね。それと」
ここから三十分ほど、注意事項が続いた。覚えきれない……。
「迷子になったら班の人に連絡……お兄ちゃん太田さん以外に連絡先知ってる人いるの?」
兄はボッチだと思われていた。
「大丈夫だよ。班の人は全員知ってるから」
「そう、ならいいんだけど……。班って女の人もいるの?」
「いるけど」
「……どんな人?」
「莉乃? 目がなんか怖いよ?」
白石家で写メを撮られた俺の顔とよく似ている。なにが莉乃をここまで……。
「どんなって、普通だよ。さすがに俺を担げる人はいないよ」
「なんで女子の基準が太田なのよ……」
俺の嫁なので。
「そうじゃなくて、どんな子がいるの?」
そう言われて思い出す。名前を言ったところで莉乃にわかるはずもないから、特徴を思い返す必要がある。
「えっと、すごく元気な子とすごく優しい子。あとよくわかんない人」
「なにそれ」
「なんだろうね」
「優しい人ってどんな感じ?」
「この話まだ続くの?」
「いいから」
まあ莉乃だってお年頃。兄の周りにいる異性は気になってしまうものなのかもしれない。荷造りもしてもらった事だし、少しだけ付き合おう。
「その人、最近までただいい人って思ってたんだけど、けっこう情緒不安定でさ」
「……一緒に行動して大丈夫なの?」
「ああ、そういう意味じゃない。まあ太田がいないクラスで俺の世話を引き受けてくれるほどには忍耐力あると思うから」
ぶっちゃけた話し、せっかちな人とかだったら俺はかなり嫌なタイプだと思う。
「だったらなんで情緒不安定なの?」
「あー、ごめん。言い過ぎたかも……。なんかね、脱毛の広告? が来てキレて俺に怒りのメールが間違いで送られてきたんだよね」
「その人、絶対危ない人だよ? リストカットの後とかあったりしない?」
「違うから、莉乃」
「うう」
俺の話し方が良くなかったんだろう。ひとまず莉乃の頭を撫でて落ち着かせる。
「お兄ちゃん、心配すぎるわよ……」
「その人に関しては大丈夫だって。元からかわいい人だったけど、最近よりそう思うようになったし」
「……は?」
「今まで怒ったりするところ見たことなくてさ、あまりそういう感情を見せない人だったんだけど、意外と怒りっぽくてさ」
「……」
「今話してたけど、割と普通の子だよね。そんな人が俺の世話してくれるとかありがたいの極みで」
「もういい」
話の途中で莉乃は立ち上がる。
「莉乃? どうしたの?」
「べつに。明日、私休みだから自分で起きてね。おやすみ」
「えぇ……」
なにかが莉乃の琴線に触れてしまったようだ。弁明をする間もくれず莉乃は部屋に閉じこもってしまう。
流石にいろんな人に世話をされている兄に失望したのだろうか。そういえば莉乃って太田のこともあまり好きそうじゃなかったもんな……。
「やっぱり、頑張らなくちゃいけないんだな……」
俺は扉が閉まった莉乃の部屋を見て静かに決意を固めた。
閲覧ありがとうございました!
ちなみに田中くんはまだ白石さんのことを普通にしては優しいよね、くらいにしか思っていません。少し彼女のかわいさに気づきつつあるようですが……?