お気に入り登録の増え方が異常でビビってます。感謝感激です。
「ごめんね、私がうっかりしてたばっかりに」
「だから俺が悪いって」
何度目になるかわからないこのやりとり。雨に濡れてバスに置いて行かれた責任を互いに奪い合う。
荷物さえあればよかったんだけど、あいにく二人とも貴重品の類いはバスの中だ。
「せめて施設の人が残ってくれていれば……」
「牛さんはたくさんいるんだけどね」
俺たちが雨宿りしている場所は牛舎の屋根になっている部分。人が出払っているのか扉は施錠されて、人の気配はない。
「でも、きっとだれか来てくれるよ。それまで頑張ろうね、田中くん」
こんなときでさえ彼女は俺のことを心配してくれている。
男として頼りなさ過ぎるのに怒りもしないで。そんな彼女だからこそ、俺もむずがゆい思いになる。
「俺が太田だったらか○はめ波とかで雨止ませることもできたのに……俺でごめんね、白石さん」
「田中くんは太田くんになにを期待してるのかな……?」
少しでも笑いを。と思えば心配そうな顔をされた。こんなとき本当に俺じゃなくて志村とかだったら場を和ませるなんてわけない……と思ったけど濡れた白石さんに興奮して襲いかかるかもしれない。やっぱり俺でよかった。
「あ、でもいま着てるの体操服で助かったよ。他は全部お気に入りなんだ」
白石さんが明るい声で言う。
たしかにこれなら濡れても特に気にすることはない。寒いけど。
なぜ俺は雨バリアーを習得していないんだ。
「そっか。早く帰って着替えたいね」
「チッ」
「し、白石さん?」
「ん、なに? 田中くん」
「いや、なんでも……」
いま、彼女から到底似つかわしくない音が発せられた気がした。
しかし彼女は呼ばれた猫のように首をかしげている。きっと気のせいか、俺の自責の念が幻聴を呼んだのかもしれない。
「チッ」
絶対気のせいじゃない。
白石さんからはそういう気配を感じないけど、やっぱり怒っているんだろう。俺に付き合ったばっかりにこんなことになったんだ。仕方ない。
「白石さん、なんとお詫びすれば」
早めに謝ろう、そう思い隣に視線を向ける
「え? ……ッチ。ごめん、くしゃみが……」
チと発すると当時に身を折る白石さん。ああ、舌打ちじゃなかったんだ……。
「ど、どうしたの? なんか魂抜けそうになってるよ!?」
「いやなんか力が抜けてきた」
「し、死んじゃだめだよ! た、たならっしゅ!」
「なにその役に立たなそうな名前」
雪の中、主人を探すのが途中でめんどくさくなってその辺でくたばってそう。
でも白石さんが震えているのを見ているのも心が痛む。フラン○ースの犬ほどじゃないけど。かといって俺たちの服は両方ずぶ濡れ。こんな時できることと言えば。
「ちょっと失礼……」
「へ!? た、ちゃ、ちゃ、ちゃちゃなかくん!?」
「え、大丈夫?」
俺は白石さんの手を握ると、半端ない動揺が返ってきた。
少しでも体温が高くなればと思ってやったけど、よくよく考えればなんかナルシストのやりそうなことだ。
急にこんなことされたらそりゃ戸惑うよね。
「ごめん。嫌だよね」
手を引き戻そうと力を抜く。でも手は戻って来なかった。
「……?」
「ぜ、ぜぜ、ぜんぜん、嫌じゃないよ」
俺の右手は彼女の両手に包まれ、優しく握られていた。
「白石さん、その……」
「ごめん。もう少し、もうすこしだけ、このままでいさせて?」
彼女の震える肩はこんな状況の恐怖からなのか、単純に寒いのか……。
なにも言わず、なにも言えず、ただ彼女の体温だけが感じられる。
そして会話がなくなると、その場から音が消えた。
……ん?
「雨、やんでるね」
一時的な雨だったらしく、見上げると空には綺麗な空が戻っていた。
「あ、あの……田中くん」
「ん?」
「その、手……もう大丈夫だから、ありがと……」
「っ!」
急いで自分の手を再回収した。
白石さんに握られていたと思っていた手は、いつの間にか俺が握り返していた。
「その……ごめん」
「いえ、別にその……えっと……」
さっきとは違う理由で彼女の顔を見ることができない。
ていうか今の表情を見られたくない。だから口ごもる彼女もどんな顔をしているのか分からない。
「「……」」
また会話が途切れて、北海道のおいしい空気がまずくなってきた時だった。
「お前らこんなとこでなにしてんだ?」
「「っ!!」」
俺たちに気づいて声をかけてくれたのはトラックに乗った気のよさそうなおじさんだった。ていうかメシアだった。聖地だったり神様だったりまじここ天国。
「た、助けてください!」
「え、襲われとるんか?」
白石さんも相当テンパっているようで。
助けを求められたおじさんは「こいつ人襲えんの?」という目で俺を見ていた。襲えないです。
バスに置いて行かれた経緯を話すとおじさんは俺たちをホテルまで送ってくれるという。
「ちょっと乗り心地は悪いが、勘弁してくれや」
トラックの荷台に乗り込んでふと気づく。
「あれ、荷台って人乗せちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「二人までなら大丈夫だった気がするけど……」
白石さんとの空気も戻って、二人で首をかしげる。
「ここいらでそんなこと気にする奴はいねえよ。街中なら別だがよ」
がっはっは! とおじさんは説明しながら笑う。
「まあ落っこちねえようにだけ気を付けてくれや」
そう言ってトラックは走り出した。
「なんか、助かったね……白石さん?」
「コクリコクリ」
荷台の縁に背を預ける彼女は船をこいでいた。
すると、信号で止まった勢いで身体が反り返る。
「ちょっ!」
あわや転落しそうになる彼女の身体を必死に支える。
「あ、あぶな……」
「ふぁ? ん~……」
「あ、白石さん。起きた?」
「すぅすぅ」
起きてなかった。
またずるりと音を立てると今度は俺の膝へと崩れる白石さん。
「これが一番安全なら仕方ない」
だから太ももにくるこそばゆい感覚も、握られている俺の右手も、全部安全の為。
決して俺が味わっていたいものではない。
「田中ー! 白石さん! 心配したぞ!」
「無事でよかったぁ」
ホテルに着くなりクラスの皆が駆け寄ってくる。
「ごめんね、みんな。心配かけちゃって」
オイオイと泣くクラスメイトをなだめる白石さん。この光景なんか宗教っぽい。
「田中もよく無事だったよなー。流石俺の親友」
肩を組んできた志村に言う。
「いないことも気づかないのに?」
「ご、ごめんって! 担任がアレだったし、宮野さんが本格的に目回しちゃってさ。みんなてんやわんやだったんだよ」
「そーそー。んで気づくの遅れて担任が飛び出して行っちまうし、しまいにゃ停電。どうすることもできなかったんだよ」
「こっち停電してたんだ」
ていうか宮野さん見かけないと思ったら酔ってたのか。弟子の体調不良に気づけないなんて師匠失格だ。これを機に破門を要請しよう。
そのころ牧場。
「田中ー! 白石ー! どこだー!」
「置き去りにしてごめん! はやく旅館に帰って暖かい風呂に入ろう!」
「でーてーきーてーくーれー!」
後の夜更けに半泣きの教師が牧場で収穫され、トラックで即日配達してもらったそうだ。
北海道の方言を勉強する時間がなかったのでほとんど標準語です。北海道の方、すんません。
そろそろ焦ってる田中くんを見たい所ですが僕の腕が追いつくか心配です。だって、田中くんだもの……。
※道路交通法はきちんと守りましょう。
誤字脱字あれば報告お願いします。