田中くんはけだるげをやめない   作:早見瞬

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こんにちは、早見です。

しばらく諸事情で更新を止めていましたがなんとか再開です。


田中くんの修学旅行~女子部屋~

「で、どうだったのよ?」

「なふいが?(なにが?)」

プチ遭難から救われた私は暖かな布団に入り、お菓子を咀嚼していた。修学旅行のポテチ、おいしい。

 

 

「呑気に菓子食ってんじゃねー! これは没収だ!」

「ああそんな! それが最後なの!」

「おだまり! そんな子にお菓子なんてもったいないわ!」

「みよちゃんはどのポジションなのかな!?」

 私ときっちゃんのやり取りを見たみよちゃんもよく分からない形で参戦してくる。

「その話、私も聞きたいです!」

「わぁ!? 宮野さん!? 寝てたんじゃないの!?」

「こんな面白そう……いえ、白石さんのピンチに寝てはいられません!」

 横になっていた布団がガバッと縦に起き上がる。

 この子面白そうって言った! 面白そうって言った!! 応援してくれていると思ったのに師匠のバカー!

 

 

「で、まさかほんとになにもなかったの?」

 ポテチが一時返却され、会話が最初に戻る。

 恥ずかしいけどこれは言わなきゃダメだよね……。普段の相談に乗ってもらってるんだからみんなにも聞く権利があるんだから。

「実はその……膝枕を……」

 うー! やっぱり恥ずかしいー!

「したのか!?」

「しーちゃんやる〜」

「お、大人です……」

 

「膝枕してもらう夢を見ました……」

 顔から火が出そうなのが自分でも分かる……いっそ燃やしてほしい……。

 

「……おい、みよスケ」

「は、ここに」

 きっちゃんはふんぞり返って、みよちゃんを呼ぶ。スケ?

「こいつのポテチを全部食え!」

「かしこまり~」

「なんでえええ!!」

「うるさーい! お前みたいなナマケモノに菓子などくれてやるものか!」

「ほんとにそれが今日最後のやつなのにー!」

言ってる間にもポテチはバリバリと音を立てて数を減らしていく。

 

 

「そんな悠長にしてたら誰かに取られちゃうよ?」

「ポテチは取られてしまいましたね」

 濁音は消え、パサりと乾いた音になってしまったポテチの袋に涙する。うっうっ……私のおやつ……。

「自分でも分かってるつもりなんだけど……」

 彼を目の前にすると、どうしたって羞恥心の方が上になってしまう。このままじゃいけないと思いつつも私はなかなか行動できないでいる。

 

 

「まあ取られるとは言ってみたけど、田中ってあんまりモテなさそうだよな」

「それを言われると複雑なんだけど……」

 喜んでいいのか、怒った方がいいのかコメントしづらい。

 でも確かに私がゆっくりとしていられるのは彼の非積極性が大きいだろう。

 

 

「え。田中くん、モテるよ?」

それはみよちゃんの呟きだった。

「……え?なんて?」

 

 

「モテるよ。田中くん」

 今度はちゃんとみんなに聞こえるようにハッキリと言う。

「な、なななななにを根拠にそんな」

「根拠ならあるよ」

自分のカバンから新しいお菓子を取り出しながら彼女は言う。

「私も最初は、けっこういいなーって思ってたから。あ、これポテチのかわりね」

「あ、ありがと…………はい?」

手渡されたチョコが手からポロリと落ちる。

「みよすけ……お前、そうだったのか……」

「う、うそ……みよちゃん、私今までなんてこと……」

「あ、いいなと思ったの最初の日だけだから」

 私頼りたい系だから運ばれる人はちょっとね。と付け加える。

「な、なんだぁ。びっくりさせないでよぉ……」

「私はなよっちい男は好きじゃないからなぁ。正直白石には悪いけど魅力がわからん」

「きっちゃんはサバサバしてるからね。たぶん田中くんの方も嫌だと思うよ」

「さすが本妻」

「しーちゃんこわーい」

 すかさずツッコミを入れたけど、自分でも驚くほどに言葉にトゲが出てしまった。

 うう、やり辛いなぁこの会話。黙ってるわけにもいかなかったし……。ていうかケンカしてもおかしくない言い方だったのに、みんな優しいなぁ。

 

 

 でもそこまで田中くんが高評価じゃなくてよかったとも思う。彼の魅力は私だけが知っていたい。なんて思うのは独占欲が強いのかな、私。

「あ、モテるってのにはちゃんと根拠があるよ? 一年の頃は他校から紹介してって頼まれた事もあったよ」

「うそ!? そんなサッカー部の部長みたいなことが田中くんに!?」

 あり得ない信じたくないでもなんか嬉しい!

「彼女作るのめんどいみたいなこと言ってたからその時は断ったんだけどね。無理に紹介して田中くんに嫌われるとなんか不幸になりそうだし……」

「あー、分かる。なんか座敷童的な空気あるよね」

「さっきから否定しにくいなあ、もお」

 でも意外だった。田中くんが少しでも異性に積極的な人だったらそのまま紹介されてあっという間にお付き合いに発展していたと思うと──うん、想像できない。

 

 

「まあそういう事もあるんだから、急いだ方がいいんじゃない? もちろん二人がゆっくり仲良くなってくれるのが一番なんだけどさ」

「恋愛ってタイミングっていうもんね」

「そうそう。両想いだった二人がちょっと相手の嫌なタイミングで告白しちゃって振られるとかね」

「あるある。気持ちが同じなら大丈夫ってのは少女漫画の幻想だよな」

「あとは相手からのアプローチを待ってもぜんぜん来ないからあっさり他の人に乗り換えちゃったりね」

「……二人とも、私をいじめて楽しい?」

 今の私はきっと半泣き状態だ。

「それだけ恋愛はなにが起こってもおかしくないってことだよ」

「もしくは、かわいい高校生大好きな素敵お姉さんに捕まったりして」

「それとも同じく他校の修学旅行生か。はたまた密かに思いを寄せるクラスの誰かか……」

「そ、そんなの漫画だけだもん! おやすみ!」 

 無理やり話しを打ち切り布団の中に潜り込む。 

 

 

「あーあ、拗ねちゃった」

「きっちゃんが大人げないから~」

「いや、子どもなのは白石さんじゃないかね?」

「うるさーい! もー!」

 二人とも焚きつけようとしてくれてるのは分かってる! でも私にだって耐久力というのがあるの! ていうかないの! どっちだよ!

 

 

「お三方、そろそろ静かにしてもらえると助かるです」

「うわ!? ご、ごめん!」

「そ、そういえば体調崩してたんだったね! よし寝よう!」

 普段見ることのない不機嫌な目の宮野さんに二人は従わざるを得なかった。

 あれ、でもさっきは元気に話を聞きたがってような気がするんだけど……でも一度も会話に入ってきてないような。あれれ?

 

 




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