見事に物語が動かないんです……。
あーだるい。
「あ、おはよう、田中くん。遅かったね?」
「白石さん……おはよ」
なんとか俺と太田はホームルームが始まる前に新しいクラスへとたどり着けた。
そこを出迎えてくれたのは白石さん。
おっとりとして優しい雰囲気でキラキラとしている彼女は学年の人気者だ。
「今ちょっとロミオとジュリエットな気分だから話しかけないで……」
「太田くんは残念だったね……」
これから一体俺はどうすれば良いのだろうか。
そもそも太田が今まで全部やってくれていたのが特別だったんだ。
これからは俺が成長していくしかないんだ。
……だるい。
「ごめん、もう大丈夫。心配してくれてありがと」
だからって女の子に心配をかけっぱなしてわけにもいかない。
「そ、そんな別にお礼言われるほどの事じゃ!」
顔を赤くしてあわあわと両手を振る白石さん。
栗色の長い髪が揺れて、おっぱいも結構揺れて、男子の競争率はかなり高いそうだ。
「でも私もなるべく田中君のサポートしていくからなにか困った事があったら言ってね!」
「ありがとう」
本当にすごく良い子だ。どうして彼氏がいないんだろうか。
「おーい、田中ー。新学年最初のホームルームで寝られちゃうと先生心折れちゃうぞ~」
「あの、田中くん……さっきまで頑張ろうとしてたんですけど、疲れちゃったみたいで」
「そうかぁ。白石、太田の代りじゃないけど面倒見てやってくれ……」
「はい! 頑張ります!」
夢うつつに俺の保護者が決まってしまったのは理解できた。迷惑かけないように、しない……と……スヤァ。
「田中くん。これから体育館で始業式だって、起きて」
「お昼食べないと夕方までもたないよ? 私のおかず少しなら食べられるかな?」
「明日から平常授業だから忘れものしちゃだめだよ?」
結果から言うと、助けられまくった。
白石さんは太田か、もしかするとそれ以上に面倒見が良いかもしれない。ていうかいいよねこれ。
太田みたいにタクシーできない所以外は……。
でもさすがに申し訳なさがこみ上げてくる。
「白石さん、いろいろしてくれてありがと。でも前も言ったと思うけど、俺はちょっとほっとかれるぐらいが丁度いいっていうか」
「うん、そうしてあげたいのは山々なんだけど、ほら……」
ケータイの画面がこちらに向けられる。
『田中は気を抜くと周りから存在ごと消えてしまうから、済まないが白石。田中の事を見てやってくれ』
「僕は幽霊か何かなのかな。信じてもらえないと力を失う、みたいな」
「あ、あはは……」
結局その後も白石さんはなにかと俺の世話を焼いてくれた。
ほんとに良い子すぎて、俺の情けなさがすごい分かる。
白石side
(ああ~! まさか太田くんがクラス離れて私が田中くんのお世話をする事になるなんて……。
どうしよう、ほっといてって言われたのに結構ぐいぐい絡んじゃったな……疲れられたらどうしよう……)
帰り道、私は好きな人との距離が急激に縮んだことに頭を抱えていた。
「おーっす白石。今帰り?」
「こんな時間までどうしたの~?」
「あ、きっちゃん、みよちゃん」
背中をポンと叩かれ振り向くと、そこには私の友だちがいた。
私より少し身長が高くてボーイッシュな吉高こと、きっちゃん。対照的に背が低くて可愛らしい三好こと、みよちゃん。
「うん、委員長の仕事でね……」
「そっか、お疲れさま」
「これあげるよ」
「あ、ありがと」
みよちゃんからお菓子が手渡される。茶道部のみよちゃんはいつもお菓子を携帯しているのだとか。
「委員会の仕事ってそんなに大変なの?」
「それは大したことないんだけど」
「ははあん、さては例の恋の悩みですな?」
「う゛」
なにを話すまでもなく悩みの種が暴かれてしまう。二人には私が恋をしていることはずいぶん前に話しているし、相談にも乗ってもらっている。話す前に悟ってくれると説明が省けて楽な気になる。
「ほほう、人気者白石さんは一体どんな進展を迎えたので?」
「噂のカレ、気になる……!」
「あ、あはは……楽しい話じゃないよ?」
ニヤニヤしてはいるけど、二人は面白くもなんとも、というかつまらないはずの話をゆっくりと聞いてくれた。
(子どものころから二人と友だちだったら幸せだったろうなぁ)
それから解決する訳でもないとりとめのない話を聞いてもらって、解散した。
家に帰りベットに倒れ込むと、二人の優しさが胸にじんわりとこみ上げてくる。コミュ障で友だちのいなかった中学時代には考えられないことだ。
もし田中くんと上手くいかなくても二人がいてくれるならなんとかなりそうだ。
だからといって諦める訳じゃないけど。
「でも私、田中くんとどうなりたいんだろう……」
去年の暮れに私は田中くんとの今の関係を大事にしようと決めた。
でもあのときとはずいぶんと環境が変わってしまった。
「太田くんと田中くんがセットなのが基本だったからなぁ」
むしろ私が踏みとどまっていた原因は太田君なのでは? おのれ太田……。
なんて、去年に告白なんかしても絶対に上手くいかなかっただろうけどね、サンキュー太田。
今の彼との関係はすごく楽しい。幸せだ。ずっと続いてほしい。
でもこの千載一遇の機会を逃したくない自分も確かにいる。
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