とうとう自分の気持ちに気づいてしまった田中くん。
しかし意識してギクシャクする彼の姿を描写するのが尋常じゃなく難しいです……。
取りこぼさないように頑張ります。
夜が明け日が昇り、朝食を終えたクラス一同は街の一角に集められていた。
全員がラフな格好をしていて、観光タイムを今か今かと待ちわびている。
「お前ら全員揃ってるな?」
「大丈夫だよ」
「はやくしてくれよ」
「ていうかホテル出る前にも確認したじゃん」
この修学旅行のメインディッシュを目の前でお預けされて、不満が徐々に積もると、怒りに変わり始める。
まったくみんな、修学旅行だからってそこまでピリピリしなくてもいいだろうに。
「うるさい! 昨日あんな事があったんだ。下手したらクラス全員強制送還だぞ!」
「「「……」」」
先生の言葉に全員が一斉に俺を睨みつける。恐いから。ゾンビかよ。
「まあ過ぎたことはいいじゃないっすか。それより先生。あっちで高級牛肉食い放題が」
「各々、隣の市もしくは駅までいかないこと! なにかあれば私の携帯番号に連絡すること! 班の誰か一人でも欠けたら行動停止するように! 以上解散!」
怒涛の勢いで場を締め括り、牛肉を求め去っていく先生に誰もが時間を忘れ──
「食い放題ってお昼からなんだけどマズかったかな……」
たと思いきや全員、鬼の居ぬ間になんとやら。脱兎のごとくその場を離れた。
「どうなってもしらないぞ志村」
「なんだよ、ナイス機転だろ! めっちゃイケメン対応だろ! 女子惚れちゃダメだからな~?」
「あ、うん」
「別にそういうの求めてないから」
「ツッコんでくれよ!」
「え。まじで言ってんのかと思った」
「あそこで惚れるのは田中くんなんじゃない~?」
素早く解散した後、志村、加藤、吉高さん、三好さん、白石さん、宮野さんで班が構成される。そこに俺は含まれていない。なぜなら……。
「み、みんな待って! 田中くんがダウンしてる!」
「ししょー! ご無事ですかー!?」
俺は速攻でみんなに置いていかれていた。
昨日のかなりの行動量に、身体が筋肉痛という悲鳴をこれでもかと鳴らしていた。
「ふ、ふたりとも。俺のことは気にしなくていいから。あとで先生に連絡してホテルで休んでるから」
とくに白石さんにはあまり構ってほしくない。
彼女とは顔を合わせづらいのもあるけれど、それ以上に昨日の今日で何度も迷惑をかけたくない。
「だめだよ」
そんな俺の願いは即座に却下された。
「田中くんがいないなんて、絶対だめ」
真摯に見つめる彼女の瞳は逸らすことを許さない。
彼女はとても優しい。だから、勘違いなんてしちゃいけないんだ。
これは白石さんにとって好意であっても、好の字になんの意味もないんだから。
「ほら。立って?」
「いや、えっと……」
「?」
俺の心情を知るよしもない白石さんは不思議そうに首をかしげている。
つい数時間前に、意識してしまった相手の手を簡単に握れるほど俺のは丈夫じゃない。
「どうしたの? ほんとに体調悪いの?」
白石さんの目がどんどん心配の色に染まっていく。
その表情に胸を締め付けられ、思考さえも停止しそうになる。
不安げな彼女を見て……かわいいと思ってしまう俺はサドなのかもしれない。
譲る気のない白石さんに根負けして手を取り立ち上がる。
手が触れ合う。柔らかく、細い手が、自分の手の中にすっぽりと収まる。
「じゃあ、行こっか」
「え、あ……うん……え?」
「どうしたの?」
歯切れの悪い返事が気になる様子の白石さん。
勘弁して下さい。
「白石さん、いつまでにぎってるんですかあ? ししょーも赤いですよ~?」
俺たちの状況をニマニマと眺めてる宮野さん。視線は握り合った俺たちの手へと向けられている。
「わ、わわわわわ!? ご、ごめん!!」
「い、いやべつに……」
指摘されて急いで手を離す白石さん。
これで早くなった鼓動が落ち着けられる。普段心臓にかからない負荷をかけている俺だから、気絶とかありえそう。
そして北海道の風で手が急速に冷えていく。
「代わりに私がつないであげましょうか?」
「君はちょっと調子に乗りすぎ」
「い、いふぁいれすししょう~!」
宮野さんのほっぺを思いっきりつねる。抗議のためにぶんぶん手を振ってるけど、知ったことか。
「白石さん、ムッとしてどうしたの? お腹空いた?」
「なんでもないです!」
なにやら志村が白石さんに話しかけて怒られていた。これだからセクハラ野郎は。
「ほーら! みんな待っててくれてるから!!」
その白石さんからのお叱りが入る。珍しく怒る彼女に俺も宮野さんも背筋が伸びる。
「あはは……ちょっと遊びすぎちゃいました」
「ほんとにね。宮野さん、集団行動ちゃんと守らないと」
「ししょーがそれを言いますか!? せっかく様子を見に来てあげたのに!」
「だからほっといてって言ったじゃん」
「その言葉、白石さんにも同じ事が言えますか? 言ってきていいですか?」
「……ごめんなさい」
「ふっふっふー」
にんまり口角を上げる宮野さんに脱力する。この子にいじられるの、ほんといい気がしない
「こら二人とも!」
「「ごめんなさい」」
さっき言った言葉を再び二人で重ね合わせる。怒った白石さんマジで恐い。
「おうおう田中~。見せつけてくれてんじゃねえか~」
前に男子、後ろに女子と固まったところで志村が肩を組んで絡んでくる。うざ。でも白石さんの近くにいるよりはマシだ。
「田中、めっちゃ顔に出てる。友だちに向ける顔じゃないぞそれ」
「なに言ってんのさ。この班で男子の友だちって加藤だけだよ?」
「……うん、そうだったな! ごめん」
「おいおいおい! 酷すぎないかその会話!」
酷いのはお前の態度だ。と言いたいところだけどせっかくの楽しい雰囲気を壊したくはない。
ここは俺が大人になるしかないみたいだ。だけどその原因が志村にもあることをちゃんと伝えないと。
「志村……覚えとけよ」
「めっちゃ怒ってるじゃん。おい志村、謝っとけよ」
「軽いノリにそこまで言う……?」
俺と加藤の追撃にがっくり肩を落とす志村。思った以上に効いてしまったけど別にいいや。
「ちくしょー! モテるお前らにいじりたい奴の気持ちが分かるかー!」
一生分かりたくない気持ちだけど、その言葉を吐き捨てると同時に志村が走り出す。
「志村ー!」
呼びかける加藤の声に彼は振り向かない。それでも加藤は親友のために言葉を紡ぐ。
「ちょっと小腹空いたからなんか買ってきてくれー!」
絶対今言うセリフじゃない。
「お前なんか絶好だばかやろー!」
一度足を止めた志村がもう一度走り出す。
その走った位置がよくなかった。
「きゃっ!?」
志村が走り出した場所は曲がり角だった。そんなところで走れば、事故も起きやすい。
「大丈夫ですか!?」
「あ、いえこちらこそ」
素早く駆け寄った加藤が倒れた人に手を差し出し起こす。
「志村、こういうところだと思う」
「あ、えっと、その……」
志村はなにをすればいいのか分からずにオロオロしているだけだった。
こういう時ってどうすればいいか分からなくてフリーズするよね。
「ちょっとあんたらなにやってんの!」
「すいません、ここはどうかメガネの命一つでどうか……」
「い、いえ! こっちもよそ見してたし……て、あら?」
「え、うそ!?」
駆けつけた三人の女子たちのうち、白石さんだけがお姉さんに対し違う反応を見せる。まさか知り合いなのだろうか。
「田中くん! この人!」
腕を引かれ、お姉さんの前に引き出される。
「え、志村の命じゃ足りない?」
「そうじゃなくてこのお姉さん! ワックの!」
「あ……」
気がつかない方がおかしかった。ぶつかったお姉さんは俺と太田がよくお世話になっているワクドナルドの店員さんだった。
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