田中くんはけだるげをやめない   作:早見瞬

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こんばんは、早見です。

お気に入り登録がかなり増えててびっくりしました。ありがとうございます。
これからも頑張りますです。


田中くんの修学旅行 観光タイムその2

 

 

 先を歩いていた男子達が騒ぎ出して、人にぶつかったのが見えた。

 想定外のトラブルに私たちは一斉に駆けだして相手の無事を確認して平謝り。それで事は終わると思っていたけど、予想外すら終わっていなかった。

「うそ!?」

 思わず声が上がり、何度も凝視する。

 やっぱりこのお姉さんワックの人だ!

 

 

「田中くんこの人! ワックのお姉さん!」

「あ、ほんとだ」

 引っ張りだした田中くんの目が少し大きく開く。やっぱり気づいてなかったんだ。

 って! 感動している場合じゃなくて!

「あ、あのすいません。お怪我は……」

 既に立ち上がりこっちを眺めるお姉さんの安否確認を改めて行う。

 感動のあまり、こっちからぶつかったという事を一瞬忘れてしまっていた……なにも言わないし怒ってるかも……。

 ていうかこれ志村くんが謝るべきじゃ……。

 

 

「大丈夫だよ。そんなにかしこまらないで」

 ふふっ。と微笑み私の無礼を気にもとめない大人の対応に、無性に恥ずかしくなってしまう。

「すごい偶然だね。こんな所でも君たちに会うなんて」

「あはは……」

 確立だけで言えば宝くじより高そう。

「あ、でも今日は大きい子はいないんだね?」

「太田……」

 お姉さんの話のフリに田中くんが寂しそうな反応をする。あ、太田シックだ。

 

 

「で、今は修学旅行の自由時間で……」

「へ~。実は私もね……」

「おい白石さんや。さっきから私たち置いてけぼりなんだけど」

「説明しろや~」

 一通り説明をすると、焦れた二人がヌルヌルと絡んできた。

「あ! ごめん! 忘れてた!」

「そ、そんなっ。忘れるなんてひどいっ」

「しーちゃん……友だちだと思ってたのに……」

 私のうっかりに二人が落ち込んでるけど、これに構うと長いなんだよなあ。

 

 

「あ、あああのお姉さん! さっきはそのあの」

「ぶつかった子だよね? こちらこそごめんね?」

「いいいいい、いえいえいえいえあのえっと」

 落ち着けよ志村。

 思わす呼び捨てにしてしまうほど志村くんはアレだった。存分にお姉さんを見習うといいよ……。

 

 

「おーい、転んだみたいだけど大丈夫?」

「そんな焦らなくてもゆるキャラは逃げないよ~」

「まったく、子どもなんだから」

「あ、みんな。ごめんごめん。 走ってたら高校生達にぶつっちゃって」

 またしても曲がり角の影から三人のお姉さん達が現れた。

「え、ええっと」

「ああ、この子達は大学の友だちでね。いま旅行してるところなんだ」

「そうなんですね~。じゃあそろそろ私たちはこの辺で……」

 こういう全く関係のないグループが一緒に居てもあまりいいことはない気がする。ていうか元ぼっちの私には限界が近いです。

 

 

「ちょっと待って!」

「な、なにか?」

 にこやかに解散しようとしたところで背の高いお姉さんに呼びとめられる。

 短髪にサバサバとした雰囲気はどこかきっちゃんに似ている気がする。あと胸が大きい……とても。

 その人は足早に寄ってきたかと思いきや、ずいっと田中くんに顔を近づけた。

 蛇に睨まれたカエルのように、田中くんが震えている。

 彼の反応なんてまるで知らないようにワックお姉さんに視線を向け

「もしかしてこの子って、いつもアンタが言ってたけだるげの……?」

「うん、そうだけd」

「めっちゃ美形じゃん! ていうかかわいい!」

 ……はいいいいい!? お姉さんまだ喋ってる途中だったよ!?

 言うやいなや、田中くんをその豊満な胸の中へ抱え込んでしまった。

 

 

「みんなも見てよ! すっごいかわいいよ!」

「ほんとだ~。こんなかわいい子いるなら早く紹介してよ~」

「いや、ただの常連さんだからね? 友だちとかじゃないからね?」

「そう言って自分で独り占めする気だったんでしょ」

「そんなのないから!」

「でも確かに。ここまで顔が整ってる男の子なんてそうそういないわよね」

「ね~キミ~彼女とかいないの~?」

 黒髪美人お姉さんと、宮野さんと同じくらい背が低くまったりとしたしゃべり方のお姉さん……お嬢さん? が参戦すると、田中くんはあっという間に飲み込まれていってしまった。

 

 

「お~すごーい。田中くんモテモテだ~」

「田中がモテるってマジだったんだな」

「ねえ! これって昨日みよちゃんが言ってたやつだよね!? どうなってるの!?」

「いやどうと言われましてもお客様……」

「私のカレに手を出さないで! って割り込んだら良いんじゃない?」

「もー! ひとごとだと思ってー!」

 できたらとっくにやってます!

 

 

「た、たなかぁ……。なんでお前だけそんな……」

「志村、元気出せって」

「お、爽やか少年のキミもかっこいいね! お姉さんと番号交換しない?」

「俺彼女いるんで大丈夫でーす」

「加藤てめえ! どんだけ贅沢してんだよ! ていうか彼女って俺知らねえぞ!?」

「言ってねーもん。うるさいから」

 男の子二人は役に立ちそうもない。なんとかして田中くんを救い出さないと!

 

 

 そうだ! こっちの女子も四人、向こうと数は同じ。みんなに一人ずつに相手をしてもらえれば!

「背が小さいなんて気にしなくていいよ~。服のほとんどはオーダーメイドだし~」

「べ、勉強になります!」

 言う前から、宮野さんが背の低い人の相手をしてくれていた。さすが師匠!

 あと二人。これは……いける!

「白石~私たちそこのカフェでお茶しているから終わったら呼んでね」

「しーちゃん頑張れ~」

「裏切り者ー!」

 二人とも冷たい! 鬼! あくま!

 

 

「あの、えっと……」

「ん~? どうしたのかな? お姉さんに囲まれて緊張してるのかなあ?」

 田中くんもなんとか抜けだそうとしているみたいだけど、上手くいっていないどころか、お姉さんたちの母性をくすぐってしまっている。

「ちょっと落ち着きなって。高校生に絡むなんて大人げないよ」

「いいじゃん。こんなかわいい成分補充できる機会なんてそうそうないんだから」

 言って、長身のお姉さんはまた田中くんを胸に抱き入れる。

 どうにかして助け出さないと。このままだと自由時間がめちゃくちゃにされてしまう。

 もう特攻するしかない。足と手に力を入れた瞬間、見えてしまった。

 お姉さんのおっぱいに微かに、口元を緩める田中くんが。見えてしまった。

 

 

 ブチリ。大切なモノが切れた気がした。

 

 

「いい加減にして!!!」

 その声が自分のものだと理解するのにずいぶん時間がかかった気がした。

 お姉さんどころか、行き交う人たちの空気でさえ、シン。と凍ってしまう。

 でも、どうでもいい。

「こっち!」

 彼を無理やり引き剥がし、その場を離れた。

 

 

「ちょ、白石さん」

 田中くんが止まると、引っ張っていた私の腕がツンと引かれる。

 私は振り返らないまま口を開く。

「ごめんね、余計なことして。あのままがよかったよね?」

 落ち着つくことのない感情は栓の壊れた蛇口のように、きつい言葉となって溢れ出す。

 自分でもわかっている。こんなこと言いたいわけじゃない。

 でも……抑えられない。

「あのままがいいなんてこと、ないよ」

「うそ」

「ほんとだよ。聞いて」

 いつになく彼の真剣な言葉。

 驚きのあまり私は振り返って彼の目を見る。いつも通り半目でけだるげだけれど、どこか強い意志を感じる。

 

 

「助けてくれてありがとう」

「う、えあ!?」

「ちゃんと分かってるから」

「な、ななななにが!?」

 いつの間にかさっきの怒りはどこかへ行ったのか、田中くんの目から逃れられなくなっていた。 

 ていうか分かってるって……。

「だから安心してよ」

 これは、そう思っちゃってもいいのかな……田中くんと、私の気持ちが同じだって思っていいのかな。

「でもびっくりした。白石さん、そこまで好きだったんだね」

「す、すすすすすすすきって!!」

 肩に手がポンと置かれ、彼との距離が僅か腕一本となる。

 これってそういう展開!? さっきから私の情緒が激し過ぎてなんかやばい!

「白石さん」

 鼓動がどんどん早くなって、息を吸うのもやっとの状態。きっと私は今なにをされても……。

「そんなに北海道が好きだったんだね」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 たっぷり。それはもうた───っぷりと考えました。

 彼の言ってることが理解できる人は今すぐ出てきて説明してほしい。

 

 

「……田中くん、分かってるってなにがかな?」

 聞かずにはいられなかった。聞かないと本当に取り返しがつかなくなりそうで。

「白石さん、あんなに怒っちゃうぐらい北海道好きなんでしょ? ごめんね、最初から言ってくれたのに。まさかそこまでとは思わなくて。それをあんなにみんなわちゃわちゃしてちゃ怒りたくもなるよね」

 わちゃわちゃって。その中心のキミが言うかね。

 

 

「うん。そうだね。好きだよ北海道」

「……どうしたの?」

「なに?」

 彼が指摘したのはきっと私の顔のごく一部。ほっぺた。

 べつにそうしたいわけでもないのだけど、空気がそこから抜け出してくれない。

 つまるところプクーっとしているのである。

「ぶはっ」

 肩を震わせて田中くんが吹き出した。

 いつか似たようなやり取りをした気がする。

「〜っ! もう知らない!」

 羞恥で包まれたこのときはそんなことを思い出せるほど心中穏やかじゃなかった。

 

 

 

 




誤字脱字報告数件頂きました。ありがとうございます。

お久しぶりです。
パソコンが壊れてしまったので執筆を続けることができなくなってしまいました。
今は新しい物を買う余裕がないので、年内の更新は難しいです。
来年必ず戻りますので、どうかその時はまた読んであげてください。
それではしばしお別れです。
2022年8月7日
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