田中くんはけだるげをやめない   作:早見瞬

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今回は宮野と越前のスピンオフです。
三人称の書き方に挑戦してみました。

二人とも行動が常識的ではないので扱いに手こずりました。


閑話 みゃーのとえっちゃん

「みゃーのーーー!」

「えっちゃーーん!」

 

 校庭で感動的なBGMが流れそうなほどに、二人の少女が涙を流し、互いに抱き合う。

えっちゃんこと越前とみゃーのこと宮野は、越前の風邪の欠席と次いで土日を挟む事で三日という彼女達に取って長い別れを強いられていた。

 そして月曜日。二人は待ち望んだ邂逅を果たした。

 

 

「えっちゃん、もう身体はいいの?」

「ああ、バッチリだぜ!」

 腕を上げて二の腕を軽く叩く仕草はどうしたって男にしか見えないが、そんな彼女のかっこいいとも言える仕草は宮野のお気に入りだった。

「ほんとうにほんとうにほんと? 実はおっきな病気隠してたりしない? えっちゃんがいなくなったら……わ、わたし……っ!」

「わ、わー!? なくなみゃーのー! 元気だから、私元気だから!」

 心配かけてごめんなー! と声を上げ、背中を撫で頭を撫で、ひたすらに撫でる。

 

 

「ていうかそんなんでよく私がいない間平気だったな?」

 こんな宮野を見ていると、自分がいなかった時のことが気になって仕方がない。もしや今みたいに授業中に泣き出したりしていないだろうか……。

「う、うん。えっちゃんがいない間は心配かけちゃいけないと思って電話とかも我慢してたんだ……えへへ」

「みゃーの……」

 はにかむ笑う彼女に胸が熱くなるのを感じる。

 なんて健気なんだみゃーのっ。

「それに」

「ん?」

「太田くんとか田中くんが一緒にいてくれたからけっこう平気だったの!」

「……」

 胃が、痛くなった。

 

 

「えっちゃーーん!? 急にどうしたの!?」

「かまうな、みゃーの!」

 あたしはあいつらに言わなきゃいけないことがある! 

 走り去る越前を必死に追いかける宮野だが、彼女の歩幅は小さく全力で走って追いつけない。

 とうとう越前が角を曲がったところで姿を見失ってしまった。

「えっちゃん……どうして……」

 さっきまであんなに仲良く抱き合っていたのに。自分にいけないところがあったのだろうか。お見舞いのメールくらいはするべきだったのだろうか。もしや、ノってくれていただけで実は……ウザがられていたのだろうか……。

「ふえっ……えぐっ」

 考えると、思い当たる節が多すぎる。涙があふれて、止まらない。

「ひょっとして……こんなだから……?」

 もともと、彼女の隣に自分のようなちんちくりんが似合うとは思っていなかった。田中のところに弟子入りしたのも大人の空気を得て、越前と並ぶため。

 でも最近、そっちの成果は乏しい。そんな情けないやつに嫌気が差してしまったのか。だとすると、自分が捨てられるのも当然……そう、当然……。 

 大人はこういう所で納得しないといけないんだ……。

「で、でも……むりっ、だよおーーーー! えっちゃーーん!!!」

 

 

「宮野さん、どうしたの?」

「なにかあったかのか!?」

「し、ししょー、大田くん……」

 泣き喚く宮野の後に現れたのは、長身の太田とけだるい師匠の田中だった。

「ううっ……ふ、ぐっ……」

 感情表現が豊かだと自負はしているが、それでも泣き顔は見られたくなくて我慢する。

 しかしとっさに隠せるわけもなく、余計に痛々しい印象を与えてしまう。

「えっと、とりあえず泣き止んで宮野さん」

「ほ、ほら。お前の好きなイチゴ牛乳だ。まだ口をつけてないから宮野にあげよう」

 

 

「ぐすっ。イチゴ、ぎゅーにゅー……」

 大人を目指すために何度も何度も決別しては再び手を取り合った我が癒やし。でもその癒やしの成分には子どもっぽさがある。麻薬の様なもの……。私からえっちゃんを、大人らしいを奪う麻薬……。

 でも、飲みたい……どっちにしろえっちゃんはもう帰ってこない、私はもう捨てられてしまったんだ……。

 捨てられたんだ……。

「うわあああああん!」

 涙腺が崩壊してしまう。それは校内全てに響くのではないかという大きな声で。

 それはたやすく彼女の耳に届いた。

 

 

「どうしたみゃーーーのーーーー!」

 集まってきた野次馬をはねのけてくるのは、もちろん越前だった。

「え……ちゃ、ん?」

「どうしたんだみゃーのお前が泣くなんて! 誰かにいじめられたのかそうなんだな誰だそいつは言ってみろ私がぶっ殺してやる!」

 周囲を見渡す越前がすぐ側にいた太田と田中を見つけるのに時間がかかるわけもなく、標的は定まる。

「おまえらかあああああ!」

「ご、誤解だ越前!」

「問答無用! みゃーのを傷つける奴は許さん!」

 

 

 騒ぎが大きくなるに反して宮野は静かだった。

 落ち着いた訳でもなく、悟ったわけでもんなくーー。

(なんでえっちゃんが手当たり次第に暴力を振るっているの……?)

 ただ、混乱していた。

「お、落ち着いてえっちゃん! いったいなにがあったの!?」

「これが落ち着いていられるか! あたしは世界を滅ぼすんだ!」 

 親友が、自分を捨てたと思ったら魔王みたいなことを言い出した。なんかラノベみたいです!

 そして越前は大乱闘を繰り広げ、一週間の停学処分を受けた。

(休んですぐ停学なんて、おふくろになんて言おう……)

 べつに進学するつもりはないから卒業さえできればいいか。

 

 

「ごめんな、みゃーの。あたしが暴れたばっかりに説教されちゃって……」

 越前は宮野の前から消えたきとき、逃げたのではなくて太田と田中に礼を言いに行ったのだ、自分の親友を見ていてくれてありがとうと。それが帰ってきたら宮野が泣いていたので処理できず暴走したのだった。

 ちなみに説教後に本人らにそれを伝えると、まだ風邪を引いているんじゃないかと心配された。むかついたのでもう一発殴っておいた。

「えっちゃん、私たちずっと友だちだよね……?」

 おずおずと訪ねる親友に越前は胸がぐっと締め付けられるような感覚に襲われる。

「当たり前だぜみゃーの、こんな親友他にいねえよ! あ、なんなら結婚するか!?」

「……え、あ、あのー私は普通に男の子が……」

 まずい、ノリで変な事をくちばしってしまった。この子は変に真面目であまり冗談が通じない。

 スス……とゆっくり距離を取っていく宮野。

「まってくれみゃーの! じ、冗談、冗談だからぁ!」

 言っている間に宮野は背を向けて走りだしていた。

 それは走るというよりはスキップに近いものだった。

「そういやみゃーの。明日からまた休んじゃうけど大丈夫か?」

 本日二度目の絶叫と号泣を流す宮野は毎日家に遊びにくる事でなんとか落ち着いたのだった。

 

 




今回は読みづらかったと思います。閲覧ありがとうございました。

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