【未定】SaintSnow+back-stabber 作:灰流うらら
「あの」
「ひゃ、ひゃい!!」
サイドテールの方のおっとりとした女性に声をかけられ、俺は噛みながらも返事を行う。その様子を見て苦笑いしながら女性は言葉を続ける。
「『まだまだ』とは一体、どういうことですか?」
やばい………。やっぱり俺が無意識に出してしまった言葉が彼女たちに聞こえてたっぽい。
「な、なんのことですか?聞き間違えとかでは??」
とりあえず、しらを切ってみることにしよう。案外、上手くいくかもしれないしな。
「いいえ、そんなことはありえません。確かに聞こえてきました。理亞、貴女は?」
「私も聞こえたわ、姉様。確かにこの人は私たちに『まだまだ』って言った!!」
「だ、そうですよ?」
くっ、ツインテールの方も聞こえたというのならば、しらを切る事は不可能のようだ。2人は少しずつ俺の方へと近づいていく。
仕方がない。こうなったらーーー
「ウィル!逃げるぞ!」ダッ
「わん!」ダッ
「「なっ!?」」
彼女たちが近づく前に俺はウィルに声を掛けてその場から走り出す。ウィルも俺に続けて吠えながら一緒に走り出した。ウィルは走るのが好きだからな。足の速さにはすごく自信がある。よーし、このまま………
「『一気に逃げ切ろう』………なんて思ってませんか?」
「は?」
走っている途中に俺が思った事を言葉として呟かれたため、恐る恐る隣を見てみるとサイドテールの女性がいた。え、何でいるの?
「私たちを甘くみないで」
「はぁ!?」
反対側を見ると今度はツインテールの女性がいた。嘘だろ?俺、こう見えて中学は陸上部でインターハイまでいった実力者だぞ?何で姉妹揃って着いてこれてんだよ。この人たち、何者だ?
「残念ですが貴方は逃げ切れません。ですので、観念してさっきの言葉の意図を教えてください」
サイドテールの女性が俺に言葉をかける。確かに、俺の足の速さに余裕で着いてこれるならば、いつ捕まってもおかしくはない。
………けどな。
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『早く晴人!追っての人達が来ちゃう!』
『晴人さん!× × さんを!!』
『分かった!!………お、おい× × !!腕を引っ張るなって!痛い痛い痛いぃぃぃ!!!』
『晴人〜♪hurry up!!』
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…………こちとら誰かさんらのせいで『逃げる』ことには昔から長けてんだよ。悪かったな。
そう心の中で呟いた俺は手にしていたリードを離した。
「ウィル!そのまま家に戻れ!!」
「わん!」
「「は!?」」
手を離すと、ウィルはそのまんま1匹で前の方へと駆けつける。それを見て、姉妹は驚きの顔を浮かべる。飼い主が唐突にリードを離したのだから驚いで当たり前だと思うけど。
ウィルは案外、賢い子だ。別に俺が居なくとも1匹で家まで帰れるし、なんなら1匹で家の中まで入れて鍵まで掛けることができる優秀な犬だ。
ウィルがいなくなったことで、俺は本来の力を出すことにする。更に足の速さを上げて、彼女たちとの距離を離す。
「「!?」」
そして、追い討ちをかけるように目の前にある路地裏に入る。すると、そこにはゴミ箱なり凹凸の壁などがあり、普通の人ならそこを通るのに時間はかかるが俺は違う。
「ほっ………ほっ………はっ!!」
俺は足の速さを下げずにそのまんま進み、ゴミ箱をジャンプして躱し、凹凸の壁は跳んだり、壁を蹴ったり、たまに前宙したりして見事に進ませる。いわゆるパルクールっていうやつだ。これも、昔、とある機会にて会得した特技の1つ。
路地裏を抜け、背後を見てももう彼女たちの姿は無かった。上手く逃げ切ることが出来たようだ。ま、そもそも制服姿では路地裏には入りたくないわな。
「ふぅ………...、危なかった。もう左の道は今後通るのはやめよう」
そう思いながら、また遭遇しないように周りを警戒させ、家まで戻った。朝からとんでもない日となったな。
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「たでーま」ガチャ
あれから、学校に行き、そのまま授業を終え、帰ってきた俺は誰からも返事がないということが分かっておきながらも声を出しながら家の中へと入る。
もしかしたら、あの姉妹とエンカウントするのではないかとヒヤヒヤしたが杞憂だった。
「わん!」
あ、あぁ。いたな。『おかえり』って言ってくれる可愛い可愛いシベリアハスキーが。何だか嬉しくなってしまい、わしわしと毛並みを撫でてしまった。相変わらず、気持ちが良い。
「わんわん!!」
「ん?」
1度、リビングの方に戻ったウィルは口にリードを咥えて戻ってくる。どうやら、散歩に行きたいらしい。
「ごめんな、ウィル。今すぐ買い出しに行かないとダメなんだ。散歩は買い出しが終わってからな」
「!!…………くぅーん」
ウィルは『えぇ……』と寂しそうに鳴く。すまんな、今、行かないと今晩のご飯が食べられないし、なんなら、お前のご飯も無いんだぞ?ドックフード、今日の朝で尽きちゃったから。
制服からパーカーに着替え、テーブルの上に置いてある食費代と書いてある封筒から1万円札と5千円を1枚ずつ取り出し、それを自分の財布の中に入れる。
両親が普段、仕事で家にいない分、俺が家事やら買い出しやら、夕飯などを担当している。これは昔からなので、特に苦ではない。むしろ、楽しくやらせてもらっている。将来、一人暮らしすることになったら役に立つしな。
「すぐに帰ってくるからな。行ってきます」
ウィルにそう言って、俺は外に出て近所のスーパーへと向かった。
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「ぐへぇ、重いぃぃ……」
俺は大量の袋を両手に持ちながら後悔の言葉を零す。くそ………。タイムセールとか言って野菜やら肉やら色んな食材が値引きされてたからつい買ってしまった。そのおかげで荷物はパンパンである。2kgを超えるドックフードがトドメを刺しに来ている。
家から近いとはいえ、流石にこの荷物をずっと持ち続けるのは不可能だ。どこかで休憩したい。
…………あ、そういえばここの近くに甘味処があったな。あそこの店はここに来て2年経つが、まだ1度も入ったことがない。興味が無かった………という訳では無い。なんから、クラスメイトがその店をよく推していたから気になっていた。なんなら、そこの店員がすごく美人さんだとか。
けど、そこの店を通るということは必然的にあの公園の近くを通らなければならないということになる。くっ………。
仕方がない。とりあえず、公園を覗いて見て誰もいなかったら行こう。もしいたら、そこはもう諦めて自宅に向かえばいいだろう。
俺は今朝、もう行かないと決めていた左の道に向かう。
そして、すぐに公園が見えてくるためできるだけこっそりとしながら中を除く。
…………よし、誰もいない。
誰もいないことを確認した俺は安堵の息を吐き、堂々とその道を歩く。あの姉妹がいないとなれば怖いものは無い。あとはあの甘味処に行って美味しいものを食べるだけだ。
公演を通り過ぎて、すぐに目的である甘味処のお店へとたどり着く。『茶房菊泉』というらしい。これから先、通うことになる店になるかもしれないので覚えておこう。
そろそろ、肩に限界を感じたため、中へと入る。ウィルには申し訳ないがもう少しだけ家で待ってもらおう。
中に入ると、1人の店員が出迎えてくれる。しかし、その店員はまさかの顔馴染みのある人物だった。
「いらっしゃいま…………あ」
「ん?…………あ」
「どうしたの、姉様…………あ。」
俺を出迎えてくれた店員は、今朝、公園で練習をしていた最も俺が会いたくなかったあの姉妹だった。