アンコールは異世界で   作:ヤマガミ

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第20話

皆には、シゲラジで何度も何度も愚痴を聞かせちまったよな。

「エレキギターが欲しい」「ドラムセットが欲しい」「ベースが欲しい」「キーボードが欲しい」ってよ。

みんなにとっちゃあ何の楽器かさっぱりだったろうにな。――ま、今んところ俺の頭の中にしかねえような楽器が多いから、そりゃそうなんだが……

でもよ、言わずにはいられなかったんだよ。

逢いたかったんだ。ソイツらに。

 

だけど――安心してくれ、もう二度と言わねえ。

 

だってよ……

へへ。へへへへへ!

 

ついによぉ、ついに!

そいつらが出来上がるんだよー!!

長かった……!長かったぜ!えらいぞ蓬莱楽器さん!あとで感謝のハグしてやるからな!――いらねえか!ははは!

なんかよぉ、最近になって、音楽を皆に届けるための設備がとんでもねえ速度で整って来てるんだ!

だって楽器だけじゃなくて、アンプとスピーカーも一新されるってんだぜ!?収音マイクもクオリティアップ!ほんとにすげえことなんだよ、これ!

 

――いやー、正直初めて唄子の部屋に登場させてもらったときもな、もうちょい音響周りなんとかならんかなー、って思ってたんだが――この進化の速度はちょいと信じられねえよ。

何か聞くところによるとすげえ助っ人がアステカから――え?何?あ、これダメ?そっか、悪ィ悪ィ!

なんか技術屋さんたちが滅茶苦茶頑張ってくれてな、ありがてえ話だぜ!

おっと。なんで俺のテンションがこんなに上がっちまってるか、皆にはさっぱりだろうから、分かりやすく説明するか。

 

楽器が完成したことで!俺の音楽、特に『ロック』がとんでもねえパワーアップをする!

これを聴いたらよ、昏睡病なんざ――分厚い雲を巻き込んで、空の彼方にかっ飛ぶぜ!

 

へへ、ラジオの前の君も、これだけしつこくアピールされたら、どんな音楽になるか聞きてえだろ?

 

 

――俺もずっと、聞かせたかったぜ!

 

 

そんなわけで蓬莱テレビに無茶を聞いてもらった結果、新しい音楽番組『アイドルスター』が放送されることになった!この番組の中で、俺のやりたい『バンドミュージック』――そして『バンドとは何か』ってことについて触れていきたいと思う!勿論それ以外の古今東西の音楽にもガンガン触っていくからな!

放送日は再来週の金曜夜八時!

 

音楽好きのキミは勿論、そうでないキミも、ちょいとだけチャンネルを合わせてくれると嬉しいぜ!

 

 

おっと、ついつい喋りすぎちまったな!じゃあ、この辺で一曲――

 

 

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「真美。何度時計を見ても、早く進んだりはしないわよ」

お母さんの苦笑いに、わたしは唇を尖らせる。

「わかってる。わかってるけど――待ちきれないのっ」

時刻は夜七時四十分。遂に『アイドルスター』が始まろうとしている。

シゲル様がシゲラジでその存在を宣伝してから、もう蓬莱中がその話題で持ちきりだ。

だって――ただでさえ最高なシゲル様の音楽が、これ以上パワーアップするっていうんだもの!賭けてもいいけど、今蓬莱中の人間がテレビの前で正座してるよ!あ、夜勤の人は血の涙を流している可能性があるね。まぁ大丈夫大丈夫。どうせ明日にはダビングされたビデオが出回るよ。

テレビの無い人はどうしてるって?そりゃ友達とかの家に押しかけてるよ。

 

「もー、真美ちゃんはせっかちだねぇ」

 

このお姉ちゃんみたいに。

 

「……なんでお姉ちゃん、うちにいるの?」

私は姉に白い眼を向ける。

宮廷女官は基本自らの局に住み込みだ。外出にも届け出が必要だっていうし、テレビデオを買ったって自慢していたお姉ちゃんが、わざわざ実家に帰ってくる必要はないと思うんだけど。

 

お姉ちゃんはわたしの疑問を聞いて、眉間にぐーっと皺を寄せて――どんっ、とテーブルを叩いた。

 

「聞いてよ!酷いんだよ女官の皆が!」

 

……あ、なんかしょうもない話がはじまりそう。

 

 

 

 

 

 

 

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帝居の一角から、女官たちの楽し気な声が響いていた。

 

「ねーねー、お煎餅あるからたべよー」

「あ、田中せんべいの揚げせんだー。ここのおいしいよねー」

「安いのがいいよね」

「失礼します。お茶を入れて参りましたよ」

「おー、ありがとー真名美。入って入って」

 

実に平凡な、なんてことのない団らんの風景だ。しかし昏睡病が治癒する以前では考えられない、明るい光景だった。

宮子もそれ自体に文句はない。同僚と仲が良いというのはとっても素晴らしいことだと思う。

 

――ここが居間ではなく、宮子の部屋であることを除けば。

 

 

「なんでみんな私の局に集まるの?!」

 

 

八畳間に六人目が登場したところで、限界を迎えた宮子は大声を上げた。

しかし、女官たちは驚きもしない。全員が全員『だってしょうがないでしょ』とでも言いたげな目を宮子にむけて口を開く。

 

「だってチビちゃんがいるし」

「テレビかビデオ見ようと思ったらここになっちゃうんだよねー」

「そうそう」

 

「居間にもテレビあるでしょ!でっかいのが!」

 

宮子の言葉に、女官たちはそっと目を逸らす。

「だってあっちは高位女官様と帝が使うし……」

「リラックスできる環境かといえば、あまり……」

「皆のせいでわたしがリラックスできないよ!」

「わたしたちは出来てるから大丈夫だよ」

「うん。安心して」

「あ、あれ?わたしの蓬莱語通じてる?」

実際女官たちはリラックスしていた。枕までしてねそべっている者すらいる。

憩いの空間を侵食されている宮子ばかりが怒り狂っていた。

「――まぁまぁ。ほら、チビちゃんの視聴に関しては命子様から許可が下りてるし。『遠慮せずに見るがよい』って」

そのセリフに宮子はぎょっと目を剥いた。聞いたことの無い情報だった。

「当の私が初耳なんだけど?!なっ、何で勝手にそんな許可出すの?!わたしのプライバシーは!?」

「あんまり重要視されてないんじゃない?」

「うおおおおっ!」

宮子は激怒した。

かならずやあの邪知暴虐の女官長を除かねばならぬと思ったが、怖かったのですぐやめた。

代わりにあんまり怖くない女官たちに怒りをぶつけることにした。

「そろそろ一人くらいテレビ買えたでしょ!電器屋さんはまだまだ地獄の工事を続けてるらしいけど――わたしみたいに、自分でつければいいじゃん!っていうか確か誰かやるっていってなかった?!」

「――ええ、テレビ買えた美奈子がもう試したわよ!ダメだったのよ!貴方のせいで!」

カウンターで怒りを喰らって、宮子はのけ反る。

「わ、わたしのぉ?!」

「ここって電波強度がぎりぎりで、三分配すると全部映らなくなるのよ!」

「テレビ映らなくなった瞬間の命子様の顔、貴女に見せたかったわ。……わたし、危うく淑女の尊厳を失うところだったんだから」

「全部抜け駆けした貴女のせいよ!」

女官たちは畳みかけた。

宮子はたじろぐ。確かに抜け駆けと言われればその通りかもしれなかったから。

しかし宮子は踏みとどまると、レッサーパンダの威嚇のポーズで応戦の構えをとった。

 

「――だからって常識わきまえてよ!」

 

おそらくは女官の中で最も常識を知らない女は吼える。

 

だってもう限界なのだ。宮子の私物は全部押し入れに突っ込まれて久しいというのに、見たことの無い私物はどんどん増えていく。八畳はそのほとんどが女官たちに占有され、持ち主である宮子が箪笥の隣に押しやられる始末。

翌日非番の連中が深夜までビデオを見ているのももう日常だった。

「寝ても覚めてもチビちゃん全力稼働でわたしは眠れないよ!」

「貴女結構図太く寝てましてよ」

「時々いびきもかいてるよ」

「文句は女官長様に言って下さいまし」

「そうそう」

「言えるものならね」

八畳のどこにも味方はいなかった。宮子のストレスは限界に達しようとしていた。

 

「うう、こがねまる、こがねまるーっ!みんながいじめる!」

 

最早心の支えはこがねまるだけ、と宮子は愛用のぬいぐるみの姿を探すが、どこにもない。誰かに押し入れの中に突っ込まれたのかしらん、と押し入れも覗くけど、やはりない。

「ねぇ、こがねまるしらない?」

大き目のテーブルを囲んで――こんなテーブルも一か月前までは無かった――お茶請けをぱくついていた女官たちは「さぁ?」と首を傾げたが、寝そべって雑誌を読んでいた一人が「あ」と声を上げた。

その女官はちょっと申し訳なさげな顔で身体を起こすと、頭の下に敷いていた枕を宮子に差し出した。

 

「ごめん、サイズが丁度良くて」

 

こがねまるだった。

 

「こっ、こがねまるがぁーッ!」

こがねまるは伸びていた。

愕然とする宮子に、女官たちは容赦なく告げる。

 

「そうそう。アイドルスターの時もお邪魔するから」

「お茶菓子もってくるからねー」

 

「もういやだーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そんなわけで外出届出してきたの!」

 

「そう」

わたしはビデオの録画スイッチを押しながら生返事を返す。

どうでもいい話を聞いていたら20分経ってた。そこだけは感謝だね。

 

 

 

ついに――待ちに待ったアイドルスターが始まるんだ。

 

 

 

時計が八時を示すと同時に、テレビから女の子たちの声が響いた。

 

「「「はじまりました、アイドルスターっ!」」」

 

きたきたきたきた!

 

 

「メインパーソナリティはぼく、緋崎朱里と!」

まずバストアップが映ったのは、ショートヘアの快活そうな娘。『元気いっぱい』、そんなフレーズが頭に浮かんだ。声もキャッチーな感じ!

「藍葉青子と」

次に映ったのは、切れ長の眼が特徴的な美人さん。手足も長くて、シルエットが素敵だ。

「金枝浅黄とー、」

次に、『これぞお嬢様』って感じの気品漂う女性が映る。下品にならない程度にメイクもバッチリで、柔らかな垂れ目が印象的。

三人は全員が満面の笑顔だ。当然だよね。シゲル様と一緒の空間に居られるなんて、多分それ以上の幸せってないよ。

でも、当時ニュースでやってたけど、一年前に倍率千倍とも言われたオーディションに合格した娘たちだもんね。やっぱり嫉妬より先に『大したもんだなぁ』って思っちゃう。

 

 

「そして――」

 

 

金枝浅黄さんが視線を向けた先に、カメラが切り替わる。

最後に映るのは、もちろん――

 

「櫻崎シゲルでお届けするぜっ」

 

――シゲル様。

あー、やっぱり、もう、何度見ても絶世の美男子。こんな男性きっと有史以来存在していなかったよ。

いつまでもシゲル様のアップを見ていたかったのだけど、無情にもカメラは直ぐに引いて、スタジオを広く映した。ちぇっ。

 

――あ!後ろに見たことの無い楽器がある!あれがシゲル様が言っていた楽器たちかな?どんな音を鳴らすのか、もうわくわくが止まらない!

 

そしてその私の期待に、シゲル様もすぐに答えてくれる。

 

「ま、とりあえずバンドミュージックってのを聞いてもらうか!」

 

余りにも唐突に、シゲル様はそう言う。シゲル様らしくて、わたしはちょっと笑ってしまう。唄子の部屋でも『自己紹介なんざ名前だけで充分だろ!』って言ってたもんね。音楽さえ聴いてもらえれば、それでいいんだろうな。

――まぁ、そもそも蓬莱人にシゲル様の自己紹介が必要な人間はいないし、効率的だよね!

 

「事前にベースとドラムの音は収録済みだ。リズム隊が録音ってのは、正直不服ではあるんだが――ま、ないものねだりをしても仕方ねえし、逆よりはマシだ。今回はグルーヴ感にはちょいと犠牲になってもらう」

 

「だがよ、このパワーアップしたアンプならそれを差し引いてもすげえ音楽になるはずだぜ!エフェクターもバッチリだしな!」

 

「まぁテレビの前の皆にとっちゃあ、テレビスピーカーの性能に依存しちまうのが残念なところだが――最新技術が用いられたテレビってのも、今開発中らしいからよ!」

 

立て板に水、って感じで、シゲル様は嬉しそうに語っている。正直分からない単語もあるけど、全然気にならない。シゲル様が嬉しそうにしていればオーケーです!

 

「それじゃあ唄子の部屋でやった時と同じように――『ロケット』から、始めるぜ!」

 

「どんだけ違うか、その耳で確かめてくれよな!」

 

イントロが始まる。

太鼓の軽妙なリズム。この音がドラムの音なんだろうな。確かに色んな打楽器の音が聞こえる。

うん、なんだかワクワクしてくるリズムだ!そっか、ホントはロケットってこんな出だしなんだ!

 

「――楽しんでいこうぜっ!」

 

次の瞬間、シゲル様がエレキギターっていうのを――

 

 

――――

 

―――

 

――

 

 

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