アンコールは異世界で   作:ヤマガミ

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第29話

 

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アステカの新聞『アステカ・タイムズ』より

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『ワールドヒーロー、アステカに到着!』

今や知らぬ者のいない偉大なミュージシャン、シゲル・サクラザキがアステカにやってきた。その目的は『生演奏によるレベル3患者の治療』である。

下らないジョークだと、ミスターシゲルを知る前の私ならそう言ったであろう。ついでに怒りの一つも表明していたはずだ。『ぬか喜びはもう沢山だ』と。数々の治療が悉く失敗に終わっているのは、歴史が証明しているからだ。

しかし今回に限っては、わたしは感謝と喜びの意を示さねばならない。

既にご存じの方が殆どだと思うが――海を隔てた蓬莱において、ミスターシゲルの音楽は既にレベル3を治療しているからだ。

これは政府から通達された情報であり、真実である。

無論人種の差はあれど、我がアステカのレベル3患者にも効果を発揮するという期待は、決して希望的観測では無いはずだ。何しろ皆様もご存じの通り、アステカにおいてもミスターシゲルの音楽は昏睡病を治療しているからだ。

これを読んでいる方、周りを見渡してみてほしい。

レベル1、あるいは2の昏睡病患者がいるだろうか?

いない筈だ。もしいるのなら、速やかに公衆衛生局に連絡を。CDプレイヤーを引っ提げた局員が乗り込んでいくので、それで解決する。

そう。蓬莱政府の全面的な協力と、アステカ政府の尽力、そしてボランティアの皆様の手助けもあり、ミスターシゲルの音楽はアステカ中に鳴り響いている。

その結果が、低レベル昏睡病の根絶。そしてレベル3の進行停止である。

録音された音楽ですらその効果。これが生演奏であればどうなるか――その結果は、既に蓬莱国民が証明している。

加えて、とある政府関係者の話によると、アステカが誇るかの天才ジェーン・ホワイトが一足早く治験に参加し、その昏睡病は既に治りつつあるという。政府からの公式な発表はまだないが、これはかなり確度の高い情報だ。アステカ・タイムズも今裏を取っている最中なので、続報は少々待っていただきたい。

それにしても、シゲル・サクラザキの生演奏とはいかなるものなのか。コンサートホールで聴く生の音楽が、録音されたものとは比較にならない感動をもたらすというのはご存じの方も多いと思うが――それが稀代の音楽家によって行われれば、きっと死人も目覚めるような感激を与えてくれるのではなかろうか。

 

――まったく不謹慎だと言われても仕方のないことであるが、わたしは今に限ってはレベル3患者がうらやましい。

 

恐らく、今後ミスターシゲルの生演奏を聞くためには、奇跡のような幸運が必要になると思われるからだ。

 

 

 

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ある日の『トライアングル・ラジオ』より

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『みんな!ぼくたち、今日はいいニュースを持ってきたよ!』

 

『シゲル様の音楽を聴くようになって、きっとみんなも歌を歌うことって増えたと思うんだ!でも、中々大声で力いっぱい歌う、っていうのは難しいよね』

『場所が問題なのよね』

『人の声は思ったよりも大きく響きますから、集合住宅などで大声を出すのは難しいですものねー』

 

『そうそう。そこで!蓬莱政府肝入りで、『カラオケボックス』が造られることになったんだ!』

 

『このカラオケボックスっていうのは、簡単に言うと『思いっきり歌を歌える場所』!』

 

『皆さんも、街のあちこちに『カラオケボックス建設中』みたいな看板とか、工事現場を見たことあるんじゃないかしら。今一斉に作られてるカラオケボックスは、一部で完成を迎えつつあるの』

 

『ぼくたちトライアングルは、一足先にそのカラオケボックスを体験することができたんだ!あ、ずるっこだって言わないでね?一応蓬莱政府から、音楽に慣れ親しんだ人の意見を聞きたい、って要請があったんだよ。そんなわけで、実際にお店に行ってきたんだけど――』

 

『――いや、すごかったわね。カラオケボックス』

『はいー。ほんとに……』

『二人の盛り上がりはすごかったねぇ。ぼく目を丸くしちゃったよ』

『だって貴女はボーカルとしてスタジオなんかで力いっぱい歌えるでしょう?でも私は案外機会がなかったのよね』

『私もどちらかと言えば演奏に注力していましたからー。もちろんシゲル様の歌はしょっちゅう口ずさんでいましたけど――大声で、本気で歌うというのは、本当に久しぶりの体験でしたー』

 

『そうだったんだね。……で、感想は?』

『『最高!!』』

『あはは、そうだろうねぇ。じゃあ青子ちゃん、ラジオの前の皆に、どんな施設なのか説明してあげてよ』

 

『了解。――簡単に説明すると、施設にはいくつもの個室があって、その個室の中にテレビと機械、スピーカーとマイクがあるの。その機械に番号を打ち込むと、番号に対応した音楽がスピーカーから流れる仕組みになってるわ。なんと、テレビにはリアルタイムで歌詞も表示されるのよ』

『そうそう。――でも、シゲル様の歌声は流れないんだよね』

『そうなの。伴奏だけ。だから、マイクを握って歌を歌うのは自分なの!』

 

『防音設備が整った部屋で、気の置けない友達と一緒に、周囲を気にせず伴奏つきで歌を歌う――あの体験は、ほんとうに素晴らしいものよ!』

 

『そうなんです!『楽しさ』をぎゅっと詰め込んだような空間なんですよー』

『家で鼻歌を歌うのと何が違うの?って思ったそこの貴女!お願いだから一度だけでもカラオケボックスに行ってみて!絶対、ぜーったい!その魅力がわかるから!』

『青子ちゃんがこれだけ熱くなるのも珍しいね』

 

 

『あ、それと楽器の練習をしてる皆にも朗報だよ!』

 

『なんと!一部のカラオケボックスに楽器の練習室を設けるんだってさ!この練習室には音響機材なんかもバッチリ完備されてるんだよ!』

『それどころか、私たちが見学に行った店舗にはドラムセットまで置いてあったわ。――イメージトレーニングに明け暮れているドラマーの皆。魂を解放する時が来たってことよ。ドラムに興味を持ってる貴女は、触れてみるチャンス!』

『大きすぎる楽器でなければ、持ち込みも大丈夫だってさ!ヴァイオリンやフルートなんかの練習場所に困っている人にもおススメだよ!』

『店舗によってはキーボードが置いてある練習室もあるみたいですよー。そのあたりは、各店舗に確認してみてくださいねー』

 

『――そんなわけで、バンドミュージックに憧れて音楽をやってる皆!メンバーを集めて練習室に行ってみて!演奏の息を合わせるのって、とっても難しいけど――』

 

『上手くいった時、天国だよ!』

 

 

 

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女子高生・近衛麗佳視点

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「……カラオケボックス?」

お弁当箱を片づけながら、わたくしは眉を顰める。

土曜日は大抵の学校が半ドン。蓬莱第四高校もその例に漏れず、午後は職練のコマが無い。だから大抵の高校生はアルバイトに勤しむか、どこかに遊びに出かける。

わたくしを誘いに来た雪子さん、美月さん、明日花さんの三人組は、どうやら後者のようですわね。

「そうそう。本当は2Aの真美ちゃんと四人で行くはずだったんだけど――」

「『練習室のキャンセルが取れちゃったの、ゴメン!』って言われちゃって。ベース担いだ理子さんとヨッシー連れて行っちゃったのよ」

「真美ちゃんは練習本気勢だからねー」

「……それでわたくしを誘いに?」

「そうそう。麗佳ちゃんとはまだ行ったことなかったなーって思って」

どう?と笑いかけてくる雪子さんに、わたくしはそっぽを向いてみせる。

「わたくしは遠慮いたしますわ」

「えーっ」

「どうして?」

「一緒にいこうよー」

三人が不満そうに声を上げるので、わたくしはキッと睨み付ける。

「シゲル様の歌を歌うなどそもそも不遜なのです!あの完璧な歌を一般人が歌うなど、まさに冒涜!許されざる行為ですわ!」

わたくしは熱弁するけど、三人の反応は冷ややかだった。

「どう考えても行き過ぎた原理主義だよ」

「だいたいアイドルスターで朱里ちゃんが歌ってた時、シゲル様めっちゃ嬉しそうだったでしょ」

「……シゲル様はお優しいから。きっと心では泣いていたのですわ」

「なんでそんなにシゲル様を好きな貴女が、一番シゲル様を理解できていないの?」

「そもそも麗佳ちゃんがたまに鼻歌歌ってるの知ってるよ。『終わらない旅』が多いよね」

「う、うそおっしゃい!」

本当だとしても多分無意識だからセーフですわ!

「まぁまぁ、ものは試しだよ。一回だけ行ってみようよ麗佳ちゃん」

「お断りです!――そもそもわたくし、午後は外せない用事が入っていますの」

「用事?どんな?」

 

「買ったばかりのCDプレーヤーで『君だけを見つめてる』を無限ループするという崇高な用事が――」

 

「めちゃヒマじゃん」

「連行しよう」

「な、何をいたしますのー!」

両脇を抱えられたわたくしは、抵抗虚しくカラオケボックスへと連行されてしまいました。

 

 

 

 

「はい麗佳ちゃん、一番手でどーぞ」

八畳ほどの個室に連れ込まれたわたくしに、明日花さんはそう言ってマイクを差し出す。

「歌わないと申し上げたでしょう」

「まぁまぁ、いいからいいから」

わたくしは半眼を向けるけれど、友人は意にも介さずマイクを押し付けてくる。

「ほら、『終わらない旅』いれたから。麗佳ちゃん大好きでしょ?」

何やら端末を操作していた雪子さんがそう言うと、テレビ画面に『終わらない旅』のタイトルと、『作詞・作曲 櫻崎シゲル』の文字が映る。

――『様』をお付けなさい!機械風情が!

 

「ねぇ、麗佳ちゃん。とにかく一曲だけでも歌ってみない?鼻歌を聞いた限り、麗佳ちゃんってすっごく歌うまい気がするの」

 

美月さんのそのセリフに、ついにわたくしは根負けした。

「……ふぅ。まったくもう」

マイクを手に取ると、イントロに耳を澄ませる。

 

――ふん、チープな音だわ。シゲル様の演奏に比べたら子供だましね。

 

……ま、まぁ?

仕方ないから?

歌うだけは、歌いますけどね。一曲だけ。

 

 

 

 

 

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二十分後――

 

「――センキューッ!!」

 

何度目かの『終わらない旅』を歌い終えたわたくしは、人差し指を天に突き上げてシャウトする!

 

――最高!カラオケって最高!これを知らない人は人生の半分を損していますわ!

 

さて、ではもう一度『終わらない旅』の曲番号を入力して――

 

「いやセンキューじゃないわよ!麗佳ちゃん何回連続で歌うのよ!これ以上はノーセンキュー、ノーセンキューよ!」

「もう勘弁してよ!『終わらない旅』なんぼほど終わらないの?!」

「仕方ないでしょう終わらない旅なんだから」

時間いっぱい続きますわよ。

「ダメだこいつ!ツッキー、マイクむしり取って!」

「了解!」

「ああっ何をしますの!やめて!わたくしのマイクちゃんよ!」

「店のマイクだよ!」

 

熾烈な戦いの末、マイクちゃんは奪い取られてしまいました。

誠に遺憾ですわ。

 

 

 

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「あー、もう終わっちゃった。二時間なんて一瞬だよね」

「誰かさんの独壇場が随分続いたからね!その後もちゃっかりローテに混ざるし!」

「ほほほ。わたくしの美声に感謝してくださってもよろしくてよ」

「面の皮の厚さがすごい……!」

「まさしく鉄面皮だね」

「実際上手だったけどさぁ」

部屋を出たわたくしたちは、そんな会話をしながら店内を進む。カラオケボックスはなかなかの広さで、部屋の場所次第では出入口まで少々歩くことになる。

 

――それにしても二時間の時間制限は不満ですわ。本当なら丸一日貸切りたいところですが……これほどの広さがあっても、今カラオケボックスは予約でいっぱいらしいですし。我儘は申せませんね。

……まぁ、皆さんの歌を聞くのも?なかなか?悪くはなかったですし?

歌っていない間も、それなりには楽しめましたわね。それなりには。

――絶対また来ますわよ!近日中に!

 

「――あ、練習室」

ふと、美月さんが声をあげる。その視線の先にあるのは、少々造りの違う扉。

噂に聞く練習室というものですわね。

「お、ほんとだ。造りが違うんだね」

「防音かなりしっかりしないといけないもんねー」

皆の言う通り、練習室はかなり機密性が高いようにみえますわね。

にも関わらず微かに音が聞こえるのだから、やはり楽器の持つパワーは凄いものですわ。

……わたくしも、嗜んでみようかしら?

 

練習室を通り過ぎるわたくしは、なんとはなしに漏れ聞こえる音楽に耳を澄まして――

 

首を傾げる。

 

 

……あら?これって、ロックのように聞こえるけれど――

 

 

なんだか、聴いたことの無い曲のような?

 

 

 

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