アンコールは異世界で   作:ヤマガミ

33 / 42
第33話

____________________________________________

神宮寺真美視点

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

結構盛り上がったじゃん!

そりゃあ熱狂ってほどのテンションじゃないし、今日一番の盛り上がりかっていうと違うかもしれない。

でも、皆喜んでくれてる。それだけは確かだ。

わたしたちの作った『最高の音楽』を、みんなも楽しんでくれたんだ。

私たちは顔を見合わせると、会心の笑みを浮かべて――示し合わせたように、力いっぱいハイタッチした!

うん、満足!出来過ぎなくらいだ!きっと一生の思い出になる!

見てる人たちにとってもそうなればいいけど、流石にそれは高望みかな。

でもほら、すっごく喜んでくれてる人も一人いる!

ギターケースを背負って、目深に帽子をかぶったその人は、口元に喜びの弧を描いて――

 

凄い勢いで、ステージに向かって走ってくる!?

 

えっえっ、何?!ちょっと興奮しすぎじゃない?!

 

その人は一足飛びにステージに飛び上がると、帽子を取っ払って吼える。

 

 

「最ッ高だったぜぇーッ!!」

 

 

――え?

 

シゲル様?

 

 

 

……

 

 

 

……

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

あっ、なんだ夢じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

もー、そーいうことかー。道理で都合のいい展開だと思った。歌も演奏も観客の反応もちょっと上出来すぎたよねー。

まぁリハーサルが出来たと思えばいいか。

ディティール甘いよね、私。だって今海外にいるシゲル様が蓬莱にいるわけないんだし。ま、夢だと思えばシゲル様が登場するのは当たり前か。

シゲル様は私に向かって何かを話してくれてるんだけど、一瞬でパニック状態になった観客たちの歓声がすごくてなんにも聞こえない。観客さん、私の夢なんだからその辺は配慮してほしい。

苦笑いしたシゲル様は、ステージ上の予備マイクを手に取る。

 

「突然乱入しちまってすまねえな!でもよぉ、お前さんたちがあんまり俺を痺れさせるもんだから――しょうがねえよな!」

 

うわあああ!シゲル様の生声だ!夢だけど!

観客たちは更に黄色い歓声をあげたので、シゲル様は観客席を向くとにやりと笑う。

うおお、笑顔が眩しすぎて直視できない!

「櫻崎シゲルだ!呼ばれてねえのに参上したぜ!」

間違いなくこの日一番の歓声が、会場を揺るがした。

耳をキーンとさせながら、私もマイクを使ってシゲル様に語り掛ける。こうしないと聞こえないんだよ。

「シゲル様!まだ海外におられたんじゃないんですか?!」

「へへ、最高の音楽が聞こえたからな!慌てて海を飛び越えてきたんだよ!」

そんなことを言うシゲル様にやられてしまって、卒倒する観客が現れだした。あー、私の夢とは言え勿体ない。生シゲル様なのに。

あ、でも大丈夫だ。隣の観客が『一生後悔するわよ!』って言って往復ビンタしてる。直ぐ目覚めるだろう。

 

「いやあ、みんな上達したな!実は結構最初の方から聞いてたんだが、誰も彼も初めて一年とは思えない腕前だったぜ!最高だった!」

 

「でもよ、ちょいと緊張しすぎてたな!みんなミスをしないように、って頑張ってたのは分かったんだが――まだまだミスなんか気にしないでいいんだよ!まずは手前がライブを楽しむんだ!喜びってのはプレイヤーから伝わってくるのさ!」

 

「その点、この三人は百点満点――いや、百二十点だったぜ!」

 

「俺も最高に楽しませてもらったよ!ありがとな!」

 

「こちらこそありがとうございます!光栄です!」

シゲル様の手放しの絶賛に、私は頭を下げて感謝を伝える。

うーん、これが現実だったら私は過呼吸起こして倒れてるね。理子ちゃんとヨッシーが気絶しそうな顔してるのがなかなかリアル。

 

「――で、物は相談なんだがよ、」

 

おおっ。

シゲル様のその言葉に、私は『きたきた!』と前のめりになる。

これから先の展開は、簡単に想像できる!きっと私の望みそのままに、このステージを使ってシゲル様のライブが――

 

 

「さっきの曲、もう一度聞かせちゃくれねえか?!」

 

 

あれ?!

 

「え!?もう一度ですか?」

 

思わずおうむ返ししてしまう。だってこんなの予定にない!

どうなってるの!?私の夢なのに私の望まない方向に進みだしてるよ?!

ここはシゲル様が一曲披露して会場どっかーんってなる筈では?!

「おう、アンコールだ!頼む!」

でもシゲル様は拝み手してまでそんなことを言ってくる。

どういうことよ私!いい加減にしてよ!多分台本にないでしょこんなの!

「さ、流石にそれは緊張しちゃいます!」

だってシゲル様本人の前で自作の曲を披露するって――およそ考え得る限り最高のプレッシャーじゃない?現実じゃないとはいえ流石に尻込みするよ!

でもシゲル様は、

「大丈夫だって!自慢のハートで、勝負をかけてくれよ!」

私の歌詞の一部を引用してそんなことを言ってくる。

うひー、顔から火が出るほど恥ずかしい。夢じゃなかったらとても立ってはいられないよ!

 

まぁでも、ほかならぬシゲル様がそうおっしゃってくれてるんだ。期待には応えたい!どーせ失敗しても現実には影響ないし。

……だけど、一つ大きな問題があった。

 

「いやー、シゲル様の頼みとあれば百回だってやる所存なのですが、いかんせん……」

 

私はそう言って両手をシゲル様に差し出す。

 

――めっちゃくちゃ震えてるんだよね、私の手。夢なのに。

 

まるで肉体が何かを訴えかけてるみたい。

 

「……すっげー震えてるな。ビブラートかかっちゃうぞ」

「あはは、なんかこの調子で。とてもギターが弾けるとは――あ!」

 

そこまで言って、私は閃いた。

なるほど、そういうことか!そういう展開ね!

図々しいけど夢なら許されるってことかぁ!

 

「シゲル様、代わりに弾いて下さいませんか?!私歌に専念しますから!」

 

私はそう言って、ギターを差し出す。

シゲル様はちょっと呆気にとられた様子だったけど、

 

「――いいのかよぉ?!」

 

直ぐにそう言って、大喜びで私のテレキャスターを受け取ってくれた。

うーん、すごいことが起きている!私たちの作った曲をシゲル様が弾いてくれるなんて――これって全ての音楽家の到達点なのでは?!私の想像力って私が思ってるよりも気宇壮大かつ厚かましいみたい!えへへ。シゲル様がわたしたちの曲をどう料理してくれるか、こりゃもうワクワクが――あ。

 

――しまった。楽譜が無い!

 

いくらシゲル様でも、初見の曲だ。スコアに目は通さないとね。あー、もう、控室まで取りに戻ったんじゃテンポ悪いよ。しっかりしてよね私。

「すみませんシゲル様。今控室からバンドスコアを持ってきますので――」

私が頭を下げて謝ると、シゲル様は「わはは」と笑って――

 

「必要ねえって。俺を誰だと思ってんだ?」

 

説得力の塊のようなセリフを口にした。

 

――そりゃそうだよね!わたしどうかしてた!

 

よし、じゃあ準備オッケー!さあ行こう、と私はヨッシーを振り返って――

 

 

顔面蒼白で震えているバンドメンバーたちに気付いた。

 

 

「……どうしたの二人とも?ほらヨッシー、カウントカウント」

 

「「どうしたもこうしたも!」」

 

二人は顔色を失ったまま食ってかかってくる。

「わたし今カウントやったら16ビートになるよ!」

「なっ、なんで真美ちゃんはシゲル様と普通に会話できてるの?!おまけにギターを渡して演奏を頼むなんて――」

理子ちゃんがそんなことを聞いてくる。うーん、いかにも現実の理子ちゃんが言いそうな常識的なセリフ。

まぁ、質問の答えはシンプルだよね。

 

「だってこれ私の夢だし」

 

現実じゃないんだから、どれだけ厚かましいお願いしたって問題ないんだよ。

 

「」

 

わたしの答えに、理子ちゃんは何故だか一瞬白目を剥いた。

 

「――ゆ、夢じゃない!夢じゃないよ真美ちゃん!」

「こんなの夢に決まってるでしょ!ほら!全然痛くなひもん!」

ぎぎぎ、と自らの頬をつねりながらわたしは言う。ふふふ、なんの痛痒もかんじない。

「アドレナリンが五体を死兵に変えているんだよ!正気に戻って真美ちゃん!それ明日超痛いヤツだよ!」

理子ちゃんはそう言って必死に私の身体を揺さぶってくるけど、ヨッシーがそれを止めた。

「いや理子ちゃん、このままにさせとこう……!下手に正気に戻ったら即座にぶっ倒れるよコイツ。そしたらライブどころじゃない!」

据わった眼をして言うヨッシーに、理子ちゃんは息を呑む。

「よ、ヨッシーさん、やるつもりなんですか……!?」

「……成功するにしろ失敗するにしろ、一生の思い出になる!だって、シゲル様と一緒に演奏できるんだよ?!」

「うっ……!そ、それは、そうかもしれませんが……!」

「……それにね、理子ちゃん。これはチャンスなんだ」

「チャンス?」

「『私はシゲル様の生ライブ聞いたことあるけどー』とかマウントとってくるお母さんに逆襲するチャンスなんだ……!」

「……」

なんか理子ちゃんがヨッシーを冷めた目で見ている。多分しょうもないことをいうお姉ちゃんを見るときのわたしの目だ。

もー、なんでもいいけどぐだぐだやってないで始めようよ。シゲル様は今のところ私のギターのセッティングを確認してるみたいだけど、夢の中とはいえお待たせしちゃいけないでしょ。

 

そんな私の考えが通じたのか、ヨッシーは一度大きく深呼吸をすると「よろしくお願いします!」とシゲル様に頭を下げて、スツールに座り直した。

理子ちゃんはシゲル様とわたしを交互にみると――自らの両頬をばしんと叩いて、こちらもシゲル様に頭を下げてから定位置に戻った。いざという時に肝が据わるところが夢ながら理子ちゃんらしい。

よしよし、これで本当に準備オッケーだ。

 

シゲル様に『準備いいですか?』と目配せをする。

 

ウィンクが返ってきた。

 

心臓が跳ね上がる。現実だったらときめきで心不全起こしているよ。

 

 

 

ヨッシーのスティックがカウントを始める。

 

さぁ、文字通り『夢の』アンコールの始まりだ――!

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

すごい。

すごいすごいすごい!

すごい――楽しい!!

 

シゲル様の生ギターは、想像以上の破壊力!そもそも私用にセッティングされたギターで、弦高なんかもかなり低めだと思うんだけど――まるで楽器の声が聞こえてるみたいに、完璧以上に弾きこなしている!

そしてそれ以上に驚異的なのが、明らかに二人とは隔絶した技量を発揮しているのに、曲を全然壊していないってこと!

シゲル様は本当なら一人だけでどこまでも走っていけるはずなのに、ヨッシーと理子ちゃん――いっちゃあなんだけどまだまだ稚拙なリズム隊に、喜んで合わせてくれている!

それにしても、初めて一緒に演奏するっていうのに、こんなにぴったり息を合わせられるものなの?!

これって文字通り『神業』だよ!

だって、二人の演奏は活き活きとして、まるで一秒ごとに上達していくみたいだもん。「それさっきやってよ!」って言いたくなるくらい最高の出来栄え。一つになった音楽は、天井知らずにクオリティを上げていく。

みんなと肩を組んだシゲル様が、行ける行けると引っ張り上げてくれてるんだ!

わたしの歌も、間違いなく絶好調。声はどこまでものびる。リズムも音程も外れる気がしない!

っていうか、今ならちょっとくらい外しちゃっても問題ない!最強状態だ!パワーで押し切れる!

 

もう、夢みたいに楽しい!あはは、当然か!夢だもん!

 

――サビにも力が入るってもんよ!

 

 

『準備オッケー、今行くわ!』

 

 

 

『『――流れる星を 追い越して!!』』

 

 

 

んあああああ!

シゲル様がとんでもなく美しくハモってくれる!

頭の中で弾ける火花のせいで前が見えないよ!

 

 

 

――おっと、そろそろギターの見せ場!

 

「――ギターソロ、お願いしまぁす!」

 

わたしはシゲル様に叫ぶ。

 

「任せとけッ!」

 

世界一頼もしい声が返ってきた。

 

満面に笑みを浮かべたシゲル様が、恐ろしいテクニックを発揮した。

一年近くかけて考えたギターソロが、完璧にコピー――いや、コピーどころの話じゃない。

べらぼうに痺れるアレンジが施されている!

なにこれ!?私こんな滅茶苦茶カッコいいギターソロ書いた記憶ないけど?!

これ私の夢ってことは、こんなすごいギターソロを考えることのできる私の才能はもしやすごいのでは?!

起きても覚えてられるかな!

再現には100年くらいかかりそうだけど!

 

――っていうかヤバい!テレキャスターちゃんの音色にとろけすぎて腰抜ける!

耐えなきゃ――アッダメだ抜けた。すぐ抜けた。

 

ステージにへたり込んでしまった私だけど、マイクは離していない。

 

ええい構うもんか、あとちょっとだ!このまま歌いきってやる!

 

 

『――いつか!』

 

『誰かの!』

 

 

『願いに、なるのよ!』

 

 

 

 

 

 

 

スピーカーが、私の歌声を伝え終わると――

 

 

 

 

観客たちの、大歓声が返ってきた。

 

 

 

 

そのほとんどはシゲル様に向けられているんだろうけど――

 

わたしは生まれて初めて、全身に鳥肌が立つのを感じていた。

 

 

 

 

ああ、気持ちいい!

最高に楽しかった!!

夢なのが本当に惜しいよ!

 

 

「痺れる歌だったぜ!」

 

へたり込んだまま余韻に浸っている私の手を取り、シゲル様が立ち上がらせてくれる。

「わわ、こ、光栄です!」

えへへ、夢ならではだ。うーんリアルな感触。起きても洗わないでおこう。

 

 

「……いつか誰かの願いに、か」

 

ふと、シゲル様が口ずさむ。

歌詞の最後の部分だ。何か引っかかるところがあったのかな?と私はちょっと不安になる。

でも、シゲル様は、

 

「――もう俺の願いだよ」

 

私の手を握ったまま、そう言った。

「え?」

その言葉の意味をはかりかねて首を傾げる私の背中を、シゲル様はぱしんと叩いて――

 

「センキューヒーロー、ってことさ!あとでサインくれよな!」

 

至近距離で、にかっと最高の笑顔を弾けさせた。

夢と言えど死にそう。

でも、サインって署名?流石夢だ、なんかわけわかんないけど――

 

こんな夢ならずっと見ていたいな!

 

万雷の歓声と拍手の中、私たちはシゲル様を伴って舞台袖に引っ込む。

 

 

そして。

 

わたしの思いが天に通じたのか――なんと、この夢は控室に戻っても覚めなかったのだ!

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

 

「シゲル様のサインすっげーかっこいい。なにこれ。洗練されたデザイン性を感じる……ダメ元でこっちの楽器にもサイン頼んだのはウルトラファインプレーだったのでは?」

「本当に良く仕出かしたよ真美。だって量産型の楽器が重要文化財になったんだもん。大変なことだよこれは」

「えへへ。……ところでヨッシー、ドラムヘッドにサインしてもらっても持って帰れないんじゃないの?ドラム置き場所ないんでしょ?」

「いやヘッド引っぺがして持って帰るよ。家宝にするから」

「……それ持って帰られたらドラマー勢の生徒が困るんじゃない?」

「知らん。元々あたしのだ」

「おお、目が据わっている……まぁどうせ夢だし別にいいか」

こそこそ話す二人を尻目に、俺は手にしたベースにサインをする。

「――理子ちゃんへ、と。これでいいかい?」

「ああああ、ありがとうございます!!神棚に安置して毎日拝みます!!」

「弾いてやってくれよー」

ぺこぺこ頭を下げる理子ちゃんにベースを手渡してから、俺も自分のギターをケースに仕舞う。

そのボディには、三人の女子高生の名前が書かれている。頼み込んで書いてもらったものだ。

サインを見るたびに、今日の感動を思い出すことができるだろう。何を遠慮したんだか滅茶苦茶小文字だし字は震えてるけど――ま、ご愛敬ってとこだな!

 

「――あ!」

 

突然、真美ちゃんが大声をあげた。

その視線の先にあるのは、机の上に乗ったままのフライングVだ。

「シゲル様っ。よろしければこちらのギターにもお願いできますか?」

「ん?構わねえけど……名前はまた『真美ちゃんへ』でいいのか?」

「あ、麗佳ちゃんへ、でお願いします!麗しいに、佳作の佳で」

「お?友達のかい?おいおい、人の相棒に勝手にサインしちゃマズいだろ?」

「賭けてもいいですけど月まで飛び上がって喜びます。シゲル様の大ファンですから!」

「はは、そりゃ嬉しいな。でも油性ペン消せるワックスとかもあるからよ、嫌がってたら消してやってくれよ?」

「そんなワックスこの世からなくなればいいのに」

「なんでだよ」

サインを書き終えるのはあっという間だ。何年も書いてなかったが、やっぱり体が覚えてるもんだな。

「ほい出来た。――丁寧にメンテされてるけど、何番目にやったギターだい?」

「私たちの前に、『終わらない旅』をやったバンドです」

「あー、ありゃ巧かったな!技術的には今日イチだった、今後が楽しみだ、って言っといてくれよ」

「ギター渡す時に伝えておきます!きっと喜びますよ!」

「喜びで絶息しちゃうんじゃ……」

「シゲル様原理主義者だからね。その時が麗佳ちゃんの最期の時になる予感がする」

 

 

 

 

――さて、これで寄り道も済んだ。

最高のライブのおかげで、俺のエネルギーは満タンを振り切って溢れ出してる。

俺はポケットに突っ込んであったピックをホルダーに収めようとして、

「――お、そうだ」

ふと思いついた。

「真美ちゃん。これやるよ」

真美ちゃんにピックを手渡す。

「ピック!こ、このティアドロップテレビで見たことありますよっ。どこにも売ってないヤツだ!」

「あー、試作の段階で大量に貰ったヤツだからな。確かに市販はされてねえのか?」

「あ、愛用品じゃないんですか?!いいんですか手放しちゃって!?」

「おう。まだまだあるし、そっちの気分じゃなくてな」

小さなピックを両手で受け取る真美ちゃんに、肩を竦めて答えを返し、俺はピックホルダーから新たな一枚を取り出す。

 

「――今は、こっちがいいのさ」

 

握り込むのは、『トライアングル』タイプのピック。

 

ゲン担ぎってのが馬鹿にできないのは証明済みだからな。

さーて、上手くいけば蓬莱テレビで捕まえられるか?

 

「と、ところで、シゲル様。今日はその、お忍びですか?お仕事ではなくて?」

理子ちゃんが尋ねてくるのに、俺は頷きを返す。

「おう、休日でな。完全にプライベートだぜ」

「……だとすると、このままここにいるとまずいかもしれません」

「えー、何でよ」

眉根を寄せた理子ちゃんが、ふくれっ面で口をはさんだ真美ちゃんに向き直る。

「だって、観客たちが押し寄せてくる可能性があるから。シゲル様、休日どころじゃなくなっちゃいます」

「大丈夫だって、私の夢なんだから。皆都合よくはけるよ」

「真美はちょっと黙ってなさい。後で目覚めのビンタをくれてやるから。――シゲル様、まだ観客たちは混乱状態でしょうし、『不敬を働いてはいけない!』と淑女回路が働いているでしょうから、控室に押し入るようなことはないと思いますが――理子ちゃんの言う通り、長居は危険かもしれません」

「はい。校長先生あたりが、そろそろ恐る恐る訪ねてきそうです」

「おっと、ソイツはまずいな。いつの世も校長センセってのは話が長いからな」

「あー……シゲル様やっぱり御多忙です?この後も用事が?」

真美ちゃんが問うのに、俺はにやりと笑みを返して口を開く。

 

「おう。今から俺も、お前さんたちを見習って――」

 

 

 

 

――喋りながら、脳裏には弁天様の言葉が甦っていた。

 

『百点満点』

 

『あなたのライブはおしまい』

 

――弁天様。そいつはちょいと違うだろ?

 

だって――

 

 

 

 

「百二十点を、取りに行くのさ」

 

 

 

 

アンコールが、まだじゃねえかよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。