アンコールは異世界で   作:ヤマガミ

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番外編 渋滞知らずの精霊馬 4

 

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安藤達也視点

 ̄ ̄ ̄ ̄

 

ドアを蹴破るような勢いで麗さんは参上した。

武一さんの電話から三十分も経たずに。

……麗さんどこ住みだっけ。ワープでもしたのかな。

「――なんだその恰好。お見合いでもする気か」

気合の入りまくったメイクとファッションを見て、武一さんはちょっと引いていた。

「する気よ」

その武一さんを一顧だにせず、麗さんは一直線にマリオのもとへと進む。

マリオは麗さんを見て嬉しそうに顔をほころばせた。俺を知ってるくらいだから、著名なピアニストでもある麗さんのことも知ってるんだろう。

なにしろ麗さんは異色の経歴の持ち主だ。元々一流のピアニストでありながら、シゲルさんの音楽に惚れこんでツアメンの座をもぎ取ったというエピソードは、なんとテレビ番組になったこともある。知名度はかなり高い。

 

「あの、音楽好きですか」

その麗さんは自己紹介も無しに、マリオにそんな質問をぶつけた。

「おう!愛してるぜ!」

でもマリオは即答する。

「ありがとう。結婚しましょう」

麗さんも即答する。

「あ?」

「待て待て待て」

麗さんによる会話の超次元ドッジボールに武一さんが割って入った。

「のけ、武一。こんな都合のイイ、私の理想をかき集めたかのような男性――私の夢から出てきた王子様以外にあり得ない……!私に所有権がある!」

麗さんは言葉の剛速球で武一さんを場外に吹き飛ばそうとする。

「無茶苦茶言ってんじゃねえ!そんなことのためにお前に声かけたんじゃねえぞ!」

でも武一さんは踏ん張る。えらい。

「ハァ?!じゃあ何で私を呼んだのよ?!」

「キーボードやらせたいからだよ!お前に他の価値があるか?!」

「ころす」

「うわああああ!」

麗さんが執拗に武一さんの急所を狙いだした。武一さんは鋭い蹴り足から必死に逃げる。

まぁ流石に他の価値がないってのは言い過ぎだ。麗さんはかなり綺麗なヒトで、スタイルもいい。

だけどいわゆる『黙ってりゃ美人』なタイプだからなぁ……

 

ああ、でも、こんなやり取りもなんだか――

 

「懐かしいな……」

 

――その小さな声は、俺の口から出たものじゃなかった。

 

はっとして横を見る。

そこにあるのは嬉し気に――そして本当に、心底懐かしそうに二人を見ているマリオの横顔だ。

なぜかその整いすぎた顔にシゲルさんがダブって見えて、俺は目をこすってしまう。

「――おっと、ライブ前にドラマー潰されたらたまんねえよ。おいタツヤ、ぼちぼち止めるぞ」

「あ、そ、そうだね」

 

 

マリオが麗さんを羽交い絞めにしたところ、彼女は陶酔状態で動きを止めてくれたので、俺たちはやっとリハーサルの話が出来るようになった。

 

 

「――あれ?ところでオーナーはどこいったんすか」

「あっいねえ。まぁイイや」

武一さんがさらりと言う。

「……まぁイイんすか?」

いいんだろうか。そもそも今回のイベントってある意味オーナーが主役では?世話になったオーナーへの手向けのライブってことだったはずだけど……そのオーナーにリハぐらいは確認してもらわないとマズいんじゃないかな。四分の三がピンチヒッターなんだから。

でも武一さんはあっさり頷く。

「ああ。別にオーナー居なくてもライブの出来栄えに影響無いから」

なるほど。武一さんは当初の目的を完全に忘れている。

「そんなことより肝心なのはマリオの歌だ。『歌もイケる』って話だが……あのギターの後じゃハードル上がるぜ。自分自身のギターに負けない自信あるのか?」

「ほんとにアホね武一は。この王子様の歌が下手なわけないでしょう」

何故か麗さんが答えた。

やれやれと言いたげな様子で口を挟んだ麗さんに、武一さんは半眼を向ける。

「……お前マリオの何を知ってんだよ」

「何から何まで知ってるわよ。私の夢ノートに詳細な設定が山のように描かれてるから。――その声は天上の美声だしその演奏はミューズも裸足だしそのルックスにはアフロディーテが嫉妬してサネルの五番は彼の汗よ」

一息に言った麗さんは虚空を見据えてポンと手を打つ。

「――あっ、買い占めなきゃ。サネルの五番」

麗さんの瞳孔は開いていた。

「コイツ過去最大級にキマってやがる」

武一さんが戦慄している。

俺もこわい。

平然としてるのはマリオだけだ。

「まーとりあえず歌の方もテストしてくれよ、武一」

あの麗さんを前にして普通に話を続けられるんだからすごい心臓だ。

……というかこの人今はライブのことしか頭にないのかもしれない。なんとなくそれが正解な気がする。

「あ、ああ。だけど言った通りハードル高いぞ。大丈夫なのかよ」

「お眼鏡に叶わなかったらタツヤに任せりゃいいだろ」

「……まぁ、そうだな」

「えッ、俺すか」

武一さんはマリオの言葉に頷くけど、俺としては冷や汗ものだ。

正直勘弁してほしい。このギタリストに負けないボーカルは多分現世にいない。

「じゃあ適当に歌ってみてくれよ、マリオ。何の曲でもいいぜ」

「ん-。じゃあ『スモーキン・スモーカー』なんてどうだ?」

「またテクい曲を……あの大サビの転調イケるのかお前」

「そいつも聞けば分かるだろ」

「ちっ――その声で音痴だったら赤っ恥だからな。頼むから笑わせてくれんなよ!」

俺は武一さんのその言葉を聞いて、マリオなら即座に『任せとけ』と答えると思った。

 

だけど、

「あー、そりゃあ難しいかもしれねえな」

なんと、マリオが口にしたのはそんなセリフだった。

「何ぃ?」

予想外のセリフに、武一さんはぎょっとした顔でマリオを見る。

 

でも。

 

「不思議と皆、笑っちまうらしいぜ――」

 

弱気な言葉とは裏腹に、マリオは自信満々にギターを構えて――

 

 

 

「俺の歌を聞くとな!」

 

 

 

大きく口を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____

 

 

 

結果。高いハードルとやらは何の意味もなかった。スーパージャンプで一発だった。

一行は即座にステージへと移動し、打ち合わせを始めていた。

「これが今日のセトリ(セットリスト。演奏する曲名とその順番)だ。でも手を加える必要があると思う」

「ほー、どれどれ」

見るからにわくわくしているマリオは、武一の差し出したメモに目を通し――眉を顰めた。

「……なんだこの櫻崎シゲルの多さは!コピバンじゃあるまいしもっとてめえらの曲やれよ!」

「しょーがねーだろ!アイツただでさえレジェンドだったのにラストライブで本物の伝説になっちゃったんだから!今日やるはずだったバンドマンは全員アイツのファンなんだよ!」

「言うほど大したことねえよアイツ」

「てめー俺と戦争する気か。……そもそもだな、マリオ。お前その声とギターでシゲルの曲やらねえってのは冒涜だぞ冒涜。大体『スモーキン・スモーカー』だってシゲルの曲だし、『Everybody』も弾けるってんならお前もシゲルの曲好きなんだろ?」

「そりゃあ大好きだけど――いや、そうか。今日に限っちゃ都合が良いな」

「あん?都合が良い?」

「ああ。――このメンツで、櫻崎シゲルの曲をやれたら、」

 

「そいつはもう、言うことなしってヤツさ」

 

右手をポケットに突っ込んで、マリオは「ありがてえ」と口にする。

 

その様子を尻目に、オーナーは呼びつけたカメラマンをせっついている。

「早くしろ。リハが始まっちまうだろうが」

「あのですねオーナーさん。盆休みの最中に電話一本で呼び出されて、この速度で機材持ってきてセッティングしてる俺に感謝の一言もないんですか?」

「やかましい。あのメンツを撮れるんだ、むしろ俺に感謝しろ」

「……確かに錚々たるメンバーですがね。あの見れば見るほどイケメンの彼だけが不安要素ですよ。ちゃんとしたミュージシャンなんですか?」

「間違いなく本物だ」

断言するオーナーに、カメラマンは少々驚いた。軽々に「本物」なんて言葉を使う人物ではないことを、それなりに長い付き合いで知っていたから。

「ま、確かにそれなら映像で残しておきたい気持ちもわかりますが……定点カメラで俯瞰で撮ってPAからライン音声もらうんじゃダメなんですか?」

「それだけじゃあ不満だからおめえを呼んだんだよ。このライブは今後一生の酒の肴になるんだからな。グダグダ言ってねえで仕事しろ」

「してますよ。……あー、スペースちょっと足りねえ。オーナー、カメラ一台減らしていいです?」

「ダメだ。客のスペースの方もっと減らせ」

「いいですかそんなことして。ただでさえ結構削ってるのに」

「いいんだよ。どーせ埋まらんし、人間はぎゅっと詰めりゃ結構入る」

「はぁ……まぁオーナーが良いって言うならいいですけど。――言っておきますが、完璧な仕事求められても困りますからね。満足に技打ち(技術打ち合わせ)する時間もないんだから」

「わかってる。ちゃんと給料は出す」

「助手もつれてきたんだから人数分ですからね」

「ああ払ってやるさ。……だがな」

「?」

「――賭けてもいいが、おめえは五分後には『金払うんで撮らせてください』って言ってるぜ」

 

リハーサルが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

____

安藤達也視点

 ̄ ̄ ̄ ̄

キャパ500人というのは決して小さいハコじゃない。だけど、ドームやアリーナなんかの大箱と比べればその差は歴然だ。自然と客全体との距離が近くなる。

だから、観客たちが面食らっている様子が、この『サラスヴァティ』ではよく見えた。

観客の反応も当然と言えば当然だ。何しろステージに上がってきたのは四分の三が代打。っていうか武一さんだって出番はもっと後のはずだったから、何なら全員代打だ。「話が違う」と文句の一つも上がりそうな場面だ。

だけど、観客たちは当惑しても不満の声を上げることはなかった。

何故なら――

 

「よう皆!逢いたかったぜ!」

 

スターの声で語り掛ける彼のビジュアルが余りにも強すぎたからだ。

女性も男性も等しく釘付けにして、彼のMCが続く。

 

「俺はマリオ!いきなりで悪いんだが――今日はライブの前に『悪い知らせ』と『良い知らせ』を聞かせなきゃならねえんだよ」

 

「先に『悪い知らせ』からだ!――今日出演予定の面子なんだが、そこの武一を除いて全員病院送りになっちまった!」

 

驚きの声がライブハウスに響く。「どうして?!」という疑問の声や、「大丈夫なのか!?」という心配の声があちこちから上がる。

 

「安心してくれ、命に別状はねえらしい」

 

「原因に関しては――何と刺身にハラ刺されたらしいぜ!だけど刃傷沙汰じゃあしょうがねえ。刺身も普段刺されてばっかりだからな、許してやってくれ」

 

彼の言葉に安堵した観客たちは、軽口に笑みを漏らす。

 

「さぁてそれじゃあ『良い知らせ』だ!」

 

 

 

彼は、なんだなんだと耳を澄ませる観客たちの目の前で――

 

 

「――今日の二時間!代打はずっと俺たちだ!」

 

 

胸を張って堂々と、それを『良い知らせ』だと言い切った。

 

俺は笑ってしまう。

勿論異論はない。

当たり前だ。チケット代が安すぎると心底思う。

 

 

「自信満々だなぁ、あのシゲル声」

「マリオ?誰?巧いのー?」

「武一さんが巧いのは知ってるけど」

「ベースタツヤじゃん。久しぶりに見た」

「キーボードの美人誰?」

「天ヶ瀬麗さん。あの人も久々に見る気がする」

「いやこれマジですごいよ。あのライブのメンバーの、四分の三が揃ってる」

「得したな。刺身はずっと刺しとけ」

 

「おっと、やっぱり結構知られてるな!――ってえことは、皆の懸念は俺だけか?」

 

「そうだー」

「初めて見るぞー」

「ちゃんとギター弾けんのかぁ」

「でもツラと声は完璧だぞー」

「SNSのID教えて!!」

「ホントにただのバンドマンなの?声的に櫻崎シゲルのモノマネ芸人さんとかじゃ?」

「芸人にしては顔とスタイルが良すぎる」

「アイドルやったら一日で天下獲れるぞ」

「っていうかなんでカメラ入ってんの?」

「マリオ、その面子で下手だったら滅茶苦茶浮くぞーっ」

 

気安い声が上がる。距離が近いから聞き逃しようもない。

彼はそれを聞いて、いたずら小僧のような笑みを浮かべながら――

 

「安心してくれよ!追い風が吹いてんだ!」

 

余裕綽々で請け負った。

 

「セトリ確認したらなんとまあ櫻崎シゲルの多いこと多いこと!……分かるか?渡りに船だぜ!何しろほら、俺って声が似てるだろ?」

観客たちは『似てるー!』の大合唱だ。

「だろ?別に似せようとしてるわけじゃねえんだが、そっくりってよく言われんだよ」

 

「へへ」

 

「――歌もギターも、うり二つだってな!」

 

 

言うが早いか掻き鳴らしたギターの超絶技巧で、彼は観客全員の度肝を抜くと――

 

 

 

「楽しんでいこうぜぇっ!」

 

 

 

痺れる声でシャウトした。

 

 

 

 

 

『お決まりの』セリフを聞いて、ぶるりと身体が震える。

 

 

 

 

 

 

――神がかったギターテクとボーカルだってことは、ちょっと聞いただけで分かっていた。

でもさっきのリハで新しく分かったこともある。

 

例えば、ちょっとした仕草に滅茶苦茶見覚えがある、とか。

こっちが教えた覚えのない個人情報について言及することがある、とか。

演奏のクセが『そんなに似るわけねーだろ』ってくらいとある人に似てる、とか。

「ちょっと貸してくれよ」って言って触った楽器をどれも一流に弾きこなしてしまって――同じことが出来る世界のバグみたいな人に一人だけ心当たりがあるとか。

 

 

――初見でこんなに息が合うなんてのは絶対にあり得ないってこととか。

 

 

何故か彼は俺たちの癖を完璧に理解していた。

何故か俺たちも彼の癖を完璧に理解していた。

 

そして本番を迎えた今――お互いの考えすらも、手に取るように分かってしまう。

 

――ここのフィルインから少し走らせたい。

――次の周期でカウンターメロディ。

 

音から意図が伝わってくる。言葉にしなくても全てがかみ合ってる。

 

長いブランクで俺の腕に浮いた筈のサビは、ワンフレーズごとに滅茶苦茶な速度で吹っ飛ばされていく。

 

……うん。我ながら驚異的なスピードで勘が戻ってると思う。

 

 

戻ってるとは思うんだけど――

 

正直、まだ少しばかりしっくりこない。

 

流石に弾いてない時間が長すぎた。

 

 

 

そんな俺のもどかしさに気づいた彼が、音楽を通じて語り掛けてくる。

 

 

「おいタツヤ。俺が引っ張ったほうがいいのか?」と。

 

 

挑発的な笑みを浮かべた彼は、そんな風に煽ってきた。

 

他の誰でもないこの俺を。

 

 

 

 

 

――脳ミソのどっかで、カチン、とスイッチが入った。

 

 

 

 

 

 

舐めてもらっちゃ困る。

 

俺を誰だと思ってるんだ。

俺は――超一流だから、ツアメンやってたんだよ。

誰よりも巧かったから。

 

コイツに関しちゃ、貴方よりも。

 

 

俺の手が音と繋がる。勝手に動き出す。

全盛期をなぞるように――いや、超えるように。

 

一段上がった俺の演奏に、一瞬のラグも無くギターが合わさる。

魔法みたいだ。

完全にこちらの呼吸を読んで、完璧に音を合わせてくれる。

それが最高に気持ちよくて、指がどこまでも滑らかに動いていく。

 

ああ、懐かしい。

一秒ごとに上達していくこの感じ。

憶えがあった。

 

 

 

こんなことを出来る人は、三千世界にひとりきりだ。

 

 

 

 

 

――どこ行ってたんですか。ずっと待ってたんすよ。

俺も、武一さんも、麗さんも。

観客のみんなも。

 

ほら。歓声が雷鳴みたいだ。

二年分のうっぷんを晴らすかのようなテンション。

 

 

 

はは。

すげえ。

楽しい。

音楽は、こんなにも楽しい。

そうだ。俺がシゲルさんに憧れたのは、あの人が最高の音楽を演る人だってのもあったけど――

 

 

世界中の誰よりも、楽しそうにしてたからだ。

 

 

俺もあんなテンションで、何かに夢中になれたら――それはきっと、最高の人生だと思ったんだ。

 

ああ、夢見心地だ。

 

人生の殆どを一緒に過ごしてきたベースという楽器が、どこまでも頼もしい。

二年前俺はコイツを裏切ったけど、コイツは俺を裏切らないでいてくれた。

 

憧れだけで音楽をやってきたわけじゃない。ベースを弾いてきたわけじゃない。

久しぶりに弾いてみてつくづく思う。

 

俺は。楽しいから弾いてた。

 

――愛しの相棒よ。最高だ。愛してる。お前に首ったけだ。

二年のブランクは、マジで気の迷いだった。許してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

ありったけの情熱を両手に込めて五弦を爪弾くこの瞬間が、楽しくて楽しくて――時間は弾丸みたいにすっ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、二時間が一瞬だな!」

 

彼の言葉に、俺はハッと正気に戻る。そうだ今弾いたの最後の曲のアウトロだ。なんてこった。

 

 

――だけど、良いライブには『この後』がある。

 

 

 

長い拍手をする人がいる。俺たちの名前を連呼する人がいる。

もっと直接的に、「アンコール」と叫ぶ人がいる。

どの行動も意味は同じだ。

 

もっと続けてくれと、そう願っている。

 

――そうだ皆。

その歓声で、引き留めてくれ。

今度こそ終わらせないで。

もう少しだけでいいんだ。

 

どうか俺に、俺たちに、あの日の続きを――

 

「やっぱりいいもんだな!アンコールの掛け声ってのは!」

 

「いくらでも演れる気がしてくるぜ!」

 

「――お前たちもそうだろ!?」

 

そう言って振り向いた彼に、俺は首がちぎれんばかりに頷きを返す。

麗さんはにっと笑って、武一さんは返事代わりにスネアを叩いた。

 

「よぉし!じゃあもう一曲行くか!」

 

観客たちの大歓声が響く。

数百人しかいないとは思えない音圧だ。

 

 

「――櫻崎シゲルの曲はどれも大好きなんだが、中には特別な思い入れがある曲もあってよぉ」

 

 

そう言うと、彼は静かに目を閉じた。

過去に思いを馳せるかのように。

 

彼の言葉を聞き逃すまいと、観客たちは静まり返る。

 

 

「いつか皆の前で演りたいな、って強く願ってたナンバーもある」

 

 

「そう。いつか……」

 

 

静かな時間はそこまでだった。

 

彼はやにわに目を見開いて、

 

 

 

 

 

「――どうやら『いつか』がやってきたぜ!」

 

 

 

 

 

その曲名を、口にする。

 

 

 

 

 

 

 

「『いつの日か』!」

 

 

 

 

 

 

 

ああ――

 

 

 

 

俺の『休憩』が、やっと終わった。

 

 

 

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