童貞守護戦記<東方あべこべ>   作:アシスト

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皐月・彼

 

 

皐月 @日 (晴)

 

 

 月が替わり数日が経つ。

 

 本来ならばゴールデンウィークに当たる時期だろう。私の世界では祝日になると精に餓えた畜生による童貞窃盗事件が多発するため、男は大型連休中なるべく出歩かないよう家に籠城するのが常識だったが、私にはもう昔の話だ。

 

 約一ヶ月経った今でも思う。幻想郷に来れてよかったと。

 人里外にさえ出なければ平和が保証されているのは素直に嬉しい。ムスコもニッコリだ。八雲殿には足を向けて寝られないな。少なくとも魔法使いになる30歳の誕生日まで、私は絶対人里から出ないぞ。

 

 しかし八雲殿の出張はいつ終わるのだろうか。

 久しぶりに会いたいものだ。

 

 

皐月 ψ日 (雨)

 

 

 お金に余裕が出てきたので新聞を取ることにした。

 

 新聞と言う割にはゴシップ記事が多いが、雨の日の娯楽としては丁度良い。横書きの新聞は初めて読むが、これはこれで面白いと私は思う。

 

 今日のメイン記事は『紅魔の館今期5度目の爆発! 原因は守矢!』……随分と穏やかじゃない事件だ。

 

 妖怪の立ち入りが禁じられている人里であるが、この新聞を書いているツインテールの女の子は自分のことを天狗だと言っていた。これは彼女が『人里入場許可証』を持つ特別な妖怪だからだ。

 

 出会い頭に「こんにちは! 犯すね!」と襲ってくるような妖怪もいるらしいが、全ての妖怪がそういうわけではない。人間に友好的な種族もいるにはいるようだ。その中でも人里にとって有益かつ無害だと認められた妖怪には『人里入場許可証』が渡される―——と、慧音殿から聞いたことがある。天狗は妖怪の中でも特に社交性のある種族らしく、その許可証も持つ者も多いんだとか。

 

 妖怪は醜い外見をしているとの話だったが、あの天狗っ娘は年相応の女子高生のように可愛らしかった。そこも踏まえて、妖怪も人間同様、一概には言えない存在なのだろう。

 

 

 

 

皐月 #日 (曇)

 

 

 今日は初めて『教師』として生徒たちに算数の授業を行った。

 

 「そろそろ教師として教壇に立ってみないか?」と慧音殿から言われ早数日。

 いざやってみると、意外と緊張することなくスムーズにこなすことが授業をできた。前職柄、人前に立つのは慣れてはいたが、ここにきて役に立つとは思わなんだ。

 

 慧音殿からも「初めてにしては悪くなかった」と及第点を頂くことが出来た。もちろん、これで満足するつもりなど毛頭ない。慧音殿の授業と比べたら天と地程の差があるのは自覚している。自分としては反省点も多いしな。精進しよう。

 

 

 

皐月 +日 (晴)

 

 

 今日の私はとても気分が良い。

 最高にハイというやつだ。

 

 今日は週に一度の給料日であるため仕事帰りに商店通りに寄ったのだが、そこで妹紅殿と出会ったのだ。

 

 妹紅殿が不定期にタケノコや山菜を人里に売りに来ていることは知っていたが、実際に立ち会うのは今日が初めてだ。とりあえず余っていたタケノコを全て買い取らせてもらった。しばらくタケノコ生活も悪くないだろう。

 

 勇気を振り絞って食事に誘ってみたが、残念ながら断られた。慧音殿と飲みに行く約束があると言う。それならば仕方ないと思い、潔く諦めた。しつこい男は嫌われそうだからな。まぁ私の世界ではしつこい男は犯されるのだが。

 

 それでも別れ際「また今度誘ってね」と手を振って言われたとき、よっしゃ!とついガッツポーズを取ってしまった。変に思われなかったか心配である。

 

 

 

 

 

皐月 *日 ( )

 

 

 

 (空白)

 

 

 

 

 

皐月 %日 (晴)

 

 

 昨日、慧音殿とミーティングを行い、次の授業でそろばんを教えることが決まった。が、ここで問題が一つ。実は私、そろばんの使い方を知らないのだ。

 

 というわけで、昨夜は泊まり込みで慧音殿にそろばんについてご教授いただいていた。実際に使ってみると、これがなかなか難しい。手取り足取り教えてもらって使い方は理解したが、慧音殿のスピードには到底及ばない。電卓なら自信があるのだが、幻想郷にはないようだ。

 

 泊まり込みと言うこともあり、昨夜の夕食と今日の朝食をごちそうになった。どの料理も美味だった。やはり一人で食べるより、誰かと食べる方が幸せな気持ちになれると改めて実感した。

 

 美人で家庭的で料理もできる、何より清楚。慧音殿は人里の異性からさぞ人気があるのだろう。そう慧音殿に伝えたら「お世辞でも嬉しいよ」と妙に震えた手で肩をポンと叩かれた。謙虚なお方だ。

 

 慧音殿の助けもあって、今日のそろばんの授業はうまくいった。やりがいも感じるし、私は教師と言う職業に向いているのかもしれない。真剣に教員免許を取ることを視野に入れてみよう。

 

 

 

 

皐月 ¥日 (晴)

 

 

 慧音殿の様子がおかしい。

 

 私が声をかけるたびに身体をビクッとさせ、私から一定の距離を置く。不審に思って近づくと「それ以上はダメだ!」と言われる始末。慧音殿のような美人から拒絶されると、かなり精神的に堪える。

 

 怒らせるようなことをしただろうか? 何度も記憶を振り返ったが、そんなことをした覚えはない。残念ながら明日の寺子屋バイトは休日なので、明後日あったら兎にも角にも謝ろう。

 

 

 

 

皐月 &日 (晴)

 

 

 死にたい。今日はそれに尽きる。

 でも死ぬ前に日記は書き残しておく。

 

 

 買い物の途中、たまたま妹紅殿に出会った。

 

 妹紅殿と慧音殿は旧知の仲。試しに慧音さんの機嫌の悪さについて聞いてみると『心当たりはあるけど言っていいのかなぁ…』とわかりやすい反応をされた上に口ごもられた。

 

 その反応を見て、私は勝手に『原因は自分にある』と思い込んでしまったのだ。自分に非があるなら尚のこと慧音殿に謝らなければいけないと思い、無理言って妹紅さんの口を割らせたのだが、これがいけなかった。

 

 

 「あー……えっと、あれだね。きっとあの日だね。女の子特有のあの日。まぁ、そのうち良くなるよ。でもデリケートな問題だからさ、あんまり触れてあげないほうがいいよ。うん」

 

 

 ………意中の相手になんてことを言わせているのだ私は……。

 

 そして明日どんな顔をして慧音殿と会えばいいのだ。……笑えばいい? 笑えない。笑ってたまるものか。

 

 死にたい。あぁ死にたい。リスカしよ……。

 

 

   

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