妹の配信に入り込んだらVTuber扱いされた件 作:江波界司
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ありがたやぁ。
【シリアス注意】
久々のシリアス注意報です。
おかげでいつもより長めになりました。
俺は温厚で客観的に見ても、どう見ても優しい人間だ。
優しい人間なんだ。
分かると思うが、優しい人間なのだ。
だからという気もないが、俺はこれと言って喧嘩というものをした事がない。
愚妹はアホだし、よくやらかすし、何度となく再起不能にさせてやろうかと思ったか分からないが、喧嘩をした事がない。
喧嘩は言ってしまえば意見のぶつけ合いだ。
互いに譲れない一線を引き合い、それでも踏み込まれるその足を退けようとする行為。
俺は、それをした事がない。
良くも悪くも、俺はそれを受け入れるからだろう。
相手の意見を否定しないし、俺の意見を押し付けようとも思わない。
だから、喧嘩をした事がない。
「兄者〜、紅葉ちゃんになんかしたん〜?」
「……いや、なんで?」
「なんかコラボしよ〜とか言ったら兄者来ないのか確認されてさ〜」
「それは普通にするだろ」
「いつもはさ〜来るよね?みたいな聞き方なんだよね〜。でも今日はなんか来ないよね?みたいな感じだったんよ〜」
全く、カンのいいガキは嫌いだよ。
変なとこで鋭いし、こういう感性みたいな部分でこいつは人に気に入られるんだろう。
今は指パッチンで消し炭にしたいくらいにはめんどくさいが。
「まぁ出ねぇし」
「そうじゃなくてさ〜、なんかあった〜?」
「まぁ色々な」
「え、ケンカ?マジ?」
「いや、喧嘩って言えんのかあれ……」
確かにここ最近連絡を取らなくなったし、喧嘩別れみたいな最後になってはいるが。
しかし、喧嘩したかと言われると、悩む。
何せそういう経験がない。
それに喧嘩ってのはもっと、お互い何かしらの怨恨みたいなのを残すものなんじゃないだろうか。
殴りあって俺たちダチだよな!みたいなのもあるが、今回はそういうのでもないし。
対立、というより食い違いに近い。
故にそれは喧嘩と呼ぶには大雑把過ぎるわけで。
大剣でも振り回してた方がよほど喧嘩らしい。
「まぁ、色々な」
「え〜、教えてよ〜」
「だるい。お前はさっさとD〇Dクリアしろ」
「あれめっちゃキツいんだけど!なんか話重いし!たまにセンシティブになるし!」
だからやらせてんだけどな。罰ゲームとして。
いや俺的には良ゲーだから罰ゲーム扱いはアレなんだが。
いかんせんシリーズへの理解とか趣味趣向が合わないと全くできないタイプだし。
シンプルに無印は俺がトラウマ抱えそうになったレベルだったわけで、3にした温情を感じて欲しさもある。
明日のコラボは、確か歌枠。
ミックス無しで全国に垂れ流せるこいつらの能力って、割と高ぇよな。
「……」
「……」
「あ〜、えっと……」
……。
「……」
「……」
「その、とりあえず、お茶、いる?」
……。
「……」
「……」
「あ、あはは……」
何この三者面談。
前方には八重咲。その間にはテーブルがある。
リビングの中央から少し置いたお誕生日席であわあわとしているのがスミレさん。
セッティングするだけして部屋に帰った愚妹を今すぐぶん殴りたい。
それぞれを勝手な理由つけて呼び出しやがった。
勉強教えて欲しいとか言われた辺りで怪しいとは思ってたがな。
あとスミレさん、ここは俺の家です。
お茶を出してないのは愚妹が悪い。
「……」
「……」
「というか、私はなんで呼ばれたのかな……?」
「仲介人か」
「司会進行ですかね?」
「それ、私には荷が重いんだけど」
「まぁ、なんか変な気遣われてこんな感じになってますけど」
「そうですね。でも、いい機会じゃないですか」
「なんだよ」
「ここは腹を割って話しませんか?兄者さん」
「えらく喧嘩腰だな」
「そんな事ないですよ」
「ふ、二人とも?なんだか怖いよ?」
思えば、こいつとここまで意見が食い違うのは初めてだ。
好みの違いはあれど、どことなく共感や同意できることを語り合って来たからな。
だからこそ、なのかもしれない。
対立すると分かっている話をしたことはない。
共感するだけのぬるま湯に浸かって来た、ただそれだけのこと。
俺は、俺たちは今まで一度も、議論はしても討論をしたことがない。
「正解を求めることはしなかったからな」
「こういう時は、自分の意見だけが正解になりますからね」
「戦争の起こし方みたいだな」
「もう起きてますよ」
「それはお前が譲らないからだろ」
「兄者さんがそれを言います?」
「俺はとっくにそうだなと言った」
「でも納得してないじゃないですか」
「してる、って言っても信じないのはお前が悪いと思うが」
「そういう上辺だけの降参なんて要らないんですよ」
「ちょ、ちょっと落ち着こう?もう少し穏やかに、ね?」
「俺は十二分に穏やかですが」
「顔が怖いよ」
「それは元からです」
「兄者さんが変に大人ぶってるせいで話が進まないんですよ」
「ま、まぁまぁ、兄者くんはほら、歳上ではあるから」
なんか変にフォローさせて申し訳ない。
愚妹としては仲裁するために呼んだんだろう。
ただ、スミレさんにそういう適性はあるのか?
現時点何の役にも……おっと、やめておこう。
とはいえ、八重咲と俺の共通の知り合いとなると絞られるか。
愚妹、絶対に無理。
夜斗、向いてない。
甘鳥、論外。
おっと、全員ポンコツじゃねぇか。
ボスを召喚する訳にもいかんとなるとスミレさんしかいねぇ。
申し訳ない。
「今日、結論を出しましょうよ」
「俺はとっくに折れてんだが」
「体裁上引いてるだけじゃないですか」
「それでこの戦争は本来終わりのはずなんだが。アディショナルタイムに入ってるのはお前のせいだからな」
「ここまで来たなら覚悟決めて最後まで戦って下さい」
「人を敵前逃亡の戦犯みたいに言うな」
「ごめん、私、二人がどうして揉めてるとか聞いてないんだけど……」
「別に、揉めてないですよ」
「揉めてますよ」
「揉めてねぇっての」
「じゃあ最強はカ〇ンですよね!」
「……へ?」
「勝ったのはス〇クだけどな」
「……ん?」
「ほら!認めないじゃないですか!」
「え、あの……」
「最強は〇レン、勝負は〇ザクの勝ちでいいだろ」
「良くないですよ!最強である以上、あの勝負はカレ〇の勝ちです!」
「最強でも負けることはあるだろ」
「あの勝負に勝って初めて最強が定義されてるんですよ!」
「その前のスザ〇のセリフとかからも分かるだろ」
「セリフは主観であって、あくまでも実績上の話をわたしはしてるんです」
「あそこまでやり合ってる時点で実績あるが」
「その決着が実績なんですよ!」
最強談議。その議論に結論は存在しない。
あるとするなら公式回答だが、潜在的な能力はーみたいなタラレバの要素しかない。
となるとどこまでを技量と捉えるかで変わってくるため、キャラのセリフ以上の主観で話さざるを得ない。
となれば結論なんてものが出るはずもないのだが、しかし、彼女はこの話をやめようとはしない。
いや、前回思いっきりぶった切ったけど。
「ス〇ク側の勝利条件めちゃくちゃな難易度だったわけで」
「でもギアス有りきじゃないですか」
「それ含めて実力だろ」
「ギアスは個人スキルじゃないですよ」
「生かせることが個人の能力カウントしてる」
「それでいったら動かすこと前提にしてない機体動かしてるカ〇ンも相当でしょう」
「それ込みであの結果だし」
「えっと、ごめん、私もう帰ってもいいかな?」
「あぁ、飯作るんで適当に寛いでて貰っていいですよ」
「あ、そう?じゃあ、春ちゃんのところ行ってるね」
「できたら呼びます」
「──で、勝ってるわけですよ」
「そうだな」
「逃げないで下さいよ」
「飯、何がいい?」
「中華な気分です」
「中華か。そういや中華連邦のやつ」
「あれはでも天与呪縛みたいなものですし」
「でも理論上最強ってあいつじゃね?」
「割と、最強スキルの下位互換二枚持ちみたいなイメージですよ?というか、話を逸らそうとしてませんかね」
その後も夕飯を作りながら議論は続いた。
フライパンはどこだと聞いた後には戦歴の話を始め、おたまを渡すついでに経歴を返す。
あーだこーだと話してるうちに、予定にない品目がどんどん追加されていった。
スミレさんを呼ぶ頃にはちょっとしたパーティーでも開いているような図になっている。
「え、めっちゃ豪華!どうしたん〜?」
「いや、ついでに作ってたらこうなった」
「どゆこと!?」
「凄いね!食べ切れるかな」
「保存は利くと思うので問題はないはずですよ。ね、兄者さん」
「あ、仲直りできた〜?」
「いや、もとから喧嘩はしてねぇ」
「兄者さんが、あーもうそれでいいわー、みたいなこと言ったせいですよ」
「そんな腹立つ言い方してねぇ」
「腹立ったんだから言ったのと同じですよ!」
「まぁまぁ、冷めないうちに食べようよ」
オカンか。
まぁ、うちのおふくろよりはずっと母性あるし。
スミレさんの一声で全員でテーブルを囲う。
手を合わせた後は普段の倍ほど賑やかな食卓となった。
八重咲のエビチリが辛いだの、俺の炒飯は独特だの。
そんな語るまでもない話をしながら、いつものメンバーで食事する。
それをごく普通の日常に感じられる自分が、嫌いじゃない。
片付けと皿洗いはスミレさんと愚妹が請け負うことになった。
議論の続きでもするかと、自室で片手間用のテト〇スを起動する。
八重咲はベッドに座りながら、即座に落とされるミノを眺めていた。
どうやらさっきの話はまた保留らしい。
「わたし、割と頭いいんですよ」
「知ってる。つか普通にいいだろ」
「なんで、勉強とか苦労したことないんですよね」
「お前あれだろ、勉強してねーとか言ってテストでいい点取るタイプ」
「実は、本当にそうなんですよ」
「そういう返しは初めてだわ」
「小学校低学年の時にダンスをちょっとやってて、スポーツとかも普通にできる方だったんですよ」
「高スペック過ぎるだろ」
「いやいやー。それなんで、中一くらいまでは結構友だちとかもいたんですよね」
「へぇ……」
少し、声のトーンが下がった気がした。
いつも通りのテンションで話してはいる。
だがどこかに、そうしようとするぎこちなさを感じたのかもしれない。
「アニメとか、昔から好きだったんですよ。父親の影響もあって。なんで、古い作品とかも小さい頃から沢山見てたんですよね」
「世代じゃないやつとか、結構知ってたのはそれか」
「そうなんです。だから中学でそういう話が合う人ができて、結構色々話してたんですよね」
「オタクってのはどこにでもいるからな」
「でも、同性だと全然いなかったんですよ」
「そうなのか」
「だから男子とばっかり話してて、そしたら、女子内に居場所がなくなりまして」
「なんだその怖い状況」
「体育とか地獄でしたよ。二人一組作れは呪言だと思ってます」
「あれな。俺も余ったやつと組んでたわ」
「それで、不登校になりました」
「……いじめか」
「多分、いじめってほどあからさまなものじゃないと思うんですよ」
「そういうのは裏でやるものだろ」
「違うんですよ。女子グループに入れなかったのは仕方ないんですけど、私が割と目立っちゃったんですよね。テストも割といい点取るし、部活してる子と体育でいい勝負できたりしたもので」
「それ、普通はモテないか?」
「モテなかったですね!何せ、オタクだったもので!」
「……」
「その内、最初に話してたオタクグループからも少し距離を置かれるようになったんですよ。女子グループからあまりいい目で見られてなかったので、こう、無言の圧力みたいな」
「そういうのって、いじめじゃねぇの」
「空気を読んでるだけだと思うんですよ。ほら、想像して見てくださいよ。勉強もスポーツもできて、そのくせ異性にだけ愛想振りまいてるみたいな奴って、嫌じゃないですか」
「……さぁ」
「で、どこにも居場所がなくなって、引きこもりと。でもテストの日だけは行ってました。高校進学とかありますし。そのせいで更にクラスに入りづらかったですけど」
そうか、と短く返した。
努めて明るく返す彼女の顔を、俺は見ない。
ただ機械的にミノを落とし、列を埋める。
「だからじゃないですけど、オタク談議できるのが凄い楽しいんですよね」
「なら、天職だな」
「そうですね。それに、人にも恵まれてます」
「かもな。俺ほどの聖人にはそう会えん」
「ホントですよ」
「ツッコミ所のつもりで言ったんだが」
「いつもツッコんで欲しかったんですか」
「いつもツッコまれてるからだ」
後ろから聞こえた笑い声は、決して作ったものではなかった。
だから俺も、少しだけ踏み込める。
「なんでこんな話したんだ?」
「いやー、ほら、前のアレでちょっと気まずくなっちゃったじゃないですか」
「八重咲が怒って帰った時か」
「はい。それで、あまり勘違いは残したくないなと思いまして」
「勘違い?」
「あれは喧嘩がしたかったとか嫌いになったとかじゃなくてですね」
「おん」
「純粋にそういう話がしたくて、盛り上がっちゃっただけなんですよ」
「おお」
「なので、またそういう話をしたいなと、思いまして」
「別に、なんとも思ってねぇし」
「え?」
「というか前説の話が重すぎてエビチリ戻すかと思ったわ」
「わたしそんな重い話しました!?」
「人一人が世界に絶望して悟り開く話が軽いわけねぇだろ」
「そこまで大層な話はしてないですよ!」
実際、してるからね君。
やたらとオタクモードで暴走しがちなのはその反動でもあるのか。
不登校については聞いていたが、その経緯を聞いたのは初めてだ。
過去に何かあったのだろうとは思っていたが、想像以上に重い。
八重咲が強いからこそ今こうして話せているが、折れてしまっても仕方のないような話だった。
甘鳥とは違う、持っている者の悩みというのだろうか。
自惚れではないけれど、それはどこか共感できなくもないような気がして。
「まぁ、当の本人がなんとも思ってないならアレだが」
「それなりに前の話ですからね」
「消化し切ってるか」
「まぁそうですね」
「あんま、勝手に決めつけんなよ」
「はい?」
「お前は頭いいから何となく分かるんだろうけど。でも世の中割と、真っ当じゃねぇからな」
「いじめとか、そういうことですか?」
「中身じゃなくて理由の方な」
「理由?」
「なんでお前が悪いみたいな話なんだってだけだ。お前、別に何もしてねぇだろ」
「そんなことないですよ。むしろやり過ぎたと言いますか」
「それがお前の中の普通だっただけだろ」
「それは、そうなんですかね」
「いい点取って自慢とか、体育で相手ボコそうとか、オタサーの姫目指してたとかしてた訳じゃないんだろ?」
「それはそうですね」
「なら、お前の落ち度って無くね?」
「いや、まー、ほら、イメージとか」
「それだって主観じゃねぇか」
「うぅ」
「理由の落とし所がおかしいんだよ。俺は悪くない、世界が悪いくらいに思っとけ」
「比〇谷先生じゃないですか」
「それくらいでいいんだよ」
「……初めて言われましたよ、そんなこと」
八重咲は数字的な考えができるやつだと思っている。
何かを証明するために仮定と定義を見つけられる、そんなやつ。
それは賢いからこそできる。
けれど、だからこそ間違いが起こる。
「ちゃんと文句言えよ」
「文句……」
「さっきの話とか、同級生への不満と悪口だけで1クール分は話せる内容だったぞ」
「あはは……」
「お前が悪いんじゃなくて、お前に合わせられなかった奴らが悪いんだよ」
「傲慢の罪、みたいなセリフですね」
「そんくらいで丁度いいっての、お前は」
「そう、ですかね」
「そうだ」
「……はい」
それほど長い人生経験をした訳じゃないが。
それでも少しだけ長く生きた身として、お節介を焼いた。
喧嘩にすらならなかったものの仲直りには足りるだろうか。
「自販機行くけど、何かいるか?」
「……じゃあ、おまかせで」
「分かった。ティッシュはそこな」
「……どうも」
一度も彼女の顔を見ることなく、部屋を出た。
扉を閉めた背中越しに、押し殺した泣き声を聞いてないことにする。
LIME
八重咲『ヒ〇アカの新刊読みました?』
俺『読んだ』
八重咲『最後めっちゃ熱くないですか!』
俺『あれは熱い』
今日も今日とて、オタクはノンストップだ。
何かが変わった訳じゃないが、あれ以来壊れかけのブレーキがついに寿命を迎えた気もする。
それでいいと思う。
やりたいようにやれるのがVTuberの強みなんだろうし。
先の話だが、愚妹はD〇D3の全シナリオをコンプすることになる。
ラストエンドは体力の限界と虚無感で完全に放送事故のエンドロール垂れ流し配信となった。
圧☆倒☆的八重咲回!
舞散れ、落ち葉(解号)
というわけでギャグばっかしてるとシリアス書きたくなる症候群で過去話を。
コ〇ドギアス未修だと盛り上がりずらそう……。
ちなみに時系列的にはエイプリルフール→協力感謝のLIME→最強談議で揉める→……みたいな感じです。
面倒な説明は省くスタイル!
Q.夜斗はスライムナイト?
A.兄者の足蹴にされてるので実質スライム
Q.今回パイセンなんもしてなくない?
A.トラブルメーカーをマンツーマンディフェンス
Q.他のP.Sメンバーも見たい
A.まじ?(質問に質問で返すな)
感想、高評価、誤字報告、マシュマロ、ファンアートありがとうございます!
オラにモチベを分けてくれ!
マシュマロ募集↓
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ファンアート募集↓
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第三回 あなたの推しは?
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