妹の配信に入り込んだらVTuber扱いされた件 作:江波界司
ありがとうございます!!!
また少々空きましたが、月一更新よりは早いはず……。
そろそろ杞憂民が沸いて来そうなあの子がようやく出れるぜ。
今は昔、かぐや姫が求婚者に対して行った日本最古の塩対応をご存知だろうか。
彼女は明らかな無理難題を提示し、クリアした者とのみ結婚すると言い放った。
相手方もただ振るだけでは折れない程には、地位もプライドも意識まで高い系の連中だ。
これくらいの事をしなければ逃げることもままならないだろう。
さて、今は現在。
理由も内容も伝えず外へ出るから付いて来いなどと言う、バイクになる系旦那様ばりの質問拒否をしている実妹に対して俺は何をすべきだろうか。
残念ながら相乗りする悪魔すら近くにはいない 。
ここは一つ、切り札のパンチを見せるしか……。
探偵というセカンドキャリアに思いを馳せてみたが、やめておこう。
見方によってはVTuberよりよく分からん仕事だわ。
「まぁ、お前が意味不明な行動を取るのは今更だが」
「ん〜、それでいいや〜。はい行こ〜」
「行かねぇ」
「なんで〜?」
「理由はお前の隣にいるぞ」
「へいへ〜い、兄者先輩?ツバキがいつもロクなことしないと思ったら大間違いッスよ?」
「自覚がある分余計に腹立つな」
「まーまー、ここは一つ信用して下さいよ!ツバキもたまには良いことするってとこをそろそろ見せてかないとッスからね」
「お前ホントさ、ホントにふざけんなよ」
こいつのこういう所がめんどくさい。
発狂とか狂乱よりも半狂乱の方が数段厄介だ。
無知の知ではないが、自分が今やべぇってことを自覚してなお止まらない奴を俺は御せるのか?
いや、ムリ。
誰がケンタウロスとG1に出るよ。
色々とレギュレーション違反だし、俺までやべぇ奴にされるっての。
「それに、大会お疲れ様の権利をまだ使ってないッスから」
「端からそんな権利はない」
「じゃあ義務ッスね!主に兄者先輩の!」
「……そうだな。こいつを世に出した責任があるな」
「おお!それでこそ兄者先輩!」
「せめて俺の手で終わらせるのが俺の役目だ」
「兄者先輩!?グーはやめませんか!?グーは!」
「うわ〜兄者だな〜」
これは俺が愚妹から学んだ教訓だが、めんどくさいことから逃げるとめんどくさいことになる。
何度どうなっても知らんぞと言って、何度そうはならねぇだろとなったことか。
ただでさえ常日頃から異次元の展開を引き当てる愚妹だ。
こいつは放置するよりも手綱を握っていた方がまだマシ。
まぁ、デタラメな運に振り回されるのは変わらないんだがな。
「……ゴフッ……なんで、……いるんですか……?」
「八重咲には悪いが、今ほぼ状況が飲み込めたから入れてくれ」
「説明に……ゴホッ……なってないですよ……」
ドアの横にあるモニター越しに、体調の優れない彼女の声を聞いていた。
咳の感じからしても、風邪だろう。
返事も出来てるし恐らく立ってもいるだろうから重症患者では無さそうだ。
もっとも、しんどそうな声であることに変わりはない。
できればさっさと入れて欲しい。
「見舞いに来たってことでそっちも飲み込んでくれ」
「……うつしたくないので、そのままお帰り下さい……」
「俺もそうしたいのは山々だが、そうなるとまともな看病を受けれる保証はないぞ」
「いや、要らないです……大丈夫ですから……」
「そう言うな。下手すると来る時に買ってたニッパーでドアチェーン破壊して侵入しかねない後輩が後ろでスタンバってる」
「どう考えても見舞いに来た人の装備じゃないですよ!」
「サキサキ先輩、元気そうッスね」
「病人に、ツッコませないでください……」
「ツッコミついでに覚悟も決めてくれ。この二人、多分折れねぇぞ」
「…………くっ……ぬぅ……」
明らかに風邪とは別のところで苦しんでるな。
この二人が看病に来ましたとか、俺でも三途の川を渡るための銭を数え始めるわ。
やぶ医者か闇医者の方がまだ信用できる。
少しだけ待って欲しいという言葉の後、通話が切れた。
一応、形式的に分類すれば、定義上はレディの部屋に入るのだ。
最低限の気遣いはしよう。
「つか、理由くらい話せよ」
「言ったら絶対兄者来なかったよ〜?」
「そこまで薄情じゃねぇが」
「サキサキ先輩が、兄者先輩にだけは言うなって言ってたんッスよー」
「理由は知らんが、それは最後まで隠しとけよ」
「どっちみちここで詰まるからいいじゃないッスか」
「準備とかあるだろ」
「だからお店寄ったんじゃん〜」
「ほぼプリンとアイスじゃねぇか」
「風邪の時、割といいッスよ?とりあえず腹に入りますし」
分からんでもないが、せめて雑炊くらい作れるような材料入れとけよ。
ちなみにニッパーは入っていない。
買おうとしてたら流石に俺が止めている。
しばしの待ち時間を経て、ドアが開く。
覚悟は決まったらしい。
「どうぞ……」
「すまんな、体調悪いのに騒がしい奴らが来て」
「それは、いいんですけど……」
「ところでひとつ聞きたいんだが」
「十中八九分かっているので、聞かないで下さい」
「紅葉ちゃん、なんで部屋で帽子被ってんの〜?」
「聞かないで下さいって言ったそばから!」
このバカ、気遣いできる時とできない時の差がひでぇな。
コミュ力極振りなのもあって、比較的人の気持ちを考えることには長けてるはずなのに何故?
まぁ、それができたら国語の読解で0点はねぇわな。
部分点すらないとかもう狙ってるだろ。
八重咲は何故かキャップを深く被っている。
そのせいか、まだ一度も目が合ってない。
そりゃ身長差もあるが、何やら避けられている気がする。
まぁ、弱ってる姿を見せたくないって気持ちは理解できるからな。
帽子もその自己防衛とかだろうか。
「相変わらず、超絶オタク部屋ッスね〜!なんか安心するッスわ!」
「初めて入ったのに何も感じないのはそれか」
「それは、もうちょっと、感じて貰えないですかね……」
「つか、想像より広いな」
「P.S2期生がお金ないわけないッスからね〜」
「ゲスな話題にいきそうだから無視すんぞ」
「紅葉ちゃん〜?熱下がった〜?」
「一応、はい。まだ微熱くらいはありますけど……」
「いつ頃からひいてたんだよ、その風邪」
「診断されたのは一昨日です」
「そうか。飯は?」
「まだ、です」
「んじゃ、甘鳥。近場のスーパーで材料買って来い」
「ツバキは料理できないんッスよ?何買えばいいか分かんないッス」
「あとでLIME送る」
「うぃ〜ッス」
「拗ねんな」
甘鳥が出撃した後、八重咲をベッドに寝かせる。
お粥の材料が届くまでは何もできねぇし、話し相手になっている愚妹が今は最適解だろう。
聞いた話だが、八重咲の容態はやはり重いものではないようだ。
元々喉からきたらしいが、普通に会話しても問題ないくらいには既に回復しているらしい。
といっても、配信をするにはドクターでなくともストップをかけるくらいにはダメージが見える。
「最近忙しいとか聞いてたが、もしかしてそれが原因か?」
「かも、しれないですね……。体調管理は、割と気をつけてたんですけど……」
「ただでさえVTuberは昼夜逆転で免疫も下がるからな。あんま無理すんなよ」
「はい……すみません」
「謝らんでもいいが」
「なんかさ〜兄者もアタシも全然カゼひかないよね〜」
「俺は無理しねぇし、お前はバカだからな」
「はい〜兄者バカ〜。知ってる〜?バカはカゼひかないんじゃなくて〜、ひいてる事に気付かないだけなんだよ〜」
「知ってるか?お前本当にそれで学校行って小学生ながらバイオテロした事あるからな?」
「アタシ、そんなことしたことないし〜!」
「お前以外に誰が給食のプリン食うためだけにインフルエンザガン無視で登校すんだよ」
あれは本当に酷かった。
マジで次の日から病人続出だったからな。
休んでから頭痛を訴える愚妹はもう本物だとしかいえなかった。
あと、リスナーから得たであろうその豆知識だがな。
肝は気付かないってとこじゃなく、バカってところだと思うぞ。
「……よく、そんな面白エピソード、ポンポン出てきますね」
「ネタの多い人生を送ってるからなこいつ。ある意味人間失格だ」
「めっちゃ悪口じゃん!」
「それでいて親譲りの無鉄砲ときたから手に負えん」
「坊っちゃんじゃなくて、おてんば姫ですけどね」
「よく分かったな」
「わたし、成績上位者ですよ?」
「またアニメ〜?」
「少しは日本文学にも触れろよ」
今更期待はしないがな。
10分もしない内に甘鳥が帰って来たのでキッチンを借りた。
寝室のドア越しにはテンションの高い二人の声だけがやけに聞こえる。
念願の兄者先輩看病シチュエーションッスよ!じゃねぇよ。
願うんじゃねぇ。
次甘鳥がダウンしても絶対に何もしねぇわ。
わざと風邪ひく奴にかける慈悲はない。
「できたぞー」
「兄者さん……ありがとう、ございます」
「回復はしてるみたいだし、普通に食えるだろ」
「兄者先輩?そこは食べさせてあげるべきッスよ?」
「ちょ、つばっ……!」
「病人におでんネタ強要するとか鬼かよお前」
「なんでリアクション芸人の話するんッスか!違うッスよ!」
「そもそも大人数で押しかけてる時点で迷惑かけてんだ。あんま変なからかい方すんな」
「あ、はい、ごめんなさい」
「こいつのヘマはちゃんと復活してから配信で死ぬほどいじってやれ」
「……風邪で休んだことをいじるとか、兄者さんもかなり鬼ですね」
「いや、無理してぶっ倒れたところをいじるから問題ない」
「何もフォローになってないですよ」
文句を垂れているが、その声は笑っている。
甘鳥からダル絡みされても返せるくらいだし、元気の方は問題なさそうだ。
喉もそのうち良くなるだろう。
「紅葉ちゃん復活したらさ〜何やろっか〜?」
「せっかくなら4人でやりたいッスね!」
「でも1対3のゲームって、あんまりないですよね」
「おい、ナチュラルに俺を潰そうとすんな」
「あれ〜?誰も兄者先輩が1人なんて言ってないッスよ?ひょっとして?」
「誰が真犯人だ。そう思うなら証拠を持って来い」
「真犯人じゃないッスか!」
くだらない話と八重咲復活祭の打ち合わせをし、気がつけば遅めの昼食も過ぎていた。
皿と鍋を洗い、部屋に戻る頃には八重咲もしっかりと横になっていた。
昼まで寝ていたせいでしばらく寝付けないなんて会話もしたが、他のライバーに風邪をうつすのも本人は嫌がるだろう。
あまり長居はしない方がいい。
そそくさと三人で部屋を出た。
オートロックの玄関が閉まる前に、忘れ物を取りに行くと二人に伝えた。
鍵は先に渡して車に乗っていてもらう。
「忘れもんだ」
「……兄者、さん……?」
「ぼっち気質はしょうがねぇが、苦しい時くらい人を頼れ」
「え……?」
「あと、プリン置いてく。愚妹が当たり付きのキャンペーンで選んだやつだ。その辺の神よりご利益あるぞ」
「あ……あ、はい……ありがとうございます……」
「んじゃ、言い忘れたのはそれだけだ。お大事に」
「……どうも……」
愚妹にバレたらブチ切れられるだろうが、まぁいいだろう。
今回の半ば強引な勧誘の件はこれでチャラだ。
つか、八重咲に人を頼れとか言ったが、冷静に考えると頼れる奴が周囲にいねぇな。
まずP.S四天王と甘鳥は言うまでもないし、音無も看病は無理そうだ。
姉御に至っては第一に遠いってのがあるし、呼べば来るだろうが気が引ける。
んで、理由は不明だが俺に対しては情報規制までかけてたし。
あとは、ボス?
ないな。
ただ心配かけたくないとか、そういう変な気遣いかと思っていたが、まさかここまで詰みな状況だったとは。
人間関係に関しては本人の責任もあるけど、今回は同情する。
俺も気をつけねぇとな。
LIME
八重咲『看病ありがとうございました!』
八重咲『おかげ様で、完全復活パーフェクト八重咲だぜ!』
俺『そりゃなにより』
八重咲『あとあのプリン超美味しかったです』
俺『プリン飽きてたんじゃねぇの』
八重咲『誰のせいですか誰の(笑)』
俺『愚妹だよ』
【切り抜き】復活早々にブチ切れる八重咲www【八重咲紅葉、兄者、春風桜、甘鳥椿】
「で、寝不足で髪切ろうとして前髪失ったんッスか!」
「ええそうですよ!まさか自分でもミスるとか思ってなかったですよ!」
「お前散々だな。夜斗に変なもんでも貰ったか?」
「夜斗先輩はもう不幸の権化扱いなんですね」
コメント:八重咲ボロボロやん
コメント:夜斗のせいwww
コメント:前髪失ったの草
「わ〜!!!ねぇ〜!兄者ずるい!」
「なんで初見ゲームでスキル使いこなしてるんッスか!」
「説明読めよお前らは」
「病み上がりなんですから!少しは手加減して下さいよ!このドS兄者!」
「さんをつけろよデコ助野郎」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
八重咲回!
イチャイチャが少なめなのはやはり負けヒロインだから……?
兄者視点であまり描写しませんが、八重咲の心情は頑張って読み取って下さい(他力本願)
Q.いきなり兄者が愚妹を名前呼びしたらどうなる?
A.姫「病気?それとも超いい事あった?」
Q.兄者と姫の相性やばくない?
A.兄妹ってそんなもん
Q.兄者、姫、夜斗のチームが強そう
A.夜斗がどんな勝ち盤面もひっくり返しかねないのでまぁまぁかも
妄想大募集中です!
感想も貰えるとテンションが上がります!
マシュマロ、妄想募集↓
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ファンアート募集↓
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高評価、誤字報告、コメントもできればよろしくお願いします。
第三回 あなたの推しは?
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春風桜
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八重咲紅葉
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吹雪菫
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サイサリス・夜斗・グランツ
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甘鳥椿
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音無杏
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紅上桃