第三篇にてようやく本格的に戦闘開始です。
よろしければお付き合いください。無駄に長いのは勘弁してください。
目が眩む。
―聞いてないぞ。こんな・・。
エノハが視界を奪われた目を諦め、前方にある巨神の気配のみに集中する。ただでさえ巨大な体がまるで威嚇をするカマキリのように表面積を増大させたかと思うといきなり目のくらむような閃光が巨神―ウロヴォロスの複眼から放たれた。
いきなり例のビーム攻撃かと目を凝らしたのが失敗だった。エノハの目はまともに強烈な閃光を浴び、視界は現在真っ白だ。
まさかアラガミ相手にいきなり目くらましを使われるとは思いもしなかった。いつもスタングレネードを喰らうアラガミの気持ちが今はよくわかる。これは相当・・困るな。
仕方なくエノハは目の機能を一時的に捨て、反射的に盾を開く。
正解だった。そのコンマ何秒かの後にムチをしならせたような空気を裂く音が彼の耳に届く。
それが盾を通してエノハの全身を貫く衝撃に替わると同時にエノハの体は宙に舞った。
―・・いきなり酷な駆け引きを要求してきやがる!
視力の回復しないまま空中へエノハは巻き上げられた。
戦闘開始早々・・絶体絶命である。
こぞって目以外の他の機能・・特に耳が両目の穴埋めをするために働き始める。
再び響く鞭のしなるような音を感じ取り、その方向へ盾を向ける。再び衝撃を受け止めるために。しかし今は文字通り「手探り」だ。
衝撃と防御壁のポイントの「ずれ」を視覚による微調整で補えない現状、ダメージは必然でかくなる。
いきなり彼の盾の「スタイル」にとっては最悪の攻撃をされたということだ。敵の攻撃をまともに受け止め、ダメージを減らす堅牢な守りの盾ではなく、いなし、見極め、捌きに特化した彼の盾のスタイルの生命線を絶たれた状態なのだ。
おまけに触手に空中で吹っ飛ばされた体の受け身は地形との距離を目測で計れない以上、これまた当然に遅れる。右肩を十数メートル濡れた地面に引きずってようやく体を回転して跳躍。かろうじて受け身をとった。
同時に頭を振る。視覚は?・・まだ駄目だ。ようやく明暗を感じ取れる程度に復帰した程度だ。
しかし、復帰したそれは次の凶兆を幸か不幸か感じ取ってくれた。
真っ暗なのである。目の前が。
―突っ込んできてる!!!???
巨神は吹っ飛んだエノハに向けてさらに跳躍していたのだ。むしろ今エノハの目が見えている状態であれば呆気にとられて逆に動けなかったかもしれない。
それほど巨大な黒い影が今、薄曇りのお世辞にも明るいとは言えない空をさらに黒く覆い隠していた。そこだけまるで夜の闇のように漆黒であった。
「くっそ・・!!」
盾を再び構え、少しでも衝撃を逃すために後ろへ飛ぶ。防戦一方だ。
直撃の「芯」はかろうじてずらせたようだが巨体の着地の衝撃にエノハは再び吹っ飛ばされ、容赦なく後方の土手に叩きつけられる。
違う意味で視界が白く濁りそうだが、何とか気を持ち直さなければ。さもないともうそこで終わりだ。
フィン・・
微かな電子音の様な音が聞こえた。
―や、っばい!!これは!
リッカが目を背けたあの映像の・・あの音だ!
容赦ない追い打ち。不意の初撃から完全に主導権を握り、このまま終わらす気だ。この巨神にはまるで先日のマータの様な「遊び」という感情が存在しない。
無機質。機械的。無我ゆえの強さ。それに一気にエノハは飲み込まれようとしていた。
背中を打った呼吸困難で体の自由が利かない。
そしてそんなエノハに容赦なく、ウロヴォロスの巨大な複眼の前で白い光が収束した後、極大のビームが放たれた。
シィッ
控えめだが鋭い空を裂くような刹那の音が発されたのち、巨大な爆音が響いてエノハの居た周辺の土手が中規模のがけ崩れを起こした。
巨神はその光景を首をまるでトンボのようにくりくりと振りながら無感動に眺め、さらにもう一撃を放つために光の収束を始めた・・その時だった。
ドンッ!!
岩盤を吹き飛ばし一発のオラクル弾が巨神の目をめがけ、発射されていた。
―収束音の音は穴が空くほどあの画像で聞いていた。そしてその音が発される場所こそが複眼、即ち弱点だということも知っている。その音の方向に撃つだけだ。狙いなど曖昧でいい。
つまり・・目など必要ない。
光を集中して身動きの取れない巨神の「顎」の部分をオラクル弾は捉え、小規模の爆発が起きる。ちょうどアッパーを喰らったように巨神の「顎」は爆風で跳ね上がった。
巨神の目は自然曇り空に向く。そこからお構いなく収束したエネルギーは空に向けて放たれた。
するとまるでモーセの十戒のように海ではなく、厚い雲海が二つに割れ、暗く重い周りの光景に不釣り合いな程の澄んだ青空が覗き、光が差し込んだ。
「おー・・きれいきれい・・」
視力回復早々、幻想的な光景を見せてくれた巨神にエノハは少し笑って問いかけた。
「神様ってのは多少冷酷でもたまにはこういう粋なことをしてくれると好かれると思うんだけどね。そう思わないか?」
巨神の返事はなかった。
雲の割れ目が閉じ、再び黒く重い風景に平原が戻ると同時に両者は動き出す。
低い姿勢でエノハは巨神に走り寄る。狙いは当然の如く、あの目。
刀身で切りつけようとも、オラクル弾で狙い撃ちしようともどちらにせよ近付く他はない。
それにはまずこの眼前の巨大な複数の触手をどうにかしなければならない。
目が復帰し、対処は幾分楽にはなっている。おまけに短時間とはいえ耳を使って目を補ったのは幸いだ。人間が意外にもどれほど自分の危険を聴覚で避けているかを再認識できた。
触手の攻撃方向を目と耳双方を使って見極め、剣、盾を細かく切り替えながら触手をいなし、掻い潜る。
先程までの苦肉の策が今、エノハの確かな力となって目の前の巨神を確実にいらつかせていた。
強靭な後ろ足で飛びのき、エノハから初めて巨神は距離を離す。
そして二本足で立ち上がり、全触手を再び地面にたたきつけた。
「それはもう懲りてるよ・・」
エノハは目を逸らしつつ、盾を開いて防御の姿勢を取る。が・・
「・・・?」
何も起こらない。
しかし・・
再び耳・・そして今度は体全体で違和感を覚えた。地面からわずかに伝わる振動。
―・・・下!!??
「わっ!!ぐっ・・」
反射的に飛びのくと同時に真下から触手の鋭利な切っ先がエノハを貫こうと躍り出る。脇腹を掠め、苦悶の表情をエノハは浮かべた。
―ぐっ・・!ホントに器用な奴だな!
バック転で飛びのきながら次々と地面から這い出す触手の切っ先をかわす。
着地の反動の度に脇腹から血が飛び散り、痛みから膝をつく。
そこにさらにもう一度真下からあの音がする。
「・・・!っと・・」
ちょこんとほんの小さな後ずさりをしたつい先ほどまで立っていた場所に巨大な触手の先が躍り出る。それをエノハは反射的に刀身で薙いだ。
すると思った以上に簡単にその触手は切断できた。はるか遠くにいる巨神が触手を切断された痛みなのかほんの少し怯みを見せ、反射的に触手をすべて回収した。
残された触手の切っ先は少しの間、地面をトカゲのしっぽのように這いまわったのち、動かなくなった。
「へぇ・・案外もろいのな・・」
その言葉と同時にエノハは神機を捕食形態に変えた。こんなご馳走放っておくわけにはいかない。
「イタダキマス。だな!」
純真無垢なアラガミの少女を思いだす。
―そーだな。シオ。
残された触手に喰い付く。今まで体験したことのない味に神機が高揚しているのが伝わる。
その高揚が持ち主の体を駆け巡る。
エノハ。解放。
同時に回復薬を口に含むとあっさりと脇腹の血が止まった。
「・・こうなったら古典的だけど・・全部の足を切断してダルマにしてやるよ。なら・・大人しく頭を差し出してくれるだろ?」
刀身を巨神に突きつけ、エノハは不敵に笑った。
が、しかし、巨神はお構いなく切断された触手の先を眺めていた。
「・・・?」
不思議そうに眺めているエノハの目の前で切られた巨神の触手の先がうごめいたかと思うとあっさりと触手の先端は再生し、何事もなかったかのように再び地を踏みしめた。
「・・・そりゃないって」
―・・強行策は不可能。さて・・まいった。どうしよう?
次の手を考える前に再び巨神はエノハに向けて触手を伸ばす。
ウロヴォロスの前足・・虫で言う胸部に生えている左右合計四本の足は攻撃時、一本が三本の触手に変化する。つまり合計十二本の足がエノハを同時に襲うことが可能だ。
しかし巨神は左半身の触手だけエノハに向けていた。
万が一、両方の足を切り落とされれば自分の巨大な体重を支える事が出来ないことを知っている。
つまり今は合計六本の触手をエノハにあてがっているということだ。
この点に巨神にまだまだ余裕があることがうかがい知れる。エノハの劣勢は未だ続いている証拠だ。
「はっ!・・来いよ!!」
エノハも極東支部に来てから幾度もの死線を越えてきた。それなりに強くなった自負もある。
その誇りを無碍にされたことが珍しく彼を好戦的にさせていた。
いや・・それとも解放状態の反動だろうか?それとも・・未知のアラガミの因子を手に入れた彼の神機の高揚が彼にも伝染した影響なのだろうか?
かつてないほどの激情に自分が支配されていることに気付きながらもエノハはそれを止める事が出来なかった。
先行してきた二本を真正面から切断してはたき落とし、三本目の攻撃を盾で捌いた反動を利用して刀身に変え、これも落とす。背後から迫る四本目を切り上げで切断し、空中を舞ったところで迫る五、六本目を変形したブラストの放射で撃ち落とす。
解放中の研ぎ澄まされた感覚なら出来ない芸当ではない。
あっという間にエノハの周囲には六本の切断された触手が転がった。
しかし・・その切断さればかりの触手の様子がおかしい。
先程は主からの命令の伝達を失い、途方に暮れたように跳ねまわっていた。しかし今回は触手の鋭い切っ先が全て中心に居るエノハの方に向いていた。
「・・・!?なに・・!?」
本能が危険を告げる。
切っ先が三百六十度、六方向からエノハめがけて伸びてくる。
反射的にエノハは刀身を銃形態に変える。そして先程ウロヴォロスから奪ったアラガミバレットを解放した。ウロヴォロスが放った極大のビームが今度はエノハの銃身から放たれる。
エノハは少しだけ跳ねながら、ぐるりと回転し、周囲を薙ぎ払った。
全方位を薙ぎ払い、一回転して最初の方向に向き直ったと同時に刀身に戻し、片足で着地する。
そして構える。巨神からは目を逸らさない。周囲には炭化した触手がボロボロに崩れ、霧散していった。
左半身の触手をすべて半分ほどの地点から切断された巨神にエノハはここが勝機と接近する。
反応速度、俊敏性、スタミナ。全てにおいて今の、そして今までの解放状態のエノハとは比較にならない。
しかし・・逆に言えば解放状態を失った途端、体の反応速度や持久力の極端なギャップに体が追い付かず、いつも以上に感覚と体の「ずれ」が大きくなる可能性が高い。
ただでさえ圧倒的な先制攻撃を喰らい、軽くないダメージを受けた体を脳内物質、悪く言えばドーピング薬か麻薬などの劇物で強引に動かしている状態に大差ないのだ。
高揚感とは裏腹にエノハは内心の焦りを完全に忘れることはできなかった。
ここは無理をしなければ話にならない時間なのだ。
やはりあの不意打ちから始まった巨神の強烈な先制攻撃は痛かった。
「はっ!!」
エノハは跳躍する。巨神の左半身へ。
巨神は長さが半分になった左半身の六本の触手を苦し紛れに伸ばす。
しかし、巨神はこれを狙っていたのか、それとも偶然かは判然としないが切断された触手が攻撃中も徐々に再生することによって微妙なリーチの差が時間差を伴って現れていた。
つい数コンマ秒前にかわした触手の長さが次の一撃で微妙に変わっていることにより、特有の捌きにくさが生まれていた。
―うわ・・捌きにくい。
思った以上に接近が捗らないことに苛立たしげなエノハの行動はやや雑になる。
致命傷は超反応故に貰わないが些細な擦り傷、切り傷が生まれては強引に塞がれていく。
この異常な回復の反動は解放状態が切れた際に思いっきり彼にのしかかることになる。
しかし、今は攻めなければ話にならない。ジレンマである。
今の解放状態、そして二発の残ったアラガミバレット。これが今の手札で切り札だ。
そしてその内の一つを切る絶好の機会が訪れた。
触手の再生を終え、巨神は纏わりつくエノハを振り払うために立ち上がり、全触手を地面にたたきつけた。
エノハには解った。また全方位にあの閃光を放つ気だ。戦闘開始早々エノハの目をしばらく潰したあの攻撃。しかし、願ってもなかった。
地に足がついた・・ということは今巨神は肩口をさらしていることになる。
巨神の触手の「先端」は確かに左半身だけで六本ある。しかし・・その根元は結局のところたった二つの足だ。二つの足の各々が三本に枝分かれしているに過ぎない。
そしてその根元二つが今射程に入っている。
―もらった!!
巨神の肩口をアラガミバレットで横に薙ぎ払う。レーザー状のビームは巨神の左半身の前足二本を今回は根元から断ち切った。
とうとう巨神はバランスを崩し、空中に居るエノハ側に重心が傾いた。その肩に乗り、エノハは巨神の上を走る。目指すは複眼―その奥の指令コアのみ。残った一発のアラガミバレットで複眼をゼロ距離でコアごと射抜く―
それがエノハの構想だった。
しかし・・極端に研ぎ澄まされた感覚の中でエノハは気付く。ウロヴォロスの残された右半身の足二本が既に目一杯エノハの反対側の方向へゴムのように引き伸ばされていたことを。
ぎちぎちとした音がその張力が尋常なものではないことを証明している。
次の瞬間、人が片手で側転を行うように巨体が天地を逆にしてアクロバティックに宙を舞っていた。
―く・・わっ!!
その衝撃に振りほどかれ、急激に離れていく巨神への零距離射撃の絶好のタイミングを逸したエノハは苦し紛れにアラガミバレットを放とうとしたが・・
軽率だった。
まったくのノーマーク。巨神の巨大な腹部に覆い隠されたていた後ろ足がエノハを打ち落とすべく接近していた。
―しまっ・・。
「・・・!!」
言葉を発することもできず、その強烈な後ろ足の一撃をまともに受け、エノハの体は宙を舞う。
それだけではない。
先程アラガミバレットによって切断したウロヴォロスの前足二本はまだ生きている。
・・それが空中の真上に居るエノハに向けて鋭い切っ先を天に向けて延ばし、そして・・
彼を貫いた。
雨に濡れた平原の地に深紅の雫が降り注ぐ。
一つ。また一つ。
自分の頭の中では映像が出来ているのでキャラ達がどういう動きをしているのかは自分はわかりますが・・第三者に文章で伝わるのでしょうかこれ?ただでさえ素人の文なのに。
不安になってきた・・。
まぁ・・いいや。
ここまでお付き合い有難うございました!