GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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VSウロヴォロスはこれで一応終了になります。
少し長くて何時も通り読みにくい文章かもしれませんが・・よろしければお付き合いください。


原初の螺旋 4

「あ・・・」

「サクヤさん・・?どうかしましたか?」

現在、サクヤ、アリサは現リーダー、エノハの部屋に来ている。もともとリンドウの部屋であり、彼の私物が未だ多く残るこの部屋でリンドウと最も近しかったサクヤが彼の私物整理を買って出ている。

「まだこの部屋に慣れていないので・・だからここはまだリンドウさんの部屋だと思って気軽に入ってくださって結構です。俺じゃあリンドウさんの要るものか要らないものかわからない物が多くて・・勝手に捨てて怒られたら困るし」

と笑っていたエノハの気遣いがサクヤにはうれしかった。

そして今、サクヤが何らかの探りを入れていることを彼はどことなく勘付いてもいた。時折元リンドウの部屋、つまり現エノハの部屋で少し目の色が変わる瞬間のサクヤをエノハは見ていた。

何かを探している―それが何かはエノハには解らないし、恐らくサクヤも自分から言い出しはしないだろう。

リンドウとの大切な思い出の何かなのか?それともそれ以外の何かなのか?すらエノハには解らないが「彼女が納得するまでここは自分の部屋ではない」と考え、正式に変更手続きが終わった後もエノハはコウタの部屋やらラボ、その辺で雑魚寝していた。どこでも眠れる特技が役に立った。

神機保管庫で眠りこけて起きないエノハに腹を立てたリッカに危うく神機と一緒に冷凍睡眠させられそうになったらしい時はさすがにサクヤは申し訳なく感じた。

それでも・・サクヤはその調べ物を止めることはできなかった。リンドウが残したメッセージ、その手がかりがまだこの部屋に残っているかもしれない・・可愛い後輩、そして今や自分の上司であるエノハの厚意に感謝しつつ、この部屋を調べた。時にリンドウの残した私物に懐かしさを覚えながら。

だがそれももう終わりだ。・・どうやら痕跡は消されているが自分以外の人間がここを既に調べていたようだ。タッチの差で手に入れる事が出来たのは「あの」ディスクだけだったらしい。

エノハが出張から帰ってきたら、ここは今度こそ正真正銘彼の部屋だ。改めてお礼と今月赤字覚悟で食材を仕入れ、おいしい手料理を彼と第一部隊全員を集めて振舞おうとサクヤは決心し、最後のリンドウの私物を片づけた時であった。

この部屋でもまだ少ないエノハの私物の一つ、彼が大事にしていたグラスが少し欠けていた。

 

「・・エノハ君」

ダメな先輩を許してくれた優しい少年―そして彼が出張に出張ってからどことなく元気のないリッカ。いつも以上に何か考え込んだ様な表情をし、そんな彼を心配そうにするシオの頭を少し表情を緩ませて撫でていたソーマの姿をサクヤは想う。

 

―秘密が多いのはお互い様みたいね。エノハ君。早く・・戻ってきて。

一つの気持ちの区切りを終え、サクヤは窓の外を見る。

最近は少し天気が悪い日が多い。今日も極東は雨だった。

 

 

 

 

雨粒より激しい勢いで血液が水たまりに波紋を作る。見る見るうちに眼下の水たまりに血が溶け、赤く染まっていく。

 

何とか「四つ」は消した。崩れた空中姿勢で最後のアラガミバレットを放ち、六本の触手のうち、四本は蒸発させた。

しかし残された二つの触手の先端は彼の右脇腹と左肩をえぐり、左肩の傷は肺に達していた。

呼吸に血液が混ざる。

「げっ!」

口を押さえながら喉からこみ上げる強烈な吐き気をこらえ、回復薬を流し込む。吐き出したら終わりだ。

失血のショックで意識を失う。

逆流する血の流れに逆らって・・際限なくこみ上げる吐き気をこらえて薬をようやく流し込んだ。

傷の修復が始まる。今だ解放状態を維持できていることが不幸中の幸いだ。回復力が早い。

反動が怖いが、そんなことも言ってられない。

 

さすがに死ぬ。これは。

 

そして傷の修復より先に何よりも今は足が動いてほしかった。

既に巨神はさっき蹴りをくれてくれた強靭な後ろ足を使って地響きをたて、突進してきた。

ただでさえでかい体がさらにウザイぐらいにどんどんデカくなる。

ここはお得意の兵法である。けつまくって逃げるしかない。

―あんまりやりたくないけど・・仕方ない。

銃を構える。ただし突っ込んでくる巨神に向けてではない。今仮にブラスト弾を当てても巨神は多少怯むだけで、お構いなしに跳ねとばされるだろう。

銃口は左斜め前。着弾目標地点、自分からおよそ五メートル。

貴重なオラクルをすべて消費し、爆風の強烈な弾頭を放つ。このウロヴォロスの突進を受けるよりは遥かにダメージは低い、少なくとも即死は免れる程度の爆風なのだが重傷クラスの体には痛いものは痛い。

控えめなジャンプに爆風を乗せ、跳躍するというより吹っ飛ばされる。未だ触手の再生していないウロヴォロスの左半身側へ。表面積が最も少ない方向へ。

 

暴走巨神の止めの突進は・・不発に終わる。

 

ウロヴォロスは自分の加速した体に急ブレーキをかけ、強引に方向展開を図ろうとする。ここは「虫」を意匠に選んだアラガミの本領発揮だ。「止」と「動」の切り替えが素晴らしい。しかし巨神は忘れていた。自分が左前足二本を失っていることを。

ずるりとバランスを崩し、巨体が派手にすっ転ぶ。

一方人間。巨神に比べれば遥かに軽量級。

ここは華麗に着地・・ともいかない。

「あらっ」

ぬかるむ地面、重傷の体、無茶な爆風による回避、条件は整っていた。

―くそ・・なんて情けない足腰だ。

虫、人間共に転ぶ。

しかし、一方は攻め時、一方は逃げ腰と両者の立場は対照的だ。

 

両者―お互いの再生を優先。

エノハは大地を踏みしめ、ある程度の運動力が戻ったことを確認すると即駈け出す。

巨神は左前足二本の再生を優先。さすがに根元からやられた腕の再生に時間がかかった末、少し出遅れる。

 

完全な両者の利害の非一致は「戦闘」を一時鬼ごっこに変える。

 

エノハは平原の土手を超え、廃墟の中を解放状態の全速力で駆ける。彼がまとったオーラの線が廃墟の決して広いとは言えない上、障害物だらけの通路を縫うようにして駆け抜けていく。

フリーラン二ングには現在の解放状態時のスタミナ、瞬発力の増加はうってつけだ。

しかし、巨神はその狭い通路を強引にその巨大な体を使って障害物をなぎ倒しながら光る眼をエノハに向けた。

数百の複眼は高速で動くエノハの姿を見失うことなく完全に捕捉している。そして捕捉と同時に直線的に逃げるエノハの背をめがけて光を収束し、ビームを放つ。

エノハはその所作をわずかに振り返りつつ横目で見ていた。そして収束を確認すると背中に背負うようにしてシールドを構える。

そこに丁度狙い澄ました巨神のビーム砲が直撃する。―仕留めた。巨神はそう思った。

があろうことかエノハはその攻撃を使って加速。一気にウロヴォロスから距離を離す。

巨神はその逆効果を目の当たりにし、戦力を追跡に全て費やすことに決め、再生したすべての膂力を総動員して加速した。それはエノハにとっては不幸中の幸いだった。

もう一度ビームが巨神から放たれ、再び直撃されればシールドが分解されかねない一回限りの苦肉の策だったからだ。

状況は刻一刻と悪化している。迫る巨神、迫るタイムリミット―解放状態の解除。

 

傍目には打つ手なしに見えるだろう。

しかし・・反面エノハは冷静だった。新たに得たいつもよりもう一段階上の解放状態の自分の力を過信し、先程負ってしまった大きな失敗と手痛い負傷は彼を逆に冷静にさせていた。

自分があくまでアラガミと比べれば弱い存在であること、仲間がいない自分がこれほどまでに脆いことを改めて自覚すれば見えてくるものがある。

まともに戦うことなど所詮無理だ、一人で出来ることなどたかが知れている、と。

そんな単純な事も新しく得た力、強大な力は見失わせてしまうのか。と、内心エノハは笑った。

 

「・・つまり底意地を悪くして闘うしかないってことだな」

 

そう。それこそ人間の生き方だ。こんな時代もしつこく生きのびているヒトの生き方だ。

ひょっとしたらフェンリルの「上」の人間が本当に恐れているのは未知のアラガミを倒すことで生まれる未知の力なんかより、こういう開き直りを経てしぶとく生き延びられることなのかもしれない。

すごく綺麗な言葉で言い換えるならそう―

「諦めない心」か。

 

その境地に行きつくと目前にある全てのガラクタが今のエノハには逆転の切り札に見えてきた。

何もない廃墟。

実際、その大部分はガラクタには違いない。しかし、ガラクタを至宝の品に変える事が出来るのは自分が弱いと解っている者だけだ。

最初から万能な存在なら、そして、自らの万能を疑わない者は自分を上回る万能には決して勝てない。

しかし、自分を無能と信じる存在はいかなる万能の相手であろうと勝てる可能性を秘めている。

勝つ道筋を死に物狂いであさり、嗅ぎあてようとするからだ。

 

そしてエノハは見つけた。

朽ち果てたガラクタ。作られる過程で放棄されたまるで出来の悪い蜂の巣のような廃墟ビル。

窓も、なにも付いていない。ただの骨組みだけの建物。

そこに迷うことなくエノハは飛びつき、窓の無い縁を足場に一気に四階―巨神の通常時の複眼の位置程の高さの階へ到達、ウロヴォロスの鞭のような前足の追撃に追い立てられるようにしてそのまま真っ暗な室内に姿を消した。

暗闇に姿が消える―即ち彼の解放状態が解除された証である。エノハは最早まともに動けない。

「ぐっ・・・ぎっ・・・・」

体が鉛のように重い。一方で解放状態時の「感覚」を引きずり、意識だけは前に進み、体は置いてけぼりになる。何よりも傷の再生が止まり、おまけに解放状態時の異常なアドレナリン排出も止まった為、激痛の再発が再び脳を直撃する。体が本能的に動くことを拒否する。それを無理言って歩かせる・・いや這いずるのが精いっぱいだ。

最早ポンコツ、ガラクタだ。

 

黒い無数の窓ガラスの無い空虚な穴に消えたエノハを追って巨神は両腕の触手を伸ばしいれる。

 

鬼ごっこは隠れんぼに形を変えた。

鬼―ウロヴォロスは両腕の触手の先端を枝分かれさせながら隅々まで行きわたらせ、逃げた獲物を引きずり出そうとしていた。

そしてひたすら触手に獲物の感触が伝わる時を待っていた。

 

・・感触?手探り?

 

つまるところ今、相手が何を考え、何をしようとしているか解らないことと同義である。

鬼にタッチされることをひょっとしたら望んでいる獲物が居るかもしれないじゃないか―

ただ無心にカッコ悪く逃げた獲物を追っていた巨神がその考えに至るのには彼の無機質さ、無我は仇になった。

 

「・・・。見つかったか。じゃ、次は俺が鬼だな」

 

解放状態が切れ、光を失い、ボロ雑巾に慣れ果てたガラクタ―エノハは侵入してきた手探りの触手めがけ、すでに大口を開いていた捕食モードの神機が完全に噛み砕く。

 

人間で例えるのであれば猛毒を持つ毒蛇が住む巣穴に不用意に手を突っ込んだようなものだ。

鋭い触手の痛みを感じ、巨神は突っ込んでいた腕を思わず反射的に引っ込める。

自らの不用意さに気付いたと同時に一歩後ずさった巨神の顔にビルの壁を突き破ったビーム砲が突き刺さる。

「・・手ごたえあり」

放ったのは・・再び解放状態になったエノハだ。

指令コアには直撃こそしなかったものの、幾つかの複眼を潰される攻撃に巨神は激高し、反射的にエノハの撃ったアラガミバレットが空けた大穴に向けて反撃のビームを放つ。

これも逆効果だった。

その反撃を予想していたエノハは再び得た解放状態によって機動力のやや回復した足を使い、既にその場を移動している。

巨神のその反撃は逆に自らのビームの発射地点、詰まる所彼の複眼、コアの位置をエノハに教える事になってしまうのである。

巨神の放ったビームの収束音、入射角、位置、高さ、それを計算に入れればただでさえ相手は大きな的である。例え姿が見えなかろうとある程度のダメージを与えられる部位に命中させられる可能性は高い。

 

―そりゃ不用意だろ。デカブツ。

 

ドンッ!

二発目はよりコアに近い複眼を捉え、ブシュブシュと音を立て巨神の複眼の破片が地に落ちる。ぐらりと巨体がバランスを崩すほどのダメージである。

。さらにもう一発残るアラガミバレットを今度こそコアに命中させるためにその場を移動する。

この戦闘開始早々、目を潰され、瓦礫から音を頼りに撃った一撃、そして今の二撃でエノハは大体のコツは掴んでいた。次こそ指令部位に命中させるためにエノハは感覚を研ぎ澄ます。

 

―出来る。そんなに難しいことじゃない・・。

 

逆に巨神にとって正確な場所が見えない上に小さく、おまけに異常な瞬発力を持つ相手を射抜くのは至難の業だ。またエノハの反撃が回数を追うごとに正確になっているのは紛れもない事実である。

軽率に撃てばさらに手痛い反撃が来ることも想像に難くない。

かといって触手を送り込めばまた余計な力をエノハに与える可能性がある。

 

そういう点から考えればこの戦い、初めてエノハが優位に立った瞬間であった。

そして初めて戦いが膠着状態になった瞬間でもある。

 

雨の廃墟に奇妙な程の沈黙が流れる。エノハの耳にはどこかで雨のしずくが一定のリズムでぽたぽたと落ちる音すら聞こえた。まるで何か秒読みをしているようにも聞こえた。

 

そしてその沈黙を破ったのは―

 

巨神―ウロヴォロス。

 

収束音!

エノハは耳を研ぎ澄ませる。

―位置・・距離・・入射角は・・・!?

 

ドンッ!

エノハの十五メートル横。廃墟のビルの左端をビームが貫通していた。

―あてずっぽうかよ!貰った!

コアの位置を把握し、最後のアラガミバレットを放つため、銃口を固定した時だった。

エノハは違和感に気付く。

―・・?コアの位置・・音が・・移動してる!?

それに気付いた時、十五メートルの距離にあったビームの側面が自分にどんどん迫っていることに気がついた。

―あいつ・・!!

 

ウロヴォロスは大きく横に首を振りながら、エノハのいた四階フロアを全て極太のビームで横に薙いだ。

 

銃身を既に固定していたエノハは虎の子のアラガミバレットを天井に放ち、穴に向けて飛んだ。真下を極太のレーザーが薙いで行く中、命からがら五階に上がる。しかしそこはもうじき「四階になる五階」だった。柱が全て蒸発した四階は達磨落としのように五階と一体化しようとしている。

「わ、わ、わ、わ!!」

剣形態にもどし、五階の天井に突き刺して四階の床に「五階の床」であり、また「四階の天井」でもある階がドッキングするレアな光景を見送りつつ衝撃に耐える。それと同時にまた収束音、

―やばい!!また来る!!

ドンッ!

今度は五メートル横。

―なんで?やたらと狙いが正確なんだけど!・・そうか!天井を貫いたアラガミバレットを見てたのか!

先程のエノハのアラガミバレットは天井を射抜き、全六階のこの建物の屋上まで突き破っていた。その出来た穴はエノハが天井の崩壊から逃れるための生命線である。つまり、エノハはまずここを通るはずなのだ。

そこを目安に撃てば無作為に撃つよりは遥かに効率的な攻撃が可能というわけである。

特にその穴をくぐる瞬間。エノハは確実にそこに居るということだ。

つまり・・六階の屋上―そこに空いた穴から確実にエノハは出てくる。

 

巨神の思惑は・・吉と出た。

穴から下の階の崩壊の煙とともに這い出たエノハを真正面から巨神のすべての複眼が捉える。

飛び出したばかりで体勢の整わないエノハと目があった。

同時に光を収束。

 

決戦に終止符を打つ一撃を放とうとする。

それを見て・・エノハは笑った。

それを感情をもつものであれば通常、諦めの表情と受け取るだろう。

残念ながらこのアラガミにはそんな感情の機微を感じ取れるはずはないが。

 

しかしそれが逆に勝利を確信した表情だとすれば?

しかし残念ながらそれもこのアラガミには感じ取ることはできない。

無機質、機械的、無我ゆえの強さ、それゆえの弱点をこの土壇場でこの巨神は露呈することになる。

 

果たしてエノハは何回聞いただろうか?この収束音。もう軽く五回以上は聞いただろうか?

 

レーザーというものは物理上、基本避ける事が出来ない。発射と目標物に到達する時間が同時だからだ。

しかしエノハはそれを捌いていた。避けることができた。

それは何故か?

収束から発射までの時間・・それが一律同じだからだ。まるで機械の様な正確性。

野球でいえば常に同じフォームで、常に同じ球速、球種のボールを投げられる投手のようなもの。

非常に・・御しやすい。

しかし疑念はあった。

「ひょっとしたら偶然かもしれない」

「たまたま同じ収束時間、たまたま同じ間隔で放たれているだけかもしれない」

「意識的にタイミングをずらしてくる、緩急をつけてくる可能性もある」

しかし・・それも恐らくもう無い。戦いの中で確認をしたからだ。例え手傷を負って防衛本能から活性化し、我を見失った状態であっても巨神のその周期は終ぞ変ることはなかった。

これはもう彼らの限界と言ってもいい。

感情の遊びを無くし、ただ巨大化に邁進した彼らの限界が見えたことにエノハは笑ったのだ。

少し切ない表情で。

 

直線のビーム収束時間、放たれるタイミングも・・ピタリだ。

既にエノハは巨神のビームの射線上にはいなかった。その隙間を縫うように体をひねり、巨神の一撃に一瞬遅れてオラクル弾を発射する。視界良好、感覚も研ぎ澄まされている。おまけに「的」も動かない。

今までで最も銃の精確性の取れる状態である。外す要素が無い。

巨神の目から放たれているビームの収束場所に達し、オラクル弾はその熱を浴びて誘爆した。

 

爆発音とともに巨神の複眼が粉々に砕け散る。煙の中から体液と少し鈍く光る球状の物体が見えた。

指令コアだ。まだ生きている。

屋上からエノハはそのコアめがけて跳躍した。

 

さらけ出されたコアを守るべく触手が宙を舞う。ほとんどの複眼を先程のオラクル弾の直撃で吹っ飛ばされたため、まともにエノハを捕捉できない。しかし、コアを触手で覆うことはできる。

完全に巨神は防御に回っていた。

だがその腕に鋭い痛みが走る。

 

「切られる」「撃たれる」の感覚じゃない。これは・・「喰われる」感覚だ。

 

「・・いっただきましたっと」

 

その言葉とともにエノハはウロヴォロスの触手を蹴ってさらに上に飛ぶ。今まで見下ろされることの無かったウロヴォロスの頭上のはるか上へ。

その声に反応し、さらに巨神は四つの腕全てを総動員し、コアを全力で守りにかかっていた。

 

「・・・」

その光景を特に気にかける事もなくエノハは空中で照準をコアに合わせる事もなかった。

 

時間は先日のリッカとの整備室の一時に戻る。

 

エノハが特務を承諾し、資料に一通りのサインをした後のことだった。

ちょっとした重い沈黙に耐えかねたお互いの思いつきの会話だったように思う。

「・・・しかし・・どう見てもこいつ虫なのに・・ここまで大きくなるなんてすごいよな?」

「・・。こう見えて完全な虫というよりはアラガミらしく色んな生物の特徴を取りこんでるからね?例えばこの後ろ足・・虫は普通全ての足の付け根は胸部に集中するのにこのアラガミはまるで人間みたいに腹部から足が発生してる」

「・・なんとな~く気持ち悪いよな。何か足だけ妙に人間的で」

「ははは。そうだね。そしてもう一つ虫とは全く異なる特徴が一つあるんだ。それが・・ここ」

「・・背中・・?」

「うん。実は背骨があるんだ。ウロヴォロスは。無脊椎動物には普通存在しない脊椎がね。虫は普通胸部神経節、腹部神経節ってのがあってそれは背中側ではなくお腹側に通ってるの。でもウロヴォロスは私たちと一緒で背中に脳―つまり指令コアからの命令を伝達する組織があるってわけ」

「へぇ~・・?」

「解ってる・・?」

「すいません。微妙です」

「・・まぁいいけど。ウロヴォロスが自身の巨大化を促すために脊椎を採用したって説もある。まぁ今では殆ど絶滅してしまったけどアラガミを除く大抵の大型動物は脊椎動物だったからね。恐竜といい、クジラと言い・・「脊椎動物の方が巨大化を図りやすい」そこを意識して彼らは背骨を採用したのかもねっていう話」

「ふ~ん。ん?・・っていうことは結構な弱点じゃないのか?人間も脊髄を傷つけられれば、動けなくなっちゃうし」

「あのでかいアラガミのどうやって上を取るの?」

「そりゃあ登っていくとか・・?」

「上っている最中、大人しくしてくれればいいね」

「・・。あ、ヘリ使って後ろから奇襲とか?」

「どうやって射程まで近づくの?ウロヴォロスはあのビームがあるし、もしヘリを落とされたりしたら・・エノハ?多分君は相当の期間タダ働きだよ?」

「それは・・まずい・・」

「くすくす。いいから余計なこと考えないで。いざとなったら生き残ることだけ考えて・・それで」

 

 

「・・帰ってきて?」

 

 

―俺はいつもキミに助けられてばかりだな。

 

エノハは銃を構える。狙いは・・延髄。

 

一筋のビームが巨神の頭と胸部を繋ぐ背骨を切断する。まるで糸が切れたかのように前のめりにウロヴォロスは倒れこんだ。

まるで体が言うことを聞かない。

立ち上がることもできない。腕も上がらない。

そしてなぜ・・自分はこんな低い地点から世界を見ているのだろう?

 

むき出しのコア。そこに残された複眼から見上げる世界が今の巨神にはひどく大きく見えた。

 

エノハが着地する。

刀身が巨神の目の前に突きつけられる。

今巨神にとって唯一動けるのは残された頭部だけだ。

光を収束する・・

しかし、機械的な巨神にとっては笑えるほど遅い収束時間であった。

収束時間の徹底統一を図っていた彼が唯一その規則を破ったのは皮肉にも・・この最後の抵抗の時であった。

 

「・・じゃあ」

 

素っ気ない一言だった。しかしどこか感傷的で妙に人間臭さも残したエノハの言葉が巨神が最後に聞いた「音」であった。

時に荒々しく、時に自信気で、しかし時に弱気に、時に困惑し、時に嘆き、時に開き直る、そして・・最後にさみしげな「音」をこの人間(せいぶつ)は響かせる。

統一されない。不確かで曖昧な・・巨神にとって理解不能のこの生物は今、手に持った自分の分身でもある武器の「大口」を開き・・巨神に喰らい付く。

 

指令部位を失った巨神の目から目標を見失ったビームが天まで一直線に伸びていく。

それは曇り空を裂き、滅多に晴れる事の無いこの地域には珍しく、晴れ間を覗かせる。

 

「へぇ・・。粋なことしてくれるね。やっぱり神様はこうでないと」

 




原作で背骨破壊できるのはウロヴォロス亜種の方だと気付いたのはこれを書いた後のことでした。
まぁ・・いいや。

おまけ

平原横―廃墟後

雨が止み、異常とも思えるほどこの地域では珍しい澄み渡った青空がのぞく中、いくつもの車両が並び、巨大なウロヴォロスを取り囲んでいた。特務情報のプロテクトの為、結構厳重な警備を配置している。
その中にはリッカもいた。

「以上で特務のアラガミ素材に関しての受け渡しを終えます。・・これは私的なお礼ですが、この度はアラガミ装甲壁建造のための素材を多めにこちらに配分してくださったことに感謝します。有難うございました」
リッカはぺこりと頭を下げる。
「いえ。では私はこれで」
リッカが今相手にしている特務で得られる素材を専門に扱う技術者の男はいつも異常に事務的で愛想が無い。
リッカも慣れてはいるので特に気にしていなかった。今はこの素材で装甲の更新が行き届いていない地域にも手が回せるようになるだろうことが嬉しいと同時に責任で身が締まる思いだった。
そして整備班の助手に呼ばれ、リッカが戻りかけた時、
「あ・・リッカさん」
珍しく男が彼女に声をかけた。
「・・何か?」
「・・。装甲壁の件・・よろしくお願いします」
「・・はい。責任を持って。と、いっても私が出来るのはあくまで榊博士のサポート程度ですけどね」
リッカは笑った。
「・・・」
男は頭を下げ、規律正しく踵を返し、すぐにその場を去っていった。でも彼が少し笑ったような気がリッカにはした。

エノハはその集団から少し離れ、雨の後の晴れ晴れとした空を朽ち果てた建物の残骸に腰掛けながら眺めていた。
手にはボロボロの彼に比べるとまるで新品のように輝いた彼の神機が輝いていた。再生力が異常なほど進化している。
周りにいる人間は今回の案件成功の最大の功労者である彼に一瞥もくれず仕事に没頭している。
そこには無関心ではなく一種の近寄りがたさを感じている節があった。

「・・お疲れ様」
リッカが声をかける。
「うん」
エノハは少し笑ってそう頷いただけでまた空を眺める。
リッカは少し苦笑して彼のそばにただ立っていた。

「なぁ」
「うん?」
「俺が怖い?」
「・・ううん」
「そ。よかった」

エノハは微笑んだ。

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