書いていなかったわけでは無く、三話ほど同時進行で作っていたのですが私用で忙しいせいで夜が眠い眠い・・一向に出来が気に入らず、十回ぐらい消しました。
とりあえず出来たその内の一つです。短いですがよろしければお付き合いを。
家族の風景
アリサ、サクヤの二人がエイジスの侵入容疑で指名手配、自然彼女たちの上官を務めていたエノハにも嫌疑がかけられ、本部からの強烈な詰問にさらされる覚悟をしていた。
しかし、アナグラはそんな大事件が起きたにもかかわらず、不思議と平穏だった。一向にエノハにもお呼びがかからない。・・まぁ平穏と言うには語弊があるかもしれない。
静かすぎるのだ。お互いの心の内を探り合うように押し黙る人間が多い。
その原因が極東支部代表―ヨハネス・フォン・シックザールの計らいで或る事をエノハは解っていた。
いや、「計らい」というより「謀(はかりごと)」か。
彼がアナグラの関係者に開示した計画―「アーク計画」の衝撃に比べれば、つい先日まで背中を預けていた仲間の突然の離反に対する混乱等瑣末なことと思えても仕方が無い。
アーク計画の根幹を最も単純な言葉で言い換えるなら、いきなり「生か死のどちらかを選べ」と言われたも同然なのだ。
頭のおかしい人間にこの言葉を言われたのならば笑い飛ばしてそれで終わりだろう。
しかし、これを提示したのが他でもない極東最高権力者の人間―ヨハネスが直々に一人一人を呼び出して面談を行うという形式を取って各自に知らせる辺りで絶対的な現実感が襲いかかる。
これは「夢でも空想でもない。本気でやる」そう確信させるほどの徹底ぶりがあの普段はにぎやかな極東をしんと静まりかえらせていた。
と、いってもその沈黙の意味は各人様々だ。
いきなりの突飛すぎる話に放心状態での沈黙、その提案が冗談でないと理解し、悩む故の沈黙、逆に自分が選ばれたことに高揚し、新たに自分に課された「任務」に全力を注ごうと内心意気込む沈黙とバラバラである。
そしてその「任務」・・「特異点をさがせ」
どの任務より優先される至上命令に前述の三番目のタイプの人間以外は戸惑いはするものの、なぜかその任務を表だって断ろうとする者もいなかった。
防衛班―台場カノンの言っていた「今は進むのも退くのも怖いんです」という言葉が全てを表すような気がした。
ある意味、自分の生殺与奪を握っている人間の命令を真っ向から拒否することなど簡単にできようはずもない。誰だって自分は可愛い。
ヨハネスはそれを巧みに利用した。そして同時に
「反抗するなら迎え撃とう」
「逆にこちら側につくというのなら諸手を挙げて迎え入れよう」
生か死。闘争か同盟の究極の幅の無い選択肢を突きつけ続ける。
「君たちがどちらを選ぼうとも各人の選択の自由―こちらはどちらも受け入れる」
これ即ちヨハネスの「準備」が既にほぼ終わっていることを意味している。
自分の大胆かつ非人道的な計画が公に明るみに出ようとも最早構わない時期に来ている。もうこれから対策を講じても意味はない。そちらはもうこちらに従うほかない―
そんな無言の脅迫によって極端に狭い視野にアナグラという集団を追い込み、思考を誘導しようとしていた。
しかし、確かに計画は最終段階にあるものの、実際はヨハネスにとって最大の懸念事項が解消はされていない。
とうとう「特務」事項を捨て、一般ゴッドイーターにまで任務を発注するに至った「特異点の回収任務」にヨハネスの焦りが隠されていた。
そう、最後の一「点」はまだ彼の手には握られていない。
まだ。まだここに居る。
ラボラトリ―
「シオちゃん?大丈夫?」
「ん~?おーリッカだ~おんなのこのリッカだ~」
「それはもういいから・・。ごはんの時間だよ」
ふわふわと最近不安定なシオを立て直すための因子―つまりアラガミ素材を与えるのはリッカの日課になっていた。エノハ、ソーマが調達した新鮮な素材を榊の「レシピ」に従って調合、調理するのが役目である。
「んま~い。リッカうまいぞ~」
「ははは。ならよかった」
さすが榊と言うべきか。彼のレシピに従って与える素材は回を追うごとに少しずつとはいえシオを人間らしく、普通の少女の表情に戻していく。
・・こう見ているとこんな小さな少女の「中」にこの星を喰らうほどのエネルギーを持つコアが存在することなど俄かに信じ堅い。
「なぁ・・リッカ~?」
「ん?」
「サクヤとアリサとコウタは何時帰ってくるんだろうな~?」
まるで家族の兄弟の帰りを待ちわびるまだ小さな末っ子の女の子の様である。
この前までシオを取り囲むリッカを含めたラボラトリに集まる第一部隊はまるで家族のようだった。
一家の大黒柱の割にニコニコ少し胡散臭い父親榊、少し年の離れた母親みたいな長女サクヤ、しっかり者の二女リッカ、気が強いが妹思いの三女アリサ、少しおバカだけど楽しい三男、コウタ。
兄弟がおらず、父も自分も忙しい日々を送っていたリッカにとってとても短い期間であったが楽しい時間だった。
「・・・大丈夫!すぐに帰ってくるから!それまでいい子でお留守番してようね」
「うん!ん、あ~・・・」
「シオちゃん・・?ああ・・食べたら眠くなっちゃったのね?いいよ。おやすみ・・」
「うん・・」
こしこしと目をこする仕草も・・間違いない。この子は人間だ。技術、科学を重んじる人間の言葉として不適格だけど大丈夫。この子は人間だ。例え機械の数字が示すものがこの子が「星を喰らうもの」だとしても私たちにとってはこの子は大事な家族だ。
「・・今戻った」
「只今・・」
長兄ソーマ、次兄エノハがラボに戻る。別室にシオを寝かせたリッカといつもの席に座った榊が二人を迎え入れる。
「お帰り」
「おお。お帰りだね?首尾は?」
「大丈夫だ。当分の間のシオの食料の備蓄は問題ない」
「こっちも備蓄の在庫数量のデータは書き換え終えたよ」
「・・いつもありがとう。リッカ」
「シオちゃんの為だもの。軽い軽い」
「・・すまねぇな」
「え・・」
「おー・・ソーマが謝った。でもそこは謝るんじゃなくてお礼を言うべきだな」
「・・・。シオは?」
「ご飯を食べて眠ってるよ。少しは安定したはず、よかったら顔だけでも見てあげて?」
無言のままソーマは奥の部屋に消えた。無愛想な長兄だが実は家族一のシスコンという設定が面白い。
そんな彼を見送って取り残された三人の内、次兄、二女の二人が口を開く。
「・・リッカ?」
「ん?」
「支部長から話は直接聞いた?」
「・・・うん。回答は・・とりあえず保留したけど」
「そうか」
「当然キミもだよね。エノハ」
「・・ああ」
父親の榊は黙って子供たちの「選択」に口を挟むような事をしなかった。
ヨハネスと同じように彼らの判断に任せる覚悟は出来ていた。彼らがどの道を選ぼうと・・彼らの自由だ、と。
しかし、叶うなれば「家族」同士で殺し合うことなど避けてほしいとどこか願ってはいた。
―科学者としては失格だな・・「願う」、「祈る」などと・・。
でも願わずにいられない。
親友、そしてある意味家族のようにお互いに苦しい時代を共に生き抜くため、切磋琢磨した人間―ヨハネスと袂を分かった榊にとって
「彼らもまた自分たちと同じような過ち、悲劇を繰り返してしまうのではないか?」
そんな不安を拭えずにいた。
だからこそ願うしかないのだ。
どれだけ科学が進もうと人の意思だけは完全に計算は出来ないし、割り切ることも出来ない。
おまけに榊は「その類の事」が元々人一倍苦手だ。
でもそんな彼にも解ることがある。いや誰にでもわかる事がある。
ここには「家族」があった。
ほんの短い間の家族、そして当然の如く失われた家族の風景。
榊が思い描く「理想」の風景がそこにあった。
アリサ、サクヤ、コウタの脱落でまともに居るのが口数が少ないソーマ、策謀を巡らすせいで慎重なタイプの榊、不安定なシオ、そしてオリジナル要素の強いリッカ、完全オリジナルの主人公エノハと
原作通りで行くとお話を進めにくいメンツですね・・こりゃ。
少し気長に作ろうと思っています。
今回もお付き合いありがとうございました。