省略してとっとと進ませようかな~と思ってもいたんですが、この小説のタイトルの「カスタマ」
CUSTOMの「改」の意味とCUSTOMER「客」の意味―つまり唯一オリジナルのキャラ―
GE原作には存在しない「榎葉 山女」のキャラの掘り下げ上やっぱり必要か、と思い、書いてしまいました。
よろしければお付き合いください。
―そう。俺は生き残れた。
アナグラに来ようと来なかろうと。
方舟には乗れただろう。何せ俺は「あの」エノハ・プラントの関係者だから。
地球が終末捕食から再構成を図る間、宇宙に逃げ延びた人類を支えるのは恐らくエノハ・プラントの技術、経験、知識だからだ。
生き残るべき人間のリストからあの義理堅く、そして計算高い支部長が外しているとは考えにくい。
そう考えていた。
そしてその裏付けはすぐ取れた。支部長に呼び出されたあの日に。
「君のお父上をはじめとした方々も漏れなく共に来てもらう所存だ。もちろん君もね。それは確約するよ。榎派 山女君」
・・誰だって死は怖い。おまけに終末捕食。即ち絶対の死の恐怖。
それから「君は安全だ」「選ばれたんだ」とでも言われたら大概の人間は安心してしまうだろう。
―ああよかった。
俺は死ぬ側じゃない。
遠い宇宙で。
地球から離れた所で。
ただ漠然と知らされる異常な数の死を淡々と情報として受け取るだけだ。
きっと喜んで受け入れたことだろう。・・アナグラに来るまでの俺ならば。
ここに来て以来、絶対的な安全圏から外れ、多くの人間の死、喪失、嘆きにエノハは関わってきた。
自分の様な人間より遥かに多くの割合の多くの人間が理不尽な死にさらされている―その現実を思い知った。目の前で仲間を見捨てざるを得なかった事もあった。
確かに自分が強くなる事によって目の前で失うことは減った。が、それでも耳は塞ぐことは出来なかった。
目前で見るより遥か多くの幾百もの死の報せをエノハは聞いた。
それが今ではリアルな実感を伴って彼の気持ちを重たくさせる。
ここに来てしまったからだ。体験してしまったからだ。耳に響く情報は彼の中で否が応にも実感を伴った光景を連想させるまでになってしまっている。
悲鳴、泣き声に包まれた阿鼻叫喚の地獄絵図。
その度になぜ俺はこんな所に来たのだろう?断れたはずなのに。と思ってしまう自分がいた。
「君はなぜここに来た?」
―唐突にヨハネスにそう聞かれ、俺は戸惑った。
奇しくも彼の息子―ソーマが俺と初対面した際に発した言葉と同一だった。
しかし、ソーマと異なり、彼の父親ヨハネスは知っていた。
俺がここに来た訳を。
否。
俺がここに来た大した意味や理由などない事を彼は知っていた。
存在しないのだ。俺がここに来た意味など。
表向きの理由ならいくらでもこじつけられた。むしろ勝手に周りがこじつけてくれる。
苦労知らずの御曹司のちょっとした火遊び、道楽。
エノハ・プラントの売名行為、広告塔。
逆に御曹司の特権を振りかざしてフェンリルの召集を蹴ることへのエノハ・プラントの企業イメージの低下を避けるため。
でもそんなものも無かった。
俺はフェンリルにGEの適性が認められると同時に即入隊を決めた。
確かに彼はエノハ・プラントの人間だ。一般人なら断れないフェンリルの召集を一方的に破棄できるほどの特権を行使出来る。
「フェンリルの庇護のもと、配給を受ける人間はGEの召集を断ることは出来ない」
その「配給」を大いに支える一族の一員だからだ。
皮肉にもそんな彼に才能が与えられた。現代においてGEとして最高とも言える新型としての適性を。望んでいたわけではない。全くの偶然。
でも彼はそこにやっと自分に「何かある」とだけ漠然と感じられた。他の人間とは違う「何か」を出来る適性―それに関しては純粋に嬉しかったと彼は思う。
自分には何もないのではないか?―
安全で平和な世界を過ごしてきた彼にとっていつもそんな考えが浮かんでいた。
有能な父、優しい母、家族、そして一族を支える優秀な技術者や協力者にに囲まれ、決して贅沢な生活ではないにしろ―いや、はっきり言って今の時代において最高の贅沢がエノハの実家にはあった。
例え貴族のような派手な生活は出来ずとも身の安全と明日の食事に関しては心配しなくていい生活、しかしかといって決して怠惰ではなく、明日の糧を得る、そして維持の為の努力は怠ってはならない緊張感もある生活。
それでも「外」のようにいきなり理不尽に奪い、奪われることのない生活ははっきり言ってこの時代において最高の贅沢であるだろう。
その中でエノハは育った。
アラガミ防壁に囲まれた広大な敷地の草原の丘に座り、時代錯誤の田畑、家畜の群れる姿、光景を眺めながら風を浴びてのびをする。それこそが彼のかつての日常だった。
―ここには全てがある。
でもここに自分だけは居ない。俺はそんな気がしていた。
ここに例え自分が居ようと居なかろうとここは何も変わらない。
ここは父がいれば大丈夫だ。そして彼に惹かれて自然と集まる人間たちが彼の意思を引き継いでくれるだろう。
なら俺は技術を受け継ごうか?
いや、それも兄に比べれば大したことはない。優秀で生真面目な兄は意志が強く、自分が家業を受け継ぐ事を誇りにしている強い人間だ。そして俺に選択の自由をくれた。
「お前は好きな道を選んでいいんだぞ」
放任主義の実の父親より実に父親らしい人だ。そんな善意が嬉しくあり、そして・・正直に言うと実は少し重荷でもあった。相手の心からの善意は時に始末に負えない。
全く子供じみている。子供の考えだ。反発力の無い子供の考えだ。自分の居場所を自ら切り開こうとせず、周りの環境に何かと理由を付けて何事も深く立ち入ろうとしない。
子供の考え方だ。
「役目」は与えられるものではない。自分で作るものだ。
「自分が居ない」ことが嫌ならば自分を「居る」ようにするための努力をするのが当たり前である。
しかしエノハはそれが出来なかった。
・・弱かったのだ。この少年は。
理不尽な敵アラガミから人、町、財産を守り、世界を脅威から救う―それがゴッドイーターである。
その中でも屈指の実力を持つエノハの背景にあったものは・・そんな薄っペらなものだった。
彼がここに来た理由―それを第三者的にいえば、はっきり言って「惰性」であったと断言できる。
そう考えるとむしろ表向き周りが勝手にこじつけてくれていた「御曹司のお坊ちゃまの火遊び、道楽」が一番しっくりくるかもしれない。
だからこそ彼は眩しかったのかもしれない。
皆強い理由があった。ここアナグラに籍を置く強い動機を。
ソーマは出生からの呪縛から解放されるため、必死にあがいていた。そして不器用ながらも他人を気遣う強さを持っている。
アリサは復讐を糧にしながらも同時に自分を成長させ、復讐を成した後も次の指標を見定め、今や完全に自立した。
コウタは外部居住区にいる家族を守るため、何でもする覚悟を持っている。底抜けの明るさに隠された決意はどんな時でも揺らがない。
そしてリッカ。亡き父の技術と知識、そして心意気を熱く秘め、全力でいつもサポートをしてくれる。
この少年がこのアナグラで生き残れたのは彼が生まれ持ったGEとしての適性と・・仲間の彼らに対する「憧憬」とある意味「嫉妬」の様なものだった。それを糧に彼は強くなったのだ。
第一部隊の隊長という立場に異例の速さで立ってしまった以上、誰にも打ち明ける事も出来ずに抱え込んでしまった彼の闇―
それをヨハネスは知っていた。
打って変わって優しく、親しげな表情で微笑む。
「君が悩んでいる事を私は知っていた。周りが君を頼る中で君が必死で覆い隠していたものをね」
まるでエノハは今までの一挙手一投足全てを把握されていたかのような不気味さを感じていた。
「・・それでいい。抱えたものが何であろうと、君が今までやってきた事、成し遂げた事を誇りに思うべきだ。そしてそれが認められ、君は次の世代に、新たな世界に仲間入りする権利を自分で手に入れたと。最早今の君は君のお父上や彼の功績、偉業によってついでに「選ばれる」存在ではない。しかるべくして「選ばれた」存在なのだ」
御高説有難うございますと嘲るには・・今のエノハには無理だった。図星を突かれたエノハには結構にその言葉が響く。そしてそれを確信してかさらにヨハネスは言葉を紡ぐ。畳みかけるように。
「君は誰よりも「誰か」、そして「何か」を失うことが怖いタイプだね?」
「・・・!」
「反発しなくていい。当然だ。君はこんな時代に幸いにも極端に失われるものが少ない―そういう環境で生きる事の出来た希有な人間だ。そんな君がいきなり目の前で多くの者の命が理不尽に奪われるこの環境に身を置けば・・そうなることも当然だ」
その一端、リンドウの暗殺を行った首謀者がどの口で―と反論すらできなかった。声が出ない。これも図星だ。エノハが戦闘において強くなれた理由の一端がここにある。
何かを失う痛みより、強くなる為にこらえなければならない肉体の痛みの方が遥かに楽であったからだ。
「しかし・・残念ながら実際は常にこの世界は奪う、奪われる・・この二つの螺旋で出来ている。強固に結ばれたあざなえる縄の如しにね。しかし今ならば君が失うものは最低限少ないと言える。君の家族や親類はもちろん、ここアナグラで君が築いた縁―ここで共に働き、君が大事にしている者、愛する者達は出来る限りアーク計画のリストに乗せたつもりだ。他に要望があれば可能な限り希望に添えよう。君の頼みなら」
その譲歩の語りの言外に「特異点を探せ」「知ってる事は全てを話せ」という脅しをのぞかせていた。
「どうだろう?君の考えは?新しい世界ならもう君、そして君の愛する者がそれぞれ抱える大切なものを理不尽に奪われる世界を無くすことが出来る。何せアラガミがいない新しい世界だ」
「・・」
「君の恐れているものが綺麗に取り除かれた世界だよ?君はある意味このアーク計画に最も愛された存在と言える。積み上げた縁をほぼすべて喪わず、新しい世界に行ける権利が君にはあるのだからね。何を恐れる事がある?」
―そう。そうなんだ。
よわよわしいエノハの逡巡と迷いの表情、支部長は顔を彼に近づける。
「・・恐いのだろう?君は君の今の力に。そしてこの先どうなるか解らない恐怖に。アラガミを喰らい続けた先にある自分の行く末に」
「・・・!」
―どこまで人の内面を見てやがるんだ!この人は・・!
「えてして目標も無く、しかし強大な力を得てしまった人間の末路は・・悲劇だ。自己の破滅を望むようになる。何もGEに限った話ではない」
―GEは凄い人ほど早死にするから・・。
かつて聞いたこのサクヤの言葉の意味を改めてエノハが思い知ったのはつい最近である。
リンドウと同じように極東で初めてウロヴォロスを仕留めたもう一人のGE―彼はその後別の任務であっさりとこの世を去ったことをエノハは新しく情報開示されたデータベースで知った時だ。
彼も、そしてリンドウすらも居なくなった。
―次は・・俺?
そんな不安がエノハを包むようになった。
そんな不安も支部長にはお見通しだったということだ。
「私は・・君にそのようになってほしくはない。心からそう思う。今ならまだ君は引き返せる。新しい世界で平和に、穏やかで、しかし誰かに必要とされる―そんな存在に君はなれるのだ。私も君がそうなれる為に最大限の助力を尽くそう。だから君にはこれを受け入れて私と共に来てほしい・・以上だ。長く引きとめてしまって申し訳ない。私も長々とここに留まるわけにはいかない立場に居るのでね・・」
最後にヨハネスはエノハに背を向け、こう付け加えた。
「新しい世界で・・君に会える事を期待しているよ」
もう彼は振り返らなかった。無防備な背中をさらして去っていく。彼には解っていたのだ。エノハが彼に危害を及ぼせるほどの心の余裕が無い事を。
今むき出しの、野晒の状態にされた彼は立ち尽くす事が精いっぱいだった。
心を立て直すのに十分ほど時間を要した。
最早主がここに来ることはないであろうこの部屋をエノハはのろのろと後にする。
ドアを開けた先、エレベーターの前に来た時だった。
「や」
エレベーターの前、休憩スペースに座っていたのはリッカだった。
―なんてカオしてるの。
そんな表情で眉をしかめて笑っていた。
支部長・・しゃべりすぎです。
こんなことならこれ以前にもっと出しとくんだった。結構書いてて面白いキャラだと気付くのが少し遅かったですね。
エノハは構想時と大分性格が異なるキャラになってて、このお話結構無理があると思うんです。
ご了承ください。もともともっと無口で嫌な奴でしたから。
GE2の自分のプレイヤーキャラのイメージを引きずりすぎたのかな。
どうしてこんな大人しい子に・・。ままならん・・。
今回も長ったらしい文をお付き合い頂いてありがとうございます。