榎葉 山女という第二世代ゴッドイーターの少年の戦いは続いていきます。
その少年を整備士として見守る楠 リッカの視点から二章は始まります。
今回の話で主人公はGEとして避けられない現実を目の当たりにします。
そして己のいる場所を改めて思い知ることとなります。
よろしければお付き合いください。
どうやら・・それなりにエノハは優秀なゴッドイーターらしい。
初任務に同行したリンドウさん、遠距離支援との連携実戦訓練で同行したサクヤさんの彼の評価は
リンドウさん―いいんじゃねぇか?性格なのか少し緊張してるのか少し大人し過ぎるとこがあるけど接近、離脱の勘は悪くねぇ。敵の状態や雰囲気、態度、感情をよく見て攻める時は攻める、守る時は守る、避ける時は避ける、逃げるときは逃げる。そこんとこの駆け引きが新人とは思えないくらい抜群にうめぇな。相手は時に面食らい、時に肩透かしを食らってペースを掴めないまま追い込まれるって感じだ。討伐にちょっと時間がかかるのがネックなんだがこれから一筋縄じゃいかねぇ大物を相手にするうえでは是非とも延ばしてほしい所だな。GE・・特に近接型ってのは良くも悪くも好戦的で猪突猛進なタイプが多いからフォローしてやってほしいね。特に頭に「ソ」、次に「ー」が付くやつとか?
あーそういや任務が終わった後・・あっという間に姿を消すな・・帰還時間には帰ってくるから問題はねぇけど・・あれはなんだろうな?
サクヤさん―そうね。新人にしてはとっても周りが見えてる印象があるわ。初めの方の実戦で緊張して任務の後「自分が何やってたか覚えてない」って新人の子は多いけど・・彼はそうじゃない。後方支援の私の位置取りを敵の攻撃をかわしながら見られる程度の余裕を持ってる。射線が綺麗に開いてる時が多くて援護射撃がしやすいわ。パートナーが近距離タイプなら中距離で援護、長距離タイプなら陽動、遊撃と第二世代特有の柔軟性を体現したような子ね。これからが楽しみだわ。ま、無理はしないでほしいけど・・。
あーあと任務が終わった後いつも姿が見えなくなるの・・一人で大丈夫かな~ってそこはちょっと心配しちゃったりするかな・・?
そして私の親友であり、極東支部のオペレーターを務めるヒバリ
―素直で話し方が柔らかい方なのでこっちも安心してサポートできます。書類仕事も快く引き受けてくれるので助かっています。・・ただ任務終了後の物資回収の時、時折回線を切って不通になるのでちょっと不安になるというか・・何してるんでしょう?特に中心街廃墟跡になると結構長い時間不通になることが多くて・・アラガミが居ないとはいえ・・リッカさん?何か知りませんか?
最後のヒバリの質問は笑って誤魔化した。エノハのことだ。旧世代の電化製品の残骸でも漁っていたんだろう。全く!神機の改造用に最低限の物資を集めればいいってさんざん言ってるのに!この前は
「リッカ~V〇S拾った!直して!」
「ベ〇タもあった!」
腹が立ったので二つとも溶鉱炉に流して神機のパーツにしてあげた。
・・彼は私との約束の通り、暇があれば神機保管庫に来る事も忘れていなかった。
神機と新しく納入された部品、回収した素材の品評会を兼ねて私や他の技術者と話す事も増えた。その時の彼は実年齢よりもっと幼く見えて輝いていたように思う。
しかし、ある日のことだった。
まるでこの世の終わりみたいな顔をして虚ろな目を自分のボロボロになった神機に向け、うずくまってる彼に
「そんな目で見たらこの子達が心配するよ」
と話しかけた。
彼がそんな事になった原因は分かっていた。私がここに勤めてから何回も経験したことだ。
それは・・ゴッドイーターの戦死。
神機の技術発達、アラガミ装甲の改善によってこれでも昔に比べればその数は減った。
父がここで整備士として働いていた頃に比べれば、私はいい時代にここで働いているのかもしれない。だが、それでも人は死ぬ。
「死に慣れるな、人の生き死にを数で計るようになるな」と言った父の言葉を自分に言い聞かせながら私は働いてきた。
そして今現在もまだ自分が人の死を悲しめることを私は喜ぶべきなのだろうか。それでも一定の間隔で避けようもなく訪れる仲間の死に自分が削られ続ける現実は否が応でも私を楽なほうに導こうとする。
「忘れろ」「割り切れ」と。
そして最悪の「慣れろ」という誘惑に。
でも慣れてはいけないのだ。そして同時に悲しみ、落胆しすぎてもいけないのだ。
慣れれば線を引いてしまう。どの程度で人は生き残るのか?死ぬのか?その境界でふらふらする羽目になる。整備士が一番やってはいけないことだ。
逆に落胆しすぎても当然ダメ。仕事に支障が出るほどの落胆は結果ミスを呼ぶ。戦場での神機の不備は即悲劇に直結する。結果皮肉にもより自分を「慣れ」に近づけてしまったり、最悪心をやられる。
常に揺らぐその均衡を必死で保つこと。これが私が父から教えられた神機整備士としての最大の訓示だと思っている。
これで私は今この場所で生きている。
だが果たしてゴッドイーターはどうなのだろうか?
今回の彼が任された任務で彼は初めて仲間の死を目撃した、体験した、それも目の前で。
命が消える瞬間を目撃した。
ただ「戦死した」という結果と残された「神機」を見る整備士とその圧倒的に違う点がある。
そういう意味で私は彼の感情を完全に推し測ることはできない。
だから私は神機を見る。そして少しでも近付こうと思うのだ。
完全に推し測ることは無理でも・・出来る限り・・!
神機に残るキズや異常、それを見てその持ち主がどんな気持ちで戦ったのかを理解するのだ
。その時彼がどんな状態で闘っていたかを。
盾の異常な傷の多さ。死への恐怖から逃れるための必死の防御をした証。
持ち手が変形し、持ち主の血が乾いた後。必死で剣を振ったのだろう。持ち手が変形するほどの力で握りながら。
銃身は熱で変形し、しばらくは使い物にならない。
よく・・よく帰って来たと褒めてあげたい。大抵の場合、目の前で同僚のGEが死亡した際、動揺のあまり体が硬直し、連鎖的に死亡してしまう新人は多い。ただでさえ自分よりGEのキャリアの長い人間が目の前であっさり死んでいったのだ。その動揺は測り知れない。
彼と同行したソーマの尽力が大きかったのもあるだろうが、それでも彼は良く帰って来た。
それだけで・・それだけで充分だ。それだけで私は「私」を保っていられる。
ありがとう。エノハ。次は私の仕事。
「・・この子達の傷は私が完璧に治すから、キミも自分の傷を癒して」
私の言葉にエノハは何も言わず頷いただけだった。
・・俺の一族―つまり俺の家族、または親類は全てエノハプラントの関係者で役員であり、事務員であり、技術者である。そして極東地域全体の胃袋を彼らが支える以上、優遇措置は強い。ほぼ全員が貴族階級クラスの重要人物とされている。
とりわけ政治力の強い極東支部長、ソーマの父親であるヨハネスの極東地域統治において食糧需給問題は当然最大の関心事の一つであるため、それを一手に担っているエノハ一族に最大の信頼を置いている。ヨハネスに守られる事それ即ち、フェンリルに完全に守られている事も同義である。
よってこの時代に俺の親族、友人に至るまでアラガミによって死亡した関係者は一人としていない。
つまり、俺がアラガミによって身近な人間が死亡する事を体験したのはこれが初めてだったのだ。
・・やばい。うまく言えないけど・・これはやばい。
今回の件で死亡した同僚がエリックという少年である事も拍車をかける。
世間知らずな俗に言うボンボンだという噂を聞いた。でもリッカに聞くと印象がまた違った。高い意識でこの極東を、そして病弱な妹を守ろうとしたやさしい兄・・だった。らしい。
彼も元々適合者ではあったものの、由緒正しい貴族の生まれから召集を断れる身であった。
しかし自らの志を以て志願し、この極東地域に籍を置いて戦い、そして死亡した。
俺の目の前で。
俺は思い知った。自分がどれ程の安全圏の世界で生きてきたかを。
殺されたエリックの姿が今の自分であっても何らおかしくなかった。
・・・怖い。
二日後・・
「新型逃げたってよ」
「一応休暇申請とか言ってたけど・・まぁ・・戻ってこねぇだろーな」
「気の毒だよな~死神ソーマと一緒に任務行っちまったせいで・・」
ラウンジで聞こえるそんな噂を聞きながら向かいに座った彼のいない席を不機嫌そうにリッカは一瞥した後、席をたった。
こーいう時は徹底的に仕事するだけだ。それが発散にもなるし、自分が頑張ればGE達が生き残る確率も増える。一石二鳥だ。
乱雑にボタンを連打し、エレベータに乗りこんで「閉」のボタンを押す。
しかし扉が閉まる直前
「おい・・」
低くくぐもった声がリッカの三十センチ上から響き、閉まろうとした扉は滑り込んだ色黒の片手の力にあっさり白旗を上げ、開かされた。
「・・?ソーマ君」
支部内ではすこぶる印象と心象が悪く、女性にとっては「近寄りがたい怖い男」だが、リッカは特にこの少年にそんな印象を抱いていない。彼の神機につく傷の「感情」が結構まっすぐなのだ。先日の任務ではとりあえず何も言わず、何度かエノハを守っただろうとリッカは確信している。
「・・あいつは」
「あいつ・・?」
詳しく言わなくてもわかるだろう・・とソーマはリッカに目でそう伝えた。
「休暇をとった話は聞いてないかな・・?」
それを聞くとソーマは目線を逸らした。リッカが知っている情報が自分と大差ないことを悟ったらしい。何も言わずエレベータの扉から手を離し、肩で軽くもう行けと合図する。
再び閉まろうとした扉がソーマを覆い隠す時だった。
「あ、リッカさん!ちょっと!待って~閉めないで~」
エレベーターの前の階段でひょっこりとリッカの親友―竹田ヒバリが頭を出した。
ソーマは再びたくましい腕で扉を止める。・・この人いい人だ。
「・・どうしたの?ヒバリ?」
「あの・・ちょっと回線の調子が悪くて・・見てもらえませんか?」
「いいよ。どんな状態?」
リッカがエレベータから降りるとソーマはその場を去った。その後ろ姿にリッカは礼を言ってヒバリのほうを見た。ヒバリは少し目を伏せ、不思議そうに
「今・・任務に出ている班が居ないはずなのですが・・回線に反応があるんです」
「緊急回線とかじゃないの?」
「はい。周波数が違います」
「おっけー見てみよう」
リッカは愛用の作業用グローブをきゅっと両手にはめた。
エントランスにある無線回線機器を見る。見た目こそ武骨で色気が無く、おまけに一見ぼろいが思いの他頑丈だ。
「・・壊れてないね・・これ」
リッカは確信して言った。
「そうですか・・だとしたら一体何なんでしょう?」
「・・・この電波の発信地域解るかな?ヒバリ」
「はい。調べてみます」
数秒後・・
「・・これは中心街のほうですね・・」
「・・。まさか」
リッカがそうつぶやいた瞬間だった。
『あ~とれますか?ヒバリちゃ~ん?聞こえますか~』
「へっ?」
『あーやっとつながった!やった!』
「エ、エノハさん!?」
「・・やっぱり・・」
『・・?あ・・リッカ?』
「・・・キミは何をしているのかな」
『いいもん拾った。無線機。さすがだね~地球滅びても使えるって噂本当だったんだ』
「もう!エノハさん!私用でフェンリルの無線周波数を使用しないでください!」
『ごめん・・』
「切りますよ!休暇中に何やってるんですか!もう!」
『あ、ちょっと待ってヒバリちゃん!リッカともう少し話したいんだけど!』
「エノハさ~ん。困りまふ!」
リッカのグローブがヒバリの口をふさいだ。
「ごめんヒバリ・・。少しだけ。・・何?」
『これ・・持って帰るから』
「・・。また直せっての?」
『違う。溶かしてくれ』
「・・」
『ボロボロにしちゃったろ。神機。素材足りなかったと思うから』
「・・・。解った。なるべく早く帰ってきてね」
『ああ』
そこで回線は切れた。
彼は留まった。不思議な少年だ。
本来居る筈の無い、居なくてもいい地獄に来た少年は少し強くなった表情になってまたここに戻ってきた。
あれ・・?おかしい・・思い描いてた内容と違う。ソーマまで出してしまった。
おまけに主人公がどんどん変な方向に・・。・・ダメかもわからん。
おまけ
「ありがとう。ヒバリ。ごめんね。わがまま言って」
「・・リッカさ~ん」
「ん?あっ・・」
リッカのグローブから解き放たれたヒバリの口の周りにはべっとりと黒いシミがつき、17歳の可憐なオペレータの少女は見るも無残なオッサンと化していた。
「ごめんヒバリ・・本当にごめん・・」
ここまで読んでくれた方ありがとうございました。