今回も良ろしければお付き合いお願いします。
エノハが榊からの任務要請を受けた翌日の夜のアナグラの屋上。
蒼いシオの月を腰をおろして一人見上げるソーマの背中にエノハは声をかける。
「よう」
「お前か・・神機の調子は?」
「うん。もう問題なし」
「そうか」
「色々・・心配と手間をかけたな、ありがとう」
「・・ふん」
相変わらず口数は最低限、しかし最近は微かに笑うようになってきた。元々は整った顔立ちの為、アナグラの女性職員の一部は時折見せるその表情を何とか引き出そうと躍起になる連中もいる。
「・・俺も合同任務に参加する事が決定した。榊博士がお前の面倒を見ろってさ」
「ちっ・・あのオッサン相も変わらずお節介だな」
―・・むしろお前の方が手綱が必要じゃねぇのか?
ソーマは自分の横に立っている飄々とした少年の顔を横目で覗きながらそう内心呟く。
「安心しろ。神機がある以上無茶はするが、無謀な事はもうしない」
エノハは見透かしたかのようにそう言って微笑んだ。
「ちっ・・」
―目ざとい野郎だ。
「同行する後二人は俺の方で決めさせてもらった。本人にも了承してもらってる」
「アリサと・・コウタか?それともサクヤか」
「いや・・。俺ら以外の第一部隊の連中はアリサを軸に部隊編成してアナグラに常駐してもらう。今回は他の部隊から人員を貸してもらうことにした」
「・・。まぁいいだろう。で、誰だそれは」
「・・・と・・・だ」
「・・・何?」
翌日エントランスにて
「今回の合同任務に参加させてもらう防衛班のブレンダン・バーデルだ。今回は少し特殊な任務という事だが懸命に努めさせてもらう所存だ。よろしく頼む」
「こちらこそ。いきなりの召集に快く応じてくれてありがとうございます。ブレンダンさん」
エノハより背も体格も一回り大きく、がっしりとした腕でエノハと握手する青年―ブレンダン・バーデルはその体格には似つかわしくない丁寧で、しかし厳格で真面目な態度を崩さず応対する。
戦闘スタイルはソーマと同じ近距離旧型。さらに同じバスターブレードを扱うがソーマとは異なり、連携に秀でたスマートな立ち回りを行う理論派である。
口数は少ない物静かな男なので第一部隊を除いたメンツの中ではソーマにとって比較的苦手ではないタイプだ。
だが最近にぎやかなコウタ、アリサなどの第一部隊メンツに慣れているため、少し物足りなさを感じさせる面もある。ソーマも最近は相当毒されているということだ。
―・・まぁ妥当といったところか。
が。だ。
昨夜エノハから聞かされていたもう一人の人選にソーマは正直驚いていた。
―エノハの野郎・・マジか!?
「あ、あ、あ。の・・!遅れてすいません!!」
とたとたと遅れてきた一人の少女が息を切らしながら三人の元に駆け寄ってきた。
「いや。大丈夫です。むしろ・・俺たちが早く来すぎだ」
エノハはそう言って遅れてきて目の前で呼吸を整えている少女に声をかける。
「む。・・すまん」
集合時間の十分前集合のさらに十五分前に既に集合場所に来ていたブレンダンは律儀に頭を下げる。本当に生真面目な男だ。
「そ、そうですか?良かったです。あ。こ、今回はお世話になります!防衛班所属ガンナー兼ヒーラー台場カノン!エノハさんの召集に応じて馳せ参じました!不束者ですが皆さんよろしくお願いいたします!」
少女―カノンはぽわんとした雰囲気からは似つかわしくない敬礼をしながら他の三人を見まわした。
「こちらこそよろしく」
「いつものようによろしく頼むぞカノン」
同じ防衛班所属のブレンダンも応じる。ただ彼女に対して「いつものように」はさすがに少し引っかかる。
「・・・ああ」
ソーマは「・・・本当に来やがった」みたいな微妙な表情をしてカノンを向かい入れた。
「ん?ん!?あ!?・・・きゃ~!私お母さんの作ったお弁当を忘れてる!おまけに差し入れしようと思っていたボムチョコも無い!ううううぅう・・・」
「か、カノンさん?」
そこにまた息を切らした別の少女が駆け付ける。
「ヒバリちゃん・・?」
「さ、先程・・カノンさんのお母さんだと言う人がコレをアナグラに届けてくれたそうですよ。はい!これです!」
可愛い花柄が施された紙の買い物袋を少女はカノンに手渡した。
「あ、これは!?あ~お弁当とボムチョコだ・・うぅぅ有難うございます・・助かりました・・」
「良かったですね。カノンさん」
「はいぃ・・あとでお母さんにもお礼のメール送らないと・・」
「・・また俺に送らないようにね」
「覚えてるんですか!?エノハさん!忘れてください~」
「おい・・大丈夫なのか・・」
ソーマはエノハにそっと耳打ちする。
「ん?大丈夫大丈夫。多分」
「・・・」
―あ~・・不安だ。
「では皆さん・・お気をつけて。無事のお帰りをお待ちしています」
いつものようにヒバリは温かく一行を送り出す。
かくして一行は揃い、トレーラーに揺られて片道二時間の路をゆく。
目的地は今回合同任務を行う治安維持部隊の仮説駐屯地だ。
駐屯地―
「よく来てくれた。GEの諸君。俺はこの治安維持部隊の指揮を執っているマツナガというものだ。今回の任務の協力に感謝する」
先日榊と会合していた男が整然と並んだ十人前後の部下の前に立ち、四人を向かい入れる。
「こちらこそ。私は極東第一部隊隊長榎葉 山女と申します。そしてここにいるのは左からソーマ・シックザール、ブレンダン・バーデル、そして台場カノン以下三名のGEです。アラガミ戦闘において実戦経験、実績ともに優秀な三名です」
カノンはエノハのその言葉に小刻みに小さく首を振る。
―い!?い、い、いいいえ!
「・・ですが、我々はテロ組織、および対人戦闘、また交渉に関しての組織戦略は拙いものです。御指導とフォローをお願いすることになりますがよろしくお願いします」
「・・うむ。が、自分たちの弱みをいきなり部下の前で出会ったばかりの人間に話すことは感心しないが」
「本音です。前回の襲撃でそれを痛感しました。隠しおおせる事でもないでしょう」
「そうか。ならこちらも弱みをさらそう。悔しいが我々ではあの化け物どもには全く歯が立たない。結果多くの戦友を失い、また自ら軍を去ってしまった者も多い。・・君らの協力が必要だ」
「・・了解しました。マツナガ大尉」
「「マツナガ」で構わない。エノハくん」
「解りました。よろしくお願いします。マツナガさん」
「ん。では早速だがブリーフィングを始めよう」
一通りのブリーフィングを終えたのち、治安維持部隊の部隊員との意見交換の時間が与えられた。
正直な話、部隊員は部隊長のマツナガを除いて、まだ年端も行かない十代の人間が大半のGEの部隊に懐疑的な態度を隠さなかった。
GEも階級があり、軍人である事は確かだがラフな服装に身を包んだおおよそ軍人には見えない身なり。その上最年長がブレンダンでも22歳という若さ。おまけにその部隊を仕切るのが18歳の少年では仕方ない事とも言える。
逆に治安維持部隊側の平均年齢は34歳、入隊時に既に20代半ばなどざらだ。
中には高圧的かつ威圧的に接してくる人間もいた。
しかし―
「・・と、言うわけだ。解ったかい?逃げるだけの避難民に交じって中にはえげつねぇ自爆攻撃やら無力を装った奴らが容赦なく殺しに来るのがテロ組織、宗教組織の怖さだ。そして時には閉鎖的な環境でテロ組織の連中に洗脳された人質すら敵になりうる。ただの避難民を安全なとこに誘導するだけの任務とはわけが違うんだぜ?GEの防衛班の坊や?」
嫌味を隠さず、接してくるある一人の隊員に対し、
「成程。非常に参考になる。有意義で貴重な意見を述べてくれて感謝する。・・あ。すまない。貴方の名前は?」
「ん?ああ。レイノルズだ。レイノルズ・ライアン」
「レイノルズ・・?その名前、ひょっとして・・失礼だが貴方はアメリカ出身では?」
「・・ああ。母方がな」
「そうか!アナグラには同郷出身がいなくてな・・嬉しい限りだ。同郷のよしみで色々よろしく頼む!!」
例え嫌味や嘲りが交じろうとも相手の意見を素直に受け入れ、己の改善点を模索し続けるブレンダンの生真面目な性格に連中は肩透かしを食らう。生真面目さ故に返しも中々的確なため、嫌味を言う余裕も無くなるのだ。
ある意味うっとおしいタイプともいえるがその内、理解力と礼節を弁えた言葉遣いと態度に自然と「力になってやろう」という感情が湧いてくるのである。
ブレンダン・バーデルという人間の美点だ。
一方台場カノン。
休憩時間―
「あ、あの・・差し入れなのですが・・よろしければいかかでしょうか。ボムチョコです」
「あ、あん?俺は甘いものがあんまり・・・」
「そ、そうですか。で、でも!そう仰る方の為に甘さも控えめにしてますので・・」
「そうか?・・・。・・・?あ。美味い」
「そ、そうですか!!よかったぁ・・」
ぱぁっっとカノンは安心したように満面の笑みを浮かべた。
―・・・お、お?なんだ。この子。ちょっと・・可愛くないか?出るとこでてるし・・。
「あ、皆さんもよろしければどうぞ!お茶淹れますね!」
戦術指南中―
「・・。違うな。この場合ではこのルートを選ぶ可能性が高い。距離は短くてもこちらのルートは障害物、段差、傾斜がきつい。人質、女、子供を抱えた連中は無理をせずに迂回する可能性が高い」
「そ、そうですか。す、すいません。理解力が足らなくて・・」
「君らGEは持久力、体力、瞬発力が常人より遥かに優れ過ぎているからな。常人の心理を読みにくいのは仕方ない事なのかもしれない」
「あ、ありがとうございます。慰めて頂いて」
―・・素直な子だ。闘いに向いているとはとても思えないが。
射撃訓練場―
「これが麻酔銃だ。アラガミには全く効果は無いが人間には一発で三時間はぐっすりだぜ」
「ちっさいですね~」
「はは!そりゃあ姉ちゃんが使ってる得物に比べちゃあな?まぁいいから撃ってみな。人間相手には小回りが利いて場面によってはこっちの方がいいと思うぜ」
「はい!では行きます!」
乾いた発砲音が立てつづけに響く。
「・・・」
カノンの射撃を間近で見ていたその隊員は絶句した。
全弾見事に的に命中している。それも的確に心臓、脳を射抜いていた。
「そ、そこまで急所を狙う必要はねぇかな・・?麻酔弾でも死んじまう可能性が・・・」
「・・・快っ感!悪くないねぇ!?」
「あ?」
「へっ・・?私何か言いましたか?」
「いや・・」
―あれ・・?誰の声だ今の?
男やもめのこの部隊に置いて見た目可憐なカノンは刺激的な清涼剤と言えた。
おおよそ闘いに向きそうにないホンワカとした雰囲気、印象の柔らかさ、不器用さ。しかしそれを補う素直さ、真剣さ。そして時折垣間見える妙な迫力を備えたカノンがこの部隊に溶け込むのは思いのほか早かった。
「正直・・」
エノハは腕を組んで意外にも溶け込んでいる二人の様子を遠目で眺めるソーマに声をかける。
「あん・・?」
「もし俺が今回の任務の召集メンバー四人全員を選ぶとしたら・・・ソーマ、お前はまず選ばないな」
「・・・」
おまけ
「そもそもソーマ?」
「なんだ・・」
少し苛立たしげにソーマは返事を返す。
「今回の任務の救出対象・・十代初めの女の子だぞ?お前にそんなデリケートな年頃の女の子の相手が出来るのか?」
「・・・!ぐぅ・・」
ソーマはぐうの音も出ず、「ぐぅ」と唸る。
あとがき
召集メンバー残り二人について
教団がテロ行為に使えそうなアラガミを考えると空を飛べるとか長距離攻撃の出来るアラガミを捉えることは無い、出来ないと考え、メンツも接近系のキャラを選んでみました。
尚且つ性格的に部署の異なる軍人と上手くやれそうなキャラと考えると・・カレル、シュンは除外。第二世代のアリサ、ヒーラーのサクヤは戦力振り分けを考えると除外。
性格的に防衛班のタツミ班かコウタ、ジーナあたりになるかなぁと。
たださすがにブレ、タツ、ソーマ、エノハ、コウタの中から四人では濃すぎる。男だらけの軍人と合同任務にこれでは書いてるこっちが嫌になる。
ジーナはあんま喋んないし、さすがにカノンは居るなと判断。
結果このメンツになりました。
どうなんだろうこれ。まぁ・・いいや。
今回もお付き合いありがとうございました。