GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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「スピードと見切り発進はひかえめに」
教習所の教えが妙にしみる今日この頃・・。

今回もよろしければお付き合いお願いします。


アラガミよりも

アラガミ教団と言っても所属する人間には色々な思惑がある。様々な組織と同じように。

純粋にアラガミという存在にあこがれている者。教示に共感している者。

自分たちの境遇、不満からフェンリルに対するレジスタンス感覚で所属している者。

この二つの割合が教団内の大多数を占める。

とかく「利用」しやすい連中である。

 

大した見返りも要求してこず、時には命をも投げ出して指示に従う狂信者―

必要なのは建前の教示を使ってせいぜい殉教心を満たしてやる事。これで教団は何とも低コストな鉄砲玉を手に入れることが出来る。

教団の幹部クラスの主要な目的はそれらを「使った」組織的運用で或る。

要するに

 

金だ。

 

教団は宗教活動を隠れ蓑にフェンリルやその他要人の暗殺依頼を極秘裏に彼らは請け負い、それによって組織運営を行っている。

そこに信者、そして「アラガミ」という人類共通の絶対存在、絶対悪を利用する。

前支部長―ヨハネスがリンドウをアラガミを利用して暗殺しようと画策したようにアラガミの習性、気質を熟知していれば意識的に個人ないし、または集団をアラガミに襲わせることは決して不可能ではない。

何せまともな護衛が人員不足のGEでしか出来ない化け物である。有力な企業役員、貴族、政治家の暗殺も容易だ。おまけにアラガミ、そして教団の末端構成員ら「下手人」が被害者側の憎しみの対象となってくれる。

(一部には人為的な暗殺行為とはみなされず、ただ「アラガミに殺された」という落着をしているケースも多い)

殺害を依頼した者は何食わぬ顔で故人を悼む事が出来るというわけだ。

 

そしてそんな事件がアラガミへの恐怖とそれを防ぐ事の出来なかったフェンリルに対する不満を煽り、結果回り回って教団に入信する予備軍を生むわけである。

なかなか教団にとってよろこばしいサイクルだ。

 

そしていざ人員が増え過ぎれば簡単に「整理」すればいい。殉教心を利用し、最高の名誉とされるアラガミへの「供物」として彼らは自ら望んで贄になる。

その行為も信者の教団への忠誠と結束を揺るぎないものとし、尚且つ教団としてのダークな企業イメージの発信にもなる。

社会悪として存在する事により、教団の「顧客」を守る事にも繋がるのだ。

 

そして教団幹部も何食わぬ顔で表向きは痛ましい信者のテロ行為を嘆く成功者として繁栄するわけである。

 

 

「まずいな・・・」

エノハはぎりりと奥歯を喰いしばる。

早急にエリックの妹―エリナ・デア=フォーゲルヴァイデを保護する必要がある。

フェンリル関係の上級貴族の令嬢―成功者側の人間の身なりのいい世間知らずの娘が入信したとなれば行きつく先は容易に想像がつく。

信者は基本幹部クラスを除くと「虐げられてきたもの」。つまりフェンリルに対する不満と憤りを抱えた者たちだ。

そんな者達の中に金持ち・フェンリル・令嬢の三拍子そろった少女が放り込まれたら・・。

 

「まぁ早々に生贄候補だな。信者の殉教心や忠誠心を刺激するし、フォーゲルヴァイデ家の令嬢が教団に入信し、儀式の贄になったとなれば家名もさらに失墜。と、くれば喜ぶ人間も少なくないだろう。労いの寄付金を教団に払ってもいいくらいだろうな」

治安維持部隊長―マツナガは腕を組み、冷静な口調でそう言った。

 

「・・何にしろ・・御令嬢の使いようはいくらでもあるって事だ。取り締まる俺らへの人質、逃亡の際の取引材料、はたまた・・身代金要求か。ここら辺なら本人は無事に戻ってくる可能性がある分救いはあるが」

「教団の要人の顔をうっかり見ていなければ・・ですがね」

「その通り」

 

エイジス近隣―

廃寺跡。

ここに教団の拠点の一つが存在している。アラガミ出現の混乱期、文化的価値を持つ仏具、尚且つ資材としても有用な銅像や鐘などは略奪行為によって根こそぎ奪われ、最早資材、文化的価値がある物は残されていない。

気候もほぼ年中雪が降る過酷な環境、そして氷の属性を持ったマータ等の強力なアラガミも徘徊する可能性もある地域と人間にとってほぼ価値は無い土地と化している。

逆に言えば出現するアラガミが絞られるという事はそれから身を守る装甲壁の種類、更新も少なくて済み、資源、地理的有用性の無い土地故、訪れる人間も少ない。隠れ家としては理想的である。

 

廃寺の構造を利用してあたかも要塞のように改造されたこの施設の一室にエリナは軟禁されていた。しかし本人にその自覚は無い。

退屈そうに椅子に座り、まだ伸び切って無い細い足をぶらぶらさせていた。

 

先日―

勢いそのままに家から飛び出したのはよいものの、行くあてなど当然なく、道に迷い、結局途方に暮れてとぼとぼと辿り着いた外部居住区の市街地を歩いていた。普段は車で通過し、窓から眺めるだけだった風景を眺める。

清潔で整えられた彼女の邸宅の敷地内や近隣の居住区に比べれば何ともみすぼらしい事か。赤茶けた舗装もされていない道路、身なりも同様にすすけて汚れた人間がたむろしている。

働く者、商売する者、座って動かない者、物乞いする者・・いつもは車のウィンドウを通して見ていたものを小さな歩幅でゆっくりと歩き、流れる光景を直視する。

通り過ぎる風景だけではわからないそこに存在する空気、人の息遣い、臭いがダイレクトに感じられる。

犬猿の仲の「とある」貴族のアホ御曹司なら

「何ともエネルギッシュで、活気にあふれた光景だ!」

とのたまう所だろうが、少々潔癖で病弱な貴族の少女にとっては厳しい所である。風に土埃が舞ってコホコホと少女はむせぶ。

正直よくこんな所に住めるなといつも少女は見下すような視線を向け、車窓から眺めていたものだが、生前の兄―エリックに自分の意見との同意を求めると兄は決まって否定したものだ。

「そんなことはない。確かに一見華麗さに欠ける光景で僕も最初のころはエリナのような考えをしていた。だがGEになって何度もそんな場所に赴き、彼らを見、時に話をするうちに僕は彼らに尊敬の念と共感と好感を抱いたよ。彼らも僕もたいして変わりはしない。生きる為に、また家族や友人を守る為に必死で何かを成そうとしている。僕がエリナの為に戦っているのと一緒でね。・・いずれエリナも彼らと触れ合ってみると良い。その時に僕の気持が解るはずだ」

「・・・」

「その前に!エリナは今はたくさん食べて体を強くすることが大事だ。さぁそのピーマンを食べたまえ!」

 

そんな兄とのやり取りを思い出す。大好きな兄の。少女は土ぼこりのついた服をパタパタとはたくと、クスリと笑って少し歩幅を大きくして歩き出す。

 

 

現状ははっきり言ってかなりまずい状況である。少女は明らかに浮いていた。目を引く存在だ。

もう一つ通りを隔てればそこは完全なスラム街だ。今は少女を好奇の目で見ている程度の連中から一気に危険性が跳ね上がる連中がたむろしている。

 

その時だった。

「待ちな。お嬢ちゃん。その通りに入ると危ないよ。お気に入りっぽいそのカワイイ服・・はぎ取られちゃうよ?」

陽気そうな女の声が背後からした。

 

 

数日後・・

教団拠点施設―

退屈そうに足をぷらぷらしている貴族少女の目の前でノートPCを操作している女性がいた。あの日エリナに声をかけた女である。

跳ね上がったベリーショートの黒髪、ピアスだらけの耳、薄着でむき出しの両肩には入れ墨をしたお世辞にも堅気には見えない風体の女だが、常に口角を上げた表情はどこか親しみやすい。

じっと見ているエリナに気付いてふっと笑う。すると浮かぶ目元のしわに若い服装に反して、女が結構年齢がいっている事が解る。エリナの母親とほぼ変わらない年齢だろう。

「・・・退屈?ごめんね」

女の言葉にううんとエリナは首を振る。自分の今までの生活では出会うことの無かったタイプだ。眺めてるだけで結構飽きない。そしてその女性の異様な作業風景も見てて飽きない要因だった。

その女は片腕しかなかった。左腕はほぼ根元から存在していない。

しかし女はそんなハンデを微塵も感じさせない異常なほどのタイピングの速さで何か作業を行っていた。無い左腕の替わりに口にチューブ状の管を通し、何らかの作業の補助を行っているらしい。

 

「よっし終わり!悪いねエリナちゃん。他の連中は愛想の無い連中ばっかでさ。オバサンももう少しお相手してあげたいんだけど・・」

エリナはその女の陽気な言葉に微笑む。

「・・・」

その微笑みを女は無言で見つめていた。何かを反芻するような表情。

「・・・?」

エリナの疑問が言葉に変わる前に女は微笑んで

「・・ちょっとお茶しようか。コーヒーか紅茶どっちがいい?」

 

女は片腕にもかかわらず手慣れた手つきで美味しい紅茶をエリナに淹れてくれた。

かなりの長い期間彼女は「かたわ」なのだろう。仕事の作業効率、私生活作業など健常者と遜色ない域の「慣れ」を感じる。

 

「・・ルー・黄(ファン)いるか」

 

温かい紅茶を二人して飲んでいる中、彼女たちの要る部屋のドアのノックとともに男の声がした。

ルー・黄―それがこの女の名前らしい。本名なのか偽名なのかは定かではないが。

女―ルー・黄はその声を聞いてエリナには見せないやや気だるげな表情でドアの前へ行き応対する。ドアの隙間から男の顔が見えた。

頭を限界まで剃りあげた僧の様な男だ。中性的な面立ちで表情はほぼ変わらず、用心深さを感じさせる嫌な目つきをしている。

 

「何・・?あんた達の辛気臭い顔見せたらエリナちゃんが脅えちゃうでしょ?・・ねぇ?」

ルーは悪戯っぽそうにエリナに顔を向け、ウィンクする。しかしそんなやりとりに男は全く反応しない。

「今後の事で話す事がある」

「・・解った。・・ごっめんねエリナちゃん?私用事出来ちゃった・・だからちょっと出かけるね。それまで悪いけど大人しくしてて?退屈だったら私のノートPCに色々画像やらゲームが入ってるから適当に遊んでて構わないから」

そう言ってルーは部屋を後にした。

 

 

 




今回もお付き合いありがとうございました。



おまけ

「・・・で、あの子をどうするつもり?交渉の材料、人質としてはかなり価値があるからしばらく私が預かる感じかしら?」
「いや・・すぐにでも贄にする。これは決定事項だ」
「・・!?またえらく性急ね・・?」
「あの子が贄になる瞬間を君が動画データにして全世界に配信しろ。フェンリルの上級貴族の娘がアラガミの犠牲になる映像が配信されれば反響は大きいはずだ」
「え!?そ、それはまずいでしょ!?」
「そうでもない。フェンリルの体制に不満を持っている連中にとってある意味何よりも刺激的な映像になるだろう。表向きは称賛は出来なくても心の底では痛快さを感じるはずだ」
「・・・悪趣味ね」
「理性では否定しつつも人間はどこかしら自分より恵まれた人間が堕ちていく姿を楽しめる一面がある。この荒んだ時代にこのような行為に心から憤れるほど余裕がある人間ばかりではない」
「・・」
「それに我々が彼女を確保している事を知った一部の人間から教団に直々に依頼が来ている。『彼女を教団で始末してほしい』とね。報酬は既に受け取り済みだ。あの少女の身代金額の約二倍程を提示したがあっさりとのってくれたよ」

その依頼をしたのはフォーゲルヴァイデ家に煮え湯を飲まされ続けてきた下級貴族の連中だ。連中は表向きお互いにいい顔をしているが内心は妬み、嫉みに支配された連中である。競争相手を蹴落とし、成り上がる事には手段を選ばない。
エリナの兄―フォーゲルヴァイデ家の息子エリックは既に他界してる上に残された娘もその身をアラガミに自ら捧げたとなればいくら上級貴族のやり手の当主とはいえ仕事どころではない。
フォーゲルヴァイデ家は完全な没落の路をたどるだろう。そこに空いた穴にとって替わって得られるリターンに比べれば殺害の依頼金など安いものなのである。

「・・丁度信者も増え過ぎて難儀していた所だ。ここいらで「整理」しないといずれ足がつく。働きの割に過大な要求をしてくる馬鹿どもも増えた。あの少女を代表に無駄に多い役立たずな信者にも盛大に御退場願おうか。せいぜい教団の利益と宣伝の為に役に立ってもらおう」

怜悧冷徹。最悪な一石二鳥の勘定にルー・黄は苦虫をがりりと噛んだ。
―こいつら・・人間じゃない。




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