GEの設定上無理だろ、物理的におかしいだろ、何かいろいろおかしいだろってシーンがあるかもしれません。
ご了承お願いします。
ストーリーは原作のミッション難易度3(だったかな?)「蒼穹の月」のストーリーをなぞります。
リンドウ率いる第一部隊の崩壊の序章です。
よろしければお付き合いください。
蒼穹の月
傍目にも盤石に見えた新生第一部隊だった。
リーダーシップ、能力、経験のリンドウ。
旧型近接のエキスパート、ソーマ。
支援回復の旧型狙撃型、サクヤ。
日が浅い分粗はあるものの潜在能力が高く、新型と相性のいいコウタ。
それに万能タイプの新型
エノハ、アリサの二人。
あらゆる作戦に対応でき、確実に極東支部のエースになるはずのチームがたった一回のミッション・・ミッション名「蒼穹の月」で半壊状態に陥った。
リンドウの行方不明。アリサの錯乱、サクヤの動揺。そして・・強力なアラガミの出現。
それに対して残されたのはソーマ、コウタ、そしてエノハの三人。
彼らの部隊だけでなく、極東支部の士気全体を下げるショッキングな事件であった。
このままいけば現第一部隊は解散―戦闘可能の三人は別部隊に配属、転属が妥当な線だろう。
―しかし、第一部隊はここで終わらなかった。
第一部隊は極東支部一の精鋭部隊に短期で返り咲く事になる。
そのきっかけを作ったのは間違いなくエノハだった。
旧市街―教会跡
リンドウが叫ぶ。
「聞こえないのか!全員撤退だ!アナグラに戻れ!アリサを連れてアナグラに戻れ!」
戦闘中で出来る限りの声量で彼は叫んでいるつもりだが聞こえるのは僅かなささやき声の様なもの。崩れた建物・・アリサの銃撃によって壊された教会跡の天井によって塞がれた通路に重なった分厚い瓦礫はリンドウの声を遮り続けた。替わりにサクヤの絶叫が響き、コウタが彼女を宥める声が聞こえる。
その中放心状態のアリサに駆け寄りエノハは二、三声をかける。が、うわごとのように
「御免なさい」「そんなつもりじゃ」と弱々しく呟くだけだった。
その間にリンドウが再び瓦礫の向こうより声を張り上げる。
「サクヤ!メンバーを統率!ソーマ!退路を開け!」
「言われなくても・・!」
低い声で呟き、ソーマは斬撃を繰り返す。しかし、突如現れた異形のアラガミを前にして流石の百戦錬磨のソーマの精神も削られていた。
後にプリティヴィ・マータと呼称されるそのアラガミはつい先程対峙し、討伐したヴァジュラに比べると遥かに装甲が厚く、更に未知の恐怖とそのアラガミ自身の異様なほどのその面妖な姿で第一部隊全員の気力をごっそり奪っていた。
それもそれが四体。
状況は中々に絶望である。おまけにその統率された動きは明らかに意思を感じさせる・・その恐怖も拍車をかける。
「っ!」
エノハは反応の無いアリサを強引に担ぎあげ背負った。華奢な、おまけにすっかり気が抜けてしまった少女の体など造作もなく担ぎあげられる。・・彼女が手放さない神機の重さがネックだがこんな状態でも神機を手放さない彼女の最後の意地を感じ取ってエノハは少し気が楽になった。
「リンドウさん!撤退準備完了!」
エノハは声の限り叫んだ。
「・・よし。生き残れ・・絶対にな。後は万事どうにでもなる」
小さな・・聞こえる筈の無い囁き声だが確実に聞こえた。
「待って!エノハくん!!」
サクヤが叫ぶ。
「いい加減にしろサクヤぁ!!」
そのリンドウの一喝に力が抜けたサクヤの細腕をコウタが引っ張る。まだ引きずられるように、しかし頑なに打ち込んだ棒のように動かなかった彼女の足がようやく動いた。
―有難うございます。リンドウさん。
心の中で礼を言い、これ以上彼に声をかけたら自分までここに居座って闘いたくなるであろう衝動を抑えた。
一方、前方では見事にソーマが退路を切り開いていた。彼が携行していた集合フェロモンを使ったらしい。相変わらず無茶をする。そんな物を携行している時点でソーマが自分たちの事をいざという時は身を呈して守ろうとしてくれている事が解る。
―そんな事したら逃げたくなってしまうじゃないか。
今、殿(しんがり)としてエノハ、アリサを背負って撤退。
瓦礫に背を向けた瞬間、また聞こえる筈の無い声が聞こえた。
―・・後は頼んだ。新入り。いや・・エノハ。
「危ない!」
コウタが叫んだ。ソーマの放った集合フェロモンの呪縛から解き放たれた四体のマータの内一体がアリサを背負ったエノハの右斜め後ろ、ほぼ死角から躍り出た。
―しまった・・・。
ソーマが目を見開いた。後悔が早くも襲ってくる。何度も何度も経験した瞬間だ。
―また・・俺は。
しかし次の瞬間、響いた音は耳障りな肉が潰れる音などではなく、耳に残る軽快な高く響く音だった。
そしてほぼ同時に2,30メートルはある陸上生物の限界を超えた大きさと質量をもつマータが大きくのけぞった。
「・・・!?」
その頭部、見ただけで嫌悪感と恐怖を引き起こすような能面のような女王の顔の両眼が真一文字に切り裂かれていた。光を奪われた暴君の女王は当てもなく虚空を爪で引き裂き、無為さに気付くと撤退していった。
唖然とその光景を見るコウタ、ソーマ、サクヤの三人がその事態を引き起こした男―
エノハを見る。
「・・・はい」
エノハはそう一言だけ呟き、全くの躊躇も逡巡もなく、殿から一気に集団の最前列へ躍り出た。未だ呆気にとられたままの仲間も何故か足だけは動き、その後に続いた。
「囲まれたな・・」
ある建物の一室。そこでリンドウを除く第一部隊全員が息を殺して隠れていた。
そこは旧時代のショッピングモールらしく、放棄された資材、棚、マネキン等が散乱していた。アラガミ出現後の混乱した時世に人間による略奪行為が行われたのだろう。
商品と言える物はほとんど残っていない。
エノハはアリサを尚も背負ったまま、満身創痍の状態の他のメンバーを見渡す。
そして通信機から響くヒバリの声。
「すいません。みなさんの位置情報確認は出来ました。しかし、今現在、アナグラには非戦闘員しかおらず、また近くに皆さんをすぐに援護、回収できるような部隊が存在しません・・。すいません。お役にたてなくて・・」
ヒバリはもう泣きそうだ。
「仕方ないよ。ただでさえ二つの部隊が同じ場所にアサインされてたんだもん。これ以上任務の場所が密集してる期待はして無かったよ。ありがとう。また連絡する」
エノハは明るく努めてそう言った。
「さて・・」
そのエノハの言葉に他の全員は無言だった。アリサは話せる状態に無い上、サクヤは落ち着いた反動でリンドウの事を思い出し、膝を抱えていた。コウタが差し出してくれた水や軽食にも興味を示さない。
ソーマは相変わらず我関せずと言った感じで少し離れた場所に居るが実際はアラガミに対する感覚が鋭敏なので、周りの状況を気遣ってくれていることがわかる。本当に頼りになる男である。
「・・・とりあえず今の皆の携行品を確認しようか」
スタングレネード1つ、回復剤が一人二つ程度、アンプルが三つ、そして・・ソーマの持っていた集合フェロモン二つ・・。
ヴァジュラ討伐後に連続して巻き込まれたイレギュラーな事態だ。それ程の物資が残っているはずもない。
ハッキリ言って未知のアラガミ、一体はほぼ戦闘不能にしても残り三体を片すには心もとなさ過ぎる装備である。
救いは神機が食事を終えた後でまだまだ元気一杯だと言うとこだけだ。
「・・・」
「考え込む必要はねぇだろ」
ソーマがいつも通り、しかし確信の籠った声で言った。
「回復、アンプルも俺には両方必要ねぇ。俺がこの集合薬で囮になって奴らを惹きつけて
お前らが逃げる―簡単なことじゃねぇか?」
「ば、バカ言うなって!いくらお前でも無茶だよ!」
コウタがすぐに返す。
「他に方法あんのか。それにこの中であいつら三体とやって時間を稼ぎ、尚且つ生き残る可能性があるとしたら一番俺が高い。・・勘違いするなよ。俺はお前らを救いたい訳じゃねぇ。一番確率の高い方法を言ってんだ・・」
「それはそうかもしれないけど・・だったら全員でやったら・・それか全員バラバラな方向に逃げるとか?」
「ダメだ。奴らは三体いる。分散されたらアリサ、サクヤのお荷物を持ってる奴が死ぬ。おまけに分散して遠回りしてる間に他のアラガミが来ないとは限らねぇ。奴らの動きをみたろ?統率されてる。あいつらを指揮している親玉が近くに居ないとも限らねぇ。呑気に迂回してる暇ねぇんだよ」
「じゃあやっぱり全員で倒すしかないんじゃね?それか一匹でも倒したら怯えて逃げるかも知んないし!」
「アホか。今の状況で全員で戦って生き残れると思ってんのか?ハッキリ言ってやる。アイツら三体を倒す事は無理だ。一体でも無理だ。あわよくば一体ぐらい倒せたとしてもその頃には一人や二人死人が出てるだろうな?万全の準備をしても勝てるか解らねぇのに、メンツがこうじゃ尚更だ・・アリサはとても戦えねェ。サクヤも・・あのザマだ。エノハがアリサ、お前がサクヤを連れて帰る。俺が状況を見て逃げのびる・・これがベストなんだよ」
「一人でかっこつけてんじゃねぇ!俺も闘う!エノハ!サクヤさんとアリサ頼んだぞ!」
「足手まといだ。弾がつきた瞬間にお前はお陀仏。言っとくが助けねぇぞ俺は。死体が一つ増えるだけで何の価値もねぇ」
「~~~っ!」
「ソーマ」
一人口をつぐみ、考え込んでいたエノハが唐突に口を開いた。
「あ?」
「それ採用」
「えぇ!?お前までそんな事言っちゃうのかよぉ!?」
「囮になって引き付けてアイツらが動けなくなった所で・・全力で逃げる。それで行こう。どう考えてもまともにやったら勝ち目は無い」
「・・物分かりがよくて助かるぜ。お前は」
その言葉とは裏腹にソーマの表情は寂しそうだった。
―やっぱりな。こいつも所詮俺の事を厄介な奴としか思っていなかったってことだ。厄介払いもして命も助かって・・一石二鳥ってか?
「よし、思い立ったら即行動だ。日が暮れると益々俺らは動けない。見つかるのも時間の問題だろうし」
エノハの言うとおりだった。マータ三体の気配が徐々に包囲網を縮めて自分達に迫っているのをソーマは既に感じ取っていた。ようやく出来たこの休憩も残り時間良くて十分~十五分程度とも感じ取っていた。
「じゃあな。とっととお前らは帰れ。・・せいせいする」
―集合モール廃墟
そこはガラス張りのドーム状に作られた旧時代のカフェテラスだった。
そこの中心に囮のソーマは立つ。集合フェロモン残り二つを使用し、完全にマータ三体に捕捉されていた。
「おい!くそアラガミ!!俺はここだ!きやがれ!!」
程なく三体は現れる。三方向―このカフェテラス後方にある高層ビルのエントランスを兼ねているそちらへ向かう方向以外から取り囲むようにマータ三体は現れた。
そして明らかに意識的に氷の柱を飛ばし、高層ビル方向の天井を壊してソーマの退路を絶った。そして三方向から氷の女王らしく全く慈悲の無い逃げ場のない攻撃を仕掛けた。
三方向からソーマの居る場所に冷気を飛ばし、巨大な氷柱が九本発生し、ソーマを氷漬けにした。そしてそれに容赦なく三体同時で飛びかかり、粉々に砕け散らせた。
もはや「喰う」目的ではなく明らかに獲物を追い詰めて楽しむ高度な知性と知能を持った化け物だった。
しかし・・粉々に砕け散ったソーマの体を能面の目が凝視する。
知性ある故の困惑が三体の能面の顔に浮かんだ。
粉々に砕け散っていたのはソーマの服とよくよく聞いてみると恥ずかしそうに声を張り上げているソーマの声が入った無線機・・そして朽ち果てて変色したマネキン。
「俺の一張羅・・台無しにしやがって」
上着を脱いだソーマがカフェテラスのドーム天井のガラスを突き破り、一匹のマータの脳天を串刺しにした。しかし、散って来たガラスの破片が先にマータに直撃していたため、違和感、危機感に対する咄嗟の反射行動をされ、微妙に「芯」をずらされた。手ごたえが浅い。
「ちぃっ!!」
このアラガミは狩りを楽しんでいるとはいえ、仲間の内一体を一瞬で戦闘不能にした相手がいるこの敵集団を過小評価はしていない。
ソーマからの不意打ちを受けた一体以外の二匹がソーマに襲いかかろうとする。
「コウタ!!」
ソーマが叫んだ。
―あいつようやく俺の名前を呼びやがった!!
コウタはカフェテラスの二階からマータに囲まれるソーマの居る一階へ目一杯何かを遠投した。
―うん!!我ながらナイスコントロール!!
ソーマの目の前、つまり全マータの視線が集中する先にスタングレネードが炸裂し、マータの目を直撃した。
ここからの数秒―マータの視界が回復するまでが勝負である。
十五分前・・
「何言ってんの?ソーマ。全員で生きて帰れってリンドウさん言ってただろ?」
「・・前言撤回だ。やっぱりお前も解らず屋か・・」
「解らず屋で結構。どうせ死ぬつもりならソーマ。手を貸してくれ」
「今更どうにもならないって言ってんだろが」
「確かに勝てない。あいつら三体相手に乱戦になったらまず間違いなく俺達は全員やられる」
「そこまで解ってるんなら小を捨てて大をとればいいだろ」
「お前は小じゃない。ましてや大でも無い」
「あ?」
「お前はソーマだ。第一部隊の。そして隊長の命令で「生きのこれ、全員でアナグラに帰れ」って言われた人間だ」
「・・・」
「言葉遊びも揉め事も止めよう。時間無いし。とりあえず話を聞いてくれないか?奴らをなんとか長い時間一か所に釘づけにして・・その間に必死こいて逃げる。全速力で逃げる。リンドウさんの大好きな兵法だろ」
「五分で話せ。気に入らなければ・・俺はすぐに出る」
「せっかちだな!ヒバリちゃん?もしもし?とれる?」
『ば、はい・・何でじょう』
既にヒバリは涙声である。第一部隊の面々が絶望的なのが悲しいのか、それとも自分の無力さを嘆いているのか解らないが景気よく笑ってお話ししてほしいものだ。その方が彼女に良く似合う。そこはまだまだオペレータとして伸びしろがあるなと感じる。
「ちょっと調べて欲しいんだ。古い情報なんだけど・・俺達がいるここら辺一体の建物の情報調べてくれるかな?それで・・出来るだけ大きい建物でその隣にちょっとした闘えるぐらいのスペースがあるとこないかな?囲いとかあると尚嬉しかったりする」
『は、はい・・?』
「急ぎなんだ。キミにかかってる」
『は、はい!』
「何をしようとしてる・・」
「実は・・これが最初の関門で一番の最大関門なんだ。これがクリアできなきゃ・・ソーマ行っていいよ」
「・・・」
―仲間思いなのか冷酷なのかわかんねぇ奴だな・・?
『失礼します!これでどうでしょうか?そっちの映像端末に送ります。画像が鮮明じゃないんですが皆さんの位置から大体東北方向に五分と言ったところです』
コウタ、ソーマ、そしてアリサを背負ったエノハが不鮮明な画像を覗きこむ。
巨大な百貨店とそれに隣接する集合カフェテラスの見取り図であった。
「・・・」
「・・・?」
「なぁ・・二人共」
その映像を見ても意味のわからないソーマ、コウタとは異なり、エノハの目は輝いていた。
「ん?」
「あ?」
「俺さ・・昔から特別抽選とかそういうものに当たった事が無いんだけどさ・・今日は何か当たった気分だわ」
運は・・とりあえず味方をしてくれた。
「後は俺達次第」
エノハは神機を握ってとりあえず笑って見せた。
その十四分後のカフェテラス
スタングレネードの光が消える。
敵が動揺し、混乱している光り輝く珠玉の時間が失われていくようなものだ。
不思議なもので攻めている者はその時が短く感じ、攻められている者は長く感じる。
結局はイーブンなのだが。時間というものはつくづく公平だ。
視界を失ったマータの内二頭の腰ががくんと下がる。
―ヴァジュラ対策に神機に火属性の因子を入れてて正解だったな・・。感謝するよリッカ!
アリサを背負ったままのエノハが内二頭の後ろ足、動物で言う「腱」を切断出来た。
このアラガミの機動力を支えるのは結局はこの後ろ足だ。アラガミの再生力の前では焼け石に水、そして行動不能には程遠いがこの場に「留まらせる」には一役買ってくれる。
一方でソーマが攻撃した一匹がソーマを振りほどきにかかる。
「コウタ君!今よ!」
「はい!」
透き通った力強い声とともに弾幕が一気に唯一動ける状態にある一匹のマータに降り注ぐ。
ソーマはマータの前足の爪に引っ掛けられ、浴びせられた弾幕の苦痛のあまり身をよじったマータによって空中に吹き飛ばされた。
そこに一筋の緑色のレーザーが彼を通過する。
ソーマは空中で意識を取り戻し、受け身がとれた。
―・・気が利くな。
ソーマが横目でにらんだ先には闘う女戦士に戻ったサクヤがコウタの位置とは反対側の二階カフェテラスに位置取っていた。
体勢を立て直し囮役―エノハ、ソーマの二人は背中を預け、マータ三体に向かい合う。
マータ三体が体勢を立て直すまで残り四秒程。
十三分前・・
『ビルを爆破してアラガミを潰して時間稼ぎ・・ですか?』
ヒバリが無線の向こうで困惑した。
「そんなんで倒せるのかよ?」
「だから倒す気は無いって。でも数万トンもしくは十万トンクラスの大質量につぶされたり、突き刺さられたりしたら、いくらあいつらでも抜けだすのに相当時間がかかる。そのスキに一気に逃げる。闘う力はともかく逃げる力はまだ俺はある。お前たちは?」
コウタは足を叩く。
「へへん・・足早いんだぞ。俺」
「待て・・ビルを倒すと言ったな?そんな火力が何処にある?」
「ここにある」
エノハは得意げに神機を変形させ、彼愛用のブラストに変形させた。
「バカか。お前は」
「うん。確かに。俺らの手持ちの弾薬じゃあとても短時間にビルは倒せないな。でも・・現地調達したアレなら・・可能だ」
「・・・アラガミバレット!?」
「当たり。幸いヴァジュラから貰った弾が八発ある。それを濃縮して三発ずつコウタ・・そしてサクヤさんに受け渡す。威力は・・三つ濃縮したのなら・・そこらのプラスチック爆弾より遥かに威力が高い」
「成程・・ってサクヤさんに!?」
「・・やってもらわないと困る。ダメなら・・ソーマが行っちゃう・・」
「何だそれは・・」
―つくづく一人で行きたくなくさせる野郎だ・・。
「でも・・ビルを倒すつったって・・」
「そこも問題なんだよな・・ヒバリちゃん?」
『何でしょう?』
「ヒバリちゃんはさ?ビルを爆破したことある?」
『あるわけないでしょう!?エノハさん私をどういう目で見てるんですか!?』
「だよね・・」
「建築物爆破なんて・・それこそ爆発物とか建築構造とか知り尽くした専門家しかできないって!増して思い通りの方向に倒すなんて・・」
「建築技術、建材技術・・・」
「ん・・?ソーマ?」
「い、いや何でも無い」
「ど、動揺してる?珍しい!エノハ!絶対何か隠してるよコイツ!」
「何かあったら話せ。時間無いんだ」
―ぬ・・こいつ・・こんな性格だったか?
「知らん・・忘れろ」
『・・榊博士か支部長なら詳しいよ』
無線の向こうから突然ヒバリとは全く違う人物の声が聞こえた。
「えっ?」
「この声は・・」
「リッカ・・。・・聞いてたのか」
「まぁね。ヒバリ泣かすんじゃないわよ。んんっ!ヨハネス支部長は元々建築、建材技術の第一人者。でも生憎今は出張ってるから無理。だけど榊博士はラボにいるはずだよ?支部長と共同でアラガミ装甲やら対アラガミの建築物建造に関わっていたはずだから知識半端無いはずだし。ひょっとしたら・・」
「あー成程。・・ソーマぁ・・隠されちゃあ困るよ」
「ぐっ・・余計な事を・・・」
ソーマは実父であるヨハネス支部長、そして榊が大の苦手だった。
「ヒバリ、すぐラボに連絡とれる?この建物のデータ送ってみたら?」
ラボラトリにて・・
榊は突然のヒバリからの電話の内容に面食らい、眼鏡をスッと人差指で吊り上げた。
「・・爆破?」
『いきなり物騒な事を言ってすみません!とにかく今そちらに転送したデータの建物を爆破してテラス側に倒すためにはどうしたらいいでしょう!?』
「これは・・成功したら沢山人が死ぬだろうね・・ヒバリ君がそんなに鬱屈した感情を抱えていたとは知らなかった。・・早まらず有給でもとってゆっくりしてきたらどうかな?」
『やめてくださ~い!違います!それに時間がないんです!!』
「解ったよ・・ふむ・・火力の程度を教えてくれるかね?」
榊は相当計算が早かった。あっという間にヒバリに爆破プランを送った。二つのとある支点を爆破すれば倒す事は原理的には可能―という事だ。
(「確実にやるなら爆破地点が三つか四つの方が安定するよ?何なら一つぐらい爆弾をヒバリ君の為に用意しようか?」という榊の有り難い申し出をヒバリは泣きながら断った。)
『・・だそうです。グズ・・』
「解った!有難うヒバリちゃん!コウタ!お前にこの無線渡しとく。あいつらを嵌めたの確認したら俺が「三つ」渡すから。それを持ってヒバリちゃんの誘導に従ってこの爆破ポイントに急いでくれ。効果時間が切れる前にポイントについてぶっ放すんだ。・・やれるか?」
「う、うん。やってみる。あ!エノハ?」
「何?」
「アリサは・・俺が背負うよ。お前には先頭で闘って貰う事になるし・・走るだけなら・・」
「ああ・・たの・・ん・・。」
「エノハ?」
「・・やっぱり大丈夫だ」
「え・・?遠慮すんなって」
「いや・・違うんだ」
「・・?」
離れない。まるで鍵でもかかったみたいにアリサのエノハの体に食い込んだ腕は離れようとしなかった。
「・・止めとけ。今のそいつは雛鳥みたいなもんだ。心が壊れた後に最初に頼ったもんに異常なほど固執しちまう状態だ。無理に引き離すともう一度心が壊れるぞ」
「・・・」
「・・俺もそんな感じがする。だから・・大丈夫。ありがとう。コウタ」
「あ、ああ!解った!その代わりいち早くポイントに辿りついて見せるから!」
「頼りにしてる」
「で・・「あれ」はどうする?」
作戦の八割方は固まった。そして最後のピースの・・
「・・サクヤさん」
「・・・?」
サクヤは力なく顔を上げた。目は疲れと落胆で塗り固められていた。ぼやけたような表情。とても戦闘が出来るような表情には見えない。だが、彼女が居なければこの作戦は成功しない。
「無理だ・・闘える状態じゃねぇ」
そのソーマの制止を振り切り、エノハはアリサを背負ったままサクヤの前へ膝を落とす。
「力を・・貸してくれませんか?」
「エノハ・・その・・俺が二か所行くよ」
コウタが割り込む。が、あっさりとエノハは却下する。
「ダメだ。爆破タイミングにずれが生じるし、まずお前が助からない。かといって俺が行ってもダメなんだ。俺一人では濃縮弾が撃てない。受け渡しは自分には出来ないからな。この中で今濃縮弾を撃てるのはコウタ、お前とサクヤさんだけなんだ」
「・・・」
「サクヤさん・・。後悔したいと思いませんか?」
「・・・?」
「後悔しましょうよ。俺はもう既にしまくってます。リンドウさんをあそこに置いてきてここまで逃げてきて・・でも死んだら後悔出来ないですよ?生きて後悔するからこそ人間ってその後のこと頑張れるんです。例えば・・生きているリンドウさんを探しに行くとか?」
「・・・!」
サクヤは違う意味で言葉が出なかった。自分が既にリンドウの生存をどこかで諦めていたことを気付かされた。
確かに状況は絶望的だった。だが実際はまだ何も確定していない。
「ここで俺たちが死んだら助けにも行けないでしょう?リンドウさんが助かってるかもしれないのにここで俺達が死んだら・・帰って来たリンドウさんが「俺は何のためにあいつら達を逃がしたんだ」ってなるでしょ?」
「・・・」
「俺達・・上官に「生き残れ」って命令されたのにそれを破って死んだら命令違反の上に墓石の前でリンドウさんに愚痴言われるんですよ?溜まったもんじゃないですよね?」
「・・リンドウ」
「行けますか?」
「・・・ええ!!死んで文句言われるぐらいなら生き抜いて文句を言ってやるわ!」
最後のピースが埋まる。後は・・運を天に任せるだけだ。
お疲れさまでした。そして読了ありがとうございます。
・・・。ヒバリは案外いじられ役に向くかもしれないですね。
・・真面目で常識人だから振り回される役柄で。
「蒼穹の月 下」の方も近いうちに投稿したいと思っています。
またよろしければお付き合いください。それでは。