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原作のGEエンディングのある一枚絵から出来たお話です。
今回もよろしければお付き合いお願いします。
毛布に包まれながらエリナはひょっこりと顔を出す。両手に握った温かいミルクに一口もつけず、ただ一点を見つめていた。
それは濃紺のコートを纏い、フードで表情を隠した少年の後ろ姿だった。
駆け付けた軍の隊員たち、柔らかい落ち着いた雰囲気のお兄さん、そしてミルクを手渡してくれた優しそうだがドジなお姉さんに即自分を預け、以降フードをかぶったまま全くこちら側を見ようとしないその後ろ姿を眺めつづけていた。
自分を助けてくれた相手の事を知りたい、面と向かってお礼をちゃんと言いたい―
わけではない。
少女の中にあったのは・・失意だった。
―お兄ちゃんじゃ・・なかったんだ。
目隠しされた中の無言の背中、でもその温かみは確かに必死に自分を守ろうとしていた事が伝わった。そんな事が出来るのはエリック―お兄ちゃんだけだと確信した。この背中はお兄ちゃんの背中だと。エリナが本当に大変な時、やっぱり助けに来てくれたんだ!
優しく、強く、華麗でかっこいいお兄ちゃんが!
でも・・違った。
やっぱりお兄ちゃんは・・もういないんだ。
もう守ってくれるお兄ちゃんは居ないんだ。
―死んじゃったんだ。
少女は初めて自覚した。この自分が本当に大変な時にあの優しい兄が来てくれないと言う事は。
来られないと言う事はつまり・・そういうことだと。
涙が出てきた。
もう助けてくれる人はいない。かばってくれる人はいない。
例えこれからもとの生活に戻ってもまた同じことの繰り返しだ。
後ろ指を差され、笑われ、蔑にされる。
こんな厄介事を引き起こした娘を父も母も許してくれないだろう。
幼心に解る。自分の行動がどれほど短慮であったかを。
帰る場所などもう無い。消えてしまいたい。
ヘリポートの地面に軍用の味気ないステンレスのカップが床に落ちる。
「!!」
天候が回復傾向の為、ヘリを呼ぼうとした維持軍の隊員と相談中のエノハ、そしてソーマがその音に反応して振り返ると毛布は既に抜け殻。
そこから抜け出した幼く、未熟な蝶はいかり肩でつかつかと歩いていく。顔だけはうつむいたままで。
「エリナちゃん!?」
軽食として自信作―サイレントボマフィンを振舞おうと用意していたカノンがその小さな背中に声を上げる。
「来ないで!!!」
エリナは力強く叫んだ。振り返った顔は既に真っ赤、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔であった。
寒いのかえずいているのか曖昧にぐずぐずと鼻をすする。
「どうせ皆命令されてきたんでしょ!?パパにあいつを連れ戻して来いって!!そうよね!?それで嫌々皆ここにきてるんでしょ!?めんどくさいな、なんで自分たちがそんなバカ娘のためにって思いながら!」
エリナはぐるっと彼らを見回す。
エリナは一人一人負傷し、疲れがありありと見える彼らの姿を見る。
その姿が誰もが自分を責めているように見えた。「お前のせいでこうなったんだ」と。
―いいわよ。ええ!?どうせ全部私たちのせい。
自分たちのことしか考えないバカ貴族のせい。それに振り回される貴方達はさぞかし迷惑よね!?
ええ、解ったわよ・・。消えてやるわよ!こんな馬鹿な貴族のバカ娘!!
これで満足!?
そう言ってエリナは足場の脆くなった半分削られたヘリポートの先端へ歩いていき、断崖絶壁を見下ろす。
そこまでの威勢は良かったが・・
そこはハンニバルの様な巨体でも落下に数秒かかったほどのド高所である。
―うう・・寒い。高い。怖い!!
足がすくむ。勢いのままの決心は容易くくじかれる。
その背中に
「・・・その通りだ。良く解ってるじゃねぇか」
低く、ぶっきらぼうな声が響く。自殺志願者に対しての交渉人がもしこの場にいたら頭を抱えたくなる野次馬の暴言である。
「それだけ理解が早いなら解るだろ?お前に死なれちゃ困るんだよ。ここにいる全員がな。お前に死なれちゃ俺たちはお前のパパに叱られるんだ。バカ貴族のバカ娘にさんざん振り回された揚句、お前のバカパパに叱られる俺達の身になれ」
・・・最早交渉人が自殺したくなるレベルの暴言である。
言うまでもなく声の主はソーマだ。
エリナはうるませた目を三角にし、唇を噛みしめて睨む。
貴族の自分に対して礼儀もわきまえない、顔もフードに隠してちゃんと見せもしない。おまけに父も侮辱した。
こんな奴を目隠しされていたとはいえ兄と間違えた自分がさらに腹立たしくなる。
「パパの悪口を言ったわね!?言いつけてやるんだから!!」
「ん?何だ。ってことはもう飛び降りることを諦めたのか?なら好都合だ。とっととこっちに戻ってこい」
ソーマは一歩近づいて手を差し出す。差し伸べると言うよりは子犬を招くような適当な動作だ。
「来ないで!飛び降りるわよ!?」
「どっちだよ・・さっさと決心しろ。こっちもそれほど暇じゃねぇんだ」
「こいつ・・・!」
エリナの体が怒りでほんの少し前に出る。
それを見て目線で「どうしましょう」と告げるカノンにエノハは動作で応える。小さくかぶりを振って手で制するような動作をした。
―・・ソーマに任せてみよう。
それを見てマツナガ達も小さく頷く。ソーマに対する対抗心から突っかかってくれれば好都合だ。
「あんた達庶民は良いわよね!?私達は・・私達は・・・!」
「・・・!!!!・・・・・!??・・・・!!!!」
年頃の女の子、そして貴族ゆえの気苦労を吐露し始める。
良い傾向だ。言いたい事全てをぶちまけてくれれば好都合。今の少女の原動力は突発的で短慮な怒りと積み重なった鬱憤、自分に対する憤りと恥辱だ。
それを全部吐き出させてしまえば彼女に残るのは憔悴し、疲れ切った体と・・休息、補給を求めるごく自然な反応だ。
ぐ~っ
「はっ・・・!~~~~~~っ!」
風下から漂ったカノンのサイレントボマフィンのレモンの香りが少女の鼻梁を既にくすぐっていた。
思わずその場にいたソーマ以外の人間が笑いをこらえられない。自殺志願者の話で笑うのは正直タブーなケースが多いが少女にはもうその気配が感じなかった。
自殺というのは結局、結構精神力がいる。自分の体を気遣う生理現象が出る時点で思いきれる精神力も緊張感も最早存在してはいまい。
「ちょっ・・・わ、笑うな!!本当に、本当に、飛び降りるわよ!?」
そう言うがその眼がしぱしぱと瞬き始め、目をこする。泣き、怒り、叫び、鬱憤をぶちまけた体は補給を求めるを通り越し、休眠を求めていた。
「・・いいからとっとと戻ってこい。食って・・寝て。『それでも飛び降りる。自殺したい』と思うなら俺は止めない。俺の言った事、侮辱をパパに詳しくチクってからでも遅くないだろーが。自殺も出来る。俺も不敬でお前のパパに叱られる。一石二鳥だろ」
「・・!!っとにいい度胸ね!!!」
―・・・。前言撤回。ソーマ連れてきて正解。
エノハはその光景を見て内心そう感想を言った。
「・・・」
無言のまま自然にソーマは少女に近づいていく。せめて引っぱたいてやろうとしているのか少女は腰を下ろし、手を延ばしたソーマに少女も姿勢を崩さないままそれを眺める。
「・・かった。お・・・・・くて」
「・・・え?」
ソーマの小さな声・・エリナには聞き取れなかった。
―すまなかった。お前の兄を守ることが出来なくて。
ガラッ
替わりに聞き取れたのは少女の足元が崩れさる音だった。お気に入りの少女の帽子がぐらりと傾いた少女の頭から放たれ宙に舞う。
―・・・え?
一同「・・・・!!!!!!!!!!!」
その先頭のソーマが目を見開く。弾かれたように踏み出して傾いた少女の体に向けて手を延ばすが届かない。仰向けで宙を見据えたまま、小さな体は堕ちていく。
落下の浮遊感、現実味のない急速に離れていく光景に少女は意識を手放した。
しかし弾かれたように断崖絶壁の上の者たちは動き出していた。
ソーマは戸惑うことなく、飛び降りる。フードは風圧で脱げ、前に垂らした白みがかった金髪が風圧でオールバックになる。
全身を固め、硬化して降下。姿勢は直滑降プラス神機の重み。片や少女は全身の力が抜け下からの風をまともに受けた軽い体は浮遊状態、落下の速さは段違いだ。
瞬時に少年の体は少女に追いつく。
少女を左手で抱きかかえ、空中で背中を海に向け、まともに水面に叩きつけられる。
呼吸が止まりそうな衝撃に流石のソーマの意識も霞み、沈んでいく体を止められない。
そこにハンニバルが消え、生息域を取り戻した小型の海洋アラガミが餌が落ちてきた金魚の水槽のように一斉にソーマ達に群がり始める。
ほんの少しの時間彼らは沈むソーマ達を眺めている。
最初の一匹の一噛みが口火となれば後は他が追従していく。獲物が出した血液が次々に仲間を狂食状態にし、あっという間に獲物は喰い裂かれる。
そのほんの合間の刹那だった。
ソーマの神機が白く光る。
その光が海洋アラガミの目を一匹一匹例外なく照らし、攻撃性を一気にしぼませていく。
―みんな。こないで。このヒトを・・・たべないで。
―・・と、なると。
(はい?)
―ソーマの神機もそういう事なのか。ブレンダンさんの神機と同じ。
(・・ご明察です。そもそもあの神機は僕達の中で最も古い神機ですからね。機構も生体部分より機械部分が多い・・その分無機質な面が強いです。感情があるのか無いのかすら同じ神機同士でも解らない神機でした。・・ついこの前までは)
―・・・。シオの体を取りこんでからだな。
(ええ。一気に感情が伝わるようになりました。幼く無邪気で・・子犬の様な子です)
真っ白で陽気で人懐こい・・白い子犬。
「エノハ君!!使え!!」
マツナガが頑丈なザイルをエノハに手渡し、隊員たちがその先端をがっしりと握っていた。
それを右手に掴み、エノハはソーマに遅れて飛び込んだ。
ソーマ達が落ちて白い泡が噴き出している場所へ一直線に。
上にいるマツナガ達に伸縮性の高いザイルが完全にたるみが消え、張った瞬間が手を通して伝わる。明らかに何物かの意図が伝わる急激な引きであった。
―引いてください!!
「引け!!!」
マツナガの号令と同時に隊員たちは一斉に引く。
はじき出されるように水面からエノハ。
そしてそのエノハの左手には・・
海の色を映しとったような濃紺のコートの襟をむんずとつかまれ、猫掴みの様な姿勢のソーマがしっかりと神機、そしてエリナを抱きかかえていた。
「・・・もっとマシな持ち方はねーのか」
「・・・片手じゃお姫様だっこは無理だよ」
「・・殺すぞ」
読了お疲れさまでした。
エリナがちょろすぎるな・・。あっさり言いくるめられすぎかも・・。
けど解らん・・。この年代の少女がどんな反論してくるかなんて!それに対してどんな受け答えが適当なのかなんて解らん!!
誰か!エリナの「・・・!!!!・・・・・!??・・・・!!!!」らへんのところに台詞を入れてくれ!
GE2のキャラエピソードに差し支えない様に作ったつもりですが突貫で作ったお話なので矛盾点多数あるかも知んないです・・勘弁して下さい。また見直します。
おまけ
海水でずぶぬれになってぶるぶると震える少女の体にカノンがすぐさま毛布をかけ、新しいホットミルクを震える両手に手渡しながらゆっくりと口に運ぶ手伝いをしてやる。
「・・・。・・あっつ~い!!」
冷えた体が芯からあったまっていくが、少々流し込むのが急激過ぎた。猫舌をさらして少女は喚く。
「ご、ごめんなさい」
私は極東の舌と喉のおかしい「あの」二人とは違うのだ~!
その様子を見て苦笑する声が上から聞こえた。
不本意、まことに不本意だが、もう一度命を救われた声の主を睨んでやろうと少女は顔を上げる。
そこにぼすんと乗せられた物がある。彼女が大事にしているお気に入りの帽子だ。
飛ばされたそれをカノンがダイビングキャッチを敢行し、海の藻屑になる所を寸前で防いでいたのだ。「せ、セ~フ」とか言いながら。
その帽子で再び少女は目を塞がれた。少年の顔を見ることがまたも許されなかった。
しかし声は届く。低くやはりぶっきらぼう。
でも・・優しい声だ。
「・・父親を・・パパを大事にしろ」
意外な言葉だった。
「俺はな?自分の親父が生きている時はあいつと話をしようとか、そもそも口をきく気も無かった。でもな・・あいつが居なくなった今、妙に話をしたいこと、聞きだしたい事が次々に出てくるんだよ・・」
ソーマは父―ヨハネスの死後、本部に回収された物以外の彼の残した研究成果、論文、その他資料を遺産として受け取り、読み漁っていた。最初は何の事もない、彼の夢―シオに会いに行く為に役立つ知識をせいぜい利用してやろうという考えだった。
しかし・・それを読み漁るうち解る事があった。
彼がどれほど偉大な研究していたのか。
彼の研究によってどれほどの人間が生かされていたのか。
・・彼がどれほど自分たちの事を考えて生きていたのかを。
―今なら話したい事も聞きだしたい事も腐るほどある。彼の残した研究内容的な事はもちろん、
ひどく個人的な所も含めて大量に。
父が自分の年齢ぐらいの時のこととか。
····顔も見たこともない母のこととか。
もし今の自分の気持ちが昔の自分にあったならアーク計画に走った親父を止められたかもしれない。
面と向かって、顔突き合わせて口論する事も出来たかもしれない。殴ってやる事も出来たかもしれない。はっきりと言ってやる事も出来たかもしれない。
「アンタの気持ち、思いは解った。でも俺たちはそんなこと望んでない」・・と。
でももう出来ない。永遠に。
アイツは選んで勝手に悩んで、孤立して、勝手に決めて、勝手に死んで・・・残された俺にはバツの悪い喪失感とあいつの想いを知ろうとも、聞き出そうとも間違いを正そうともしなかった自分に対する憤りだけが残った。
もうどうする事も出来ないんだよ。
・・お前と違ってな?エリナ。
「お前には居るじゃねぇか。お前の親父は生きてるじゃねぇか。そしてお前の親父は自分の間違いを正す為に生きようとしてる。俺の親父が・・そして俺がそうさせる事も出来なかった事がお前の親父は出来るんだよ。何せ生きているんだからな。そんな父親に変わらず憤りをぶつけたり、八つ当たりしたり、罵ることだって出来る。・・・逆に支える事だって出来る。そしていつか・・自分の親父に面と向かって感謝したり、笑い合えたり出来るかもしれねぇ。生きてる親父と一緒にな・・」
「・・だからとことんぶつかってみろ。逃げんな。納得いくまで話してみろ。それでも尚納得いかない、家出してやる、死んでやるってなるんだったら俺はもう止めない。お前の判断だ。でもそれも俺にはもう絶対出来ない事だ。俺みたいに後悔するな。失った物を嘆くことだけしか出来ない今の俺みたいにはなるな」
そして深く息を吸ってこう続けた。
「ならないでくれ・・」
祈るようなソーマの声だった。その声がエリナが「その時」聞いた少年の最後の声だった。
それ以降二度と少年は声を出すことはなかった。終始無言の無愛想な少年に戻る。
まるで一生分の言葉と、抑えきれない感情を出しつくしてしまったみたいに。