書き終わって思うがやべぇ・・GEっぽさが無いぞ。一体何の話なんだこれ。
短編集にしてさらっと流そうと思った話なんですがまーた長くなってしまいます・・申し訳ない。
おまけに時間があまり無かったので突貫工事・・また見直します。
「これって手錠の意味あるのかしら?」
ルー黄(ファン)は隣にいる一言も言葉を発しないフェンリルの職員を横目で見、そう呟いた。
彼女の片手しかない右腕の手首につけられた手錠をちらちらと振る。が、フェンリル職員の男は全く声を返そうとしない。
―ま、留置場の看守に愛想を求める自体無理な話か。
フェンリルの内部情報を反体制組織に売った時点で彼女の罪名は言うなれば国家反逆罪だ。
大犯罪人である。
つまりここは―監獄だ。
ちゃらちゃらと忙しない音を手錠の鎖はたてながら真っ黒な廊下をルー黄、そして看守の男は歩いていく。
彼女たちが通り過ぎる際に流れていく幾つかの物々しい扉の中からは視線を感じる。お世辞にも気持ちのいい視線とは言えない。
フェンリルは「自分たちの体制を守る為、無実の人間を監獄に放り込んでいる」とまことしやかに噂されているがここにいる連中は例外の様だ。
確実に堅気ではない視線が廊下を歩くルー・黄に突き刺さっている。
―コイツらと一緒かー・・。我ながら情けないわ。
ルー黄は手錠をされながらも割と自由な右手でポリポリと頭を掻く。
彼女はエノハ達の作戦決行日、既に教団施設に替え玉を置いてフェンリルに身柄を拘束されていた。
何とか教団幹部の例のスキンヘッドの男はそれで一時的に誤魔化せた。内部事情を知る者が一旦教団施設を離れるにはこの男の許可がいる。
動き方を誤ればフェンリルへの情報リークを感付かれ、即消される可能性もあった。それ故秘密裏に逃げ出す必要があったのだ。
実は既にエノハ達とも作戦会議の際に面会している。作戦の際にはエノハ達GE、そしてマツナガ達の施設内案内役として同行を彼女は申し出たが断られていた。
色々と理由はあるが「かたわ」の彼女が有事の際の重荷になりかねない事が主な原因だった。逃走を懸念した上からも圧力がかかったのもある。
しかし自分がスパイ行為をしていた犯罪者にも関わらず、GE、治安維持部隊の連中ともに彼女に比較的好意的に接してくれた様に感じて意外だったのが印象に残っている。
彼らなら少女を無事に連れ出してくれる―無責任だがそう感じた為、彼女もそれ以上無理を言おうとしなかった。
その後―作戦の成功と少女の無事を聞いた時、本当に肩の力が抜けた。
そして同時に罪を償わなければない。次は私の罰の番だと受け入れ、ルー黄は歩いていく。
あの日、町を歩いていたエリナを保護し、結果巻き込んでしまったのは自分のせいなのだから。
極東支部支部長ペイラー榊がPC画面越しに行った彼女に対する例の「脅し」の件は彼女がリークした情報が(予め彼女に伏せられていた事以外はほぼ)正確であった為、実行には移されていない。
彼女が慈善行為として援助を行っていた孤児院「伊藤園」の閉鎖。
そして・・「とある」貴族を無実の罪をでっちあげ、投獄するという脅しの件である。
しかしそれでも今回の件を機に孤児院に資金を提供していた下級貴族、そして教団が一斉摘発された場合、結局あの施設は解体され、子供達は散り散りになるだろう。
実際自分がそうなのだから。投獄される自分があの孤児院を援助することはもう当然出来ない。
あの施設にいる何も知らない子供、職員達は教団、そして自分達の事しか考えないような下級貴族とはいえ、それらが出資する金で支えられていた事もまた確かなのだ。
―自分だけ違うと思ってるんじゃないよ私。同罪でしょ?アンタも。
―・・そうね。
そう彼女は自問自答した。
そんな思案に耽っていると何時の間にか左右牢屋だらけの廊下が終わった。
「・・あれ?私の『部屋』どこなの?」
その質問にも全く男は応えてくれなかった。尚も無言の職員の男に連れられていく。
何時の間にか・・・留置場の壁の外に出ていた。日差しが眩しい。同時に・・・
「え・・?」
隣に立っていた職員がおもむろに彼女の手錠の鍵口にカギを差し込む。相変わらず無言のままで。するとあっさりと手首が解放された。
―・・逃走させて後ろから狙い撃ちとか?
ルー黄は警戒が消えず、きょろきょろと後ろを見回すがそんな様子はない。替わりに・・前方から人が歩いてくる。
職員の男はその人影に会釈するように頭を下げ、同時に前から歩いてきた人影も同時に彼に頭を下げる。職員の男はそれだけするとあっさり踵を返して再び留置場の中へ消えていき、戻ってこなかった。
来客とルー黄だけが取り残される。
来客は女性・・いやまだ若い少女だ。赤みがかった髪色を左右に独特に巻きあげた特徴的な髪型の少女。身なり、姿勢も整っている。
「初めまして。ルー黄さん。私は竹田ヒバリ。極東支部アナグラでオペレーターを務めている者です」
「・・・はぁ」
手錠も外され、おまけに犯罪者のはずの自分に敬語の若くして結構な役職に就いているであろう礼儀を弁えた少女に曖昧な返事を返す。
「立ち話も何なので・・こちらにどうぞ。車を用意してあります」
「成程・・私を引き抜きね」
冷静になればよくよくあり得る話だった。
自分達のコンピュータにラクラク侵入を果たした腕利きのハッカー。逆にその人間はどうされたら侵入し辛くなるか、されたら嫌な事を知っている。
皮肉な話だが元犯人の知識というものはこれからの防犯に非常に役立つのである。
「条件はそちらの手元にある資料で以上です」
「・・安いね。報酬」
「それが榊博士、あ、いえ。極東支部代理支部長ペイラー榊からの釈放の条件です。お気に召さずお断りであれば即この車を再びあの施設にお戻ししますが・・どうされますか?」
選択の時間も得に用意していない。どうやら・・・
「その脅しもあの狸支部長サンの受け売り?」
ルー黄も少し調子を取り戻し、軽口も出るようになった。
「・・・」
少女は無言だった。肯定と受け取る。そしてルー黄は聞いてみたくなった。
「・・貴方はどう思うの?」
逆に質問を返してみる。
「・・私が・・ですか?」
「見た所かなりちゃんとした女の子とお見受けします。仕事も出来るし真面目な・・ちょっと潔癖な所がありそう。どう?私の様な犯罪者と仕事したいと思う?」
ヒバリはしばらく考え込むように目を逸らす。しかしルー黄が
―中々可愛いわね。迷ってる顔も。
等と思っていると次の瞬間にヒバリの目は真っ直ぐルー黄を見据えた。その真っ直ぐさに少しひるむ。
「正直に言います。したくありません。私の大事な仲間を、友達を「命令された、依頼された」とはいえ貴方は危険に晒したんですから」
全て見てきた。大切な居場所が、大事な友達が、その大事な人が・・酷い目に遭った。それは紛れもない事実だ。
「・・でしょうね」
ルー黄は少し反省した。やはり肩身は狭い身分だ。もう少し自重しよう。そう決める。
しかし少女は途端語気を緩めた。
「―と、言うと思います。・・・事情を知らなければ」
「・・・事情?」
「これは言うなといわれていたんですが・・。私は・・貴方のサーバーの侵入の痕跡を追って探っていた者です」
「・・あら。貴方が私を見つけた人なんだ」
「・・。ルー黄さん。痕跡を・・わざと残したんじゃないんですか?サーバー上に。・・・見つけられるように。罪の意識に耐えかねて」
「・・・」
私を「見つけた」んじゃない。「見つけてくれた」のは・・この子か。
ハッキングで入手した内部情報をクライアントに提供し、報酬さえいただければ特に文句はなかった。その情報をどう使おうが彼らの勝手。私が関知する事ではない―
ルー黄はそう思っていた。
しかし―どうやらそれは私には無理なようだ。私は基本この仕事に向いてないのかもしれない。でも流石に我慢できなかった。
アナグラ襲撃テロ事件の際―その自爆テロ行為に利用され、犠牲になったのが罪の無い親娘だという話。その話を聞いた時、自分の行為が結果的にそんな非道につながる一助になったことに心底胆が冷えた。
罪の重さに耐えられなかった。
―誰か私を止めて。捕まえて。
結果、彼女は丁寧に侵入痕跡を抹消することを怠った。いや違う。する気分になれなかった。
自分もまた・・母親だった女なのだから。
ルー・黄
彼女には娘がいた。なんと彼女がまだ十代半ば過ぎの頃生んだ娘だ。
父親は解らない。どうでもいい。
いきなり出来た愛しい娘。彼女は周りの反対を押し切り、一人で育てることを決めた。
しかし、娘が生後二か月程の頃、居住区を襲ったアラガミにより彼女は片腕を失った。
親子ともども命は無事だったのは不幸中の幸いだが、もとより幼すぎる母親の上、片腕を失い、精神的失意もあったルー・黄に赤子を育てる能力は無いと判断される。
赤子は施設に引き取られた。
その施設こそ彼女が出資を行っていた孤児院―「伊藤園」だった。
ルー・黄はその後何とか生活力、経済力を身につけようと努力し、システムエンジニアの傍ら裏でハッカー行為を営める程のスキルを手に入れ、金を稼いでいた。片手を失おうとも姿のみえない電子の世界は平等だった。
しかし、娘を迎える為の経済力をつける為、犯罪行為に手を染めた自分に迷いがあったのは確かだ。おまけに自分はどう繕おうと片腕だ。片腕の母親を持つ娘を果たして本当に幸せに出来るのか。
疑問は尽きなかった。しかし施設に出資を行いつつ、施設より届く娘の成長の記録を何よりも励みにして見守り、彼女は生きていた。
娘は園内では利発で、頭もよく、面倒見のいいリーダー的な少女に育ったらしい。
なんと自分の様な人間からよくぞこんな子が生まれてくれたものだと柄にもなくルー・黄は神に感謝した。
それ故―引き取り手は引く手数多だった。
ルー・黄の娘はある貴族の目に留まり、里子に出された。
ハッカーの情報入手能力をフル動員して調べ上げたその貴族は間違いなく健全な貴族。
ルー・黄は受け入れた。完全に娘の親権をその貴族に委ね、手を引く。
いきなり腕の無い、そして秘密裏に犯罪行為に手を貸している母親が引き取りに現れた所で娘が混乱するに決まっている。それならば健全で真っ当な貴族に引き取られ、勉強し、世の中の役に立つ娘に育ってくれれば文句はない。
貴族側から定期的に娘に会ってもいいという譲歩も出してくれたがそれもルー・黄は固辞した。
こちらをこれ程慮ってくれる良識を持った貴族が新しい娘の家族になってくれる―それだけで十分だった。
(ペイラー榊が「脅し」として無実の罪をでっちあげ、この貴族を失墜させようとした事がルー・黄があれ程激昂した理由である。娘、この貴族に自分の犯罪行為の火の粉がかかるのが耐えられなかった為だ)
そんな過去があったからこそルー・黄は今回のアナグラ襲撃の際、ある親娘が利用され、犠牲になった事を知る。
自分の行為がきっかけで同じく娘を愛し、守ろうとした同じ「母親」を死なせてしまったのだ。
自責の念にとらわれた。何よりも誰よりもその親娘の気持ち、無念が解る故に。
そんな気持ちが残した綻びを目の前の真っ直ぐと仲間を思いやる気持ちに溢れた少女がすくい取ってくれた。
辿り着いてくれた。
止めてくれた。
初めて会ったばかりの少女―ヒバリにルー・黄は深々と頭を下げ、
「私が出来ることなら何でもしましょう。その代わり変わらずあの孤児院に私の給料の内の三分の二を送ること。それがこちらの条件です」
教団が摘発され、繋がりのあった貴族も芋づる式に御用となると孤児院は確実に逼迫した状況になるだろう。
その足しとしては微々たるものだがルー・黄はそれを条件につけ、ヒバリも頷く。
「了解しました。・・ここからは独り言なんですが・・」
「・・?」
「そもそも榊博士はあの孤児院閉鎖させるつもりはありません。ああ見えて榊博士・・もう既に新しい出資者をいつの間にか見つけてきてます。教団からの寄付金、教団と癒着していた貴族の物より遥かに潤沢な資金提供が出来る信頼できる筋です」
「・・・!」
「安心してください。あそこを潰すつもりは元から私達にはありません。もちろん同時に無実の罪をでっちあげて陥れるようなこともしません。・・榊博士は」
ヒバリはそう言って微笑んだ。が、少しじとりと遠くを見る上でしみじみと
「・・・ただ無理難題は結構、相当言ってくる人なので覚悟していて下さいね・・・?ルー黄さん?」
そう言った。
「・・・よろしくお願いするわ。ヒバリさん」
「こちらこそ。・・私は私なりにアナグラを、私の大切な居場所をこれからも守りたいんです。その為にルー・黄さん。・・貴方の協力が必要です。いろいろと教えてくださいね」
「・・ええ。喜んで」
コレ以降の話でおそらく登場はしませんがルー・黄には結構設定が色々あります。
ちなみにエリナの母親ではありません。
そしてリッカの母親でもありません。
原作のキャラとはほぼ関係無しです。
・・・多分!
今回もお付き合いありがとうございました。
おまけ
「ルー・黄さん」
車内でヒバリが尋ねる。
「ん?」
「ちょっと・・寄り道していきましょうか」
ルー・黄が連れられてきたその場所はそこはある貴族の敷地内であった。
草木と水、心地よい風と揺れる花に囲まれた小さな丘。
「私みたいな暗い所が大好きなドブネズミにはもったいない所だねぇ」
苦笑いを浮かべて振り返るとヒバリが微笑みながらも後ずさりしている事が解る。
「・・?ヒバリさん?」
「ふふ。ここで少し待っていてくださいね?・・ではごゆっくり」
「・・・え?」
そそくさとヒバリは去っていく。
ルー黄はポツンと取り残され、相変わらず居心地悪そうに邸内を見回していると・・
声が聞こえた。
「あ。おばちゃん!!」
「ああ!!おばちゃんだ!PCおばさんだ!!!」
わっと向こう側から子供たちが駆け寄ってくる。見慣れた顔だった。
「あ、アンタ達!?」
それは彼女の出資している孤児院―伊藤園の孤児たちであった。
実の娘が里子になって施設を去った後、時折ルー・黄は施設に顔を出してPCの技術や旧時代の画像や記録を彼らに見せていたのだ。最早自分の手で育てることは無くなった実の娘の替わりに彼らに出来ることを模索する為に。
「どうしたの?皆!?こんなとこで?」
「ん~?なんか優しそうな赤い髪のお姉さんとその・・優しいけどな~んか胡散臭い眼鏡のおじさんが伊藤園に来て連れてきてくれたんだ。今日はここで思う存分遊んで行きなさいって・・」
―怪しい!何たくらんでるの!?
てかこれ集団誘拐じゃないの!?あの顔でこの行為は既に犯罪だわ!!あの支部長!!
ルー・黄にもこれから自分をこき使うであろうあの榊の一面が伺えた。
コレから相当苦労させられそうだとやれやれと頭を掻く。
―その時だった。
「どうしたの・・皆?いきなり居なくならないで。心配するから」
子供達の後ろから透き通った声が聞こえた。その声に・・
「・・・!!」
ルー・黄は固まった。
「あーカナリアお姉ちゃん!このひとこのひと!」
「え?」
「あ。お姉ちゃん。この人だよ。PCおばさん。っていうか・・会うの初めてだよね。お姉ちゃんが孤児院に居なくなってからよく遊びに来てくれるようになった人だし」
「え!?ああ!!この方が!?」
飛び上がるように少女は目を輝かせた。
「申し訳ありません!挨拶が遅れて!!私はカナリア。カナリア・アマリ・クーデルカと申します。弟や妹達がいつもお世話になっているということで一度お会いしたいと思っていました。お会い出来て光栄です!」
同時に握られた手。言葉をルー・黄は紡げない。
間違いない。この子は・・・
―カナリア。私の・・娘。
彼女は今年17になる。もう立派な女性であった。
ベンチに座る。目の前で遊ぶ子供たちを見ながら二人―ルー・黄、娘のカナリアと親子水入らずで。
しかし、このカナリアという少女はルー・黄が実の母親であることを知らない。そしてそれを伝えることも、かつてルー・黄は断った。
その決心がくず折れそうになる。抱きしめたくなる。打ち明けてしまいたくなる。
でも―
横で佇み、施設の子供達、妹、弟達を優しい笑顔で見守る彼女の姿を見て思う。本当に良い家族に引き取られたのだと。優しい子に育ったのだと確信する。
「私はこれからも・・あの子たちの力になりたいです。ルー・黄さんみたいに」
突如娘―カナリアはそう言った。
「生意気だけどいい子たちよね」
「はい。私もそう思います。・・ただ胸を触るのは勘弁してほしいです」
「あは!立派な物をお持ちのようで!」
「~~~っ」
―全く誰に似たんだか!
そんなとりとめのない親子会話をする。
―この瞬間に辿り着く為に私は生きてきたのかも。
ルー・黄はそう思った。
「カナリア・・さん?貴方・・孤児院を抜けて以降も度々来てくれるみたいね。ま、私とはすれ違っていたみたいだけど・・」
厳密に言うとルー・黄が「すれ違わせていた」のだが。
「ええ。今でも時々顔を出させてもらって兄弟たちに勉強を教えたり、一緒にご飯を作ったりしてるんです。あの子達は血がつながらなくとも私の家族ですから」
「そ」
「今の家に引き取っていただいて・・色々と勉強をさせてもらって世の中の事が少しはわかってきたつもりです。でもこんな苦しい時代で現実を知っても私には変わらない物があるんです」
「それは・・何かしら?」
「あの子達に幸せになってほしい。生きていく力を身につけてほしい、です。だから・・私はそれを教えていく人間―教師になりたいと思っています。引き取ってくれた両親の恩を忘れて自分の路を進む娘を・・両親は応援してくれます。今でも孤児院に足を運ぶ私に嫌な顔一つせず送り出してくれます」
「本当に・・いい方に引き取ってもらえたのね。貴方は」
「はい!!」
満面の笑みを返す娘にルー・黄は心が歪みそうになるほど嬉しい。
悲しい。
泣きたくなるほど嬉しい。
・・悲しい。
悲しむことなど何もない。目の前の実の娘の幸福を。そしてその幸福を決して自分だけのものとせず誰かと共有しようと努力している娘を目の前に悲しむことなど無いはずなのに。
「私は孤児院に協力している人、助けてくれる人皆さんに会いたいと思っていたんです。だから今回ルー・黄さんに逢えて本当に嬉しいんです。改めて・・・お礼を言いたくて」
「私は何もしてないわ。偽善者だもの」
「偽善・・?」
「あと支えてくれる人全員に会うことはお勧めしないわよ。腹に何持ってるか分かんないから。私も一緒。・・忘れてくれて結構よ」
「・・忘れません」
娘―カナリアは首を振る。
「・・・」
「例えどんな意図があろうとも恩義を受けた方を忘れることなんて私には出来ないです」
「・・そう。解った。じゃあ・・もう行くわ」
これ以上居てしまうともうダメだ。
・・泣いてしまう。
「あ、あの!!」
その母の後ろ姿を何も知らない娘は呼びとめる。ピタリと母は歩みを止めた。背中にかかる声に全精神を集中させる。
「あの!!また会っていただけませんか?いつでも私達は待ってます!私の家族を支えてくれる人!それは即ち私の家族ですから!!」
「・・・」
ルー・黄は無言のまま振り返らず右手をぶらぶらと振った。
承諾か拒否か曖昧な反応だが・・カナリアは頭を下げる。
なんて。
なんて幸せなんだ。
こんな私にこんな幸せが訪れていいはずがない。
だからこそ。
私は誓う。
罪は償う。
もう一度この背中に向けられている真っ直ぐな視線を真正面から受け止めることのできる自信が今は何よりも欲しかった。