GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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アラガミ教団関連ストーリー最後の話です。

(・・うそ。今回の話で十五話以上使ってんの・・?)

今回もよろしければお付き合いお願いします。


カスタマ 短編集 5

一つの事件が終結した。

しかし終わらない。

各自、今回の事件で抱えた新たな、向かい合わなければならない課題が山積している。

 

そこで彼らの路は分かたれる。

各々の日常へ。

 

短編集1 

 

「マツナガさんを始め治安維持部隊の皆さん・・本当にお世話になりました」

「それはこちらのセリフだ」

 

背後でぶんぶんとプロペラの回る軍用ヘリの前に一行は揃っている。

ヘリを背にしたGE選抜部隊、エリナの一行とそれに向かい合う治安維持部隊の隊員達は最後の挨拶をかねて向かいあっていた。

GE側部隊長エノハと治安維持部隊長マツナガがここにいる全員の代表としての挨拶と握手を交わす。

傍らにはブレンダン、そして所々怪我の為、絆創膏を貼られながらも柔らかい微笑みを絶やさないカノン。その足元にはエリナがやや少し恥ずかしそうな態度でもじもじし、

そのやや後ろではフードをかぶったまま体を維持部隊側に向けないながらもちらりと横目で代表二人のやりとりを見守るソーマの姿があった。

維持部隊側のメンツも初対面の頃の疑り深い目とは異なり、まだ若く、でも感心するほど真っ直ぐだったGEの若者達をすっかりと認め、信頼した彼らの見る目は優しい。

 

行きは輸送トラックで片道三時間かけての鈍行旅行だったが帰りはマツナガが気を利かせ、要人輸送用の軍の新型ヘリを手配してくれた。

「このヘリには本当の『功労者』『要人』が乗るべきだ。このヘリも君達を乗せられて本望だろう」

と言ってくれたマツナガの言葉、気遣いが嬉しかった。

(「揺れも少ないし、これならエノハ君も酔うことは無いしな」と余計なひと言を付け加えたが)

 

「・・マツナガさん」

「君の言いたいことは解っている。ここからは我々の仕事だ。GEの諸君はこれからもあの化け物達から皆を守る盾になってくれ。・・君達にしか出来ないことだ」

「・・・」

「人間(こちら)側の事は任せてくれ」

「はい。よろしくお願いします!」

エノハは深々と頭を下げる。

 

「・・また君達と一緒に仕事が出来ることを楽しみにしている。また何か困った事があったら何でも言ってくれ。出来る限り力になろう。では元気で・・戦友諸君!」

 

マツナガの言葉とともに維持部隊側が一斉に敬礼。一糸乱れの無い彼らとは対照的に柔らかく、少し慣れない動作で少し遅れ、エノハを始めとするブレンダン、カノン、そしてソーマも敬礼をした。

 

「・・」

「・・ふふふ」

「・・ふっ」

「・・ふん」

 

 

舞いあがる風、爆音と共にヘリは青空へ舞いあがる。全開のヘリのドアからエノハ、ブレンダンは控えめに手を振る。

ソーマは顔を向けるだけ。それをちらりと見ながら「まぁ・・それでも大した進歩か」とエノハは苦笑いしながら再び視線を自分達を眼下で見送る軍人たちに戻す。

カノンは身を乗り出して笑顔でぶんぶんと両手を振り、

 

「あーりーがーとーごーざーいーまーしーたぁ~。みーなーさーん!!お元気で~~~~~」

 

ヘリはある一定の高度に達し、上昇から水平飛行に移行。一気に遠ざかって行きながらもまだカノンが手を振っている事がマツナガ達には確認出来た。

 

「・・・いい子達だったな」

マツナガはそう呟いた。

「・・そうですね。本当に。そしてとても強い若者達でした」

マツナガの隣にいる副官ヨコヤも頷く。

その二人の雑談に堰を切ったように名残惜しそうに空を眺めていた部隊員達がおおげさに溜息をつき、思い思いに話し始める。

 

「・・・あ~あ。カノンちゃん本当にいいコだったな~」

「また男やもめの部隊に逆戻りかよぉ・・」

「ドジでちょっと天然だったけど・・一生懸命さを見習いたいと思ったな。・・おんなじ衛生兵として」

 

―・・。俺も恩をいつか返さないとな。

カノンを襲った信者を殴り飛ばした青年兵が彼女が手当てしてくれた手の甲に手を当てる。あの時は目を見てちゃんとお礼も言えなかった。おまけに兵士として使い物にならなくなった。

自分を取り戻し、最後まで自分達を守ってくれたあの少女とは対照的だ。・・情けない話だと自虐的に笑う。

―あの子の行為に報いる為に俺はここでまた・・頑張ろう。

 

青年兵はまたヘリの消えた蒼い空を見る。

 

 

 

おまけ 

 

装置破壊に向かったマツナガの部下四人の隊員達のお話

 

 

A「何度も言うけど・・ホントいい子だったよなカノンちゃん・・」

 

B「うんうん・・何回でも言っていいです。あの子はイイ子!間違いない!!」

 

C「優しいし、可愛いし、・・意外とスタイルいいし」

 

D「だよなぁ。色んな意味で大きな子だった・・」

 

A「・・。そう言えば・・そんな彼女を背負った奴が確かいたな・・・?密着度マックスで・・」

 

B「・・・」

 

C「・・・」

 

D「(びくっ!)」

 

A「消すか」

 

B「・・。手伝いますよ」

 

C「・・万死に値する」

 

D「・・・(ヤバイ・・消される)」

 

A「はぁ・・」

 

B「・・・」

 

C「・・・」

 

D「・・・」

 

A「可愛かったよなぁ・・」

 

B「・・ええ」

 

C「・・・」

 

D「・・・」

 

 

―結婚したい。

 

―結婚したい。

 

―結婚したい。

 

―結婚したい。

 

 

「・・・結婚したい」

 

 

「・・・。・・・!?」

「・・・。・・・!?」

「・・・。・・・!?」

「・・・。・・・!?」

 

 

 

「「「「マツナガ隊長!!!!????」」」」

 

 

マツナガ(以下「マ」)「あ?何だお前ら。いきなりハモって。気持ち悪い」

 

「いや!?いや、いや、いやおかしいでしょ!???」

マ「なにもおかしくないが」

「そうですね・・ってわけにはいかんでしょ!!!???だって・・だっておかしいですもん!!」

マ「・・・?」

「いやそんな『解らない』『何言ってんだこいつら』みたいな顔されても!」

 

「隊長奥さんいますよね!?おまけに可愛い娘さんもまだ小さな息子さんもいるのになんですか今の発言!!!??」

 

マ「ん・・?それが何だってんだ?惚れた女の一人や二人、囲めない、養えないでどうすんだ」

 

「へ、ヘンな所男らしい・・・!」

「畜生・・部隊長クラスになると給金がケタ違いだからな・・羨ましい・・」

「納得してんじゃねぇ馬鹿!!!へ、へへん。でも残念でしたね!極東は重婚不可ですから!」

マ「青いな。何のために『養子縁組』があると思っているんだ。妾、表向きは正妻に出来ない愛人を養子として迎え入れ家族にし、同時に自分の遺産の相続権を与える為にある法律だぞ」

「勝手に法を拡大解釈しないでください!そして真っ当にその制度を利用している方々に謝ってください!」

 

 

短編集 2

 

―甘い男だ。

 

スキンヘッドの男はそう思った。

男は自分の右掌を見る。その手に親指は繋がっていた。抜糸の後は残るものの、感覚は正常。動かす分にも支障ない。

 

マツナガは男の指を切りとった後、患部を冷却し、腐敗の進行を最低限にする処置を施していた。

かといって以前の機能を取り戻せるのかは微妙なほどの時間が経過していたが術式後、経過は存外快調である。

 

「被告人・・話を聞いているのかね?」

 

その声に男はちらりと目線だけを上げる。

そこには巨大なフェンリルの紋章が絶対正義の名のもとに鎮座しているように佇んでいた。その下には裁判官、陪審員が軒を連ね、男を見下ろしている。

「・・失礼。少し考え事をしていた。しかしちゃんと話は聞いていますよ?裁判官どの」

己の立場を解っているのかと威圧的な壇上の裁判官達の視線を受け流し、男は余裕の表情で見上げる。

 

思ったよりも自分達の風当たりは厳しい。教団側の人間のほとんどは自分達の弁護人を用意する当然の権利も却下された。

要するにこの裁判は出来レース。

 

四面楚歌だ。

 

それでも。

男は自分の癖である親指の爪を噛む事をしなかった。親指の爪先は綺麗に丸く整えられている。

 

―あの時に比べれば・・何とも気楽な状況だ。そう思わないか?マツナガ「少佐」?

男はマツナガがあの事件後、一階級昇進した事を知っていた。

 

「起訴内容は大筋認める・・と、言いたい所ですが・・正直突っ込み所が多すぎて笑ってしまうよ。フェンリルの悪い癖だ・・何事もお役所仕事。一方通行の流れ作業では真実を見逃してしまうよ?」

 

男は不敵に笑って淡々と自分の心象を最悪な所から始めることを楽しんでいた。

 

 

短編集 3

 

つかの間の快適な空の旅をGE選抜部隊+エリナの一行は楽しんだ後、極東支部に帰ってきた。

カノンは気付いていた。

ヘリに乗っている時間、到着時間が近付くにつれてちょこんと大人しく座った少女―エリナの顔色が曇っていくのを。

日常に戻る事を。

いや、そもそもその前に多大な迷惑をかけてしまった両親や関係者にまずどう顔を合わせればいいのかをこれ以上なく不安に思っていることは丸解りであった。

そんな不安げで俯き加減な少女を遠目で優しい視線で見ているソーマに

―何か声をかけてあげたらどうですか。ソーマさん?

と、カノンは少し困った目で微笑みながらソーマに尋ねる。が、いつものようにフンとそっぽを向かれてしまった。

―あら・・。

残念そうにカノンは苦笑いして少女の為に新しいミルクティーを注いであげた。

まぁコレは仕方がないことだろう。結局は自分がした事に最終的には一人で向き合わなければならない時が迫っているのだ。

ソーマはするべき事をした。

ここから先はエリナがまずは一人で進まなければならない。

 

 

着陸したヘリのローターが巻き上げる風圧で銀髪をなびかせながら控えめにエリナはカノンの手を取ってちょこんと飛び降りる。

 

そして前を見る。そこには・・家出をしている間、何度も顔が思い浮かんだ父と母の姿があった。が・・、やはりエリックの姿は無い。

やはり解っていても気分が沈む。

 

心配そうにヘリを眺めていたエリナの両親は次々と出てきたGE部隊の隊員達に遅れ、とぼとぼエリナが最後に出てきた姿を見、天を見上げて息を吐いていた。

その姿はもじもじと俯いているエリナには見えなかった。

 

「・・エリナ!!!」

「!」

 

身なりの整った紳士然とした父がヘリの回転するローター音に負けない様に大声を張り上げると反射的にエリナの顔は前を向いた。

「エリナ!!」

また叫ぶ。迎え入れるように手を開き、紳士は一歩前へ出た。

同時にエリナの背中を押した者がいた。そっぽを向いたままのソーマの大きな手だった。それをきっかけにぐるりとエリナは見回す。

カノン、ブレンダン、そしてエノハもこくんと頷いた。

 

―君の帰る場所は―あそこだ。

 

「・・・パパ!!ママ!!」

 

少女は駈け出した。

11歳にもなると精神的に早熟な女の子は「両親に向かって飛び込んでいく」事自体が殆ど無くなる。とりわけプライドの高いエリナはその兆候が強い。

本来は結構甘えん坊な性格のはずだが、貴族としてのプライド、一人前のレディとしてみっともないという自制心が彼女の場合勝る。

 

しかし・・そんなものは今この瞬間吹っ飛んでしまっていた。

 

両親のもとへ全速力で飛び込んでいく。背中の温かい視線に背中を押されて―

 

 

ゴン!

 

「あた~~~~~!!!?」

 

鈍い音と意外すぎる声がヘリのローター音を引き裂く。

 

直後両手で頭のてっぺんを抑えながら泣き喚く少女の姿があった。

同時に紳士も泣き喚いていた。振り下ろした拳をわなわな震わせて。

 

「このバカ娘が!!一体どこで何をやっていた!!!皆さんにこんな迷惑をかけて!!」

 

「いった~い!!!何すんのよ!パパ!!!馬鹿パパ!!バカ親父!!!」

 

―せめてグーじゃ無く平手にしなさいよ!華麗じゃない!美しくない!カッコ悪い!

と、内心的外れなクレームを少女はつける。

 

「黙りなさい!!このバカ娘が!!この!このっ!」

一発目よりは遥かに弱いが尚も紳士は「馬鹿娘」を小突く。痛みよりもこの絵面の悪さ、カッコ悪さが何よりも少女は我慢ならない。

「うぅ~っ!ありえない!さいってい!やっぱりこんな家、家出してやるぅ~!!!」

もう勘弁してくれと彼女達の背後の四人の顔がそう言っていた。

 

 

 

「・・・っ!!」

 

 

「・・・!!」

 

一通りいがみ合ったその次の瞬間であった。紳士はがっしりとまだ小さな娘をしっかりと抱きしめる。それまで傍らで父娘のやりとりを見守っていた母親も包み込むように続いた。

 

「この・・馬鹿娘っ・・!どれだけ心配したかっ・・・!!!エリックに続いて・・・お前まで居なくなってしまったら私は・・私達は生きていけないっ・・!!」

 

立場?名声?誇り?名誉?金?

そんなものでは賄いきれないのだ。彼らにとってこの手の中にある存在は。

 

「・・・っ!!ご、ごべ・・・」

 

エリナは一気に体中の水分が顔からあふれだすように上手く言葉を紡げなくなる。

 

美しく無い。華麗でも無い。

それでも・・遥かにずっとずっと大事な、素直な感情だ。

伝えなければならない言葉だ。

 

「ふ・・ゔえぇぇええぇええぇえん!!!ごべんなさ~い!!!パパ~ママぁ~・・・」

 

 

 

 

 

 

短編集 4

 

遥か上空に再び舞い上がったヘリをフォーゲルヴァイデ一家は見上げながら見送る。

両親の間に挟まれながらヘリを見送るエリナの目は澄んでいた。

「・・・」

 

五分前・・

「あ、・・・ありがと」

両親がGE達に頭を下げる中、母親に「さ、エリナもお礼を皆さんに改めて言いなさい」と促され、ようやく言えた第一声はエリナ父のお気に召さなかったようだ。

ゴツン

またエリナは小突かれる。

「いだい・・。うぅ・・・。・・・あ、ありがとうござました」と帽子を抑え、頭を抱えながらようやく言い直す。

くそ。その光景を見てGE隊員達がほほえましく笑っているのが腹が立つ。

 

「では・・我々はこれで。・・失礼します!」

部隊長を務めるお兄さんがしっかりとした口調と共に敬礼する。

ほか三名の部下も・・・フードを被った例の男の人を除いてしっかりと敬礼をした。

回転するローターの風圧を体に浴びながらもそれを物ともせず確固たる足取りで乗り込もうとする。

 

先頭にフードをかぶった男の人―ソーマが背を向けて手を上げていた。どうやら彼なりのエリナに対する別れの挨拶らしい

ちゃんと最後の挨拶ぐらいしなさいよと内心毒づくもののエリナは微笑む。

がっしりとした体格のお兄さん―ブレンダンはエリナ、そして彼女の両親に最後にもう一度しっかりと頭を下げ、ヘリに乗り込む。

お姉さん―カノンが満面の笑みでエリナを覗き込むようにして微笑み、ぺこりと深々とお辞儀した後、ヘリに乗り込む。乗り込んだ後もエリナに向かって手を振っていた。

「お菓子おいしかったよ」と最後まで言えなかったなと少しエリナは後悔した。

最後に部隊長を務めるお兄さん―エノハは少し横目で軽くもう一度敬礼、部下達が待つヘリ内に向かって歩き出し、エリナ達に背を向けた。

まるでまだこれから闘いに向かう様にエリナには見えた。

 

その彼らの姿は純粋に少女に眩しく、カッコよく映った。

 

ゴッドイーター。

ただアラガミを倒すだけの野蛮な人達ではない。

まぁちょっと・・いや大分気に入らない人はなかにはいたけど・・強くて、頼りがいがあって・・・とても優しい人たち。

 

大好きなエリック―強くて華麗でかっこよくて優しかったお兄ちゃんがこの仕事を誇りにしていたのも頷ける。

今エリナの元から去っていく彼らの後ろ姿と並んで兄は戦っていたのだ。

ただ戦うだけじゃない。色んな所へ行って、色んな人達と出会って、話して、理解して・・その人達を守る為に戦ったのだ。

 

―・・・あ。

 

エリナから背を向けた彼らの立っている場所に共に立つ兄の後ろ姿が見えた気がした。

 

追いかけたくなった。

手を延ばしたくなった。

幼い頃のように必死で追いかけた兄の背中を。

 

でも・・・今は届かない。

兄の後ろ姿が霞み、消えていく。

遥かに。遥かに遠い背中だ。

 

でも。

いつか。

いつか私も。

彼らの隣で。

お兄ちゃんが立っていたあの場所で。

 

「・・・パパ」

「ん・・?」

 

 

「私・・ゴッドイーターになるから。もう・・・決めたから」

 

 

 

 

 

 

 

 




読了お疲れさまでした。

ひ~~~・・長かった!!書きたい事をちゃんと書き切れたのかどうかすらも微妙だがとにかく終わった!
良かった!

お付き合いありがとうございました!

次章プロローグ

教団施設跡近隣の海岸―

海岸線を歩く一匹のオウガが突如波しぶきを上げる海に目を向ける。

―!!!?
すると急に海が割れ、巨体がオウガの体をすっぽりと影にする。
オウガは無駄と知りつつも威嚇する。
影の正体は・・

炎帝。ハンニバル。教団施設を急襲した物と同一個体である。

小型アラガミがどうこう出来る相手ではない。
ゆったりとハンニバルはオウガに迫る。ひたひたと。

―しかし

ふらふらとぶれる体の軸。おぼつかない足元。目の前にいるオウガなど目に入らない様にあさっての方向を見た視線。
その眼には眼球は存在しておらず「ひっくり返って」おり、既に白目をむいていた。

ずしゃあ・・

オウガの真横。波打ち際で暴君の炎帝は体を横たえ、動かなくなった。次から次に打ち寄せる波によって打ち上げられたクジラのように巨体は心許なく揺れた。最早生気は無い。

オウガは去っていく。目の前にあらわれた思いがけないご馳走を放棄して。

ハイエナは王の残した残飯を漁るのみ。
身の程を弁え無かった者には王の制裁が加えられる。
この目の前の暴君を仕留めた「者」の制裁を避けるため、いち早くここを離れるのが正しい判断だ。

そしてその判断は・・正しかった。

足音がハンニバルの亡骸に迫っていた。

ずるずる
ずりずり



「・・・」
ヘリに乗ったエノハは一人、眼下の雲の海を眺めていた。一言も発しない。
彼の「中」にいるレンもまた静かだった。
いつもは結構減らず口を叩くレンが黙っているのは当然理由がある。
今のエノハの気持ちを彼の「中」にいる故に誰よりも解るからだ。

レンは全てを知っている。

今エノハが浮かべている沈痛とも言える儚い表情の意味も、
そして今エノハの手にあるこの黒い物体の意味を誰よりも、
そしてまた、それが意味する事も。

全て。

―・・。あの廃寺周辺は元々「彼」の故郷の近くでしたからね。ある種の帰巣本能が働いたのでしょう。
・・・そして何よりもあの場所には行く意味があった。何せ―

「美味しい」獲物がいたんですから。


エノハの手にある物―
それはまるで「暁」の時間―夜の中で最も暗い時間帯の空の色を映しとったような漆黒の翼だった。


あの作戦日の夜、トレーラーを迎えに行ったエノハと「すれ違った」黒い影が残したもの。


気配を感じて振り返った時、エノハの頭上で舞う様に落ちてきたそれを触れた瞬間に全てを悟った。

感応現象。

流れ込んでくる映像。
伝わってくるその羽の持ち主の飢餓感、高揚感、
そして・・人間性を必死で保とうとしつつも成すすべなく侵食されていく葛藤が一気に伝わってきた。

それが意味する物を全て悟り、エノハはその時、思わず膝をついた。

全て解った。理解した。
何故―レンが自分の「中」に入ってきたのかを。



再び海岸線。

足跡があった。

明らかにヒトらしき形をした足跡が点々と続いている。
しかし、その足跡が突然途切れたかと思うと・・・


かつて存在した恐竜すらも遥かに凌駕するであろう巨大な鋭い三又の足跡が小さなヒトの足跡の先に続いていく。
その進行方向は・・・明らかに極東支部方面であった。


(・・・。貴方はどういう選択をするんですか・・・?エノハさん)














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