そもそもこの話は原作のゲーム「GE」(バーストではなく)を初めてやった際、ミッション「蒼穹の月」クリア後のイベントでマータ四体に囲まれ、イベント終了後には何事もなくアナグラに戻れた時は
「・・お前らよく帰ってこれたな」
と思ったきっかけで出来た話です。GE初期版のゲームシステムからして四体の相手撒くのってほぼ不可能でしたからね。相当のスーパープレイをしないと・・。やるなぁ。俺が操作してない主人公!!
以上・・どうでもいい小話でした。
戦場のテラスは佳境に入る。
エノハ、ソーマの二人は目の前の三体のマータとこれから文字通り「乱戦」を行う。
言い換えるならば「苦肉の策の乱戦」を「演じる」
この目の前のアラガミ―三体のマータ。
コイツらには知性がある。感情がある。本能がある。
圧倒的な自分達の力への過信や行き過ぎを自制するものがある。
だからこちらの今の状況は瀕死、絶対絶命、完全不利の状態というイメージを奴らに植え付けなければならない。
「こちらは苦肉の策で籠城戦を挑んだ、スタングレネードも使い切った、不意打ちをしかけたものの致命的なダメージは与えるに至らなかった、これから絶え間ない攻撃にほぼ一方的にさらされる乱戦状態にならざるをえなくなった」―そうなれば自分たちの勝利は揺らがないとアラガミ達に確信させなければならない。
最後の切り札―ビル倒壊が発生するまでこのアラガミ達がここに留まることに迷いを与えないようにする。見せかけの状況を全身で演じるしかない。
実際奴らの絶対有利な状況と正直何ら変わりは無いがそれでも勝つ可能性・・いや、全員が逃げ切れる可能性はゼロではない。
ただ奴らにはそれがゼロであると認識させるしかない。
「勝率100%。敗北率0%」と。
ただ逃げるための「化かし合い」「茶番」。
失敗すればただの愚か者。
最悪一人を見捨てれば幾人か生きのびれた可能性のある連中が全滅したのだから。
あわよくば生き延びても卑怯者か?
隊長を見殺しにして敵を一匹も殺せずに逃げ帰って来た臆病者か?
結構!
リンドウさんなら笑ってこう言ってくれる。
「お前らよくやったな!」
「見事な逃げっぷりだったぜ!」
「ビール、ビール持ってこい!こんな目出たい日に呑まずにやってられっか!」
「はっ!!」
「っ!!!」
ソーマ、エノハは同時に飛び出す。同時にコウタ、サクヤもアンプルを噛みながらカフェテラス二階後方より火力を集中させる。
カフェテリアは広い。しかしコレだけのデカブツが三体もいれば人間の生活空間など猫の額だ。ほんの少し彼らが行動を再開しただけで広い範囲に設置されたカフェの椅子、テーブル、植木等がまるでおもちゃのように飛んでいく。
その合間を糸で縫うように、そして糸の先の針=神機でチクリと刺していく。
狙いは目、両腕部、両足。まとわりつくようにつかず離れず。人間がまとわりついてきた翅虫を掃うみたいに面倒そうに反射的に出させた押しのけるような爪の攻撃をすんでの所で交わし、目を狙う。
エノハの袈裟切りと返しが立て続けに一匹のマータの頬を切り裂く。その光景を見て他の一体がエノハに狙いを定め、爪を振り下ろそうとするとそのスキをソーマが割り込み、重い一撃を足に加える。それによってバランスを崩したマータの爪攻撃がずれ、エノハが攻撃していた味方のマータを巻き込んだ。
怯んだ味方二体の状況を見て最後の一体は空転して後退、やや遠距離に位置付け、エノハとソーマを同時に氷漬けにする為にエネルギーを集中した。ソーマの囮人形に使ったあの氷結攻撃である。
「させない!」
「こっち向け!」
旧型二人が残り少ないアンプルを使い、撃ち尽くすつもりで火力を解放した。
弾幕で集中を妨げられたマータが首を振って自分をふるい立たせた後、そのマータの次の視界に映ったのは急速に迫っていた地面だった。両腕部をエノハの銃形態、ブラストの一撃で崩され、今は顎を下にして頭を差し出していた。
マータは目の前のブラストを格納し、既に剣形態に戻していたエノハを目だけで牽制するもののエノハの興味は既に自分にはないことがすぐに理解できた。エノハの隣でソーマが既に大振りの状態で構えていたからだ。赤黒いオーラで刀身が光っている。
「その顔・・目障りだ。能面野郎・・」
ソーマの渾身の一撃を脳天に与えられ、三匹目のマータの行動は一時的に阻害された。
「おっしゃあ!ナイス!!」
コウタが声を上げる。
「ソーマ!」
エノハが声を上げ、注意を促す。ソーマが振り返ると他二体が体勢を立て直しており、同時に飛びかかって来た。
「うおっ」
「っ!!」
二人は逆方向に飛び、直撃は避けたものの、マータの足元から放たれる冷気が地面を伝い、避けた二人を襲う。その冷気はまともに食らえば凍傷を一瞬で引き起こし、細胞の壊死、最悪の場合凍った部分は即砕け散る。
「寒・・」
「んぐっ!!・・ぐうぅうう・・」
エノハは剣を杖に上体を立て直し、ソーマは吹き飛ばされた勢いを利用して床を転げまわりながら体にまとわりついた冷気を掃おうとした。
しかし二人の息が凍る。外気温は異常気象で現在摂氏三十度程あるがそれをものともせず、手練の二人を低体温症に陥らせ、機動力を鈍化させていた。マータ二匹は既にそれぞれの獲物の方に軸合わせをして、再び跳躍の気配を見せていた。
―や、ばい・・。
―足が動かん・・。
「ソーマ!エノハ君!」
二階テラスよりサクヤが叫んだ。反射的にトリガーを引くが反応がない。
―アンプルが・・もう無い!予備は?確か三つ!私が一つ、コウタ君が一つ使った・・なら!
「コウタ君!!」
「はいっ!?」
「投げて!アンプル!早く!」
コウタは自分の強く握りしめていた右手を開く。そこにはアンプルがあった。精神的に消耗の激しいサクヤに変わり、三つのうち二つをコウタが渡されている状況だった。
しかし彼の一つの銃では片方のマータにしか攻撃できず、どちらかを見捨てなければならない。その一瞬の迷いを絶ち切ったのがサクヤの声だった。
この戦いスタングレネードに次いで二度目のアイテムの遠投―今度は抜群のコントロールとは・・言い難い!
「ああぁ・・」
か細い声がコウタの喉から洩れた。
しかし、サクヤは諦めていなかった。走り出す。ふらふらと空中を彷徨うアンプルとは対称的に確固たる信念で足を踏みしめ、跳躍。反動で脱げた靴を捨て、裸足で跳んだ。
アンプルを手では受け取らず、空中で直接口で銜え、同時に噛み砕き、流し込む。流れ込む。体を伝って神機へ。撃てる!狙いは二つ!!
「貫け!」
二発ほぼ同時、しかし全く違う方向へ狙撃をとばした。
「えっ!?」
コウタが驚きの声を上げる。その対象は・・
一発はエノハ。一発はソーマ。
「わ!」
「っ!」
二人の体が着弾と同時に痙攣を起こす。
既にマータ二体は跳躍している。今度は冷気を纏わず、ただ潰す。即死させるためだけの跳躍。
「エノハ!ソーマぁ!」
コウタの叫びと同時に煙が上がり、破壊音と地響きとともに地面がめり込んだ。
天井のガラスがその地響きで砕け、はらはらとマータ二体に降り注ぐ光景が何かの「終わり」を予期させる不吉な光景だった。
その光景を着地したサクヤが見つめ、コウタは崩れ落ちそうになる腰をこらえるのに必死だった。もう・・ダメだ。そう思った。
「・・・。・・あれしかなかったね」
「ふん・・まぁ・・な」
「・・!ふふ・・お礼はまた後で」
かちゃりと自分の肩に愛用の神機をかけ、サクヤは微笑んだ。
また破壊音が同時に二つ響く。
地面を踏みしめている二体のマータのこめかみに一方は強烈な斬撃、一方は派手な爆発が起こり、マータが横向きに倒れ、自らの踏みつけ攻撃で作った穴にそれぞれ仲良く顔をうずめた。
隣に剣とブラストを構えた囮二人の姿が見えた。かわせていたのだ。すんでのところで。
威力最小の火炎弾プラス回復弾。サクヤは二発同時でなく実は四発同時に撃っていた。火炎弾で体温を上げ、二人の硬直を解いて行動を可能にし、ダメ―ジ分を回復弾で治療。衛生狙撃兵の面目躍如である。おかげでサクヤはもうスッカラカンだが。
―生きてる!!
コウタは泣きそうだった。
そして今、ほんの一瞬とはいえ、マータ三体の目がエノハ、コウタ、サクヤから離れた。
受け渡し千載一遇のチャンスである。
「サクヤさん!コウタ!スタート!」
「了解!頂戴!」
「パス!」
エノハのブラストが立て続けに三回ぶれた。相当の負荷だろう。帰ったら相当リッカに怒られるなとエノハは薄く笑った。
サクヤは背を向け、既に目的地に走りながらそれを全て背中で受け取った。機動力がケタ違いに上がる。
「頼みます!」
「任せて!ヒバリちゃん!案内よろしく!」
『はい!しばらく道なりで次の通路を左に!』
「コウタ!!」
「おう!・・・よぉ!?」
コウタが意気揚々と声を上げた瞬間に目に入った物は・・先程ソーマの渾身の一撃で頭をたたき割られたマータが怒りの形相で耳障りなほどの音を立てて凝縮した氷の針をコウタめがけて放とうとしていた。それにいち早く気が付いていたのはソーマだった。既に跳躍して剣を振りかぶっていた。
しかし、ほんのタッチの差で氷針は射出される。怒りの奇声を上げて何本もの氷柱が次々とほぼ同じ軌道にしかしマータの動きと共に軌道を少しずつ変えて八発放たれた。
氷の女王のとっておきである。
斬撃を加えて妨害しようとしたソーマは即目的を切り替えた。一発目、二発目、三発目、自らの神機の刀身を使って軌道をそらす。
逸れた氷針はコウタを的確にとらえた軌道から僅かにずれて、しかし構わず彼を襲った。
「わ、わ、わ、わ、わわわ!!!!」
コウタがビルの方向に走りながら軌道がずらされた氷針を避けると言うより運を手に任せ走っていた。既に放たれていたエノハの受け渡し弾三発を一発受け取るごとに彼の足は速くなり、その度に氷針は彼を捉えきれずカフェテラスのドーム状のガラスの壁を突き破り、外に放たれていった。
しかし五発目の軌道を逸らした所でソーマが耐えきれず吹っ飛ばされた。残りの全弾は全て的確にコウタをホーミング軌道で捉えている。
「うわああああああ」
眼前に迫った氷針の鋭い切っ先がコウタを捉える―直前だった。
「がぁっ!!!」
今度はエノハが飛び出した。シールドを開き、コウタを狙っていた氷針をまともに体で受け止めるたびに骨がきしみ、歯を食いしばると奥歯が砕けた。
―エノハ!!・・くっそ!!
自分をかばうエノハを横目で見ながらコウタは今自分ができる最大の貢献はいち早く爆破ポイントに向かうことだと言い聞かせ、快足を飛ばす。
ソーマは五発耐えたがエノハの限界は二発目であった。体格、筋力ともにソーマに劣るエノハ、尚且つシールドの「面」で受けた以上、衝撃はダイレクトに体を貫通しエノハを軽々と吹き飛ばす。
残された三発目、つまり最終弾はコウタを未だ見失わず捉えていた。
これがコウタに命中した瞬間、すべてが終わる。
エノハは諦めていなかった。吹き飛ばされながらエノハは盾を銃に変え構える。
―ちょい待ち!
最後の氷針を撃ち落とすしかない。が、アラガミ弾はすでに使い切り、消費の大きいブラストを撃つにはオラクルが足りない。
―・・・!
エノハは咄嗟に氷針の逆方向へ砲身を向ける。今確かにオラクルの弾は撃てない。だが、通常砲身の「空撃ち」だけはできる。オラクルの籠もらない弾丸などアラガミに何の効果もなさない。ただ無意味で強烈な反動と「銃身の負担が大きいから絶対やってくれるな」と口を酸っぱくして言っていたリッカがブチ切れるだけだ。
気の重くなりそうなトリガーだがエノハは今はひくしかなかった。
無意味で強烈な反動―今は何よりもそれが欲しい。
「わぶっ!!」
強烈な反動でエノハの体は大きく氷針方向へ加速、そして反動で弾かれた砲身をそのまますぐに剣形態に変え、空中をヘッドスライディングするように体を延ばし、刀身の切っ先を氷針に向けて延ばす。
―・・くそ!やっぱりアリサ背負うんじゃなかった!この子重い!!
準セクハラ級のクレームを内心呈してエノハは尚も飛んだ。
彼の刀身が氷針に・・触れた。
「どわっ!!」
この体勢上、体重をかけて踏ん張ることができない。エノハの神機は高速で射出された氷針によってカチーンと高い音を立てて彼の手から弾きとばされ、二階テラスの床に突き刺さる。
エノハの体も空中で不規則に舞った。その中で氷針の方向を見る。
そこには走るコウタの後ろ姿。それが氷針に覆い隠された瞬間エノハは落下する。
同時に大きな爆発音の替わりに派手に氷針が砕け散る音が落下するエノハの耳に聞こえた。
エノハの体はアリサを背負ったまま背中むきに落ちていく。
「ちいっ!・・・ぐえっ・・」
いつもスカした「彼」らしくない声が背中の方向で響いた。
落下したエノハ、そしてアリサの二人をソーマが受け止めたのである。
背中から派手に落ちたソーマとそれに続いて落ちたエノハは背負ったアリサを潰さないように跳ねて着地する。
「よ!ほ。あ、悪い。ありがと・・」
「お、お前なぁ・・三発ぐらい・・耐えろよ」
「無理だって・・俺お前程力無いもん・・」
そんな言葉の応酬をした後、すぐに二人は立ちあがった。
「コウタは・・助かったのか・・?」
「・・ごめん。解らない」
「はっ。ははっ・・マジかよ」
そんな二人の前に怒り狂ったマータが仁王立ちしていた。
他二体も意識朦朧ながら上体を起こし始めている。
「キレてて良かった・・さっきのコウタへの受け渡しの事・・特に気にして無いみたい。疑ってないぞ?俺たちの切り札の事」
「・・。喜んでいいのか悲しんでいいのか解らねぇ・・今お前はただの人間だし、コウタがしくじってれば・・全員揃ってお陀仏だぞ。生きててもビルが倒壊した時俺達が逃げられる状態じゃなかったら・・それも一緒だ」
「ネガティブだねぇソーマは・・」
「さっさと神機とって来い・・少しは頼りにしてるんだ・・」
「・・はは」
ソーマが神機を差し出した。それに乗り、エノハは飛ぶ。
同時に怒り狂ったマータ一体が再び突進する。
一方アナグラ・・
「コウタさん!コウタさん!!ヒバリです!応答してください」
「・・ダメ?」
リッカのその問いかけにふるふるとヒバリは首を振った。
『応答・・無いの?』
既に爆破ポイントに着いていたサクヤも心配そうに聞いていた。元々受け渡し後の状態維持があまり上手くないサクヤは自分の中の濃縮弾が消滅する時間が近付いている。
その時間の直前にはダメ元でも放たなければならない。
「・・・」
「コウタさん・・・!ソーマさん!エノハさん!!」
ヒバリは最早祈ることしか出来なかった。
再び戦場のカフェテラス
「とったか!」
「とった!」
神機を拾い上げ、マータの突進を交わしたソーマに向き直ったマータの背後を神機で突く。
しかし切れ味の落ちは如何ともしがたくダメージは微々たるものである。
主を一瞬とはいえ失った神機の機能は再接続のため一時的に落ちる。その「一時」が今は致命的だ。うっとうしそうに背中のエノハをマータは振りほどく。エノハはその前に跳んでおり、ソーマの隣に着地した。
「・・大したなまくらだ・・」
「・・ようやく使えるのは銃くらい・・オラクル無いけど」
「はっ」
「・・そろそろサクヤさんの効果時間が切れる頃だ・・」
「・・詰みか?」
「とりあえずサクヤさんは効果が切れる直前に撃つだろうけど・・ビルは倒れない。コウタが居なきゃ」
「・・爆発音がして・・何も起こらなければ俺達の負けってワケだ」
・・マータの攻撃が突然緩くなった。
ソーマ、エノハの打つ手なしという気配を感じ取っているのである。しかし逃す気など毛頭ないだろう。他の二体が気がつくのを待って手堅くひねりつぶしに来るはずだ。恐らくそれが最も楽で、一番楽しい方法だと知っている・・そんな気がした。
そして・・そうしているとさっきまでここに居たサクヤさん、そしてコウタがおそらく逃げずに助けに来ると解っているのだ。
こいつらは知っている。リンドウさんと俺たちとの廃教会でのやり取りを見ているからだ。
人間がそういうものだということを。
アナグラ
無線よりサクヤの声が響く。少し落ち着いたいつもの彼女らしい声だった。
『・・時間ね』
「サクヤさん・・」
『ありがとうヒバリちゃんに、リッカちゃん。貴方達の協力でここまで来れたわ。榊博士にもお礼を言っておいて?後は・・やれるだけやってみる・・』
「・・・!こちらの体勢が整い次第すぐにでも救助隊を派遣しますから!!どうか!それまで!」
『ありがとう。頼りにしているわ。ヒバリちゃん・・何時も有難う』
「サクヤさん・・」
『・・リッカさん・・。・・・』
「・・はい?」
『・・・・・・』
「え・・?」
爆破ポイント1
サクヤは大きく息を吸った。そして少し女性らしく弱い表情をして微かにほほ笑んだ。
「・・リンドウ・・お願い・・力を貸して」
カフェテラス
「・・先に言っておくぞ。まぁ・・悪くなかった。新入り。いや・・エノハ」
「・・素直になったね。ソーマ。どうするの?生き残れたら」
「そん時はそん時で考える・・」
それと同時に一発の銃声と同時の爆発音が響き・・そして静かになった。
「・・・・」
「・・・・」
―・・・。
―・・・。
・・・ドン!!
「・・・!!」
「・・・!!」
爆破第一ポイント
「・・・!!コウタ君!!!!」
爆破
―第二ポイント
「ははは・・俺こう見えて状態維持力サクヤさんよりいーんだよねぇー・・」
使えなくなった無線機を床に落とし、コウタは自慢げに言い放った。
「あ、もうダメ・・動け・・ね・・」
バタリとコウタはその場に仰向けに倒れた。
戦場のカフェテラス
轟音が響き始める。凶暴かつ凶悪なマータもその揺れに動揺し始める。
しかし同時に弾かれたように止まっていた時が動き出していた。
さっきまで半死人だと思っていた目の前の人間達が満身創痍の状態でもまるで蘇ったかのようにマータには見えた。凶暴なマータが呆気にとられ、しばらく動けないほどだ。しかしその人間達は反撃など考えていなかった。自分に背を向けていた。
アラガミで四足歩行のマータの足だ。追いつくなどたやすい。
何故逃げるのだ?意味など無いのに何故逃げる?
人間!?
その時マータの顔に黒い影が差した。思わずその巨体がすくむ。
彼らはアラガミの生態系地位の中でもトップクラスの存在だ。
見下ろす事は多くても見下ろされる事など慣れていない。つまり恐怖に馴れていない。
恐怖を知らぬものは遅れる。
逃げる事から。
仲間の二匹の事などどうでもいい。自分自身という個体が生きのこればいい。
マータはようやく駆けだした。恐怖を知らぬ故に一歩遅れて。
エノハ、ソーマの二人は背を向けながらも振り返る。巨獣が意地を捨て、初めて完全に逃避に回った姿が近付いてくる。
―くっそ!アイツ気付いた!
―・・俺が止める。お前は出ろ!
―無理だ!今のアイツは多分俺達なんか無視で飛び出す!
―かといってこのまま出しちまったら一緒じゃねぇか!
―・・・!くっそ!!・・・!?
突如いきなりエノハは息苦しさを覚えた。胸が締め付けられるように痛い。
原因は明らかだった。アリサがエノハの胸の前で交差していた腕を強く握りしめたからだ。
―・・・!?
声が聞こえた。
―エノハさん・・。
―・・?アリサ・・?
―私の神機に残ってます。
―・・何が!?
―リンドウさんとの任務で残った・・
―え?・・・。
「ソーマ!俺に掴まれ!!」
「ああ!?」
「いいから!」
「・・・?」
訝しげにソーマはエノハの腕を掴んだ。それを確認するとエノハはあろうことか背を向けていたマータに向き直った。
「バ、バカか!」
「ソーマ離すなよ!!アリサぁ!!」
―・・ミスしな・・いえ、受け取って下さい!!
胸の前のアリサの神機の銃口がエノハに向けられ、一気にエノハの中に「三つ」流れ込む。
「・・成程・・凄いなこれ・・」
新型は極東にエノハ一人しかいなかった。
つまり彼を最大時の解放状態に出来る人間は今までアナグラには存在しなかった。
・・同じ新型のアリサが来るまでは。
妙な万能感。落ち着かない。解放して手放したくないが・・今は仕方ない。
銃口を向ける。今はさっきまであれだけ早く見えた目の前のマータの動きがスローに見えた。
「・・。逃げるだけってのはやっぱり性に合わないね。リンドウさん」
―あ?お前忘れたのか?なんだよ~お兄さん悲しいな~もう~。
「・・?」
―「運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ。」三つ目にそう教えたはずだぜ?
「・・。四つ目でしょ?」
―こまけぇこと気にすんな!!行け!・・・新入り!
強烈な反動と爆風によってエノハ、ソーマ、アリサの三人はビルの倒壊地点から大きく弾き飛ばされる。
放たれた最大濃縮弾―アリサの神機に残っていたシユウのアラガミバレット―通称・爆炎玉がマータの胸部を熔かしたのち、大爆発を引き起こした。
マータは一瞬意識が飛んだ後、自分の場所に気付く。いつの間にか自分が危機を感じて逃げ出したスタートの場所に今また戻されているという事を。
眼前には既に数万トンの鉄骨が散弾の様に雨あられと降り注ごうとしていた。
希望をすがり、さっき見捨てた他二体を振り返る。・・無駄だった。まるで鏡を見ているみたいに自分と同じ顔をしていたからだ。
呆けたまま三体のマータは身動き一つ出来ず―潰された。
「・・コウタ君」
その声にコウタは目を開ける。やや夕暮れに近付いた青空が見えた。サクヤが覗きこむようにコウタを見ている。
「・・・あれ?サクヤさん・・?俺・・生きてるの?」
「早く立って・・逃げましょう」
「・・そうだったっすね・・逃げないと・・・っすね」
「そうよ・・リンドウもいつも言っていたで・・・ぐっ・・うっ・・ううっ・・」
サクヤは崩れ落ちた。
コウタはすっと起き上がり、サクヤに無言で肩を貸そうとした時、彼女が裸足である事に気付く。彼女を背負い歩き出す。
―・・大丈夫だ。まだ俺の足は動く。
空を見上げ、自分を丈夫に生んでくれた母と今は亡き父にコウタは心から礼を言った。
「・・刀身も・・銃身も・・盾もパァ・・本当にリッカに殺されるかも」
ボロボロの神機を寂しそうに見ながらエノハはそう呟いた。
「・・。俺達旧型に比べたら金のかかる仕様だな・・不便だな?新型ってのは」
「・・。しかし最後の最後でまさか・・無傷の神機にいいトコ持って行かれるなんてね・・こんなボロボロになるまで頑張ったのに・・不憫でないよ」
「・・ふん」
ボロボロの神機を抱えたボロボロの二人と背中に背負った少女が決して離さないキズ一つない神機。
一見滑稽な光景を極東支部の明かりと、彼らを迎えに来た整備班、医療班の車両のヘッドライトが照らし出していた。
ここまでお付き合いありがとうございました。
そして読了してくれた方本当にありがとうございます。
暇があればもっとコンパクトにしたいです。
次からはとりあえず日常パートに入ります。シリアスさはちょっと薄れますが伏線をちょっとは入れていきたいです。
よろしければまたお付き合いください。
それにしてもGEのバトルは原作通りだと制限が多いなぁ・・神機じゃないと基本倒せないっていう大前提があるし・・。
では本当にここまでお付き合いありがとうございました!!
おまけ
カフェテラス・・跡
ビルが消え、ここからは見ることのできなかった空が満点の星空を映しだしていた。
美しく静かな夜だった。
だが次の瞬間耳を覆いたくなるようなヒステリックな奇声、怒声が辺りに響き渡る。
大量のビルの残骸を突き破り、傷を負ってさらに凶暴化したマータが残骸から顔だけを出す。
顔も覚えた。匂いも覚えた。
嗜虐思考の上に憎しみと復讐心という厄介な性質を手に入れたマータがさらに奇声を上げる。復讐を果たすまでは目の前にいるものをすべて食らい尽す程の激情で彼女は闇夜に奇声を上げ続けた。
その時だった。
マータは口を塞がれた。奇妙な前足に。同族ではない。小さい。全長は恐らく彼女以下だ。
しかしその前足の持ち主にマータは復讐を果たすまで目の前のものをすべて食らう決心をあっさり挫かれた。
四足歩行の生物にとって頭を押さえられることは最大の屈辱だ。まして自分に遥か劣ると思っていた存在―人間に不覚をとった直後の彼女にとってその行為は我慢ならないもののはずなのだ。しかし彼女に全くその気は起きない。逆に女王はその手に縋るようにして黙っていた。
彼女の中で既に格付けは終わっていた。この手の持ち主に何もかもが自分が劣る存在であることを認識した。
すると彼女の顔に置かれた手が離れる。甘えたような媚びるような声を彼女が出した次の瞬間だった。
何かを射出するような音があたりに響いたのち、マータの悲鳴が辺りに共鳴した。
数秒後その悲鳴が止み、夜はまた静けさを取り戻す。
残されたのは能面をまるでチーズのように穴だらけにされたマータの姿だった。