GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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今回もよろしくお付き合いください。


前哨戦 上

発電所跡

廃屋―

「タツミ。無線は」

「ダメ。あいつに吹っ飛ばされた時にオシャカだな・・ヒバリちゃんの麗しい声が聞こえないのが悲しい・・うぅ~ヒバリちゃ~ん応答してくれ~」

「こんな時にも相変わらずだな。あんたは・・」

カレル・シュナイダーは長く前に垂らした金髪の中で覗く猜疑心と警戒心の強そうな鋭く、細い目を呆れたように泳がせる。タツミなりの場を和ませる気遣いだと解っていてもさすがにこの状況は割に合わない。

 

「奴」の強襲を受け、討伐対象の中型種を労もなく葬れたのは幸いだった。その乱入者が討伐対象のコンゴウ二体を一瞬で蹂躙したからだ

 

今回の任務の報酬とその為の苦労を天秤にかけると元々割に合わないかったるい任務―と、カレルはいつも通りの皮肉をこめた態度で周りに振舞っていたのだが内心、討伐を兼ねたリンドウの捜索にはそれなりに貢献しようと内心息巻いていた。

リンドウには相当の借りがある。金ではなく命を何度も救われた。金に汚い彼だからこそ、それをすっぱりと返済しないと気分がよくない。

 

守銭奴な人間は基本借りを作ることをよしとしない。例え面倒だろうとかったるかろうと借りは返す。

それがカレルの主義だ。

 

―しかしそれでも流石にコレは割に合わない。

目の前で討伐対象を瞬殺してくれたまでは良しとしよう。しかしそれから攻撃目標を俺たちに切り替えるのは頂けない。

・・遭遇した瞬間に解った。「奴」は別格だ。

俺の頭ン中の報酬と命の天秤はあっさりと後者側に傾き、タツミの撤退の指示に言われるまでもなく瞬時に従った。

しかし―だ。

 

じろりとカレルは一点を睨む。

「・・いい加減何時までもブルってんじゃあねぇ・・うっとおしいんだよ」

 

「は!?び、ビビってねーし!!」

 

目に痛い独特の色合わせをした服をまとう少年―小川シュンは強がり、ふんぞり返ってそう言うが少しその手が震えている。

 

―コイツが一瞬ブルったおかげで・・。

 

「奴」の強襲の際、目の前の圧倒的な惨劇に足の固まったシュンを確認し、その対策の考えを巡らしたタツミの反応がわずかに遅れた。

 

―おかげでタツミは吹っ飛ばされるわ、無線は壊されるわ、逃げるのは遅れるわ・・。

はぁ・・それで未だ「奴」のうろつく任務地のここで立ち往生だ。とりあえず一旦「奴」は捲いたが今度遭遇すれば間違いなく命の保証はない。誰のせーだろうなぁ~?

 

「ホンッッット割にあわねぇ・・」

 

カレルの言う「奴」の出現は彼の新しいビジネスチャンスの到来とも言えた。基本新種アラガミや珍しい種のアラガミ討伐任務は報酬が高い。同時に当然素材も希少価値が高いのでこっそり一部を闇で横流しすれば軽く一ケタは違う。

 

―それでも・・あんな「奴」を相手にするのは御免だ。利率のブラックゾーンを易々振り切って尚膨大な原本が残る様な相手だ。返済には血液、内臓、角膜全てを差し出しても追っつかない。

 

 

そんなカレルの思案の中、同時に黒い影が三人が身を隠していた廃屋の崩壊した天井から顔をのぞかせた。

ブラックゾーンを遥かに凌駕する漆黒の影だ。

 

「・・!おいでなすった・・・」

 

汗が伝うカレルの言葉と同時に廃屋が粉々に砕け散る。

 

砂塵が舞う中、三人は一斉に外に這い出た。住処をつつかれたネズミのように。

 

「全員散れ!防御姿勢で逃げろ!!戦おうと思うな!!」

タツミは他の二人に声を張り上げる。

「馬鹿か!そうしたら奴は絶対アンタを狙うだろうが!!」

タツミの神機は先程「奴」の攻撃をまともに受け、機能が一部停止している状態だ。タツミに労られ、若干回復しているにしてもすぐに万全の状態とはいかない。

タツミ本人も攻撃をまともに受けたのだから無事ではない。その手応えが「奴」にも残っているはず。この状況で散開したらまず奴が狙うのはタツミだ。

 

「いいから逃げろ!銃撃のお前じゃ奴の攻撃は防御できねぇだろが!シュンとツーマンセルで逃げろ!」

「チッ・・了解!」

選択としては妥当であった。シュンの戦闘意欲が喪失しつつあることは他の二人は解っていた。強がりや減らず口が出ていない所がいい証拠だ。

 

―メントレを寝ながらサボってるツケが出たな。これを機会に改心してくれることを祈るぜ。・・・この場を乗り切れられればな!!

 

「今だ行け!!カレル!シュン!」

「オラ!逃げるぞこのバカ!!」

カレルはむんずとシュンの肩を掴む。現実感が無いように呆けていたシュンは

「お、おう!」

ようやくそう返事をしただけで相変わらず今だ危機感、現実味がないのかヘンな足取りでタツミに背を向け、駆けていく。

 

カレル、シュンの撤退を見届けたタツミの背後で巨大な黒い影が彼を覆う。タツミは内心呻く思いだったが自虐的に笑った。

「・・あ~あ・・ヒバリちゃん最後までデートしてくれなかったな~」

極限のこの状況でその言葉が出るあたり、タツミは相当悔いが残っているのだろう。

経験なのか性格なのかこの状況でもタツミは冷静だった。流石は現時点での極東最長のキャリアを持つGEである。

しかし―ある意味その冷静さ、図太さがこの時は裏目に出た。次の瞬間の目の前の光景にタツミは目を疑った。

 

「・・・!!!ウソだろ!?」

 

黒い影が宙を舞った。タツミの真上で。しかし―目標はタツミではない。

頭上を掠めていく巨大な影を唖然とタツミは見送る。巨体が着地、巨体に似つかわしくない繊細さで振動も音もなくヒタリとだ。「目標」に気付かれぬように。

「目標」は当然、背を向けたカレル、そしてシュンだ。タツミに目もくれない。

 

この影は知っていた。逃げる者をすべて仕留めようという中で追うべき優先順位を。明らかな追撃を抑える撤退戦の覚悟を決めた相手と迷いの中敗走する相手。どちらが御しやすいかを理解している。

それに何よりも仲間を守るために立ちはだかったタツミの心理、狙いをこの影は正確に理解していた。

 

それは何故か?

 

影には「経験」があるからだ。「そうしてきた」からだ。

そして・・

「そうするようにさせてきた」からだ。

 

 

そしてタツミには他の二人に向かった矛先をこれ幸いと自分だけ逃げる選択肢は存在しない。それもこの巨体は見抜いていた。背後から遅れて迫るタツミの気配を背に感じ取りながら影は執拗にカレルたちを追った。

 

結果逃走の為の分散は全く意味を成さずに先程と変わらず危機だけが残る。

全滅の危機が。

 

再び―

 

黒い影は宙を舞った。

背を向ける二人を黒く覆い隠して。

 

その異変にカレル、シュンの二人は振り返る。灰色の空に浮かぶ真っ黒な影を前に目を見開いた。

 

―・・・・ぐっ・・!!

―う・・・あっ・・!!

 

 

ガゴン!!

 

突如巨体が空中で弾かれた。浮遊状態の巨体が真横にはじき飛ばされるほどの衝撃である。

 

「・・・!!!???」

ほか三人は信じられない光景に目を見開いた。

影が着地する。勢いを抑え、吹っ飛ばされた方向の逆方向へ体を向けながら。

 

ほぼ同時に唖然としながらタツミ、カレル、シュンの三人は影と同じ方向を向く。

そこには・・・

 

 

「・・・・・」

 

 

 

無言のまま、今だ硝煙を放つ神機の砲筒を黒い影に向けた一人の少年が立っていた。

しかしいつもの穏やかな表情ではない。

 

悲しみを含んだ痛々しい表情だった。しかし同時に憎しみ、行きどころのない痛みと怒りをその眼に携え、歯を悔しそうに、噛み砕かんばかりに食いしばっていた。

 

―・・今・・殺そうとしたな?

 

―部下を・・・。

 

―仲間を・・・!!!

 

 

 

 

 

 

リ ン ド ウ さ ん 

 

 

 

 

 

 

 

「影」と向かい合う。真正面から。望んでいなかったこんな形の再会に少年―エノハは向かい合う。

 

 

 

 

 

 

「影」は砲撃が直撃した右目付近を右手で抑えていた。その手がどけられる。

「げ・・・」

シュンが思わず声を出す。

 

「影」の顔の右半分は完全に吹き飛び、体液と妙に光る赤紫色の肉が見える。眼球は跡形も無く吹っ飛ばされていた。物凄い威力である。

が―

次の光景に「影」、そしてエノハを除く全員が絶句した。

傷口がずぶりとまるで沸騰したように膨れ上がると同時に眼球が再生、しばらくあっていなかった焦点をまるでカメレオンの左右非対称に動かすことが可能な眼のようにくるくると回転させ、最後に残された左目の焦点同様の「目標」にピタリと合わせた。

 

「・・・」

 

「目標」は言うまでもなく・・エノハだ。

 

顔の右半分は完全に再生、新たな乱入者を歓迎する準備は整った。

「影」はくりくりと首を振るい、戦闘姿勢を整えるように肩をゆする。異形の体をまるで人間の様な仕草で操る。

三叉の足を踏みしめ、長くしなる尾、強靭な上腕をついたてに姿勢をかがめ、四つん這いの姿勢を取る。

 

その姿はまさしくハンニバル種である。

幾度か交戦し、その巨躯のスピードとパワーを兼ね備えた合理性は嫌と言うほど思い知っている。しかしその人体の柔軟さと獣の実利性を融合させたかのような肢体は通常ハンニバルのシルバーホワイトの体とは全く真逆の漆黒の色で覆われていた。それだけではない。通常のハンニバルであれば左上腕部につく籠手がまるで映し鏡のように右上腕部に装着されていた。

 

しかし形状は似通っていてもまるで別種の雰囲気を纏っている。次元が違うと言うべきか。

黒き「影」―ハンニバル侵食種は籠手側の右掌を開く、その手に紫がかった漆黒の炎が形成された。同時に周囲の雑草が円形にまるで核爆発を浴びた木々のように一瞬で水分を絞り取られ蒸発していく。

温度が先日味わった通常種の業火とは比べ物にならないことがこの距離からでも解る。

エノハを単純な殴打のみで賄い切れる相手ではないと判断したのだろう。

 

それ即ちエノハの事を完全に殺す相手として判断しているということだ。

 

―俺も殺そうとするんですか・・?

 

その戸惑い、逡巡の無い攻撃態勢に悲しみや嘆きではなく、エノハにはただただ際限のない怒りがこみ上げてくる。

神機の柄を掴んだ掌が白くなるほどに。

その神機は。エノハが今握っている神機は―

 

 

 

 

 

ヒバリからの救援要請直後、即エノハが駆けこんだリッカの出張った神機整備室―

「・・・!」

エノハの「視界」にレンが立っていた。エノハの神機の前で。無言でエノハを見つめるその琥珀色の瞳はこう言っていた。

 

―今貴方が持つべきは・・「こっち」では無いでしょう?・・「あれ」です。

と。

 

「・・どけ」

「どきません」

レンは両手を開き、エノハの前に立ちはだかった。

「どいてくれ」

「ダメです」

レンは首を振る。

 

梃子でも動こうとしないレンを前に苛立たしげにエノハは目を伏せる。そして自分の神機から目を逸らし、リンドウの神機を見た。赤く鈍く光る長年使いこまれ、独特の年季の入ったレトロな神機。しかし数多くの修羅場をくぐってきた事実、そして有能な整備士―リッカによって定期的にメンテナンスを受けている為、今でも十二分に戦闘に耐え、一線級で活躍できる。

適合者の許しさえ得れば、の話だが。

現在目下「交渉中」だ。顔突き合わせて。

―お願いです・・僕を連れて行って下さい。

レンもリンドウの神機をちらりと目で見る。そして再びエノハの顔を見た。エノハの目は未だリンドウの神機を向いていた。内心レンは頷く。

 

―そうです!エノハさん・・。

 

しかし、それはフェイントだった。

 

「―つあっ!?」

 

立ちはだかったレンの胸元を右手で突き刺し、エノハは自分の愛機の柄をしっかりと掴んだ。背後からレンをすり抜けてエノハの神機は躍り出る。

「・・・!!!!エノハさん!!!」

背後でレンが咎めるような声を立てているがそれを無視し、逃げるようにしてエノハは神機整備室を後にした。レンを。神機(かれ)を置き去りにして。

 

 

「ダメです・・エノハさん!・・・」

 

 

「勝てません!!」

(勝てません!!)

 

 

現在―

今もなお必死でエノハの頭の中で彼を制止しようとするレンの声を聞き入れること無く、エノハは対峙する。

 

グ・・・ガァアアアァァアアアア!!!

 

漆黒の体に紫色がかった黒い炎のオーラを纏い、戦闘態勢を整えた「影」が灰色の虚空に吠える。

夜のように暗いのにひたすら熱い全てを蒸発させる排他的な黒い業火を迸らせながら影―リンドウはエノハを睨む。その変わり果てた姿で。

 

否。最早リンドウではない。

かつて人間として生き、愛し愛され、慕われた者の末路としては哀れ過ぎるほどの姿だ。

エノハは眼を逸らしたくなる。

しかし、いけない。同時にかつて人間だった頃、確固たる実力、的確な判断力を持ち合わせ、尚小狡く、掴みどころの無い飄々とした性格だった男のなれの果てだ。一瞬目を逸らしたその瞬間に何をされるか解らない。

暴熱風で目が乾く。肌がチリチリと焦げ、焼けるようだ。唇が渇いて割れそうになる。

しかしそれでも目は逸らさない。エノハは睨み続ける。

 

堕ち、侵された誇り高き龍―浸帝を。

 

 

 

 

 

 

 

 




読了お疲れさまでした。

元々ストーリーで対峙するアラガミのなっげー名前を簡略化する為に二文字までの漢字を使って簡略化を図ってきたのですが、通常ハンニバルで「炎帝」使っちゃったので浸食種は何にしようかと思っていました。案としては「黒帝」「黒炎帝」あたり。しかし中身はあくまでリンドウなので「浸食されている」感を出したいので「浸帝」にしました。「堕帝」だとちとカッコ悪いので。
他は簡単なんだけどな。カリギュラは「氷帝」、スパルタカスは「雷帝」、ルフスは・・あれ?何て読むんだコレ?
神速種?・・・「測定」?
・・前言撤回。

今回もお付き合いありがとうございました。
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