よくよく考えればこの小説でこれ程原作に忠実な場所で戦うの初めてかも。
完全オリジナルだったり、場所移動したり、妙な改変したり・・。
今回もよろしくお付き合いお願いします。
この少年の生い立ちにそれは由来する。
本業の傍ら農業と並行し、畜産業を営んでいるエノハ家で彼は育った。そこでは生きる為に他者を犠牲に、糧にしなければならないと言う現実を如実に突きつけ続ける場でもある。
つい数ヶ月前にお産で取り上げ、可愛がった家畜を生きる為に自らの手で殺す、止めを刺すことを彼は日常的に行ってきた。
初めて自らの手で生き物を殺した感触は今でも忘れられない。それでも・・生きる為に目をそらさず、かといって馴れて軽視もする事もなく彼は育った。
結果普段は穏やかで虫も殺さないものの、しかし一方で生きる為、糧を得るためには戸惑いを持たない覚悟を持った少年に彼はなった。
この彼の生い立ちが非常にアラガミ戦闘に置いて役に立った。
何せ目の前の存在は問答無用で殺しに来る相手だ。生きる為に殺す覚悟があった少年には彼らを殺すことにためらいは無かった。殺さなければ自分、もしくは誰かが死ぬこと―
それは今まで自分がやってきたことと大差はない。
殺さなければ食べられないのだから。生きていけないのだから。
食べることに困らない、命のやり取りからはかけ離れた一見安穏に見える家庭で育った彼にはその実―誰よりも生きる為の現実と向き合う覚悟を持っていたのだ。
普段は虫も殺さない穏やかな少年が生き残り、極東最強の戦力に上り詰めたのはそういう背景があった。
だからこそレンは理解していた。
エノハは。この人は自分に、そして彼の仲間を脅かす物を絶対に許さない。「大切なものを失わない為には奪うしかない」ということに関して絶対的な覚悟がある。
「その時」が訪れれば彼はためらわない。
自分と、そして仲間に危害が及んだ瞬間、例えそれがかつての仲間であろうとも、かつての上司であろうとも。
殺す。容赦なく。
浸帝の視界から少年は消えたように見えた。
しかし浸帝は捉えていた。
ガキャン!!
鞭の様な尾は先端だけならハンニバルの攻撃の中でトップクラスの速度を誇る。その先端と接触したエノハの放った剣閃が放つ火花が開戦の合図となる。
ズザザザっ
絶対的な体格差故に吹き飛ばされたエノハは左手をついたてに後退。
「・・・」
しかし、無言で目標―浸帝を睨むその瞳に恐怖や戸惑いの感情は無い。同時に浸帝は巨体を後退するように飛び上がる。こちらもまたエノハの睨みに気圧されての逃避行動ではない。
すぅ・・・ガァツ!!
飛び上がったと同時に黒い火球が体勢をやや崩したエノハ目がけて放たれる。その一撃は浸帝の巨体の後退のジャンプの飛行距離を延ばすほどの反動がある。
「のわっ!!」
「うわっち!」
「チッ!」
ぐわっと上がった黒い火柱と同時の爆発は充分な距離を取っていたタツミ達にも届き、目を塞がせる程である。濛々と立つ煙と何かが蒸発していく音が視界を覆い隠す。
―エノハ!?
爆心地―そこには生き物が到底存在できるとは思えない高温を放つ黒い炎が巻きあがっている。
―まさか・・一撃・・!?
しかし、その理不尽なまでの暴力を放つ黒いハンニバル―浸帝の警戒は少しも薄れていなかった。
!?
四つん這いの姿勢のまま空を見上げる。そこには一筋の光が走っていた。
強烈な殺しにかかった兜割りの鋭い剣閃をわずかに首をさげ、直前に着地した切っ先を浸帝は見送る。遅れてきた強烈な剣閃に相応しい鋭い空を切る音が浸帝の耳に届いたと同時、切っ先が触れた硬いコンクリートに鋭利な亀裂を残す。
「・・・」
尚も無言のエノハは戸惑うことなくその体勢のまま神機の捕食形態をぐわっと開き、寸前で躱した浸帝の顔めがけて黒い顎を開いた。捕食→解放状態を狙うというよりも殺すことを優先にしたその一撃を柔軟な首を目一杯ひねらせて浸帝はひょいと鋭い顎が掠めるにとどめる。
巨体の割に細かい挙動が出来る器用さを持っている。しかし浸帝の体勢は劣勢に変わりない。掠めるにとどめたとはいえ体の一部分を抉られ、持って行かれたのだ。
この場合どうなるのか?かつてこの「行為」を行っていた自分だからこそわかる。
この目の前の小さく、しかし強大な敵対者をさらに強大にする条件は整った。
解放状態―
―しかし同時にわずかな捕食→解放までの集中の時間がある事を浸帝はまた知っている。
ゴウッ!
ついたてにした籠手のついた右手を地面に向けて業火を込めた。
「!」
その所作に初めて敵対者―エノハは表情をわずかに強張らせた。彼の真下の地面があり得ない程の高温を発している。反射的にエノハは飛びのいたと同時に黒い炎の柱が地面から湧き出る。それも一発ではない。
飛びのき着地した地面もエノハを追い立てるように次々と高温に達していく。
「!とっ!・・っ!」
次々と一瞬遅れて飛び出す黒い火柱を寸前で回避しながらエノハは尚も浸帝の居た方向から目を離さなかった。
この状況に端を発して奇襲をしかけてくる―そうエノハは確信していた。
ズボッ!
同時に自らの黒炎の柱を切り裂いて浸帝の右フックが躍り出た。
「・・・」
エノハは反射的に装甲を展開、強烈な拳の一撃に盾を滑らせるようにしてするりと衝撃の芯をいなす。はたから見れば直撃しているように見えて実はダメージは最小限だ。
しかしいなされた当の本人―浸帝には当然拳を通して伝わっている。容赦ない左拳の往復便が来た。
「・・・!!」
流石に一撃目ほど芯を外すことは出来ず盾越しに強烈な衝撃を受けてエノハの体は左拳の振った方向へ十メートル以上弾き飛ばされる。
着地しぷっとエノハは口から何かを吐きだした。切れた口内の血と砕けた歯の一部を吐きだす。
そのエノハ目がけ、首をぐりんとひねって再び浸帝は黒い火球を放つ。ダメージを受け、尚且つ体勢を完全に崩しているエノハに遅ればせながら解放状態のオーラが伴ったがその火球は既に避けられる軌道に無い。
しかしエノハの目に焦りは無い。
既に銃形態の銃口を火球めがけ開いていた。解放状態になり、彼の神機の中で「それ」はすでに練り終わっていた。
元々が強力なエネルギー+エノハの神機の特性上その銃口から放たれた一撃は「本家」と比べても引けを取らない。
アラガミバレット―黒炎球。
黒い火球がエノハのブラストから放たれる。火球同士がせめぎ合う。しかしエノハはわずかに直撃よりわずかに火球を斜めからぶつけていた。
まるでビリヤードの白玉と的玉のように火球を余所に飛ばす為だ。目の前で爆砕され爆風を浴びるよりも・・
―この方が都合がいい。
思惑通り火球は互いの軌道をずらし、それぞれあさっての方向へ飛んでいく。
そしてそれは同時に次の狙いを成す為だった。一回の捕食で蓄積されるアラガミバレットは大体通常三発。つまり・・
もう二発あるのだ。
!?
黒炎の火球二つが袂を分かった瞬間、浸帝の目には鋭いドリル回転を伴った黒炎のミサイルが映った。形態を速度と貫通力にアレンジしたアラガミバレットである。
目の前で火球同士が爆砕した場合、この攻撃も巻き添えを喰らって相殺されることをエノハは嫌ったのである。その為に火球を余所にはじきとばしたのだ。
その速度と軌道―流石の機動力を持ち合わせる浸帝も躱せない。右掌を差し出した。
―何を!?
タツミ達の疑問はすぐに解消された。単純なことだ。
その切っ先を受け止めたのだ。神話の神の彫刻を映し取ったような右腕の先の右掌で。
ガァツ!
そして同時に火球を放つ。その投擲された槍の様なミサイルを目がけて。
―やばい!!
タツミ達は反射的に顔を庇い、目を逸らすと同時の―
閃光。
遅れて耳をつんざく轟音が静かな発電所跡に響き渡る。
今までにない光と強烈な爆発が浸帝の目の前で発生。その衝撃で浸帝の顔が大きく弾かれる。
しかし、普通のアラガミなら既に上半身が木端微塵になりそうなその衝撃を受けても浸帝の足元は根を張ったように地面を離れていない。
それがその巨体にとってその衝撃に対してのダメージが軽い事を示している。
―・・・!
全く別次元の火力を伴った目の前の光景にタツミ達は閉口するしかない。
痛み分けしたお互いを再び睨みあおうと浸帝は目をエノハに向ける。
残されたもう一発の処遇をどうするのか?それに向かい合う為だ。この時浸帝はリンドウ―つまり人間の時の記憶を辿り、この戦闘に活用すべきと彼の生存本能が告げており、浸帝は徐々に獣よりも冷静な思考を取り戻していた。
つまり残滓のように残っているリンドウの中のエノハの記憶である。
よってエノハの切り札がもう一発残っている事を彼は理解していた。思い出していた。
しかし―
「・・・もういったよ?」
エノハは「そこ」とでも言いたげに浸帝の足場を指差してそう言った。
その言葉と同時―浸帝の足元が真っ黒に染まりはじめた。浸帝の巨大な真っ黒な影を遥かに凌駕する大きさの円形の漆黒の影。取り囲む外気の熱気、温度が急上昇している。
・・・!!
ズン
巨大な黒い炎柱があがり、漆黒のハンニバルの巨体をすっぽり真っ黒に覆い隠す。
アラガミバレット―影炎。
火の手は上空高く舞い上がる。その爆発音とその光景をかなり離れて見ていたアラガミ達は理解する。今決してあの場所に向かってはならないと。
ようやく黒い炎が収束する。
その広範囲を真っ黒に染め上げたその炎の焼跡から黒い影は現れる。
・・・グルル
体中のあちこちから白煙を巻き上げながらもハンニバル浸食種―浸帝は健在であった。顔面をを強固な籠手が装着された両腕を交差させて覆い隠し、ダメージがさほど無い事を確信させる動作で、交差した腕をゆっくりとほどきながら周りの様子を伺う。
その眼からはまるで闘争心は喪われていない。笑う様に開いた鋭い歯の並んだ口から黒い炎と蒸気が洩れる。
強力かつ執拗、おまけに自分の力を吸収し、利用して放ってきた再三にわたる苛烈な攻撃を易々と受け流し、平然と巨体は立っていた。
浸帝は理解している。
相手は得た力―三つの切り札を使いきったのだ。今度はこっちの番。反撃の機会だ。それにはまず・・見失ったあのチビを捕捉しなければならない。
・・・どこだ。どこへ―
「・・邪魔だな。やっぱりこの籠手―」
!!
浸帝はその声の方向―自分の右上方向を見やると同時に鋭い痛みを伴った衝撃が右手に走る。これは―
・・がぶり
籠手の堅い表面を歯で貫き、もごもごと噛みちぎろうとする神機の捕食形態が浸帝の目に映る。その強力な咬筋力を前に流石のハンニバルの強固な盾にもピシリとひずみが走った。
今浸帝が最もやられたくない攻撃であった。相手がようやく一旦力を使い切った直後、それ即ち絶好の反撃の機会である―それを全て台無しにする光景だった。イニシアチブを再び明け渡す光景だ。
跳躍したエノハが既に神機の捕食形態を構え、右腕に噛みついていた。
グガァ!
浸帝は苛立たしげに右手を振るう。すると意外にもあっさりと絡みついていた神機の顎は口を離した。高速で吹き飛ばされていく。
持ち主―エノハとともに。
吹き飛ばされ、無表情のままのエノハが浸帝の目から遠ざかっていく。二十メートルほど吹き飛ばされた時、空中でその体が輝きを放った。
解放状態の上書き―「準備完了」を示す光である。
振りとばされた体勢を立て直す気配すらなく、エノハの体は惰性のまま吹き飛ばされていた。そして―
ザ、ザ、ザザザ!
元々発電施設の冷却用水として使用されていたのだろう。発電施設内を取り囲むように流れる溜池にエノハの体はしばらく水面を切って舞った後、ゆっくりとその身を没した。
再び浸帝はエノハを見失う。
しかし泳ぎはハンニバル種は元々かなり得意な種である。
獲物を追って水中を移動することも少なくない。むしろその流線的な形態は水中にすむグボログボロなどの水棲アラガミよりも水中に適していると言っても過言ではない。
当然人間相手でも水中なら確実に優位性を発揮するだろう。しかし―水辺に浸帝は近寄ろうとしなかった。距離を保ちながら警戒姿勢で横に歩く。
四本足のトラやライオンの様な生物が戦闘時、対峙した同格クラスの相手との間合いを図っている時の姿勢によく似ている。
自分を間違いなく不利な状況に追い込む行為―水の中に入ることを甘んじて受け入れたエノハの行動に明らかな思惑、罠の気配を感じているからだ。その証拠に―
ドン!
水面を引き裂いて白く輝く一発の弾頭が浸帝めがけて向かってくる。コレを予期していた浸帝は体を軽くひねらせて躱す。
「うわっと!」
彼が避けた弾頭は彼の背後にいるタツミ、シュン、カレル達に達する直前でかき消えるように消滅した。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
開戦より漆黒の炎が飛び交う灼熱の戦場が一旦文字通り水を差されたように静まり返る。
しかし―
この静けさは長くは続かないであろう事は明白だった。
いずれまたこの場は包まれるだろう。
人間の許容を遥かに超えた熱を放つ灼熱の地獄へ。
ピアノブラックの漆黒へ。
読了お疲れさまでした。
久しぶりにアラガミバレットの三種使い分け。ただしハンニバル種は比較的効果は低かったと思う。・・そこが妙に原作に忠実ですね。これ。
GE2の鉄塔の森のエリナの固有セリフで「汚い水・・」的なセリフが確かあった。
・・・。